まあ簡単に言ってしまうと僕の両親は死んだ。
4人で歩いているとき、暴走車が突っ込んできたらしい。
香苗と2人で病院に駆け付けたとき、もう2人とも動かなくなっていた。顔色をなくした、固く冷たくなった2人の顔。絶対に忘れることはできないと思う。
ちなみに香苗の両親は手足と肋骨を骨折したが、命は取り留めたらしい。
葬式からお通夜、告別式の手配は、早苗さんの妹さんがやってくれた。どういう流れで、誰が参列して、どんな風になったか、まったく覚えていない。そんなのはどうでもいいことだから。
早苗さんと直也さんは退院のメドがたたないらしい。でも、それもどうでもいい。
僕はあれ以来、1度も学校に行っていない。
朝は香苗が作った朝食をとり、自分の部屋に戻る。ぼーっとしていると、気付いたら夜になっているんだ。そういえば今日は日曜日か。確か、なんか大事なことがあったような……まあいっか。思い出せないってことはたいしたことじゃなかったんだろうし。
朝と夕方、香苗には会ってる。
たまに悟とか部活仲間も来る。でも、それだけだ。来たから特別、何をするというわけでもない。話すこともないからなぁ。
桃とジュリーは僕のとこに来るけど、構う気にはなれない。それを感じ取ったのか、2匹とも僕の横でおとなしくしてるようになった。餌は香苗があげてくれてるのかな?


あの日から何日経った?1週間?1ヵ月?1年?よく分からなくなってきたよ。なんか疲れちゃったな。辛いのか苦しいのか分からないけど、めんどくさいよね。
いっそ、死んじゃおうかな?そうしようか。カッターあったよな。手首を切れば終わるよね。えっと、カッターはと……あ、あった。
「何やってんだてめえは!?」
「ん?あ、香苗。おかえり。僕もう疲れたんだ。どうでもよくなっちゃってね」
「馬鹿なこと抜かしてんじゃねえ!」
手首に刃を当てようとしたところを、いきなり入ってきた香苗にカッターを奪われる。何するんだよ。
「お前正気か!?」
「香苗こそ正気?邪魔するなんてひどいな。返してよ。迷惑はかけないから」
「ふざけんな!!」
「……まぁいいや。返してくれないなら、無理矢理にでも返してもらうよ」
そして僕は、香苗の手首をつかむ。
「ほら、返して」
「馬鹿野郎!目ぇ覚ませ!」
香苗、強情だよ。やっぱ腕力あるな。なかなか離してくれない。そろそろうっとおしくなったな。
「離せ!!」
「きゃあっ!」
よし。ようやく離れ……って!?
香苗の右腕。二の腕になにやら赤い線が入っている。
それに気付いてしまった。僕はなんて馬鹿なことを……香苗を傷つけてどうするんだ!!
「あ、か、か、香苗……」
「う……」
「動かないで!薬……」
「触んな!!」
切り裂かれたブラウスには赤い染みが広がっていく。そして香苗はゆっくりと立ち上がると、部屋を出ていってしまう。
「待って!」
「来るんじゃねえ!」
香苗が振り向きざまに放ったパンチに、僕は部屋の中に逆戻りさせられる。
香苗を泣かせた。そして傷つけた。僕は……僕が……嫌いだ!!
「何やってんだろ、僕……」
仰向けに倒れながら、ポツリとつぶやく僕。どうして……香苗は何も悪くないじゃないか。
「僕……最低だ」
その声に反応するものはないかと思われたのだが……
「ほーんと、何やってんだか」
「うわっ!!」
な、何!?突然視界の上のほうに何かが……って誰!?


