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*流星の絆 #amazon(4062145901,right,image) 題名:流星の絆 作者:東野圭吾 発行:講談社 2008.03.05 初版 価格:\1,700  東野圭吾は、やはり凄い作家であると思う。時にデコボコはあるとは言え、やはり定期的にこうした迫力ある傑作を出してくるその手腕は、並ではない。もしこの作家が新人であったなら、この一作は間違いなくミステリ界の注目を一身に浴びるだろう。そのくらい価値があろうかと思われる一世一代の傑作と思われる作品を、長い作家生活の継続更新のさなかで、あっさりと定期的に書いてしまうあたりが、実に優秀なプロであることを感じさせるのだ。  この物語の骨子は幼い頃両親を殺された兄弟三人が作り出す。時効の近づいている事件から15年後の現在、ふとしたきっかけから、彼らは容疑者らしき存在に邂逅する。これまで眠っていた容疑者を炙り出そうと、彼らは知略を尽くして計画を張り巡らす。しかし妹は、罠にはめようとした相手に次第に惹かれてしまう。唯一の誤算。彼女の心の葛藤が計画を揺るがせるサスペンスフルな展開のさなか、警察も容疑者一三も巻き込んで、事態はフルスロットルで走り出すく。  というように、兄弟、容疑者一族、警察と、三つ巴の関係ゆえに、緊張が全編に漲る。しかしそれ以前に何と言っても素晴らしいのが、物語の導入部であろう。ペルセウズ座流星群を見るために家を抜け出す幼い三兄弟。雨に降られ、気落ちして帰宅した我が家には、惨殺された両親の姿があった。事件の初動捜査。子供たちのその後の生活。急激に変化を遂げる物語世界に、読者はのっけからぐいぐいと引きずられるだろう。三人の兄弟たちとともに時計の螺子を巻き進める興奮を、圧巻の筆力が紡ぎ出す。躍動感に近い興奮すら覚えるほどに。  長じて、三兄弟は、驚くような生活に身を投じている。次々と展開してゆく彼らの連携と技術の冴えを見せつけられる。たくましき孤児たちの現在に、ほっと一息をつくと同時に、その不安定さに眩暈すら覚えそうになる。知の長兄、技の次兄、美の妹とでもいったところか。三人の個性が際立っている。  捜査側の刑事たち、容疑者家族たちなどバイプレイヤーたちの個性も、物語を豊かなものに変えている。  帯にある。  「この小説は私が書いたのではない。登場人物たちが作り出したのだ」  作者が、そう言いたくなる気持ちもわかる。  だからこそトリックは人間である。プロットは登場人物そのものである。人間たちの心がドラマを作り出し、彼が生きることが動機となる。娯楽小説としても、人間ドラマとしても、ぐいぐいと読み進んでしまう牽引力に満ち満ちた中盤。休む場所はどこにもなく、展開は速い。まさにジェットコースター・ノヴェルである。  そして、ラストのどんでん返しの見事さはどうだろう。ここまでツイストして、さらにツイストして、しかも納得感があり、しかも劇的、という小説というのは珍しい。「張り巡らされた伏線」「驚きの真相」というこれまたやはり帯の言葉が、少しも嘘ではないのだ。  文句なしに脱帽する人間像。そして、だからこそ心に響く終章であり、人間たちの心の葛藤の地図であるのだ。生きることの複雑さを抱え込み、事件だけが終わりを告げても、彼らの根源にある記憶は錆びつこうとしない。これからの彼らの人生に陰影を与え、彼らをより複雑にしてゆくことは避けられないことのように見えるのである。  そうした奇麗事ばかりではない、理不尽も諦念も無力もことごとく、そして容赦なく抉り出してみせるからこそ、東野圭吾という作家には、いつも大抵ある意味凄絶な部分が感じられるのだ。作家的天賦、と言っていいように思う。  『容疑者Xの献身』以来の、ひときわ読書界を騒然とさせそうな予感を覚える一冊である。内容には、もちろんこれ以上触れたくはない。是非、まずは手にとってラストシーンまでの張りつめた小説世界を、堪能して欲しい。 (2008/02/23)
