デジモン小説特電第3回
「巨大な時間経過と文字数の関係『カノンコード』」
前回のコラムがもう一年前らしい。思いついたときに勢いで書いている文章なのだが、もうちょっと頻度を増やすべきかもしれない。
今回取り上げる作品『カノンコード』はこのコラムでは初の読み切り作品である。作者はQ太郎さん。オリジナルデジモンストーリー掲示板NEXTの誕生間もなくの頃に投稿された連載作品『グーグー・ドールズの使命』が非常に高く評価された作家であり、この読み切り作品は『このデジモン小説がすごい!2012大賞』で短編部門グランプリとなった。この作品は色々な視点で語ることができる作品だと思うのだが、今回はその文章量、文字数から作品を考えていきたい。
この作品を読む前にまず感じることと言えば、何よりその長さであろう。文字数をカウントしてみたところ、なんと30,827文字*1。ほぼ間違いなく、NEXTに投稿された短編作品では最長だろう。
さて、今回話題にしたいのは、「小説一話の長さとして適切なのはどのくらいの文字数なのか?」ということである。僕は小説のアイデアや発想を求める時、映画を見ることが多いのだが、映画には“適切な尺”というものが往々にしてある。往年のプログラムピクチャーなら約90分くらいが適切、一般的なビックバジェット作品でも120分を超えれば「長い」と言われる*2。そして当然、長ければ長いほど「敷居が高い」「見るのが辛い」と思われがちだ。観る側からすれば長い作品は疲れるし、集中力が続かない。また作品そのものも単調になるケースが多い。2時間を切っている映画の方が「面白くて、まとまっている」作品が多い。逆に言うと、2時間を超えていながら飽きず、面白いと感じる作品は実力が本物だと思う(あくまで個人的な印象の話である)*3。
なんでこんな脱線した話をするかと言えば、小説も映画同様に“適切な尺”があるのである。小説(もっと言えばネット小説)も、読者にとって読みやすい、読みづらい長さが存在する。これまた体感の話で申し訳ないのだが、NEXTの場合、5,000文字を超えた辺りから「長い」と感じることが多くなってくると思う。読み手はパソコンの前でじっくり読んでいる人もいれば、通勤・通学途中の電車の中でスマホを使いながら読んでいるかもしれないし、夜寝る前にiPadで読んでいるかもしれない。無料でありネット上にある、つまり紙媒体の小説と違う“読みやすい存在”であるが故に、ネット上の小説は「読む側がいつも集中しているとは限らない」というある種の壁が存在する。ちなみに拙作『時空を超えた戦い』は毎回6,000~8,000字くらいが多く、長い時は10,000字を超える*4。上の前提から言えばこの作品は「一話辺りが長い」部類に入ると思う。
多くの書き手が書き慣れ始めた頃に勘違いしやすいこととして「長い作品を書いた方が良い」と思い込みがち、ということがある*5。「今回は10,000文字も書いたのでよく書いた!」というような話はよく聞くのだが、これは大抵の場合、「今日は5時間受験勉強した!」と同じような錯覚である。確かに長さはひとつの指標になるが、絶対の基準ではない。大事なのは「全体から見た物語の進行度」であり、「それをどのくらい読みやすくまとめたか」である。10,000文字使ってプロットの1割しか進まなかったのと、1,000文字でプロットの2割が進んだのは後者の方が価値がある(あくまで文字数に限った話だが)。誤解を防ぐために言っておくと、僕は「長く書くこと」全体を否定するつもりはない。最初は全く小説を書けなかった人間が長い小説を書けるようになってきたらそれは勿論喜ばしいことだし、最初から読み手を意識するあまり八方美人になってしまったら面白い作品は生まれない。ここで言っているのはあくまで自分の作品を文章化しコントロールできるようになっていて、より「読み手に読んで欲しい、伝わって欲しい」と考えている人向けの話である。
ただし、その文字数こそが作品の魅力となる場合もある。それがこの『カノンコード』である。この作品は全編に渡り主人公・ブイタローの一人称で構成されている。後半に至っては大部分が彼の内面の吐露であり、彼以外の登場人物はほぼ出てこない。
これがなぜ作品の魅力になるかと言えば、この長さそれ自体が“物語の時間経過”と“ブイタローの思考の深さ”を表現しているからである。読み手はこの長い思考を読むことで、ブイタローの出口のない苦しみと悩みを共有する。そして最後、長い年月を掛け、彼がある出口に辿りついた時に、言い様のないカタルシスを体感することになるのである。これは「長く考えていた」と書いたりした所で、単なる文章表現では表せない。長さそれ自体が作品の表現を助けているのである。
さて、そんな作品『カノンコード』であるが、まだまだ書きたいことが多々あるのだが今回だけでは纏まりそうもない。またいずれ別の機会に、この作品の魅力は別の観点で語りたいと思う。できれば一年以内に。
文・Ryuto
※1 Wordの文字カウント機能で計算。タイトル・スペース・あとがきは除く。
※2 この辺の話は特にソースが無くて、「よく聞く話」として書いているので、映画通の方で「間違ってるぞ!」というご指摘があれば教えてください。
※3 ここ数年の作品で2時間を超えていて(長尺に感じて)、それでも面白いと思ったのは『ダークナイト』(2008米、152分)、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003米新、劇場公開時201分)、『愛のむきだし』(2009日、237分)など。長尺がそのまま映画のスケール感に繋がっている。あくまで僕の趣味であるため、感じる面白さには個人差があります。
※4 2012年11月現在、一番最近に書いた拙作(短編)の『空想世界のLuv(sic)』は2,590文字だった。個人的にはかなり短くできた部類だが、書き方自体が普段の自分の文体と意図的に変えているので、今回が特例なだけかも。