逃げるとは言ってもやはり映画や物語のようにはいかないのが現実だった。  どうにか再三に渡る追っ手から追跡を逃れたものの、俺は無数の銃弾を体に受けていた。  簡易治療は施したものの明らかに血液が足りない。その上、俺も彼女もロクに食べていなかった。  このままでは処刑される前に餓死するのがオチだろう。  今は小屋で身を潜めてはいるが、さて、どうしたものか… 「…まだ痛むのか? やけに難しそうな顔をしているが」  そんな俺を心配そうな顔で見つめるのはこの国の元独裁者。  今では見る影も無く服のあちこちが破れ、顔は泥で汚れきっている。元とは言え国のトップがこんないでたちとは、お笑い種だろう。 「いえ、痛くはありませんが…閣下こそ、どこかお怪我をなさっておいでではないですか?」 「心配無い。そなたが守ってくれているお陰でどこも怪我はしていない。…まったく、己の不甲斐無さに腹が立つ」  心底悔しそうに奥歯を噛み締めた。とはいえ、仮にも主君に、しかも16の女の子に守ってもらうわけにはいかないだろう。 「のう、私にも何かしてやれることは無いのか? 何でもいい、私だってお前に何かしてやりたいのだ」 「とは申されましても…こちらにも親衛隊としての面子というものが」 「そんなもの、ドブに捨てよ。私はもはやこの国の主ではない。お前と対等な、一人の人間なのだ」  そういうわけにもいかない。俺にとって彼女は永遠に主君であり、それ以上でもそれ以下でもない。…だから『閣下』とお呼びしているというのに。 「でしたら、じっとなさっていて下さい。無駄な体力は使わぬ事です」 「…本当に、融通の利かぬ男だ」  呆れたように彼女が笑った。同時に、自分を蔑むような笑いにも見えた。 「…では、訂正します。この小屋に限って食料の探索を行うことを許可しましょう」  だから、俺はそう言っていた。まったく、甘い男だと思う。きっと俺はまともな死に方をしないだろう。…いや、もうそれは決まっているようなものか。  しかし当の彼女は少しだけ嬉しそうに表情を変えた。曲がりなりにも、何か役目をもらった事が嬉しかったのかもしれない。  傀儡だった彼女にとって、自分の力でやれることなど、何一つ無かったのだから。 「それでは、しばし待て。良い結果は得られぬかもしれぬが、全力を尽くそう」  そう言うと、彼女は小屋のあちこちを物色し始めた。その姿を見て、俺は心に安らぎのようなものを感じた。  …そう言えば、誰かが自分の為に何かしてくれる、なんてことは今までに無かったな。まったく、果報者だよ、俺は。 「おお! あったぞ」  何もあるはずがないだろうと思っていたが、何か見つかったらしい。  …ひょっとしてこの子は幸運の女神様ではなかろうか。そう言えば、何度も銃弾を浴びたものの、致命傷は何一つない。 「ほら、干し肉だ。中々についているな、私もそなたも」  彼女の手にはそこそこの大きさの干し肉があった。…逆に不安だ。  この後、突然革命軍の連中が突入してきたりしないだろうか? 毒入りの干し肉だったりしないだろうか? 様々な想像が頭の中を渦巻く。 「どうした、あまり嬉しくなさそうだな…私が見つけてきたのが、そんなに嫌だったか?」 「いえ、滅相もありません」 「棒読みになっているぞ」 「ご冗談を」 「…まあ良い。ともかく、二人で食べよう。千切るぞ。………く、くくっ…」  必死に千切ろうとするが、全然その気配はない。彼女はとても非力だった。 「…私は構わないですから、閣下がお食べになって下さい。お腹が空かれているでしょう」 「何故そんなことを申す? そなただって腹が空いているだろう?」 「いえ、私はまだそんなに空腹ではありませんので」  俺も腹は空いていたが、彼女を空腹にさせるわけにもいかない。だから俺は嘘をついた。 「…嘘だろう? 私もそなたも数日、ほとんど何も食べていないはずだ」 「いえ、私は閣下とは違って食い溜めが出来ますので」  もちろん嘘だ。  