*流星の絆 #amazon(4062145901,right,image) 題名:流星の絆 作者:東野圭吾 発行:講談社 2008.03.05 初版 価格:\1,700  東野圭吾は、やはり凄い作家であると思う。時にデコボコはあるとは言え、やはり定期的にこうした迫力ある傑作を出してくるその手腕は、並ではない。もしこの作家が新人であったなら、この一作は間違いなくミステリ界の注目を一身に浴びるだろう。そのくらい価値があろうかと思われる一世一代の傑作と思われる作品を、長い作家生活の継続更新のさなかで、あっさりと定期的に書いてしまうあたりが、実に優秀なプロであることを感じさせるのだ。  この物語の骨子は幼い頃両親を殺された兄弟三人が作り出す。時効の近づいている事件から15年後の現在、ふとしたきっかけから、彼らは容疑者らしき存在に邂逅する。これまで眠っていた容疑者を炙り出そうと、彼らは知略を尽くして計画を張り巡らす。しかし妹は、罠にはめようとした相手に次第に惹かれてしまう。唯一の誤算。彼女の心の葛藤が計画を揺るがせるサスペンスフルな展開のさなか、警察も容疑者一三も巻き込んで、事態はフルスロットルで走り出すく。  というように、兄弟、容疑者一族、警察と、三つ巴の関係ゆえに、緊張が全編に漲る。しかしそれ以前に何と言っても素晴らしいのが、物語の導入部であろう。ペルセウズ座流星群を見るために家を抜け出す幼い三兄弟。雨に降られ、気落ちして帰宅した我が家には、惨殺された両親の姿があった。事件の初動捜査。子供たちのその後の生活。急激に変化を遂げる物語世界に、読者はのっけからぐいぐいと引きずられるだろう。三人の兄弟たちとともに時計の螺子を巻き進める興奮を、圧巻の筆力が紡ぎ出す。躍動感に近い興奮すら覚えるほどに。  長じて、三兄弟は、驚くような生活に身を投じている。次々と展開してゆく彼らの連携と技術の冴えを見せつけられる。たくましき孤児たちの現在に、ほっと一息をつくと同時に、その不安定さに眩暈すら覚えそうになる。知の長兄、技の次兄、美の妹とでもいったところか。三人の個性が際立っている。  捜査側の刑事たち、容疑者家族たちなどバイプレイヤーたちの個性も、物語を豊かなものに変えている。  帯にある。  「この小説は私が書いたのではない。登場人物たちが作り出したのだ」  作者が、そう言いたくなる気持ちもわかる。  だからこそトリックは人間である。プロットは登場人物そのものである。人間たちの心がドラマを作り出し、彼が生きることが動機となる。娯楽小説としても、人間ドラマとしても、ぐいぐいと読み進んでしまう牽引力に満ち満ちた中盤。休む場所はどこにもなく、展開は速い。まさにジェットコースター・ノヴェルである。  そして、ラストのどんでん返しの見事さはどうだろう。ここまでツイストして、さらにツイストして、しかも納得感があり、しかも劇的、という小説というのは珍しい。「張り巡らされた伏線」「驚きの真相」というこれまたやはり帯の言葉が、少しも嘘ではないのだ。  文句なしに脱帽する人間像。そして、だからこそ心に響く終章であり、人間たちの心の葛藤の地図であるのだ。生きることの複雑さを抱え込み、事件だけが終わりを告げても、彼らの根源にある記憶は錆びつこうとしない。これからの彼らの人生に陰影を与え、彼らをより複雑にしてゆくことは避けられないことのように見えるのである。  そうした奇麗事ばかりではない、理不尽も諦念も無力もことごとく、そして容赦なく抉り出してみせるからこそ、東野圭吾という作家には、いつも大抵ある意味凄絶な部分が感じられるのだ。作家的天賦、と言っていいように思う。  『容疑者Xの献身』以来の、ひときわ読書界を騒然とさせそうな予感を覚える一冊である。内容には、もちろんこれ以上触れたくはない。是非、まずは手にとってラストシーンまでの張りつめた小説世界を、堪能して欲しい。 (2008/02/23)

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