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*チーム・バチスタの栄光 #amazon(4796661611,left,image) #amazon(4796661638,left,image) #amazon(4796650792,,image) 題名:チーム・バチスタの栄光 上/下 作者:海堂 尊 発行:宝島社文庫 2007.11.26 初刷 上)2008.01.31 5刷 下)2007.11.21 3刷 価格:各\476  医療ミステリーというだけで腰が引けてしまうところがある。医療機器関連の仕事に長いこと身を置いていたせいなのかもしれない。小説に多くを求めるはずの現実との距離感を、医療ミステリーは埋めてしまい、自分の関わる日常の側に小説を引き寄せてしまうからだ。  本業医師、しかし作家デビューしたという人では、帚木蓬生が思い浮かぶのだが、生真面目すぎる印象と、いかにも医師らしいというヒューマニズムが、作品の底浅に繋がってしまい、意外性に欠け、娯楽小説でありながら使命感に満ち満ちている辺りが説教臭く思えるようになって、ぼくは敬遠するようになってしまった。  もっとも、最初の頃の帚木蓬生は、ミステリーに新しい地平を切り開いた勇気ある作家というイメージであった。『白い夏の墓標』『十二年目の映像』の二作は、ミステリーというより、その頃ブームであった冒険小説の気概に満ちていた。だが『アフリカの蹄』あたりから、ルポルタージュ色が強まってしまい、現実の側にミステリーが阿るように見え始め、小説としては重たさが増し、一方でエンターテインメントとしてはつまらなくなってしまった。その後、ぼくは医療ミステリーへのアレルギーを示すようになる。  この小説を手にしたのは、とある会社の同僚に勧められたためである。そもそもこの本を医療ミステリーとさえ知らなかった。手術チームが、スポーツチームのように人間ドラマを繰り返し、栄光を手にするまでのスポコンもののような小説なのかと勝手に思い込んでいた。  だから随分と遅くなってしまったが、同僚が、この小説の面白さは、最初の設定にありと、序章に当たる部分だけを喋って聴かせてくれたからだ。なるほど。そういう娯楽性に溢れたものであるのなら、読んでみようか。  実際に驚いた。ミステリーとしての手腕と、医者だから思いつくことのできる犯罪であるという二点について。ミステリーとしての骨格は、ちゃんとしていた。しっかりと捜査する側の探偵コンビがいて、それもキャラクターがしっかりと立っている。  探偵役の厚生労働省役人・白鳥圭介は、東野圭吾のガリレオ、あるいは奥田英朗の伊良部先生を思い起こさせるなと思っていたら、しっかりと巻末解説で茶木則夫氏が同じ二人の名を挙げていた。それほど、奇抜でユーモラスな現代風の探偵像がまた一人確実に誕生しているのだ。しかも解決への導き方が並ではない。唸ってしまうほどに見事だ。  医学的知識を与えた東野圭吾、とでも言おうか。つまり娯楽色に医療の情報性という専門知識をプラスした作品なのである。一般の人が読んでもかなり反響は高いと思うが、同業の病院関係者、あるいは医療に関連する仕事に携わる人々にとっては、たまらない一冊なのではないか。  それも、一つには現代の病院が抱えるヒエラルキーその他の旧態依然とした課題を、重たく、暗くではなく、明るく喜劇風に笑い飛ばしてしまう痛快さを、作品全体が秘めているからだ。そのために生み出した語り手としての、はぐれ勤務医・田口先生であるのかもしれない。  ちなみに犯罪の謎解きもこれまた知識がある人には、相当に面白いと思う。ぼくはある診療科の機械に狭い範囲でちょっとした知識を持っているのだが(業界人だったから)、謎解きの時点であっという仕掛けがあって驚かされた。バチスタ手術の天才外科医や、その他の脇役たちの配備、病院と言う機構そのもののおかしさ、そうしたすべての医療に関する情報をすべて、小説としての面白さを演出する道具に変えてしまった作者の語り部としての才に、価値を見出すべき作品であると思う。  医師としての作者については知り得ないにせよ、作家としての海堂尊その人は、まぎれもなく快哉に値する成功例そのものであったと思う。  この後、作者は凄いペースでシリーズを何作も書いているらしい。そうした続編の方も、読みたくてたまらなくなった。何度でも再会したくなるほどに、白鳥・田口コンビは、魅力的な探偵であるからだ。 (2008/02/17)