しかし、当の彼女はまるで信じていない様子で俺の腹に耳を当てた。汚れていてもなお良い香りのする髪が俺の眼前にあった。  彼女は二、三秒耳を当てた後やはりというように言った。 「やはり嘘であったぞ。腹の虫が鳴っていた」 「それは私の心の臓の音でございましょう」  しれっと言ってのけるも、彼女はまるで信じた様子もない。やがて無駄だと思ったのか、小さな口で肉を噛み始めた。  これでいい、彼女のことが最優先――って、どうして顔を近づける? 「どうしても食べないというのなら、こちらにも考えがある。私が口移しで食べさせるぞ」  ぶっ、と思わず吹き出しそうになった。 「く、口移しとは…閣下、いくらなんでもそれは――」 「…お前が相手なら、別に悪くない。どうだ、食べるか、食べさせられるか、どちらにするのだ」  わずかに顔を赤らめながら、さらに接近する彼女。…泣きたくなってきた。 「…ありがたく頂きます。自分で食べますから、どうかお止めになって下さい」  そんな感じで俺と彼女は半分ずつ干し肉を食べた。久しぶりに食物を摂ったせいか、腹に染み渡るような美味さだった。  幸いなことに、追っ手は今日現れなかった。しかし明日はどうなるか分からない。彼女もそのことは分かっているようで、飯の後は終始無言だった。  俺も彼女も眠れずに夜を過ごす。どれくらい時間が経ったかも分からなくなったとき、彼女がぽつりと呟いた。 「…今頃、あの国はどうなっているのだろうな」 「さあ…革命の歓喜に酔いしれているか、私達を探しているかのどちらかでしょうな」 「革命、か。私がもうすこしまともであれば、このような事にはならずに済んだかもしれぬのにな…そなたを、こんなに傷つけるようなことにもならなかった」 「…私の苦労など、買って出た苦労に過ぎません。お気になさる事はありません」 「それが嫌だと申すのだ。国が無くなってただの女になっても、以前とまるで変わらないではないか。…そなたの手助けをする事さえ出来ぬ」  暗くてよく分からなかったが、彼女の瞳には涙が浮かんでいるように見えた。 「私は、怖いのだ。次の朝…私が目覚めたらお前が死んでいるんじゃないかと…  私の知らぬ内に勝手に無茶をして、私ごときを守るために死んでいるのではないか、と。それが怖くてたまらない。  目を閉じる事さえ出来ないのだ。…以前は、そなたがいると思うと、安心して眠ることができたというのにな」 「…ありがたい事です、私ごときにそのように思ってくだされて」  俺はそんな言葉しか返せずにいた。いや、何を言えばいいのか、分からなかった。 「…夢の続きを、話してもいいか?」  俺の戸惑いを察したかのように、彼女は話題を変えた。俺は小さく頷く。 「以前、話したな。私も、恋をしてみたいと」 「はい、確かに」 「もしそれが叶えられたら…その時はどこかの山奥で、農業でもやりたい。もちろん今は何も分からぬ。しかし少しずつでも勉強して、出来るようになりたい」 「閣下ならば必ず出来ましょう」 「その夢を、お前と叶えたい」 「…は?」  間抜けな声を出してしまった。開いた口が塞がらない。 「…私は、そなたが好きだ、好きなのだ。いつまでも、側にいて欲しい。他の誰でもない、そなたでなければならぬのだ。  …だから、死んでほしくない。死ぬな、と命じたい。しかし、もはや私には何の権力もない。ただこうやって我侭を言う事くらいしか出来ないのだ」  告白。それくらいしか頭に浮かばなかった。 「…やはり、私では足手まといか? もしそうなら、はっきりと申してもよいぞ。私は何も文句は言わぬ。足手まといにならぬように努力する」 「私にそのように思ってくださること、ありがたく思います。しかし…私でなくとも」  二の句を継ぐ前に、彼女が俺の口を塞いだ。まぎれもない、口付けであった。 「…そなた以外にはおらぬと申した。