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螺鈿迷宮」(2008/05/06 (火) 18:20:33) の最新版変更点

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*螺鈿迷宮 #amazon(4048737392,right,image) 題名:螺鈿迷宮 作者:海堂 尊 発行:角川書店 2006.11.30 初版 価格:\1,600  2006年2月に『チーム・バチスタの栄光』が上梓された。<このミステリーがすごい大賞>受賞発表が、その二ヶ月前の12月であった。受賞時点での著者インタビューによれば、トリックを思いつかないので、ミステリー作家になるのは無理だろうと自分で思っていたとのこと。ただ、一つだけ、手術室内での、現役医師ならではのトリックを思いついたのだと言う。それこそが、人生で初めて小説を書いたきっかけであった。さらにその作品を成功させたのは、白鳥圭輔という探偵役を作り出したことであった。この人の登場で、作品は読み返してみても面白いな、と自分で確信するに至ったのだと言う。  その白鳥圭輔が、彼のどの作品にも登場するらしい。トリックを全然思いつけなかったはずの作家が、キャラクターを作り出してしまった途端に、いくつも新しくアイディアを生み出し始めている。既に受賞インタビューの中でそう答えている作家の、自信に満ちた表情が印象的だ。  現役医師でありながら、2006年『チーム・バチスタ……』に続いて、10月に第二作『ナイチンゲールの沈黙』を、11月に別の出版社からこうして『螺鈿迷宮』を上梓している。このワーカホリックぶりには驚嘆を禁じ得ないが、その背景には、インタビューで既に放たれている予告通知とも言うべき、自信に満ちたあの「いくつか抱えているトリックがあった!」ということなのだろう。  本書は、死者が多く出過ぎるあまりに怪しい桜宮病院に、若き医学生が潜入し、真相を解明してゆく物語である。桜宮病院は同敷地内に、宗教法人としての碧翠院を抱え、治療から埋葬までのすべてを司るという、とても怪しい千葉県の施設である。前作での舞台となった東城大医学部とは、医局スタッフを行き来させる関係ながらも、互いに患者間で住み分けを行い、時には対立もする、という複雑な関係だ。  桜宮病院に潜入して、螺鈿の形をした迷宮内部を、読者へ案内してくれる役である一人称の「僕」は、前作同様、どこか組織の大勢からはぐれてしまった落ちこぼれ医学生である。潜入というと聞こえはいいが、奇妙な看護師とのアンラッキー・トルネードの中で、偶然にも大怪我をして入院し、動けない体となってしまう。ゆえにこの小説の中で、主人公は肉体的にはほとんど自分で動けないまま、物語を展開させることになる。  そうして潜入が停滞しそうにもなる中、何人もの人間が死んでゆく。死んでは、翌朝に焼かれて骨になり、あっという間に埋葬されてしまう。まるでホラー映画の世界を、コメディ・タッチで、すっとぼけた味のある主人公の独白が続いてゆく。しかし、やきもきするくらい旗色が悪く、何も把握できないでいるのが明らかであもある。そのもどかしさにさらに拍車をかけるのが、例の看護師・姫宮なのである。そして白鳥圭輔が追い討ちをかけるように桜宮に乗り込んでくる。物語はどのように落下速度を速めつつ、ツイストしてゆくのであろうか。  この奇妙な看護師・姫宮の存在は、実は『チーム・バチスタの栄光』で、既に白鳥の口から語られている。「氷姫」という愛称(?)は覚えておいでだろうか? しかしいずれにせよ、著者は執筆当時から、この看護師の存在で別の物語を書くことを企んでいたのではないか。その作者のいたずら心に、ひれ伏したくなるような、本書は一つの種明かしストーリーともなっている。  もちろん『チーム・バチスタ……』で活躍したキャラたちは、本書でもチョイ役などを振られつつ、登場する。あの愚痴外来も、しっかりサービス・シーンみたいな形で登場。  かくしてエンターテインメント作家・海堂尊は、従来の医療サスペンス完全破壊という整地作業の上に、ゆるぎない地位を確立しようとしている。一作ではなく、多くの作品によって一大海堂ワールドを作るべく、だ。このめくるめくワールドは、おそらく桜宮病院のように、妖しの迷宮(ラビリンス)として、いずれ文芸上のテーマパークを形成してしまうに違いない。 (2008/05/06)
