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*混戦 #amazon(4150707103,text) 題名:混戦 原題:RAT RACE (1970) 著者:DICK FRANCIS 訳者:菊池光 発行:ハヤカワ文庫HM 1977.9.15 初版 1990.11.30 8刷  前作『査問』に較べるとアクション・シーンが多いし、映画的と言えるくらいサービス満点なクライマックスが用意されているので、まあまあだれでも楽しめる作品ではないだろうか。『飛越』以来ひさびさに航空機パイロットを主役に据えているが、今度は競争馬馬輸送機ではなく、騎手、馬主、調教師といった競馬に関わる人々を輸送する仕事だ。  フランシスの航空(フライト)シーンはこれまた体験に基づいたものだから、なかなか読ませるものがあるのだが、この作品もその種の見せ場がある。それでも『飛越』と較べてしまうと若干見劣りするかな? しかし、それは『飛越』が良いからなのであって、この本の飛行シーンが悪いわけでは全然ない。ただ飛行シーン主体というよりは、仕組まれた罠をいかにして見破り、犯人をどう追い詰めるかに主眼を置いた小説であるから、地上での追跡行の方がこの作品のハイライトになっているのである。  人物としては、騙されやすい貴族のウェセックスという男が印象的で、これがなかなかドストエフスキーの『白痴』のムイシュキン公爵のように純真な人物として描かれている(少なくとも主役のパイロット、マットはそう見ている)。現代でもイギリスの富豪というのはこんなにもナイーブなのだろうか? との素朴な疑問が湧いてしまった。  それから主人公は家庭のない孤独な生活の中で憂鬱とともに苦しみ抜いているのだが、彼が溶けこみたいがそれをためらっているある生活--チャンピオン騎手とその妹たちの生活--がなかなか素晴らしい。というのも彼らは末妹のミッジが白血病に侵されているために極度な家族の団結を迫られているのだ。彼らも人生で理不尽な『罰金』を課せられている種族だったわけだ。フランシスはこうしたハンディキャップを背負った人間たちのタフさを描くのがとてもうまいと思う。彼がその生涯において並みたいていの人間観察をしてきてはいないことの証明だろう。  相変わらずフランシスのスポーツマン・シップを感じさせられた一冊。 (1992.07.22)

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