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*Qros(キュロス)の女 #amazon(4062187213,right) 題名:Qros(キュロス)の女 作者:誉田哲也 発行:講談社 2013.12.12 初版 価格:\1,500  10月にプルーフ本の形で読み終わったのだが、どうも今ひとつ乗り気になれない小説だった。誉田哲也はいわゆるあざとさの目立つ上手な作家なのだが、警察小説ではそのスリルや奇抜なアイデアが活かされるし、さらにスポ根ユーモア青春小説でも若い心の揺らぎや爽やかさを描かせれば天下一品である。でもこの新しいジャンルはどうなんだろう。  垣根涼介という作家が、南米を主題にしたスケールの大きな冒険小説からリストラ小説に転じたように、あるいは奥田英朗がクライム小説からユーモア小説に転じたようには、豪快な大回転も美しい着地もできなかったんじゃないかな、というのが本書に関する正直な感想。好きな作家だけに、このような大衆化を望んではいない自分に改めて気づいた次第。  本書は、謎のCM美女『Qrosの女』を追え、といったテーマになっている。誰も知らないのだが、魅力的なCM美女がネットで話題となり、やがてその映像が捕捉されるに至り、ネットで映像が流されてゆく。彼女は誰なのか? というのが外からの視点。  しかし本書、連作短編集のような形を取り、視点が章ごとに変わるのである。巻半ばにしてCM美女の正体が知れるばかりか、CM美女の視点で語られる事の詳細が早々とあるあたりで、小説は複眼の様相を呈する。誰かを主人公にした小説というよりも謎のCM美女という情報の独り歩きして、より増殖してゆく様子の怖さが描かれてゆくのである。とは言え、もっと怖く(スティーブン・キングみたいに)、エキセントリックに(マイケル・クライトンみたいに)膨らませてゆくことはできるだろうな、この題材ならと思えないこともない。しかし誉田哲也は非常に謙虚に、いつもながらの長くはない小説にこじんまりとまとめてしまっているのである。  なるほどいつもながら綺麗にまとめるものだと関心はする。この手があったかという、およそ解決の見えなかった状況からの脱出口を手品師のように提示して見せてくれる。ここに感服する人が多いのだろう、誉田ファンというやつは。警察小説のように過激でバイオレンスでもなく、青春小説のようにきらきら眩しくもない普通小説としての本作は、その点ではまだまだ物足りないかもしれない。こういう方向に進んで欲しくはないというぼくの希望もあるが。いっそ大沢在昌のように、大作・長編作、ライフワーク(シリーズ物をより高レベルに持ち上げるのでもよし!)と呼べる作品に挑んでみては如何だろうか。それが若手作家からベテラン作家へのひとつのジャンプになるような気がするのだが。 (2014.01.10)
*Qros(キュロス)の女 #amazon(4062187213,right) 題名:Qros(キュロス)の女 作者:誉田哲也 発行:講談社 2013.12.12 初版 価格:\1,500  10月にプルーフ本の形で読み終わったのだが、どうも今ひとつ乗り気になれない小説だった。誉田哲也はいわゆるあざとさの目立つ上手な作家なのだが、警察小説ではそのスリルや奇抜なアイデアが活かされるし、さらにスポ根ユーモア青春小説でも若い心の揺らぎや爽やかさを描かせれば天下一品である。でもこの新しいジャンルはどうなんだろう。  垣根涼介という作家が、南米を主題にしたスケールの大きな冒険小説からリストラ小説に転じたように、あるいは奥田英朗がクライム小説からユーモア小説に転じたようには、豪快な大回転も美しい着地もできなかったんじゃないかな、というのが本書に関する正直な感想。好きな作家だけに、このような大衆化を望んではいない自分に改めて気づいた次第。  本書は、謎のCM美女『Qrosの女』を追え、といったテーマになっている。誰も知らないのだが、魅力的なCM美女がネットで話題となり、やがてその映像が捕捉されるに至り、ネットで映像が流されてゆく。彼女は誰なのか? というのが外からの視点。  しかし本書、連作短編集のような形を取り、視点が章ごとに変わるのである。巻半ばにしてCM美女の正体が知れるばかりか、CM美女の視点で語られる事の詳細が早々とあるあたりで、小説は複眼の様相を呈する。誰かを主人公にした小説というよりも謎のCM美女という情報の独り歩きして、より増殖してゆく様子の怖さが描かれてゆくのである。とは言え、もっと怖く(スティーブン・キングみたいに)、エキセントリックに(マイケル・クライトンみたいに)膨らませてゆくことはできるだろうな、この題材ならと思えないこともない。しかし誉田哲也は非常に謙虚に、いつもながらの長くはない小説にこじんまりとまとめてしまっているのである。  なるほどいつもながら綺麗にまとめるものだと関心はする。この手があったかという、およそ解決の見えなかった状況からの脱出口を手品師のように提示して見せてくれる。ここに感服する人が多いのだろう、誉田ファンというやつは。警察小説のように過激でバイオレンスでもなく、青春小説のようにきらきら眩しくもない普通小説としての本作は、その点ではまだまだ物足りないかもしれない。こういう方向に進んで欲しくはないというぼくの希望もあるが。いっそ大沢在昌のように、大作・長編作、ライフワーク(シリーズ物をより高レベルに持ち上げるのでもよし!)と呼べる作品に挑んでみては如何だろうか。それが若手作家からベテラン作家へのひとつのジャンプになるような気がするのだが。 (2014.01.10)

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