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*狼が来た、城へ逃げろ #amazon(B000J94ZEO,text) 題名:狼が来た、城へ逃げろ 原題:Cases (1999) 作者:ジャン=パトリック・マンシェット Jean-Patrick Manchette 訳者:岡村孝一 発行:ハヤカワ・ミステリ 1974.10.31 初版 価格:\420  30年前にはポケミスは、こんな値段だったんだなあ。今ではほとんどポケミスは1000円を越えてしまい、和製ハードカバーとさして変わらない価格になってしまった。ポケットに入らないばかりの厚さになったものも多く、ポケットマネーでは購入意欲に少し足りないくらいの勿体ぶった叢書になっちまった感がある。  でもこの420円の本は、実は絶版本でなかなか手にすることができない。4000円以上でネット古書店から仕入れるしかなく、躊躇っていたところ、mucchanという妙齢の女性より一緒に折半して買いませんかとの申し出があったため、貧乏な私でもこうした本を読む機会を得たという、涙が出るほど嬉しい経緯があるのだ。  そもそもmucchanは、私のパトリック評に、ジャン・パトリック・マンシェットで検索し辿り着いたのだそうだ。最初にmixiでメッセージがあり、こういう世の中こういう時代から、お互いに慎重にメールアドレスをそろりそろりと教え合った。何せ話題がマンシェットなのだ。探そうとしたってこの作家の読者なんて私の生活圏域には一人もいやしないだろう。ましてや作品だってほとんど入手し難い状態なのだ。  だけどmucchanは『殺戮の天使』に惚れ抜いて私とのメール交換を開始。その後、私が『地下組織ナーダ』を貸してあげようと申し出る。私が札幌、mucchanは本州であり、未だにお会いしたこともないのであるが、ただただマンシェットという作家を介しての心のつながりとなった。ドストエフスキーの『白夜』みたいだねって言ったら、ナルシスト過ぎるか。  この作品を読みたいmucchanが購入、私は半額を送金し、mucchanは読了後、私に読み終えた『ナーダ』ともどもこの本を送ってくれた。それなのに、こんなに遅くなりました。ごめん>mucchan!  日本で紹介されたマンシェットの作品では、本書がトップである。最初に書かれた作品とあって、それなりのマンシェットならではのバイオレンスはのっけからラストまで絶えることなく続くのだが、何よりも、一人一人のキャラクター造形が、半端じゃない。  闘う女というと何となくスタイリッシュなハリウッド・イメージを想起する人が多いだろうけれど、マンシェットは『殺戮の天使』も本書も、そんなに格好のいいものではない。女はそれなりに美しさを描写されてはいるけれど、それ以上に追い詰められた弱者ならではの狂気を秘めている。それは並の男以上に暴力的にも、躊躇なき決断へも彼女を飛び込ませてゆく。  ひねくれてはいるがうちに純真さと孤独を秘めた少年を守るために徹底した破壊の限りを尽くす彼女の逃走劇がこの物語に鉄芯を通している。  一方で体内に死の危険さえ感じさせる病を抱え込みながら、殺戮に狂った歓びを見出す殺し屋トンプスンが強烈な存在感を示す。女と男は立場が入れ替わってもわからないのではないかと思われるくらい、ちょっとした狂気を秘めて行動的であり、互いによく似ている。  他の登場人物の一人一人が、すべてそれなりに狂った心を抱えており、軸の危うい生き方をしているように見える。狂気の象徴となるような闘いの舞台になるのが、狂った建築物である山中の奇怪な迷宮のような「城」(実際には高さはなく迷路のように奇怪な平屋建てみたいだ)である。  現代の寓話、というよりも、近未来的ですらあるどこか鋼鉄の冷たさを持った世界に、狂って追い詰められた人間たちが紛れ込んでやらかす大騒動の物語。映画化されたというこの作品の視覚的メディアも是非掘り起こしたいと思うのだが果たして可能だろうか。 (2007/11/25)
