長文 【母】 独 「男の母はどんな人だったのだ?」 男 「そうですね、うちは家族が多いのでいつも苦労してましたね…色々な意味ですが」 独 「よいな…家族が多いというのは」 男 「閣下は一人ッコであらせられましたか?」 独 「実は兄がいたのだよ…一人だけ…」 男 「それは…」 独 「長い話だが聞くか?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ あの頃の私には父が居た。 母もいた。 兄もいた。 すべてを壊したのは 自分自身だった。 父は国の指導者だった。しかし父は狂っていた。 父 「この国の…すべてが…アヒャヒャヒャヒャヒャアアアアアア!!すべてオレのもの    オレのオレのオレのオレのオレのオレノオレノオレノオレオレオレオレ     ヒャーーーーーーーーーーハハハハハハハハハハハハハハハ!」 父には弟がいた。二人ほど。ハディーとホセという名だった。 上がハディー、下がホセ。 ハディーは兄の側に、 ホセは私の側に。 ホセは私に何でも買ってくれた。 おもちゃ、ようふく、ぬいぐるみ…でも私はホセを信用していなかった。 ホセは私の目を見て話をしたことなど一度もなかったからだ。 ハディーも兄に似たようなことをしていたと思う。 けれど、ハディーがホセと違っていたのは 母を許しているか、いないか、その差だった。 ハディーは母をあからさまに侮蔑していた。 兄も私もそれを目の前で見ていた。 ハ 「どこの馬の骨ともわからぬ女が。この王宮にいられるだけマシだったと思え」 そういってハディーは母からメイドを外したり、 公の場で「馬の骨」と貶めたり、 部下に命じてこっそりドレスを切り裂いたり。 母は優しい人だった。 いつも私に歌を歌ってくれていた。 髪をやさしく結ってくれた。 母のやわらかい匂い。 優しい手。 私は今でも忘れていない。 彼女はよく耐えていたと思う。 狂った夫。 腐った性根の小舅。 誰もが眼を光らせている王宮。 メイドたちの侮蔑的な視線。 私は信じていた。 いつか父が死に、兄が政権をとれば母は救われるだろう、と。 (その時は私自身はどうせ将来は政略結婚をさせられるのだろう、と思っていた) 兄であれば、母を庇ってくれるだろう、と。 そしてその日が来た。           運             命        の                歯                    車が     狂った                               そ            の                    日 父が死んだ。 意外だった。 死因は酒に酔っての墜落死。 ベランダから落ちてゆく様は沢山の外国のゲストの前で目撃された。 兄が政権をとる。 ・・・・・・・・ その日 メイド「皇后様。兄様がお茶を部屋まで運ぶように、と」 母  「?・・・・いつもお付きのメイドは・・・?」 メイド「ご母堂様自身でお持ち下さい、とのことです。」 母  「・・・・・・・・・????わかりました。     今お持ちする、とお伝え下さい。」 母は私の頭を少しなでてから 母  「お兄様、ご不安なのかしらね…?私を頼ってくれるなんて嬉しいわ」 そう言って部屋を出た。 そう、 どうして私はこのとき気づかなかったのだろう。 ハーディの汚い策略を・・・・・・・ ハーディが兄を盾に傀儡政権をもくろんでいる、と。 母を亡き者にし、私をも懐柔しようとしている、と。 母 「お持ちいたしました」 兄 「ご苦労でアッタ」 母 「兄様、お久しぶりでございます」 兄 「ウム!」 ハ 「よろしゅう御座いましたな、閣下。    これからは自由に母上殿とも面会できますぞ。    何せ、この国のトップでございますからな…ところで」 母 「何でございましょう?」 ハ 「この茶は太皇后様自らが・・・?」 母 「いえ…メイドが入れたものをお持ちしましたが・・・?」 ハ 「安全でございますかな?」 母 「は?」 