香苗に殴られた体では立つこともままならず、そのままの体勢で大パニック。
「き、君は誰!?えと、その、ど、どこから入ってきたの!?」
「そんなに驚かなくてもいーじゃん」
「驚くよっ!」
「ふっふーん」
答える気はないのか、少女は笑いながら僕の足のほうにまわった。僕も彼女の姿が確認できる位置だ。
……かわいい。年は僕の1つか2つ下ぐらいかな。ショートカットの黒髪と、快活そうな顔と、大きな目が印象的。間違いなく美少女。
そんなことよりも……
「な、なんか服着てよ!」
目のやり場に困る。なぜ全裸?顔以外まともに見ることができない。……ん?なんかおかしいような。頭にくっついてるあれは何?犬の耳っぽいけど……アクセサリーかな?
「別に隠すことないじゃん。いつも見てたでしょ?」
「な、な、な、何言ってるの!?」
「ふふっ。赤くなっちゃって。おにーちゃんかわいー!!」
「うわあ!」
謎の少女は仰向けに横たわる僕に飛び付いてくる。なんとか自由になる手を使って押し止めようとするが、勢いに負けてしまった。僕の胸に顔を埋めて、ひたすらじゃれついてくる。
「ねー、頭撫でてー!」
「撫でっ……と、とにかく離れて!」
「やだよ~♪」
む、胸が当たってるよ!ぺったんこだけど。ホントに誰だこの子。
でも、気になるなぁ。さっきアクセサリーだと思った耳は、頭から直接生えてるように見える。目の前だからよく見えるんだ。
それに、腰のあたりからは耳と同じような色のしっぽまでついているんですけど?ちぎれんばかりに振ってるし。それに背中には茶色い毛が。犬みたいだな。
「ねえ、君……誰?」


恐る恐る聞いてみると、彼女は動きを止めて僕を見上げた。なぜか泣きそうな表情だ。
「お兄ちゃんヒドイよ!なんで意地悪言うの?」
「い、意地悪って……」
「もういい!許してあげようかなって思ってたけど、これはおしおきだね……お姉ちゃんのためにも」
一瞬前までの泣きそうな表情はどこへやら。その顔は、とっておきの悪戯を思いついたときの子供ような顔になっていた。子供だけど。
「おしおきってなに?僕何か悪いこと……んむっ!?」
わけが分からない。いきなり目の前に現われた怪しい少女にいきなり馬乗りになられて、いきなりキスされてる。
抵抗しようと手を伸ばしてみたけど、僕の唇を無理矢理割るようにして彼女の舌が口内に侵入してきて口の中を舐められたとたんに、力が抜けてしまった。
抵抗もできないままどれだけ過ぎただろう。相変わらず彼女は、僕の口の中や歯を舐め回し続けている。
頭はボーっとして、何も考えられない。永遠に続くんじゃないかって思ったけど、彼女は不意に唇を離した。顔はどこかトロンとしていて、目には何か危ない光が宿っていた。
「へへへ……お兄ちゃんのファーストキス奪っちゃった!」
満足気に舌なめずりする少女。ってかなんで知ってるの!?
「な、なんで!?」
「だって初めてでしょ?知ってるんだよ?ま、いーや。次は……こっち!」
こっちって何?
っていう僕の疑問は、少女がとった驚きの行動で封じられた。体を反転させ手を一生懸命に動かして、僕のズボンとパンツを一緒に下げようとしているんだから。
「何してるの!?」
「気にしない気にしない!」
「や、やだ!!やめて!」
「やめないよ~!ほら、脱げたぁ♪」
抵抗虚しく、僕の下半身は完全にむき出しにさせられてしまった。本気で抵抗したのに、あの細腕のどこにそんな力があるんだ!?
「いやあっ!」
恥ずかしい……
「隠したらダメだよお兄ちゃん。これはおしおきなんだからほら、手を離して」
「いやだあっ!!助けて!!」
「誰も助けに来ないよ。お姉ちゃんはさっき帰っちゃったし。あきらめるのが一番だよ?」
「やだぁぁぁ!!」


