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*出訴期限 #amazon(4163823409,right) 題名:出訴期限 原題:Limitations (2006) 作者:スコット・トゥロー Scott Turow 訳者:二宮 馨 発行:文藝春秋 2013.7.30 初刷 価格:\1,800  人間性が試される機会というものは、いつでもどこででも現れるだろうが、法廷という場は、とりわけ象徴的なほどに絶好の場であるだろう。裁かれる被告人という立場の人間は法によって裁かれるが、己の人間性を試されるのは被告人ばかりではないだろう。裁く側の人間、即ち裁判長も検察官も、傍聴や廷吏に至るまで、極限の人間ドラマの中で己の人となりを試し試されるに違いない。  本書の主人公は、キンドル郡上訴裁判所判事のジョージ・メイソン。『囮弁護士』での語り手であった人物。登場人物のラスティ・サビッチは、後に『無罪』で登場する。作品間に少し繋がりがあるにせよ、本書は本書で、完全に独立した物語である。  いつものトゥローの作品に比して圧倒的にページ数が少ないが、凝縮されたトゥロー・ワールドが覗けるので、これはこれで、どちらかと言えば近より難いお堅いトゥロー小説としては、入り込みやすい入門編になるかもしれない。とは言えスタートの部分など法廷でのお堅いシーンが多く、なおかつ登場するキャラに関してはしっかりと書込みをしないと済まないタイプの作家なので、脇役と言えども得てして重要な存在感を訴える人が多い。  本書ではティーンエイジャーの集団レイプ事件が裁判で争われるが、古いビデオの出現により事件が明らかになったため、古い事件が時効となり、出訴期限法に抵触するのではないかとの弁護側の申し立てがタイトルの意味となっている。しかし実際の小説はそのこと以上に、裁く者の側の法に対する正しく選択すべき態度を考察することに力点を置いており、自ら、若い被告らと同じようなティーンでの体験を想い出してはさらに心情的に複雑さを増してゆく主席判事の心中の荒波に描写の主眼を置いている。  いわゆる法律の側ではなく、法を使用する人間の側にこの小説の存在価値はある。さらに判事メイソンは、いわれのない脅迫を受ける。マフィアに疑惑の矛先を向ける警察らに反して、メイソンは取り合わないが、脅迫は暴力に変わり、世界を甘く見ていた自分を痛みとともに省みるとき、真実が徐々に見えてくる。  周囲の人々の描写に力を注ぐ作家は、その周囲の人々の中にさまざまな人間模様を描き分ける。本書は事件という事件を描くよりも、事件になりはしないが負のエネルギーのような潜在する人間の弱さに目を向けた、トゥローなりの人間学的小説であると言ってもよいだろう。  久々に読んだトゥローの世界は、短く少しページ的に物足りなかったものの、確かな手応えと、熱い情感に満ちた、あの気高き世界そのものであったのだ。 (2013.09.26)
*出訴期限 #amazon(4163823409,right) 題名:出訴期限 原題:Limitations (2006) 作者:スコット・トゥロー Scott Turow 訳者:二宮 馨 発行:文藝春秋 2013.7.30 初刷 価格:\1,800  人間性が試される機会というものは、いつでもどこででも現れるだろうが、法廷という場は、とりわけ象徴的なほどに絶好の場であるだろう。裁かれる被告人という立場の人間は法によって裁かれるが、己の人間性を試されるのは被告人ばかりではないだろう。裁く側の人間、即ち裁判長も検察官も、傍聴や廷吏に至るまで、極限の人間ドラマの中で己の人となりを試し試されるに違いない。  本書の主人公は、キンドル郡上訴裁判所判事のジョージ・メイソン。『囮弁護士』での語り手であった人物。登場人物のラスティ・サビッチは、後に『無罪』で登場する。作品間に少し繋がりがあるにせよ、本書は本書で、完全に独立した物語である。  いつものトゥローの作品に比して圧倒的にページ数が少ないが、凝縮されたトゥロー・ワールドが覗けるので、これはこれで、どちらかと言えば近より難いお堅いトゥロー小説としては、入り込みやすい入門編になるかもしれない。とは言えスタートの部分など法廷でのお堅いシーンが多く、なおかつ登場するキャラに関してはしっかりと書込みをしないと済まないタイプの作家なので、脇役と言えども得てして重要な存在感を訴える人が多い。  本書ではティーンエイジャーの集団レイプ事件が裁判で争われるが、古いビデオの出現により事件が明らかになったため、古い事件が時効となり、出訴期限法に抵触するのではないかとの弁護側の申し立てがタイトルの意味となっている。しかし実際の小説はそのこと以上に、裁く者の側の法に対する正しく選択すべき態度を考察することに力点を置いており、自ら、若い被告らと同じようなティーンでの体験を想い出してはさらに心情的に複雑さを増してゆく主席判事の心中の荒波に描写の主眼を置いている。  いわゆる法律の側ではなく、法を使用する人間の側にこの小説の存在価値はある。さらに判事メイソンは、いわれのない脅迫を受ける。マフィアに疑惑の矛先を向ける警察らに反して、メイソンは取り合わないが、脅迫は暴力に変わり、世界を甘く見ていた自分を痛みとともに省みるとき、真実が徐々に見えてくる。  周囲の人々の描写に力を注ぐ作家は、その周囲の人々の中にさまざまな人間模様を描き分ける。本書は事件という事件を描くよりも、事件になりはしないが負のエネルギーのような潜在する人間の弱さに目を向けた、トゥローなりの人間学的小説であると言ってもよいだろう。  久々に読んだトゥローの世界は、短く少しページ的に物足りなかったものの、確かな手応えと、熱い情感に満ちた、あの気高き世界そのものであったのだ。 (2013.09.26)

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