*チーム・バチスタの栄光 #amazon(4796661611,left,image) #amazon(4796661638,left,image) #amazon(4796650792,,image) 題名:チーム・バチスタの栄光 上/下 作者:海堂 尊 発行:宝島社文庫 2007.11.26 初刷 上)2008.01.31 5刷 下)2007.11.21 3刷 価格:各\476  医療ミステリーというだけで腰が引けてしまうところがある。医療機器関連の仕事に長いこと身を置いていたせいなのかもしれない。小説に多くを求めるはずの現実との距離感を、医療ミステリーは埋めてしまい、自分の関わる日常の側に小説を引き寄せてしまうからだ。  本業医師、しかし作家デビューしたという人では、帚木蓬生が思い浮かぶのだが、生真面目すぎる印象と、いかにも医師らしいというヒューマニズムが、作品の底浅に繋がってしまい、意外性に欠け、娯楽小説でありながら使命感に満ち満ちている辺りが説教臭く思えるようになって、ぼくは敬遠するようになってしまった。  もっとも、最初の頃の帚木蓬生は、ミステリーに新しい地平を切り開いた勇気ある作家というイメージであった。『白い夏の墓標』『十二年目の映像』の二作は、ミステリーというより、その頃ブームであった冒険小説の気概に満ちていた。だが『アフリカの蹄』あたりから、ルポルタージュ色が強まってしまい、現実の側にミステリーが阿るように見え始め、小説としては重たさが増し、一方でエンターテインメントとしてはつまらなくなってしまった。その後、ぼくは医療ミステリーへのアレルギーを示すようになる。  この小説を手にしたのは、とある会社の同僚に勧められたためである。そもそもこの本を医療ミステリーとさえ知らなかった。手術チームが、スポーツチームのように人間ドラマを繰り返し、栄光を手にするまでのスポコンもののような小説なのかと勝手に思い込んでいた。  だから随分と遅くなってしまったが、同僚が、この小説の面白さは、最初の設定にありと、序章に当たる部分だけを喋って聴かせてくれたからだ。なるほど。そういう娯楽性に溢れたものであるのなら、読んでみようか。  実際に驚いた。ミステリーとしての手腕と、医者だから思いつくことのできる犯罪であるという二点について。ミステリーとしての骨格は、ちゃんとしていた。しっかりと捜査する側の探偵コンビがいて、それもキャラクターがしっかりと立っている。  探偵役の厚生労働省役人・白鳥圭介は、東野圭吾のガリレオ、あるいは奥田英朗の伊良部先生を思い起こさせるなと思っていたら、しっかりと巻末解説で茶木則夫氏が同じ二人の名を挙げていた。それほど、奇抜でユーモラスな現代風の探偵像がまた一人確実に誕生しているのだ。しかも解決への導き方が並ではない。唸ってしまうほどに見事だ。  医学的知識を与えた東野圭吾、とでも言おうか。つまり娯楽色に医療の情報性という専門知識をプラスした作品なのである。一般の人が読んでもかなり反響は高いと思うが、同業の病院関係者、あるいは医療に関連する仕事に携わる人々にとっては、たまらない一冊なのではないか。  それも、一つには現代の病院が抱えるヒエラルキーその他の旧態依然とした課題を、重たく、暗くではなく、明るく喜劇風に笑い飛ばしてしまう痛快さを、作品全体が秘めているからだ。そのために生み出した語り手としての、はぐれ勤務医・田口先生であるのかもしれない。  ちなみに犯罪の謎解きもこれまた知識がある人には、相当に面白いと思う。ぼくはある診療科の機械に狭い範囲でちょっとした知識を持っているのだが(業界人だったから)、謎解きの時点であっという仕掛けがあって驚かされた。バチスタ手術の天才外科医や、その他の脇役たちの配備、病院と言う機構そのもののおかしさ、そうしたすべての医療に関する情報をすべて、小説としての面白さを演出する道具に変えてしまった作者の語り部としての才に、価値を見出すべき作品であると思う。  医師としての作者については知り得ないにせよ、作家としての海堂尊その人は、まぎれもなく快哉に値する成功例そのものであったと思う。  この後、作者は凄いペースでシリーズを何作も書いているらしい。そうした続編の方も、読みたくてたまらなくなった。何度でも再会したくなるほどに、白鳥・田口コンビは、魅力的な探偵であるからだ。 (2008/02/17)

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