手をじたばたさせて暴れる僕。しかしその両手は、少女に片手で押さえ付けられてしまった。な、なんてことだ……
「おとなしくして!もう、わがままなんだから」
「やめ……ひぅっ!!」
突如僕の……から、弱い電気が流れたような刺激が全身を駆け巡った。またしても力が抜けてしまう。
「ふふーん。きもちよかった?」
「よ、よく分かんないよ」
「そう……じゃあもう一回!」
今度は辛うじて見えた。右手で僕の両手を押さえながら、左手で僕の……を撫でているんだ。彼女も小柄だけど、僕も彼女と背は大して変わらない。だから今のような状況もありうる。
こんなところで、体格の不利を実感するなんて思ってもみなかったな。それを見ると同時に、さっきと同じ感じが全身を駆け巡る。
「あ、ああっ!」
変な声が勝手に出てしまった。それに気を良くしたのか、謎の女の子の行為はエスカレートしていく。
撫でるだけじゃなく、摘んで弄んだりやさしく擦ったり……その度に僕の体はぴくぴくと痙攣してしまう。
「あっ!あふぅ!や、いや……ぁっ!」
「あれえ?お兄ちゃんのおちんちん、おっきくなってきたよ?どういうことかなあ?」
「そ、そんなっ……」
今の状況が物凄くエッチだっていうのはなんとなく分かる。でもそれ以外はまったく分からない。なんで僕の……が大きくなるの!?
でもそれと同時に、今までの体がぴくぴくするだけだった感覚の中に、何か別なものが芽生え始めていた。少女が触るたび、それは大きくなっていく。
「やだ……ひぅっ!?あ、あぁぁ!?ぼ、僕変だよぉ!変になるよお!おかしく……っ!?」
天を仰ぐように仰け反っていた僕だったけど、思わず視線を下げた。少女がいきなり手の動きを止めたんだ。安心すると同時に、かすかに残念な気持ちが交じっていることに、僕は小さく不安を覚えた。
でも終わったみたいだ。少女は両手を押さえていた手を離し、ゆっくりと立ち上が……らなかった。体の上で体を半回転させ、僕の顔にお尻を突き出すような体勢になった。
「おにーちゃん、まさか終わるなんて思ってないよね?まだまだ前座だよ……はむっ」
「えっ?えっ!?」
何これ!?女の子が僕の……をくわえて……た、食べられる!?


「うわああああ!!やだっ!やめて!」
「ふぅん……おいひぃ……」
腰を左右に振って抵抗してみるけど、少女は離れない。離れる気配もない。
「んふふ……えいっ♪」
「うぁぁっ!?」
こ、今度は口で……の皮を……い、痛い……
「い、痛いよ!やめて!」
「ふふふ。おひぃひゃん、ふぁわふぃー!!」
「あ、あああああ!!!」
な、なにこれ!?女の子が僕のを頬張って……痛いのに僕のお……おち……が……熱いよぉ!!
「や、やぁぁぁぁ!!助けて!!助けて香苗ぇ!!」
わけも分からず無我夢中で名前を呼んだ。ひどいことしちゃったのに。でも、助けに来るなんて期待してなかった。自分の都合いいときだけ……最低だよね。
「あははは!お姉ちゃんが来るわけないでしょ!?んふ……おいひぃよおひぃひゃん……」
じゅぷじゅぷ……ぴちゃ……
少女が立てる変な音を感じるたびに、僕も何だか変な気持ちになっちゃう。でも僕は、心のどこかでそれが危険な行為なのではないか?という警報が鳴っていた。自分でも意識していないのに変な声が出る。
でもそれに交じって、香苗を呼ぶ声も無意識に出る。自分が別な生きものになったみたいで、恐い。
「じゅぽん……あはぁ♪このぬるぬるは私のじゃないよねぇ?うれし……んっ……」
「やだよぉぉ!ふぁっ……か、香苗ぇぇぇ!!」
その時、聞いた。廊下から、お馴染みの音を。ドタドタという、慌ただしくも頼もしい音。そして次の瞬間、ドアが勢い良く開けられた……いや、蹴破られた。映画とかでよくあるみたいに、ドアは無残にも倒れる。でも今は……
「か、香苗!」
「ふぇ?」
やった!助かった!来てくれたんだ!
「離れろやクソガキィィィィ!!」
どがっ!!
決まった!香苗の必殺右アッパーが見事炸裂!
少女は宙を舞い、反対の壁に背中から激突。そのままずるずると落ち、床にうずくまって動かなくなった。
「大丈夫か!?」
「う、うん。それより、香苗……」
「……」
……気まずい。すごく気まずい。その気まずさは、僕に重要なことを忘れさせていたらしい。
「あの……な」
心配そうに僕の横に座るが真っ赤になっている香苗。その視線は宙をさまよっているが、ときどき一瞬だけある部分を向く。その視線の先に気付いたとき……僕も香苗に負けないぐらい真っ赤になった。
「あっ、ご、ごめん!すぐ……」
履くよ、と言いたかったのだが、そう言うことはできなかった。
真っ赤だった香苗が、一瞬白目を剥いたかと思うとそのまま後ろにぱたっ、と倒れてしまったのだから。
「か、香苗っ!!?」
しかし僕も、香苗の心配ばかりしていられなかった。首に鈍い衝撃が走ったかと思うと次の瞬間、香苗と同じ運命を辿っていた。
かすかに、       「ふふ……おいしくいただきますわ」       っていう声が聞こえた。