信じておらぬなら…証拠を見せても構わぬ」  そう言うなり、彼女は羽織っていた服を脱ぎ始めた。雪のように白い胸元が俺の前にさらけ出される。 「…っ! か、閣下!?」 「もし望むのであれば…私はそなたと交わる。知識としては知っているから…怖くはないぞ」  目が本気だった。しかし、この状況でこれは…い、いや、彼女に恥をかかせるわけにはいかない。俺も覚悟を決めるしかない。 「…分かりました。お引き受け…致します」 彼女の服が完全に落ちる。目の前にはぺたりと座りこんだショーツ一枚の女の子。 元々の雰囲気と合わせてか、服がなくなってもなお気高い姿のように思われる。 「あ、あまりじろじろと見るな…は、恥ずかしいのだぞ」 白い肌と対照的に、顔は真っ赤だった。それが可笑しくてたまらない。 「するなら…は、早くしろ。私はいつでもよい」 「では…恐れながら」 彼女に手を近づけ、ゆっくりと二つの胸を愛撫する。やや小ぶりではあるが柔らかい胸だった。 「…ぁ、くぅ、ぅん…っ」 か細い声を漏らす。その声はやけに扇情的だった。俺はさらに二つの突起の周りを重点的に撫で回した。 「ふぁ、やぁん…っ、そこは…か、かんじ、るっ」 びく、びくんと痙攣する彼女。とても一国の独裁者だったとは思えない可愛らしい仕草だ。次に俺はそこに顔を近づけ、先端を口に含んだ。そして、舌で刺激を与えていく。 「ひぁっ、やん、ざ、ざらざらする」 かなり敏感なようだ。声の具合から感度が高まってきたのを感じると、思いきり乳首を吸い上げた。 「あん! そ、そんな風に、す、吸うなぁ…い、いやらしく、なるっ」 「もう十分そうなっているじゃないですか」  え? と彼女が言う暇も無く愛液で濡れぼそった下着に手を当てる。手をスライドさせてやると彼女は体をくねらせて悶えた。 「やぁっ…で、電気が、ぴりぴりって走るみたい…んくぅ!」 もうそろそろいい頃だろう。俺は彼女の下着をゆっくりとずらし、あられもない姿にさせる。 「ぁ…」 彼女の、誰の目にも触れたことのなかった秘所がさらけ出される。俺がどきりとするくらい綺麗な色をしていた。 「…それじゃあ、行きますよ? 初めてですから、痛いかもしれませんが」 こくりと頷く彼女。先程からの愛撫のお陰で、頬は桜色に染まっていた。 俺は自らのものを出し、彼女の秘所にあてがう。彼女が「大丈夫」と言うのを確認してから、俺は一気に奥まで突き入れた。 「んんっ! う…ぐぅっ…」 ぽたぽたと破瓜の血が垂れ落ちる。彼女が受ける初めての傷だった。 彼女はしばらく痛そうな顔をしていたが俺がしばらく動かす内に慣れてきたのか次第に快楽の色が混ざり始める。 「あ、あぅんっ、んっ、や、やぁ…」 身悶えすると同時に膣がきゅう、っと締めつけてくる。今までに感じた事のないものに、早くも限界が訪れる。 「ぐっ…そろそろ、限界です…出しても、よろしいでしょうか」 「んっ、んんっ…か、構わん…ひゃうっ、私も限界…あ、あんっ」 彼女が言い終わると同時に、体の底から熱いものが噴出した。 「やぁっ、あ、熱いものが、来て…わ、私も…く、来るっ、何か来る、来ちゃうぅぅぅぅぅぅっ!」 大きく体を仰け反らせて、彼女は絶頂に達した。  行為の後、俺と彼女はより添いながら朝まで過ごした。 「結局、一睡もしなかったな」 「まあ、それは…そういう日もあります」 「そうだな…しかし、これでいつまでも一緒だ」 「そうでなくても、あなた様は私にとっていつまでも私の独裁者ですよ」 「…私は、独裁者はもう辞めた。これからはふたりで何でも決めていきたい」 「そうですね…そうしましょう。…さて、追っ手がまだ来ないうちに出発しましょう」 「体は…大丈夫なのか」 「ええ、もう平気です。…閣下のお陰で」  最後の方は聞こえないように、小声で言った。  立ちあがり、小屋の扉を開けた。  昇ったばかりの朝陽が、俺と彼女を眩しく照らした。