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*祝宴 #amazon(4152088788,right,image) 題名:祝宴 原題:Dead Heat (2007) 著者:ディック・フランシス/フェリックス・フランシス Dick Francis & Felix Francis 訳者:北野寿美枝 発行:ハヤカワ・ノヴェルズ 2007.12.15 初版 価格:\1,900  もはやこのシリーズはディック・フランシスという一人の作家の小説というだけではなく、フランシス・プロジェクトと呼んだほうがいいのかもしれない。  メアリ夫人の逝去により、それまで彼女が取材活動を行っていたということが明らかにされた。少なくとも日本ではそうだった。ディックは、以前よりずっと家族の協力において本シリーズを書き続けてきたのであった、ということをぼくはそれまで全然知らなかった。  本シリーズにおいて作品を支える新しい素材への取材活動は重要である。確かな考証こそが、それぞれの小説のエッセンスともなっている。だからこそ本シリーズ、ディック・フランシスというブランドの存在があると言ってもいいほどである。  今回ははっきりと、息子フェリックスの名が共著として謳われてある。作品そのものはメアリ夫人によるリサーチを得ていたこれまでのシリーズと同様、ある特殊な職業の旗手として選ばれた主人公が、その専門的知識やプロフェッショナリズムを持って生きている様を、関わりになる事件を通してシニカルに時にはユーモラスに描き切ってゆく。小説作法としてのその描き方、大抵は「私」という一人称で描かれるフランシス流の独白の中で表現されてゆくこの人物の人となり、頑迷さ、正義感、誇り、闘志、そういったものが露わになってゆく過程が頼もしく感じられるのだ。一筋縄では到達することのできない地点にまで手を届かせている職業的専門家であるからこその様々な資質を垣間見せてくれることに納得もゆくわけである。  そういったすべてが本書でも活き活きと著されている点にまず驚嘆を禁じ得ない。メアリ夫人からリサーチを引き継いだフェリックスが、作品のどこまで口を出したものなのかは知らない。だが、以前よりむしろ全体的に骨太に豊かになったかのような印象が、復活後2作に浮き出て見える点に、フェリックスの何らかの干渉が働いているようには見える。  まず、本書の主人公の職業はシェフである。競馬場観客席やパーティへのケータリング・サービスを行うことで、競馬世界に関わりを持つ。まずは、自らも含まれる集団中毒事件に見舞われるところから物語は始まる。いつもながらの掴みだ。  継いで、その翌日にはテロ事件と推測される爆破事件が起こって、現場では多くの犠牲者を出す。このシリーズではここまでのものはあまり見ることができないくらいの派手派手しさだ。さらに主人公は車のブレーキに細工をされ、家には火が放たれるなど、執拗な攻撃を受け始める。  そんな中でも恋に落ち、熱中する。恋人はヴィオラ奏者であり、その職業においてプロであり、しばしばクールでもあり、むしろ主人公以上にさっぱりとしており、素敵だ。その彼女は彼を置いてアメリカに公演に出かける。主人公は彼女を追いかけたがり、念のためパスポートまで持ち歩いて行動する。  これまでの主人公像は大抵は最後まで受身で楽天的であるがゆえに、身を滅ぼしそうな危険に出くわすことになる。酷い作品では背中に矢を射抜かれ、森の中を這いずり回った主人公だっていたほどだ。しかし本書では自分が狙われていると疑い始めた時点で、主人公は、見事に身を隠し行動を始める。こんなところはかつてのフランシス主人公の行動パターンにはなかなかなかったことである。  変わっていないのは、警察が相変わらず無能で検討外れであることや、脇役たちに少しだけひねくれ屈折した人間たちが沢山いることくらいか。この点はフーダニット・ミステリとしての仕掛けもあるのかもしれないが、それでも人間関係がシンプルではないゆえに、リアルで深みのある世界になっていることも確かである。  最初から最後まで緊張とスリルに満ちた極限の面白さ。フランシス小説としてもトップクラスに位置するような出来栄えの作品だ。本作が上梓された時のディックの年齢は87歳。フェリックスがどこまで父親の晩年の仕事を支え切ってくれるのか、いよいよ腕の見せどころである。 (2008/01/27)
