何か忘れてるような…。   何処か…   秘密の…。   そんな場所…。   閣下は…今も泣いている気がする。   あの秘密の場所で…      『ココはわらわと男の秘密の場所だからな!』   事件はいつもちょっとした日常の中に潜んでいるわけで…。  独 「男ー。」  男 「はい?どうしました?まだ問の二も終わってないじゃないですか。」   只今閣下のお勉強タイム。   俺の仕事は閣下の警護、補佐、秘書、世話役だけにとどまらず、   家庭教師としても閣下に勉強を教えているのだ。  独 「もう勉学は飽きた。」  男 「しかし閣下、まだ今日の範囲を終わっておりません。」  独 「うるさいうるさい!今日はこれまでだ!」  男 「そう言われましても…。閣下にはわが国の総統として教養も身に着けて…」  独 「わかったわかった!」     すたたたたたたたたた。   男 「閣下!どちらへ!?」  独 「お、お手洗いだ!レディにそんなこと言わせるでない!」  男 「これは失礼いたしました…。」  独 「まったく…。無神経な奴だ。」  そのあともブツブツと何やら呟きながら閣下は部屋を出て行った。  男 「はぁ。閣下にも困ったものだ。」   コンコン。   ノックの音が響く。  男 「誰だ?」  参 「私です失礼します。…ってアレ?閣下は?」  男 「今お手洗いに行っている。何かあったのか?」   参 「いえ、今日はこのあと閣下の健康診断が控えているので、お迎えにと…。  男 「あぁ。そういえばそうだったな。」  参 「ところで、…男君。最近閣下とはどうなの?」  男 「え?あ?どうって言われても…そのー。」  参 「進展なし…か。じれったいわね。あんな告白しておいて。」   そう。俺と閣下は気持ちを通わせ合ったものの、   なかなか総統と補佐官という関係から抜け出せないでいた。  男 「急に関係を変えるなんて俺には出来ない。今も昔も閣下は閣下だ…。     それにやっぱり、閣下と俺みたいな一補佐官が…その…。」  参 「あーあ、情けない。この前○○国に乗り込んでいった時の勢いはどうしたのよ?」  男 「も、もうそれはいいだろ?人の世話ばっか焼いて、そういうお前はどうなんだよ?」  参 「う、うるさいわねぇ。私だってその気になれば…。」  男 「…。」  参 「…。」   はぁ…。   二人のため息が重なった。  男 「あ、そうだ。この前のお礼するの忘れてた。」  参 「お礼?」  男 「そうそう、○○国に乗り込むとき、車やら軍服やら色々手配してもらっただろ?」  参 「あぁ。そういえばそうだったわねー。」  男 「良かったらご飯ぐらい奢らせてもらうけど。」  参 「ホント♪やったー!じゃあねぇ、今話題の高級中華と、あ、フレンチもいいわね!あとあと…」  男 「お、おいおい、一つに絞れよ…。」  参 「なんでよー!」  男 「あのなぁ、少しくらいは遠慮ってもんをしたらどうだ?」  参 「もー!ケチな男ね。まったく。」     参謀にご飯を奢ることに後悔を覚えていたその時  独 「ず、ずいぶん…仲が良いようだが?」   いつの間にか閣下が近くに立っていて、震えた声でそう言った。     男 「かかか閣下!も、申し訳ありません!」   なぜ俺はこの時謝ってしまったのだろう。      参 「あ、閣下、この後の健康診断についてですが…」  独 「嫌だ。」  参 「はい?」  独 「わらわは健康診断など行かぬ。」  参 「そ、そんな…」  独 「健康診断は嫌だ!行かぬといったら行かぬのだ!!」   そういって参謀の方をにらみ返すと、閣下は部屋を走り去っていってしまった。     …。そこまでどこか他人事のように傍観していた俺だったが、   男 「か、閣下!」  参 「あーぁ。機嫌損ねちゃったみたいね…」        事の重大?さに気付く。   閣下を探さないと…    男 「とにかく、閣下を探そう!」  参 「そうね。でも男君、今の状況わかってる?」  男 「ん?状況?とにかく閣下を探さなきゃいけない。って事だろ?」  参 「はぁ…。もういいわ。二手に分かれましょう。」  男 「お、おう。じゃ俺は中庭の方探してくる。」   参謀の言葉が胸に引っかかりつつも、すぐに俺は中庭に向かった。   小さい頃、かくれんぼといえばすぐに閣下は   中庭の茂みの中に隠れていたことを思い出し、   茂みの中を丹念に探す。      居ない…。   くそっ!    俺は手当たりしだい思い当たる場所を探した。   しかし何処にも居ない。   まさか宮廷の外に!?    …いや、それは無い。この警備の中抜け出すことはさすがに無理だろう。      男 「食堂にも行ってみるか。」   かくれんぼの時、食卓の下にもよく隠れていたっけ。        タッタッタッタッタッタ。   しかし食卓の下にもやはり閣下は…        居なかった…。       さすがに少し心配になってくる。    参 「あ!男君!」   