*狼が来た、城へ逃げろ #amazon(B000J94ZEO,text) 題名:狼が来た、城へ逃げろ 原題:O Dingos, O Shateaux (1972) 作者:ジャン=パトリック・マンシェット Jean-Patrick Manchette 訳者:岡村孝一 発行:ハヤカワ・ミステリ 1974.10.31 初版 価格:\420  30年前にはポケミスは、こんな値段だったんだなあ。今ではほとんどポケミスは1000円を越えてしまい、和製ハードカバーとさして変わらない価格になってしまった。ポケットに入らないばかりの厚さになったものも多く、ポケットマネーでは購入意欲に少し足りないくらいの勿体ぶった叢書になっちまった感がある。  でもこの420円の本は、実は絶版本でなかなか手にすることができない。4000円以上でネット古書店から仕入れるしかなく、躊躇っていたところ、mucchanという妙齢の女性より一緒に折半して買いませんかとの申し出があったため、貧乏な私でもこうした本を読む機会を得たという、涙が出るほど嬉しい経緯があるのだ。  そもそもmucchanは、私のパトリック評に、ジャン・パトリック・マンシェットで検索し辿り着いたのだそうだ。最初にmixiでメッセージがあり、こういう世の中こういう時代から、お互いに慎重にメールアドレスをそろりそろりと教え合った。何せ話題がマンシェットなのだ。探そうとしたってこの作家の読者なんて私の生活圏域には一人もいやしないだろう。ましてや作品だってほとんど入手し難い状態なのだ。  だけどmucchanは『殺戮の天使』に惚れ抜いて私とのメール交換を開始。その後、私が『地下組織ナーダ』を貸してあげようと申し出る。私が札幌、mucchanは本州であり、未だにお会いしたこともないのであるが、ただただマンシェットという作家を介しての心のつながりとなった。ドストエフスキーの『白夜』みたいだねって言ったら、ナルシスト過ぎるか。  この作品を読みたいmucchanが購入、私は半額を送金し、mucchanは読了後、私に読み終えた『ナーダ』ともどもこの本を送ってくれた。それなのに、こんなに遅くなりました。ごめん>mucchan!  日本で紹介されたマンシェットの作品では、本書がトップである。最初に書かれた作品とあって、それなりのマンシェットならではのバイオレンスはのっけからラストまで絶えることなく続くのだが、何よりも、一人一人のキャラクター造形が、半端じゃない。  闘う女というと何となくスタイリッシュなハリウッド・イメージを想起する人が多いだろうけれど、マンシェットは『殺戮の天使』も本書も、そんなに格好のいいものではない。女はそれなりに美しさを描写されてはいるけれど、それ以上に追い詰められた弱者ならではの狂気を秘めている。それは並の男以上に暴力的にも、躊躇なき決断へも彼女を飛び込ませてゆく。  ひねくれてはいるがうちに純真さと孤独を秘めた少年を守るために徹底した破壊の限りを尽くす彼女の逃走劇がこの物語に鉄芯を通している。  一方で体内に死の危険さえ感じさせる病を抱え込みながら、殺戮に狂った歓びを見出す殺し屋トンプスンが強烈な存在感を示す。女と男は立場が入れ替わってもわからないのではないかと思われるくらい、ちょっとした狂気を秘めて行動的であり、互いによく似ている。  他の登場人物の一人一人が、すべてそれなりに狂った心を抱えており、軸の危うい生き方をしているように見える。狂気の象徴となるような闘いの舞台になるのが、狂った建築物である山中の奇怪な迷宮のような「城」(実際には高さはなく迷路のように奇怪な平屋建てみたいだ)である。  現代の寓話、というよりも、近未来的ですらあるどこか鋼鉄の冷たさを持った世界に、狂って追い詰められた人間たちが紛れ込んでやらかす大騒動の物語。映画化されたというこの作品の視覚的メディアも是非掘り起こしたいと思うのだが果たして可能だろうか。 (2007/11/25)

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