ハ 「毒でも盛っておらぬかどうか、聞いているのだ!」 母 「まさか・・・そんな!」 ハ 「では、毒見をしてみるがよい」 兄 「そうじゃ、そうジゃ」 母 「そんな…実の息子に毒を盛るなど…ありえまs」 ハ 「古今東西、母親が政権に利用され、自らの子を殺める。    こんな話は枚挙に暇がないが?」 母 「・・・・・・・・・・・・・・・!?」 ハ 「毒見をせい」 母 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 ハ 「毒見をせいと申しておる!出来なければ、毒を盛ったということで    粛清をいたすぞ!」 兄 「粛清、シューーークーーーーせーーイ」 知らせに来てくれたのは懇意にしていたハディー側のメイドだった。 しかし 駆けつけたときには遅かった。 母は床に付していた。 私はすぐに医者を呼ばせた。 母上・・・・私の母上・・・・・・・・ ハ 「あなたの母上様は兄上様の毒見役を買って出てなくなられた。    なんて美しい親子愛!」 ごまかされない。 そんな言葉なんかに誤魔化されない! 知らせに来たメイドは俯いて涙をこらえている。 他のメイドたちは薄く微笑んでいる。 母ははめられた。 兄 「ハディー、それからどうすればいいんだっけ?」 ハ 「閣下はこのまま遊んでいて下さって結構なのですよ?    さあ、新しいゲームがこちらにございます。」 独 「待て」 私は腰に挿していた刃を抜き、まっすぐにハディの心臓につきたてた。 ハ 「・・・・・・・・・・ぅく・・・・ごわ!」 兄 「ハディ!ハディ!」 私は兄にも刃をつきたてた。 そこに飛び込んできたホセ。 ホ 「なんてことを…この国の指導者を殺めるとは!」 独 「これで私が後継者となるわけですが・・・」 ホセにも刃をつきたてた ホ 「なぜ・・・・?なぜ私にまで・・・?」 独 「知っている。お前が嫌がる母を辱めたことを。    それを何度も繰り返していたことを。」 ホ 「・・・・・バカものめ・・・・お前ごときが・・・」 ホセが床に倒れこんだ。 私 「メイド、左大臣を呼べ」 メイド「かしこまりました!!!!!!!」 大慌てではせ参じた左大臣は顔色を青く染めた。 左大臣「これは・・・・!あなたは一体なんてことを・・・!」 独  「即位式の用意をしろ。そして各国に入電しろ。     私がこの国の指導者になったことを。」 左大臣「・・・・・・・かしこまりました・・・しかし・・・     何故このようなことに・・・・」 独  「簡単だよ。王族がすべて腐っていたから根絶やしにしただけさ。」 左大臣は後に参謀となる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 男 「では皆・・・・・・・・・」 独 「ああ、私が殺めた。」 男 「しかし、ご母堂様は・・・」 独 「そう、”静養のため入院中”と聞いているであろう?」 男 「ええ」 独 「母の体は毒に耐えた。しかし心が外れてしまったのだ・・・」 男 「では太皇后様は・・」 独 「病院の看護婦にな、水槽で飼っているイモ虫を見て    ”これが私の娘よ、かわいいでしょ”と言って自慢しているらしい。」 男 「・・・・・・・・・・・・」 独 「・・・・・・・・・・・・」 男 「失礼いたします」 独 「ん?・・・・・・・・・・・ンンッ・・・お前の方からしてくるなんて    珍しいな」 男 「申し訳ありません」 独 「いや、いい・・・・・・しかしお前が穢れる」 男 「穢れ?」 独 「血塗られた私なぞに触れると、お前が穢れる」 男 「穢れなど・・・・・」 独 「少しの間でいい・・・・抱きしめていてくれるか・・?」 男 「いつまでも・・・」 母上 母上を苦しめた王族はすべて根絶やしにしました。 もう、あなたを苦しめる者はおりません。 だから だから 今はゆっくりおやすみになって下さい。 私は 私はこれから最後の王族の一人を 滅ぼそうと思っております。                              おわり