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*裁きを待つ女 #amazon(right,4789718476) 題名:裁きを待つ女 原題:Bad Royer (2001) 作者:デイヴィッド・クレイ David Cray 訳者:北沢あかね 発行:ヴィレッジブックス 2002.04.20 初版 価格:\760  これが噂のオットー・ペンズラー・ブックス、その新人作家発掘編ではクリストファー・クック『終わりのないブルーズ』につづく第二弾の邦訳作品である。賭けてもいいが、オットー・ペンズラー・ブックスの新人たちは今の日本ミステリ界の大穴と言える。日本中のランキングに頼らず、より自立した読者としていい作品を読みたいという方には是非ともお薦めしておきたい。 本書はいわゆるリーガル・サスペンス。しかしこれまでの凡百の法廷推理ものとは毛色が違うとは、一ぺ-ジ目を開いたときから感づくはずである。まず主人公である弁護士の一人称文体に込められた陰影の濃度に眼が行くはずだ。そして異様までのハードボイルドの匂い。回想の形での悔悟と悲しみに満ちた語り口。これは何かあると感覚に訴えてくる表現がのっけから読者を射貫いてくるのだ。刺すような視線で。標的を定めた矢尻の先端の鋭さで。 法廷ものと言えば大抵の場合、既存の法廷と法律という柱に純粋に依拠した立場を前提に描かれてゆくドラマがほとんどである。ところが本作は違う。法廷も法もすべてが形式的で愚かな儀式だとでもいうように嘲笑的な立場から、まるでボクサーが試合に臨むリングのような空間としてとらえられている。法と法廷について悪意と空虚さをこれほど露悪的に見せつけたリーガル・サスペンスというのは珍しい。 法廷と真実はおよそ相容れないものであり、その裏の薄闇をかいくぐって跋扈する魑魅魍魎たちのゲームであるかのような、命の駆け引きをめぐって、表舞台である法廷はまるで何もかもが茶番みたいだ。真実は決して舞台に引きずり出されることなく被告と弁護士の胸のうちでめらめらと燃え上がる情念に姿を変え、両者は身を削られ血で贖われた大金をめぐって対決へと持ち込まれる。ここではファム・ファタールのような役割を被告が果たすことになる。何とも難しい設定だ。  傷ついて人生を投げ棄ててきたものたちが再起を賭けて身を寄せ合うセーフハウスのようなねぐら。通常の弁護士事務所とはとても言えぬ負け犬たちが傷を舐め合い擬似家族を形成する。お互いにお互いをこれほど愛したことも愛されたこともなかったと感じる男女三人の兄弟のごとき関係。三人は被告の裏側に横たわる闇の深さに挑みかかり、思いもかけぬ過酷な運命に飛び込んで行った。 起承転結の段差が激しい小説だ。「転」でいきなり断崖から突き落とされ、「結」で鉄路に飛び込む。後戻りのきかない過酷な道を選んだ者が氷のような知略と悪意に切り結んでゆく末路はあまりにも印象的である。 プロットの確かさに惹かれると同時に、文章が新人離れした屈折に満ちていて、デリカシーに荒っぽさを混じえたような翻訳もまた素晴らしいと感じた。文庫書き下ろしであることを考えると、総合的に見てコストパフォーマンスが極めて高い一冊である。 (2003.03.28)
*裁きを待つ女 #amazon(right,4789718476) 題名:裁きを待つ女 原題:Bad Royer (2001) 作者:デイヴィッド・クレイ David Cray 訳者:北沢あかね 発行:ヴィレッジブックス 2002.04.20 初版 価格:\760  これが噂のオットー・ペンズラー・ブックス、その新人作家発掘編ではクリストファー・クック『終わりのないブルーズ』につづく第二弾の邦訳作品である。賭けてもいいが、オットー・ペンズラー・ブックスの新人たちは今の日本ミステリ界の大穴と言える。日本中のランキングに頼らず、より自立した読者としていい作品を読みたいという方には是非ともお薦めしておきたい。 本書はいわゆるリーガル・サスペンス。しかしこれまでの凡百の法廷推理ものとは毛色が違うとは、一ぺ-ジ目を開いたときから感づくはずである。まず主人公である弁護士の一人称文体に込められた陰影の濃度に眼が行くはずだ。そして異様までのハードボイルドの匂い。回想の形での悔悟と悲しみに満ちた語り口。これは何かあると感覚に訴えてくる表現がのっけから読者を射貫いてくるのだ。刺すような視線で。標的を定めた矢尻の先端の鋭さで。 法廷ものと言えば大抵の場合、既存の法廷と法律という柱に純粋に依拠した立場を前提に描かれてゆくドラマがほとんどである。ところが本作は違う。法廷も法もすべてが形式的で愚かな儀式だとでもいうように嘲笑的な立場から、まるでボクサーが試合に臨むリングのような空間としてとらえられている。法と法廷について悪意と空虚さをこれほど露悪的に見せつけたリーガル・サスペンスというのは珍しい。 法廷と真実はおよそ相容れないものであり、その裏の薄闇をかいくぐって跋扈する魑魅魍魎たちのゲームであるかのような、命の駆け引きをめぐって、表舞台である法廷はまるで何もかもが茶番みたいだ。真実は決して舞台に引きずり出されることなく被告と弁護士の胸のうちでめらめらと燃え上がる情念に姿を変え、両者は身を削られ血で贖われた大金をめぐって対決へと持ち込まれる。ここではファム・ファタールのような役割を被告が果たすことになる。何とも難しい設定だ。  傷ついて人生を投げ棄ててきたものたちが再起を賭けて身を寄せ合うセーフハウスのようなねぐら。通常の弁護士事務所とはとても言えぬ負け犬たちが傷を舐め合い擬似家族を形成する。お互いにお互いをこれほど愛したことも愛されたこともなかったと感じる男女三人の兄弟のごとき関係。三人は被告の裏側に横たわる闇の深さに挑みかかり、思いもかけぬ過酷な運命に飛び込んで行った。 起承転結の段差が激しい小説だ。「転」でいきなり断崖から突き落とされ、「結」で鉄路に飛び込む。後戻りのきかない過酷な道を選んだ者が氷のような知略と悪意に切り結んでゆく末路はあまりにも印象的である。 プロットの確かさに惹かれると同時に、文章が新人離れした屈折に満ちていて、デリカシーに荒っぽさを混じえたような翻訳もまた素晴らしいと感じた。文庫書き下ろしであることを考えると、総合的に見てコストパフォーマンスが極めて高い一冊である。 (2003.03.28)

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