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*ステップ #amazon(right,457523611X) 題名:ステップ 作者:香納諒一 発行:双葉社 2008.03.25 初版 価格:\2,000  わが国のエンターテインメント小説界、タイム・トラベラーものには事欠かない。とりわけSFの世界からミステリのサイドに進出してきたタイム・スリップものに至っては、現代小説ではさほど珍しいという感触すらなくなってしまっている。ゆえに、今、この時代にタイム・スリップを使うということは、作家にとってある意味とても大きな冒険と言えるのだ。  おさらいをすると、まずタイム・スリップもので一斉を風靡したのは海外小説ジャンルではケン・グリムウッドの『リプレイ』。Niftyの冒険小説フォーラムでも話題となり、なみいる辛口読者を沸かしたものである。1986年作品だから、随分と古いが、自分が25年も遡って、経験や知識はそのままにやり直せるというのは、人間の夢である。  国内では、本格推理畑として名を馳せていた(はずの)北村薫の時空もの三部作(1995-2001)であろう。『スキップ』『ターン』『リセット』と、まさに時空をいろいろな形で超えた、奇妙な体験で大ヒットとなったシリーズである。  本書『ステップ』は雑誌掲載時のタイトル『流星雨』だったものを改題。北村薫『スキップ』に似せたかったのか、東野圭吾『流星の絆』がほぼ同時発売となるのでインパクトが弱まるのを避けたのか、出版社側の事情をぼくは知らない。いずれにせよ本書のタイム・スリップの形としては『スキップ』よりは『ターン』に近いものといえるかもしれない。一日に八回死んだ、というのが帯の謳い文句となっている。  もちろん本書は、ハードボイルドでならした香納諒一のものである。タイムスリップの原因については、おざなりの解決をのみ与えた程度で、実質は、エンターテインメントとしての錯綜したプロット作りのほうにあると言った方がいい。  『羅生門』原作の芥川龍之介『藪の中』は、一つの事件が、当事者によって幾重もの断層を持っており、まるで違う事件に見えてしまうことの面白さを捉えたものであるが、本書は、一つの事件を、複数の当事者ではなく、時間が巻き戻ってしまうただ独りの男の側の視点で、その都度異なる意味合いを加えてゆき、玉ねぎの皮を剥くように徐々に真相に迫ってゆくという醍醐味がある。  その都度、殴られたり殺されりと、その道はあたかも修羅の道であるように思えるが、友人や恋人が犠牲になる事実を撤回するためになら、男は何度でもその前のポイントに戻って、選択すべき回路を切り替えたいのである。何度挑んでも、死んだり殺されたりして、元の木阿弥になってしまうストーリーなのだが、徐々に生き返るペースが短くなるにも関わらず、最後には真相に辿り着けるという期待が、ページを繰る絶大なパワーとなる。  八回という再生ももしかしたらギネス登録権利ができそうなくらいの生き返り回数だと思うけれども、そこまで修正を施さなきゃ辿り着くことのできない謀略の深さ、人間関係の複雑さを考え抜いた作者の精緻な作業には、ただただご苦労様と申し述べたい限り。本当に、労作である。  主人公が何度もやり直すうちに、いろいろなものを克服し、精神的成長を遂げてゆくというのも、タイム・スリップものとしては、押さえておかねばならないポイントであろう。期待に違わないラストになっているので、吐いて捨てるほどやらかしてしまうヒーローの度重なる失敗を、とにもかくにも我慢して読んで頂きたい。 (2008/11/30)
*ステップ #amazon(right,457523611X) 題名:ステップ 作者:香納諒一 発行:双葉社 2008.03.25 初版 価格:\2,000  わが国のエンターテインメント小説界、タイム・トラベラーものには事欠かない。とりわけSFの世界からミステリのサイドに進出してきたタイム・スリップものに至っては、現代小説ではさほど珍しいという感触すらなくなってしまっている。ゆえに、今、この時代にタイム・スリップを使うということは、作家にとってある意味とても大きな冒険と言えるのだ。  おさらいをすると、まずタイム・スリップもので一斉を風靡したのは海外小説ジャンルではケン・グリムウッドの『リプレイ』。Niftyの冒険小説フォーラムでも話題となり、なみいる辛口読者を沸かしたものである。1986年作品だから、随分と古いが、自分が25年も遡って、経験や知識はそのままにやり直せるというのは、人間の夢である。  国内では、本格推理畑として名を馳せていた(はずの)北村薫の時空もの三部作(1995-2001)であろう。『スキップ』『ターン』『リセット』と、まさに時空をいろいろな形で超えた、奇妙な体験で大ヒットとなったシリーズである。  本書『ステップ』は雑誌掲載時のタイトル『流星雨』だったものを改題。北村薫『スキップ』に似せたかったのか、東野圭吾『流星の絆』がほぼ同時発売となるのでインパクトが弱まるのを避けたのか、出版社側の事情をぼくは知らない。いずれにせよ本書のタイム・スリップの形としては『スキップ』よりは『ターン』に近いものといえるかもしれない。一日に八回死んだ、というのが帯の謳い文句となっている。  もちろん本書は、ハードボイルドでならした香納諒一のものである。タイムスリップの原因については、おざなりの解決をのみ与えた程度で、実質は、エンターテインメントとしての錯綜したプロット作りのほうにあると言った方がいい。  『羅生門』原作の芥川龍之介『藪の中』は、一つの事件が、当事者によって幾重もの断層を持っており、まるで違う事件に見えてしまうことの面白さを捉えたものであるが、本書は、一つの事件を、複数の当事者ではなく、時間が巻き戻ってしまうただ独りの男の側の視点で、その都度異なる意味合いを加えてゆき、玉ねぎの皮を剥くように徐々に真相に迫ってゆくという醍醐味がある。  その都度、殴られたり殺されりと、その道はあたかも修羅の道であるように思えるが、友人や恋人が犠牲になる事実を撤回するためになら、男は何度でもその前のポイントに戻って、選択すべき回路を切り替えたいのである。何度挑んでも、死んだり殺されたりして、元の木阿弥になってしまうストーリーなのだが、徐々に生き返るペースが短くなるにも関わらず、最後には真相に辿り着けるという期待が、ページを繰る絶大なパワーとなる。  八回という再生ももしかしたらギネス登録権利ができそうなくらいの生き返り回数だと思うけれども、そこまで修正を施さなきゃ辿り着くことのできない謀略の深さ、人間関係の複雑さを考え抜いた作者の精緻な作業には、ただただご苦労様と申し述べたい限り。本当に、労作である。  主人公が何度もやり直すうちに、いろいろなものを克服し、精神的成長を遂げてゆくというのも、タイム・スリップものとしては、押さえておかねばならないポイントであろう。期待に違わないラストになっているので、吐いて捨てるほどやらかしてしまうヒーローの度重なる失敗を、とにもかくにも我慢して読んで頂きたい。 (2008/11/30)

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