どうやら参謀も同じ事を考えたらしく、食堂にやってきた。  男 「どうだ!?」  参 「ダメ。思い当たる所は全部探してみたんだけど…。」  男 「一体何処に…。外には出ていないだろうけど…」  参 「昔から閣下はかくれんぼが得意でしたからね…。」  男 「あぁ。でももう他に探す場所なんて…」     参謀の言うとおり思い当たる所は全て探したはずだ。   閣下は一体何処に。   でも…。   何か忘れてるような…。   何処か…   秘密の…。   そんな場所…。  男 「そういえば随分前の健康診断の時もこんなこと無かったか?」  参 「注射が嫌だって騒いだ事があったわね。もう十年くらい昔じゃない?」  男 「あの時も逃げられて見つけるまで苦労したっけ…。」  参 「懐かしいわねぇ…。」  参 「十年前の時は閣下は一体何処に隠れていたんでしたっけ?」  男 「あ、そういえば…何処だっけ…。」  参 「確か男君が見つけてきたんじゃ…。」  男 「!」   あった!秘密の場所!  男 「ちょっと行ってくる!」      参謀にそう告げると、俺はすぐに駆け出した。  参 「なによ、思い当たる場所あるんじゃない!まったく。」     そう、十年前、俺もまだ少年だった頃、   閣下は注射が嫌だといってどこかに隠れてしまったことがあった。   その時は閣下の両親と共に宮廷中探したっけ。   その時閣下を見つけたのは俺だった。     そしてその場所で俺と閣下は約束したんだ。   『ココはわらわと男の秘密の場所だからな!』   それから俺と閣下はその秘密の場所で何度か遊んだ。   子供ながらに、秘密を共有していることが嬉しかった。     しかしある日を境に俺も閣下もあの場所に行かなくなってしまった。      あの秘密の場所に最後に行ったあの日…。   それは…五年前       閣下のご両親が事故で亡くなったあの日…。     あの時…俺は泣いてる閣下の頭を     真っ暗闇の中ずっとなでてあげたんだっけ。   閣下は…今も泣いている気がする。   あの秘密の場所で…      バタン!     俺は第二資料室の扉を勢いよく開けた。      ココは第一資料室よりも使われることがかなり少ない。   宮廷に仕えるものでも入った事がない人も多いだろう。     更に日も余り射さず、昼間なのに薄暗い。そんな部屋…。        その部屋の一番奥まで行くと俺は本棚の上によじ登った。  男 「たしか…ここら辺に…っと。」   ガコン。という音と共に、天井の板が一枚剥がれた。   そう、この部屋には屋根裏部屋があるのだ。  独 「男か。」  男 「はい。やはりココでしたか。」      屋根裏は、埃っぽく…そして懐かしい匂いだった。     屋根裏の暗闇の中で、閣下はランプを灯し、   その前で両足を抱えて座っていた。  男 「閣下。」   俺は天井の低い屋根裏部屋を、   頭をぶつけないように屈みながら閣下の元へ歩いていった。   そして閣下の横に腰を下ろす。  男 「ココに来るのも五年ぶりですか…。」  独 「もうそんなにもなるか…父上と母上が死んでから…。」  男 「そうですね…。」  独 「…。」  男 「…。」  独 「アレ以来わらわはこの場所に来ようと思ったことは無かった。」  男 「…。」  独 「…あの日の事を思い出してしまいそうでな…。」  男 「…。」  独 「…。」  男 「…大丈夫ですか?」  独 「だ…大丈夫に…決まっている。」   閣下の声は少し震えていた。   ランプの明かりに照らされた閣下の顔を見ると   頬に涙の跡…。  男 「…。」   そっと手を伸ばし、閣下の頭に触れる。   なでなでなでなで。  独 「(/////)」   男 「…。」  独 「な、馴れ馴れしいぞ。」  男 「ええ。好きですから。」  独 「…。」  男 「…。」   沈黙…。   黙りこくる閣下。   なんだ?少し不安になる。  男 「閣下?」   独 「参謀と、楽しそうだった…。」  男 「はい?」  独 「参謀と楽しそうに話しておったではないか!     それに…参謀を食事に誘ってた!わらわだって誘われたことなど無いのに!」      閣下はこちらをまっすぐ見つめ、少し声を荒げて言った。目に涙を浮かべながら…。   閣下の勢いに、今まで閣下の頭にあった手を静かに降ろす。    男 「閣下…。」   なるほど…。それでこんなところに隠れて…。   俺と参謀が仲良く話しているのが気に入らなかったのか。   やきもち…なのかな?  男 「閣下、それは誤解です。参謀とは昔からの友人で…腐れ縁って奴です。女として見てはいませんよ。」  独 「本当…か?」  男 「誓います。」  独 「しかし…。」  男 「私がお慕い申し上げているのは閣下一人です。」  独 「お前がそう言ってくれるのは嬉しい。でも、でも…。  男 「でも?」    独 「わらわとお前…以前と何も変わらぬではないか!」      