*螺鈿迷宮 #amazon(4048737392,right,image) 題名:螺鈿迷宮 作者:海堂 尊 発行:角川書店 2006.11.30 初版 価格:\1,600  2006年2月に『チーム・バチスタの栄光』が上梓された。<このミステリーがすごい大賞>受賞発表が、その二ヶ月前の12月であった。受賞時点での著者インタビューによれば、トリックを思いつかないので、ミステリー作家になるのは無理だろうと自分で思っていたとのこと。ただ、一つだけ、手術室内での、現役医師ならではのトリックを思いついたのだと言う。それこそが、人生で初めて小説を書いたきっかけであった。さらにその作品を成功させたのは、白鳥圭輔という探偵役を作り出したことであった。この人の登場で、作品は読み返してみても面白いな、と自分で確信するに至ったのだと言う。  その白鳥圭輔が、彼のどの作品にも登場するらしい。トリックを全然思いつけなかったはずの作家が、キャラクターを作り出してしまった途端に、いくつも新しくアイディアを生み出し始めている。既に受賞インタビューの中でそう答えている作家の、自信に満ちた表情が印象的だ。  現役医師でありながら、2006年『チーム・バチスタ……』に続いて、10月に第二作『ナイチンゲールの沈黙』を、11月に別の出版社からこうして『螺鈿迷宮』を上梓している。このワーカホリックぶりには驚嘆を禁じ得ないが、その背景には、インタビューで既に放たれている予告通知とも言うべき、自信に満ちたあの「いくつか抱えているトリックがあった!」ということなのだろう。  本書は、死者が多く出過ぎるあまりに怪しい桜宮病院に、若き医学生が潜入し、真相を解明してゆく物語である。桜宮病院は同敷地内に、宗教法人としての碧翠院を抱え、治療から埋葬までのすべてを司るという、とても怪しい千葉県の施設である。前作での舞台となった東城大医学部とは、医局スタッフを行き来させる関係ながらも、互いに患者間で住み分けを行い、時には対立もする、という複雑な関係だ。  桜宮病院に潜入して、螺鈿の形をした迷宮内部を、読者へ案内してくれる役である一人称の「僕」は、前作同様、どこか組織の大勢からはぐれてしまった落ちこぼれ医学生である。潜入というと聞こえはいいが、奇妙な看護師とのアンラッキー・トルネードの中で、偶然にも大怪我をして入院し、動けない体となってしまう。ゆえにこの小説の中で、主人公は肉体的にはほとんど自分で動けないまま、物語を展開させることになる。  そうして潜入が停滞しそうにもなる中、何人もの人間が死んでゆく。死んでは、翌朝に焼かれて骨になり、あっという間に埋葬されてしまう。まるでホラー映画の世界を、コメディ・タッチで、すっとぼけた味のある主人公の独白が続いてゆく。しかし、やきもきするくらい旗色が悪く、何も把握できないでいるのが明らかであもある。そのもどかしさにさらに拍車をかけるのが、例の看護師・姫宮なのである。そして白鳥圭輔が追い討ちをかけるように桜宮に乗り込んでくる。物語はどのように落下速度を速めつつ、ツイストしてゆくのであろうか。  この奇妙な看護師・姫宮の存在は、実は『チーム・バチスタの栄光』で、既に白鳥の口から語られている。「氷姫」という愛称(?)は覚えておいでだろうか? しかしいずれにせよ、著者は執筆当時から、この看護師の存在で別の物語を書くことを企んでいたのではないか。その作者のいたずら心に、ひれ伏したくなるような、本書は一つの種明かしストーリーともなっている。  もちろん『チーム・バチスタ……』で活躍したキャラたちは、本書でもチョイ役などを振られつつ、登場する。あの愚痴外来も、しっかりサービス・シーンみたいな形で登場。  かくしてエンターテインメント作家・海堂尊は、従来の医療サスペンス完全破壊という整地作業の上に、ゆるぎない地位を確立しようとしている。一作ではなく、多くの作品によって一大海堂ワールドを作るべく、だ。このめくるめくワールドは、おそらく桜宮病院のように、妖しの迷宮(ラビリンス)として、いずれ文芸上のテーマパークを形成してしまうに違いない。 (2008/05/06)

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