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傷痕 (桜庭一樹)」(2012/08/17 (金) 09:56:39) の最新版変更点

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*傷痕 #amazon(right,4062174596) 題名:傷痕 著者:桜庭一樹 発行:講談社 2012.1.11 初版 価格:¥1,600  桜庭一樹の永遠のテーマである父と娘。その父が、マイケル・ジャクソンだったら? そんな仮定法で書かれたのがこの作品。もちろん、実名は登場していない。実名どころか、父にもその兄弟親戚たちにも実名は与えられていない。多彩な脇役たちに何の名前もなしに、小説が進んでしまっていいのか? との疑問も無きにしも非ずだが、実際、キャラクターに個性がありすぎて、なるほど、これでは名前なんて、存って無きが如し、かなと思われてしまう。桜庭マジック。  しかし、唯一名前を与えられているのが、いつもこの作家のヒロインとなる娘、少女、である。その名も「傷痕」。この作家のヒロインの名前が滅茶苦茶なのは何も今に始まったことではないから、今更驚くものかと望むのだけれど、「傷痕」ばかりは読めなかった。悔しいかな。  スーパースターである父が死んだ、というところから物語は語られ始める。どのくらいのスーパースターか、というところがすごい。社会現象を通り越して、あまりにも世界に影響を与えすぎるくらいのスーパースターである。そんな父は誰なのかな、モデルは誰なのかな、と読み始めには作者が捧げるオマージュの対象すらわからず、ただただ人間ではない、スーパースターの人生の奇妙さだけが物語としてこの作品の中軸に居座る。それは怪物とも呼べるし、神とも読める。不思議な、あまりに不思議なスーパースターの一生。  彼をとりまく多くの人たちの独白が、連作短編小説のように、スーパースターの存在を紡ぐ。ストーリーは、特にない。ん? いいのかな? 本当にストーリーがないぞ。しかし、そも、桜庭劇場にはたいてい安物のストーリーなんか要らないのではなかったか。状況が人生を語り、特殊な人生が物語となって立ち現れるのが彼女の作品の常なのではなかったか。  いつも作家が追いかける、象徴としての父は、今度もスーパースターとしてさらに象徴性を強烈に高め、その存在感は極限に迫ろうとする。傷痕は、呪いの仮面のようなものを被らされ、素顔を知られぬまま、世界のどこかへと消えてゆき、残るのは父の伝説だけとなる。参考文献で、マイケル・ジャクソンの名前がずらりと並んでいなければ、この作家のこの作品へのモチーフが理解できたかどうだか、怪しいものだ。それほど、奇妙で遠くにある作品であるように感じた。つまり、大して面白くなかったけれど、それなりにヘンテコでよかったぞ、ということ。 (2011.8.17)
*傷痕 #amazon(right,4062174596) 題名:傷痕 著者:桜庭一樹 発行:講談社 2012.1.11 初版 価格:¥1,600  桜庭一樹の永遠のテーマである父と娘。その父が、マイケル・ジャクソンだったら? そんな仮定法で書かれたのがこの作品。もちろん、実名は登場していない。実名どころか、父にもその兄弟親戚たちにも実名は与えられていない。多彩な脇役たちに何の名前もなしに、小説が進んでしまっていいのか? との疑問も無きにしも非ずだが、実際、キャラクターに個性がありすぎて、なるほど、これでは名前なんて、存って無きが如し、かなと思われてしまう。桜庭マジック。  しかし、唯一名前を与えられているのが、いつもこの作家のヒロインとなる娘、少女、である。その名も「傷痕」。この作家のヒロインの名前が滅茶苦茶なのは何も今に始まったことではないから、今更驚くものかと望むのだけれど、「傷痕」ばかりは読めなかった。悔しいかな。  スーパースターである父が死んだ、というところから物語は語られ始める。どのくらいのスーパースターか、というところがすごい。社会現象を通り越して、あまりにも世界に影響を与えすぎるくらいのスーパースターである。そんな父は誰なのかな、モデルは誰なのかな、と読み始めには作者が捧げるオマージュの対象すらわからず、ただただ人間ではない、スーパースターの人生の奇妙さだけが物語としてこの作品の中軸に居座る。それは怪物とも呼べるし、神とも読める。不思議な、あまりに不思議なスーパースターの一生。  彼をとりまく多くの人たちの独白が、連作短編小説のように、スーパースターの存在を紡ぐ。ストーリーは、特にない。ん? いいのかな? 本当にストーリーがないぞ。しかし、そも、桜庭劇場にはたいてい安物のストーリーなんか要らないのではなかったか。状況が人生を語り、特殊な人生が物語となって立ち現れるのが彼女の作品の常なのではなかったか。  いつも作家が追いかける、象徴としての父は、今度もスーパースターとしてさらに象徴性を強烈に高め、その存在感は極限に迫ろうとする。傷痕は、呪いの仮面のようなものを被らされ、素顔を知られぬまま、世界のどこかへと消えてゆき、残るのは父の伝説だけとなる。  参考文献で、マイケル・ジャクソンの名前がずらりと並んでいなければ、この作家のこの作品へのモチーフが理解できたかどうだか、怪しいものだ。それほど、奇妙で遠くにある作品であるように感じた。つまり、大して面白くなかったけれど、それなりにヘンテコでよかったぞ、ということ。 (2011.8.17)

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