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やつらを高く吊せ」(2008/08/17 (日) 21:50:32) の最新版変更点

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*やつらを高く吊せ #amazon(right,4062147092) 題名:やつらを高く吊せ 作者:馳 星周 発行:講談社 2008.5.25 初版 価格:\1,600  『奴らを高く吊るせ! 』というのは、クリント・イーストウッドが、マカロニ・ウェスタン『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』などで世界的に当てた後、アメリカに帰ってすぐに撮った本場ハリウッド・ウェスタン。なので、漢字をひらがな表記にした馳星周のその辺りへのこだわりの有無にも関心があったのだが、やはり育った時代が違ったか。映画『奴らを……』のスローテンポ・ウェスタンとは全く対極的にあって、馳星周の本書は、魔都TOKIOを舞台にしたスキャンダル・ハンター主役による非常にハイ・テンポながら、どこか狂ったオフビート小説であったのだ。  正直言って、この一冊には驚いた。本書は、連作短編集という形を取りつつも、すべてのタイトルはブリティッシュ・パンクの曲名(もちろん横文字)で成り立っている。もちろんそんなことで驚いたのではない。実は馳星周としては、初であろうと思われるようなスラップスティックな味わいが本書には随所に登場するのである。  もちろん馳星周は海外ミステリの通でもあったから、ウェストレイクやハイアセン、ウィンズロウといったあちらならではのスラップスティック・クライムも熟知していよう。しかし、ここまでの明るくドライな狂騒感は、今までの馳には全くなかった味わいだし、そもそもこの手の味は日本人作家には作り出せないものだと思っていた。  その意味では馳星周の本書における意味合いは大きい。いつもながらの暗くじめじめした空気が消えて、むしろエルモア・レナードの明るく乾いた呆気ないブラック感が漂ったいい具合のクライム小説に仕上がっている。  普通なら決して考えつくことのないタイプの主人公を創出し、さらに周囲に主人公を食わんばかりの特異なキャラを満遍なく配置したことから、この独特な世界は成功したと言えるだろう。9月にDVD化もされるアメリカのTVドラマ『デクスター』の主人公は科学捜査班に属するサイコパスなのだが、彼がセックスに興味がないように、本書の主人公もスキャンダルでしか勃起させることができない。  その主人公に纏わりつくのが、クールな金融王、好色な女子高生という辺りも、本書のスパイスとなっており、本当に近来稀に見る種類のエンターテインメントと言える面白本なのである。欲を言えば、描写が下品に過ぎるために、息子などに読ませたくないという父親としての気持ちが生じる点か。特にセックス中毒に陥る女子高生は淫行罪に引っかかるため宜しくない。PTAが悪書追放箱(今もあるのだろうか)に投げ込みたくなる類いの本であることは間違いない。  ちなみにいずれもブリティッシュ・パンクの曲名によるタイトルでありながら、しっかりと内容もその曲や歌詞に付いていっている。そう言えば、ぼくの知っていた馳星周の二十代、彼はけっこうなパンク・ロック好きで、セックス・ピストルズのジョニー・ロットンの死を歌ったロックのカリスマ、ニール・ヤングの方はぼくの世代だった関係もあるせいか(こじつけだが)、よく音楽の話をネットでしたものだ。当時のネットとはインターネットではなく、パソコン通信で、チャットではなくリアルタイム会議と言ったものだが、よく二人だけでPC越しに文字で会話をしたものだった。ある夜、ブルース・スプリングスティーンの『ザ・リバー』の話題になったとき、彼が歌詞を良く理解し、音楽を英語であっても内容から掴み取ろうとしている姿勢を示すのにけっこう感心した記憶がある。特にその夜は歌詞の内容について熱く語った。  本書で引用されるパンクロックのタイトルはそのまま主人公によってしっかりと活用される。馳星周が、ブラックなユーモアに満ちた本書の中で、いつもよりずっとリラックスして本当に好きな音楽についての本音の部分を入れ込んでいたって全然おかしくない。むしろ、これからの馳星周という作家は、これくらいの余裕をかまして書いてくれた方が活き活きしてくれるのではないか、とぼくは、期待感でいっぱいになってしまう。 (2008/08/17)