*祝宴 #amazon(4152088788,right,image) 題名:祝宴 原題:Dead Heat (2007) 著者:ディック・フランシス/フェリックス・フランシス Dick Francis & Felix Francis 訳者:北野寿美枝 発行:ハヤカワ・ノヴェルズ 2007.12.15 初版 価格:\1,900  もはやこのシリーズはディック・フランシスという一人の作家の小説というだけではなく、フランシス・プロジェクトと呼んだほうがいいのかもしれない。  メアリ夫人の逝去により、それまで彼女が取材活動を行っていたということが明らかにされた。少なくとも日本ではそうだった。ディックは、以前よりずっと家族の協力において本シリーズを書き続けてきたのであった、ということをぼくはそれまで全然知らなかった。  本シリーズにおいて作品を支える新しい素材への取材活動は重要である。確かな考証こそが、それぞれの小説のエッセンスともなっている。だからこそ本シリーズ、ディック・フランシスというブランドの存在があると言ってもいいほどである。  今回ははっきりと、息子フェリックスの名が共著として謳われてある。作品そのものはメアリ夫人によるリサーチを得ていたこれまでのシリーズと同様、ある特殊な職業の旗手として選ばれた主人公が、その専門的知識やプロフェッショナリズムを持って生きている様を、関わりになる事件を通してシニカルに時にはユーモラスに描き切ってゆく。小説作法としてのその描き方、大抵は「私」という一人称で描かれるフランシス流の独白の中で表現されてゆくこの人物の人となり、頑迷さ、正義感、誇り、闘志、そういったものが露わになってゆく過程が頼もしく感じられるのだ。一筋縄では到達することのできない地点にまで手を届かせている職業的専門家であるからこその様々な資質を垣間見せてくれることに納得もゆくわけである。  そういったすべてが本書でも活き活きと著されている点にまず驚嘆を禁じ得ない。メアリ夫人からリサーチを引き継いだフェリックスが、作品のどこまで口を出したものなのかは知らない。だが、以前よりむしろ全体的に骨太に豊かになったかのような印象が、復活後2作に浮き出て見える点に、フェリックスの何らかの干渉が働いているようには見える。  まず、本書の主人公の職業はシェフである。競馬場観客席やパーティへのケータリング・サービスを行うことで、競馬世界に関わりを持つ。まずは、自らも含まれる集団中毒事件に見舞われるところから物語は始まる。いつもながらの掴みだ。  継いで、その翌日にはテロ事件と推測される爆破事件が起こって、現場では多くの犠牲者を出す。このシリーズではここまでのものはあまり見ることができないくらいの派手派手しさだ。さらに主人公は車のブレーキに細工をされ、家には火が放たれるなど、執拗な攻撃を受け始める。  そんな中でも恋に落ち、熱中する。恋人はヴィオラ奏者であり、その職業においてプロであり、しばしばクールでもあり、むしろ主人公以上にさっぱりとしており、素敵だ。その彼女は彼を置いてアメリカに公演に出かける。主人公は彼女を追いかけたがり、念のためパスポートまで持ち歩いて行動する。  これまでの主人公像は大抵は最後まで受身で楽天的であるがゆえに、身を滅ぼしそうな危険に出くわすことになる。酷い作品では背中に矢を射抜かれ、森の中を這いずり回った主人公だっていたほどだ。しかし本書では自分が狙われていると疑い始めた時点で、主人公は、見事に身を隠し行動を始める。こんなところはかつてのフランシス主人公の行動パターンにはなかなかなかったことである。  変わっていないのは、警察が相変わらず無能で検討外れであることや、脇役たちに少しだけひねくれ屈折した人間たちが沢山いることくらいか。この点はフーダニット・ミステリとしての仕掛けもあるのかもしれないが、それでも人間関係がシンプルではないゆえに、リアルで深みのある世界になっていることも確かである。  最初から最後まで緊張とスリルに満ちた極限の面白さ。フランシス小説としてもトップクラスに位置するような出来栄えの作品だ。本作が上梓された時のディックの年齢は87歳。フェリックスがどこまで父親の晩年の仕事を支え切ってくれるのか、いよいよ腕の見せどころである。 (2008/01/27)

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