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義弟(おとうと)」(2008/09/23 (火) 23:41:13) の最新版変更点

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*義弟(おとうと) #amazon(right,4575236160) 題名:義弟(おとうと) 作者:永井するみ 発行:双葉社 2008.05.30 初版 価格:\1,800  最近はお洒落でスレンダーな作品が多い永井するみだが、本書はのっけから様子が違う。桐野夏生や篠田節子のように、どこか包帯を巻いたような薬品臭を感じさせる精神のアンバランスが心に奇妙な反響を与えてくる。タイトルやタイトルカバーからして、健康的な作品ではないだろうと想像できたものの、この作家までがこうした病んだ世界に入ってしまうのか、と少し「らしくなさ」に戸惑いを覚える。  姉と弟が交互に主役を果たす連作短篇小説である。最初に弟が両親と住む家に火をつけようとして灯油を撒いてゆくシーンで物語は幕を開ける。つまり最初において病んでいるのだ。  連れ後同士で再婚した二人の親。血のつながりのない姉と弟の間に流れる不思議な連帯感は、二人ともが、あまりに身勝手でエゴむき出しの親との生活の中で互いに孤独に苛まれていたのだ。一つの家族で「自分だけではない」との思いから、二人は奇妙な互助関係を築き上げる。  永井するみには女の成長を描いてゆく『グラデーション』という連作短編集があるが、本書も同じように、二人の成長の物語でもある。中学生の弟は十代後半となり、そして二十代前半を生きてゆく。姉は、弁護士となり、テレビのゲストコメンテイターの臨時仕事をも請け負い、一般にその美貌が知られている。  しかし二人の親たちの存在は自立した彼らにいつまでも影を落とし、包帯だらけみ見える印象はなかなか変わらない。そればかりではなく不幸なことに、姉の不倫相手男性が急死してしまい、弟に死体の処理を手伝ってもらう。  不倫相手の妻がサイコ的な色合いを帯びて関わってくるに至ると、さらに小説は暗さを増してゆき、陰影が濃くなる。ますます永井するみらしさは失せ、小池真理子のような官能サイコに向ってゆく。  ぼくはこの作家の表現力や文章力を買っており、だからこそ小説作りの巧さにもいつも賞賛を惜しまないのだが、何よりも、その小説の向くべき方向のストレートさ、全体を占める空気のやわらかさ、明るさ、光に満ちた印象などが好きなので、本書のような傷ついた子供たちが成長し青春のなかで苦しむ物語というのは、先に挙げた作家ばかりではなく、書き手が沢山いる現在(男性作家では、重松清、天童荒太など)、やはり永井するみのラインではないのではないかな、という違和感が終始つきまとってならなかった。  姉の視点では違和感があまりなかったのだが、特に義弟の側に病的なものを多く感じてしまい、そればかりが尖って見えて、作品のバランス、永井するみ的安定性のようなものを損なっているように思えてしまった。好みの問題なのかもしれないが、あまりこの手のエキセントリックな作品はこの作家には似合わないように思えてならない。 (2008/09/23)
*義弟(おとうと) #amazon(right,4575236160) 題名:義弟(おとうと) 作者:永井するみ 発行:双葉社 2008.05.30 初版 価格:\1,800  最近はお洒落でスレンダーな作品が多い永井するみだが、本書はのっけから様子が違う。桐野夏生や篠田節子のように、どこか包帯を巻いたような薬品臭を感じさせる精神のアンバランスが心に奇妙な反響を与えてくる。タイトルやタイトルカバーからして、健康的な作品ではないだろうと想像できたものの、この作家までがこうした病んだ世界に入ってしまうのか、と少し「らしくなさ」に戸惑いを覚える。  姉と弟が交互に主役を果たす連作短篇小説である。最初に弟が両親と住む家に火をつけようとして灯油を撒いてゆくシーンで物語は幕を開ける。つまり最初において病んでいるのだ。  連れ後同士で再婚した二人の親。血のつながりのない姉と弟の間に流れる不思議な連帯感は、二人ともが、あまりに身勝手でエゴむき出しの親との生活の中で互いに孤独に苛まれていたのだ。一つの家族で「自分だけではない」との思いから、二人は奇妙な互助関係を築き上げる。  永井するみには女の成長を描いてゆく『グラデーション』という連作短編集があるが、本書も同じように、二人の成長の物語でもある。中学生の弟は十代後半となり、そして二十代前半を生きてゆく。姉は、弁護士となり、テレビのゲストコメンテイターの臨時仕事をも請け負い、一般にその美貌が知られている。  しかし二人の親たちの存在は自立した彼らにいつまでも影を落とし、包帯だらけみ見える印象はなかなか変わらない。そればかりではなく不幸なことに、姉の不倫相手男性が急死してしまい、弟に死体の処理を手伝ってもらう。  不倫相手の妻がサイコ的な色合いを帯びて関わってくるに至ると、さらに小説は暗さを増してゆき、陰影が濃くなる。ますます永井するみらしさは失せ、小池真理子のような官能サイコに向ってゆく。  ぼくはこの作家の表現力や文章力を買っており、だからこそ小説作りの巧さにもいつも賞賛を惜しまないのだが、何よりも、その小説の向くべき方向のストレートさ、全体を占める空気のやわらかさ、明るさ、光に満ちた印象などが好きなので、本書のような傷ついた子供たちが成長し青春のなかで苦しむ物語というのは、先に挙げた作家ばかりではなく、書き手が沢山いる現在(男性作家では、重松清、天童荒太など)、やはり永井するみのラインではないのではないかな、という違和感が終始つきまとってならなかった。  姉の視点では違和感があまりなかったのだが、特に義弟の側に病的なものを多く感じてしまい、そればかりが尖って見えて、作品のバランス、永井するみ的安定性のようなものを損なっているように思えてしまった。好みの問題なのかもしれないが、あまりこの手のエキセントリックな作品はこの作家には似合わないように思えてならない。 (2008/09/23)

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