俺はどきりとした。      時間が止まったかの様な…沈黙。   俺と閣下の関係…。お互いに気持ちはわかってるはずなのに      変われない。      変わらないいつもの日常がそれはそれでとても心地いいから。      …。   でも…     それじゃダメだ…。   変わらないと!      立ち止まったままじゃなにも変わらない…生まれない。   動き出さないと何も始まらないんだ。     男 「…閣下、私は踏み出せないで居ました。閣下との今の関係が心地よくて。」  独 「そうだな。わらわもそうだ。」  男 「でも、でももうやめにしましょう!」  独 「?」  男 「やっぱり閣下と私は、一国の総統とその補佐官。」  独 「そうか…。」  男 「しかし…同時に恋人同士です。そういうことにしときませんか。     どちらかを選ば無きゃいけないなんて誰が決めたんです?」  独 「でも…それじゃ、今までと…」  男 「これから変わっていけば良いのです。」  独 「…これから…?」  男 「正直私にも、私達がどういう関係で居るべきなのかわかりません。     だから…逃げていました。今の関係を壊さないために、立ち止まっていました。」  独 「…。」  男 「でも、…これから探します。二人の関係。二人の形を。」  独 「二人の形…。」  男 「はい。」  独 「見つかるかな…?」  男 「見つからなくたって、まぁいいですよ。」  独 「な!何を!男!」  男 「それなら二人でずっと探し続ければ良いだけの事じゃないですか?ずっと二人で。」  独 「むー(/////)!き、気楽な奴め。」  男 「どちらにしろ俺はずっと貴女の傍に居ます。」   独 「…ならば…それで良い。」  男 「閣下…。」   ランプの暖かい光が作り出す二つの影。     その影が音もたてずに     一つに重なった    独 「男、…命令だ。」  男 「なんでしょう?」  独 「頭を、その…もう一度(//////)」  男 「はい。」      なでなでなでなで。   五年前のあの日のことが鮮明に思い出される。      俺の事もわが子のように可愛がってくれた閣下の父上と母上。   二人が亡くなって…俺もすごい悲しかった。     でもこの秘密の場所で泣いている閣下の頭をなでているとき   俺は悲しみとは違う不思議な気持ちを胸に抱いていた。    あの時は悲しみが大きくてわからなかったけど   もしかしたらあの頃から俺は閣下に恋をしていたのかもしれない。       独 「父上と母上が死んだ…あの時もずっとこうしていてくれたな。」  男 「はい…。私も思い出しておりました。」  独 「そうか。…礼をを言うのに五年もかかってしまった…。あの時は…ありがとう。」  男 「…もったいないお言葉です。」  独 「この場所に有るのは悲しい思い出だけではない。」  男 「…。」    独 「貴方と私の秘密の場所だからな。」  男 「えぇ。俺と貴女の秘密の場所…。」    男 「行きましょう。」  独 「あぁ。健康診断だな」  男 「何を言ってるんですか?」  独 「?」  男 「デートですよ、デート。」  独 「でで、でーとぉ!?(//////)」  男 「だってさっき誘って欲しいって…」  独 「さ、ささ誘って欲しいとは言っておらん!」  男 「あれ?違うんですか?」  独 「…いや、その…違うことは無いのだが…(//////)。」  男 「では、参りましょうか。」  独 「でも、宮廷から勝手に抜け出したら後で色々と問題に…」  男 「気にしない気にしない♪だって俺たち…恋人同士じゃないですか。」  独 「…そうであったな。」   閣下と…いや、彼女となら必ず見つけられるような気がした。        二人だけの形。      強く確信できた。      だってこんなにも      彼女が愛おしいから。  男 「行きましょう!」  独 「うん!」   俺は閣下の手を取り秘密の場所を後にした。      二人だけの秘密の場所を。  参 「ふふふふ。やっぱりこうなる訳ね…。」   変装した閣下と男が宮廷から抜け出す様を双眼鏡で覗き込む女がココに一人。  参 「さーて、尾行開始ね♪」  ??「参謀殿…。その…あまりプライベートなことには首を突っ込まない方が…」  参 「あら?良いじゃない。面白いし♪あなたももちろん着いて来るのよ?見習い執事君!」  執 「え、いやその…今日はこれから執事長殿と打ち合わせが…」   参 「いいから来るのよ!」  執 「あ、ああ、あれーーーー!!」      変わらない日常は   時に鎖となって人を縛る。   その日常がとても居心地が良くても   鎖を断ち切る覚悟が必要な時もある。      何かを得るためには…。      変わるためには…。   いつも通り平和なこの国の総統。   この日、彼女は長年望んでいた   一人の女の子に戻ることが出来たみたいです。         お    し    ま    い