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*追込 #amazon(4150707154,text) 題名:追込 原題:IN THE FRAME ,1976 作者:DICK FRANCIS 訳者:菊池光 発行:ハヤカワ文庫HM 1982.7.15 初刷 1991.9.30 9刷 価格:\520(本体\505)  フランシス小説はマンネリ化し始めた、と思って以来、最近連続してフランシスを読むことが苦痛になっていた。それで去年の 11 月以降フランシス会議室はまだ続いているのに、 一冊も読んでいない、という SYSOP としてはあるまじき無責任さで、本棚を見上げるたびに、心のどこかに罪悪感を抱き続けていた。新刊読みの合間を縫って、しかしフランシスは読まねばなるまいと、ある種の義務感 (もっともこれは飽きることもあろうかと思ってあらかじめ自分にシリーズ全読を課しておいた自分への罠とも言える) を多く胸に抱いて本書を手に取る。  いきなりドナルドという従兄弟が目茶目茶に荒らされた家で、妻の死体を目の前にし、地獄に片足を突っ込んでいる。おお、おお、そうだ、これがフランシスだったんだ、とぼくは思う。フランシスっておもいっきり衝撃的にストーリーを急発進させるタイプの作家であった。ページを開いた途端に、読者を作品世界に大変な牽引力で引きずり込むことのできるパワフルな作家であったんだ、と。  そしていつもの中弛み。とは言え、この中弛みのない作品もあるし、またこの中弛みという言葉は、キャラクターに深みを帯びさせる使命を帯びた起承転結の「承」である。ここで舞台は一気にオーストラリアへ。結婚したての親友夫婦とトライアングルのロードが始まり、 この辺は快テンポ。 親友と二人での不法侵入、証拠の奪回あたりが「転」へと繋がり、真犯人を追い込む彼らの姿が「結」となる。  そしてこの「結」の何と味わい深いことであろうか? フランシスの小説で最も優れた部分はいつもここである。「起」で垣間見られた地獄を、主人公は何とかしようともがいて来たのである。そして最後にはきちんと何とか彼なりの結論を示すのである。そしてこの作品は、愛情でミステリをサンドイッチしたような構造になっている。地獄に苦しむ従兄弟への、大変ヒューマンな主人公の思いやりが、最後に言葉として放たれる。その言葉に思い切りこらえれなくなったドナルドの思いから、読者はどれだけ距離をおいていられるだろう? どうしたら一緒に胸を熱くせずに済むだろう?  フランシス小説の結末でのぼくの課題はいつもそこである。 (1993.03.27)
*追込 #amazon(4150707154,text) 題名:追込 原題:IN THE FRAME ,1976 作者:DICK FRANCIS 訳者:菊池光 発行:ハヤカワ文庫HM 1982.7.15 初刷 1991.9.30 9刷 価格:\520(本体\505)  フランシス小説はマンネリ化し始めた、と思って以来、最近連続してフランシスを読むことが苦痛になっていた。それで去年の 11 月以降フランシス会議室はまだ続いているのに、 一冊も読んでいない、という SYSOP としてはあるまじき無責任さで、本棚を見上げるたびに、心のどこかに罪悪感を抱き続けていた。新刊読みの合間を縫って、しかしフランシスは読まねばなるまいと、ある種の義務感 (もっともこれは飽きることもあろうかと思ってあらかじめ自分にシリーズ全読を課しておいた自分への罠とも言える) を多く胸に抱いて本書を手に取る。  いきなりドナルドという従兄弟が目茶目茶に荒らされた家で、妻の死体を目の前にし、地獄に片足を突っ込んでいる。おお、おお、そうだ、これがフランシスだったんだ、とぼくは思う。フランシスっておもいっきり衝撃的にストーリーを急発進させるタイプの作家であった。ページを開いた途端に、読者を作品世界に大変な牽引力で引きずり込むことのできるパワフルな作家であったんだ、と。  そしていつもの中弛み。とは言え、この中弛みのない作品もあるし、またこの中弛みという言葉は、キャラクターに深みを帯びさせる使命を帯びた起承転結の「承」である。ここで舞台は一気にオーストラリアへ。結婚したての親友夫婦とトライアングルのロードが始まり、 この辺は快テンポ。 親友と二人での不法侵入、証拠の奪回あたりが「転」へと繋がり、真犯人を追い込む彼らの姿が「結」となる。  そしてこの「結」の何と味わい深いことであろうか? フランシスの小説で最も優れた部分はいつもここである。「起」で垣間見られた地獄を、主人公は何とかしようともがいて来たのである。そして最後にはきちんと何とか彼なりの結論を示すのである。そしてこの作品は、愛情でミステリをサンドイッチしたような構造になっている。地獄に苦しむ従兄弟への、大変ヒューマンな主人公の思いやりが、最後に言葉として放たれる。その言葉に思い切りこらえれなくなったドナルドの思いから、読者はどれだけ距離をおいていられるだろう? どうしたら一緒に胸を熱くせずに済むだろう?  フランシス小説の結末でのぼくの課題はいつもそこである。 (1993.03.27)

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