*やつらを高く吊せ #amazon(right,4062147092) 題名:やつらを高く吊せ 作者:馳 星周 発行:講談社 2008.5.25 初版 価格:\1,600  『奴らを高く吊るせ! 』というのは、クリント・イーストウッドが、マカロニ・ウェスタン『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』などで世界的に当てた後、アメリカに帰ってすぐに撮った本場ハリウッド・ウェスタン。なので、漢字をひらがな表記にした馳星周のその辺りへのこだわりの有無にも関心があったのだが、やはり育った時代が違ったか。映画『奴らを……』のスローテンポ・ウェスタンとは全く対極的にあって、馳星周の本書は、魔都TOKIOを舞台にしたスキャンダル・ハンター主役による非常にハイ・テンポながら、どこか狂ったオフビート小説であったのだ。  正直言って、この一冊には驚いた。本書は、連作短編集という形を取りつつも、すべてのタイトルはブリティッシュ・パンクの曲名(もちろん横文字)で成り立っている。もちろんそんなことで驚いたのではない。実は馳星周としては、初であろうと思われるようなスラップスティックな味わいが本書には随所に登場するのである。  もちろん馳星周は海外ミステリの通でもあったから、ウェストレイクやハイアセン、ウィンズロウといったあちらならではのスラップスティック・クライムも熟知していよう。しかし、ここまでの明るくドライな狂騒感は、今までの馳には全くなかった味わいだし、そもそもこの手の味は日本人作家には作り出せないものだと思っていた。  その意味では馳星周の本書における意味合いは大きい。いつもながらの暗くじめじめした空気が消えて、むしろエルモア・レナードの明るく乾いた呆気ないブラック感が漂ったいい具合のクライム小説に仕上がっている。  普通なら決して考えつくことのないタイプの主人公を創出し、さらに周囲に主人公を食わんばかりの特異なキャラを満遍なく配置したことから、この独特な世界は成功したと言えるだろう。9月にDVD化もされるアメリカのTVドラマ『デクスター』の主人公は科学捜査班に属するサイコパスなのだが、彼がセックスに興味がないように、本書の主人公もスキャンダルでしか勃起させることができない。  その主人公に纏わりつくのが、クールな金融王、好色な女子高生という辺りも、本書のスパイスとなっており、本当に近来稀に見る種類のエンターテインメントと言える面白本なのである。欲を言えば、描写が下品に過ぎるために、息子などに読ませたくないという父親としての気持ちが生じる点か。特にセックス中毒に陥る女子高生は淫行罪に引っかかるため宜しくない。PTAが悪書追放箱(今もあるのだろうか)に投げ込みたくなる類いの本であることは間違いない。  ちなみにいずれもブリティッシュ・パンクの曲名によるタイトルでありながら、しっかりと内容もその曲や歌詞に付いていっている。そう言えば、ぼくの知っていた馳星周の二十代、彼はけっこうなパンク・ロック好きで、セックス・ピストルズのジョニー・ロットンの死を歌ったロックのカリスマ、ニール・ヤングの方はぼくの世代だった関係もあるせいか(こじつけだが)、よく音楽の話をネットでしたものだ。当時のネットとはインターネットではなく、パソコン通信で、チャットではなくリアルタイム会議と言ったものだが、よく二人だけでPC越しに文字で会話をしたものだった。ある夜、ブルース・スプリングスティーンの『ザ・リバー』の話題になったとき、彼が歌詞を良く理解し、音楽を英語であっても内容から掴み取ろうとしている姿勢を示すのにけっこう感心した記憶がある。特にその夜は歌詞の内容について熱く語った。  本書で引用されるパンクロックのタイトルはそのまま主人公によってしっかりと活用される。馳星周が、ブラックなユーモアに満ちた本書の中で、いつもよりずっとリラックスして本当に好きな音楽についての本音の部分を入れ込んでいたって全然おかしくない。むしろ、これからの馳星周という作家は、これくらいの余裕をかまして書いてくれた方が活き活きしてくれるのではないか、とぼくは、期待感でいっぱいになってしまう。 (2008/08/17)

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