オレはマゾじゃない。少なくともMの素養は無い。そう思ってきた。
 だが、どうやら、そうじゃないらしい。

 これはオレだけの話というわけではなく、サドマゾセックスに対する嗜好はどんな人間にも存在し、その属性もSとかMのどちらか一方ではなく、本来、合わせ鏡のように両方兼ね備えているのが人間なのだという。
 だから、真性Sを名乗る女王様でも、ふとしたきっかけでM奴隷にハマったりすることもままあるし、その逆もまた然りなのだそうだ。

 何故なら、サドマゾプレイを含めたその他多くのいわゆる、アブノーマルプレイというものは、基本的に人間の性欲の‘一般とは少し違った形での’発露に過ぎないからだ。 
 同性愛も、女装も、スカトロも、死姦も、カニバリズムも、エネルギーそのものの種類だけを問えば、普通の一般的な男女の営みと全く変わる事は無い。

―――――すなわち、『性欲』。

 自らを「一般人」と名乗り、これらのプレイをタブー視するマジョリティな方々は、気付いていないだけなのだ。
 これらの行為の『快感を』ではない。
 これらの行為の『快感を知っているはずの自分たちを』である。

・・・・・・・・などと書かれた本を、かつてオレは買ってしまったことがある。

『性欲の王国』などというタイトルだったので、てっきりエロ小説と思って購入したら学術書だったという、余りにトンマな勘違いに、当時は歯ぎしりするほど悔しがったものだ。
 あまりに腹が立ったので、一言一句、最後の一文字に至るまで読み通してやった。一昨年の冬の話だ。

 で、前置きが長くなったが何が言いたいのかというと、オレはもう、こいつら人外どもの愛撫に感じつつある自分に、徐々にだが、抵抗がなくなってきているという事だ。

「くうううっっ・・・・・・・・・!!!」
「んふふふ・・・・・・ほいひい・・・・・・・・」

 気持ちよくしてくれとオレがねだった次の瞬間、信乃はオレのペニスをぱくりと咥えた。そしてそのまま、唾を水風船のように溜めた口内でねぶりまわす。その頬の内側の感触と何とも言えない舌の動きが、オレの正気を狂わせる。

「・・・・・・信乃ぉっ・・・・・・ああああ・・・・・・・・・」
 すでにペニスに走る痛みは、その快感によって中和されつつある。
 そうなると不思議なもので、学校での失神以来、あることすら忘れていたオレの男としての射精欲が、再びオレの身体を内側から炙る。


「だめだ、信乃・・・・・・出る・・・・・・・出ちまうよぉ・・・・・・・」

 ぢゅるっ、ぢゅぱっ、ぢゅぽぢゅぽっ、ぢゅぷぷっ・・・・・・・。

 何も応えない代わりに、信乃はフェラのスピードと舌使いをさらに加速させた。
 これが答えだといわんばかりに。
 そんなことを言ってる暇があれば一秒でも早く、一滴でも多く射精しろと言わんばかりに。

「・・・・・・・・・くうううううっっっ!!!!」

 どくん!どくん!どくん!どくん!―――――ズキズキィッ!!
「ああああああああああああ!!!!」

 再び、ペニスにすさまじい激痛が走る!何だ!?何が起こったんだ!!?

―――――おそらくは信乃が、一滴でも多くスペルマを飲み干そうと、ペニスをストロー代わりに強烈な吸引運動をした結果だろう。いつもなら精巣ごと吸い込まれてしまいそうな射精感が発生するのだが、さすがに尿道にダメージを負っている今の体調では・・・・・・・!

「やめっ、はなっ、ひぃっ、あああああああ!!!!」
 ごくん、ごくん、ごくん、ごくん!

 オレは死力を振るって彼女を振りほどこうとするが、所詮ニンゲンのかなしさ、興奮しきった人狼のパワーの前には微動だにできない。
 それどかろか、オレの抵抗と叫びをエクスタシーの表れと見たのか、信乃はますます吸引力をあげてゆく!死ぬっ!死ぬぞっ!!死ぬほど痛えっ!!

「んっ!?」
 ちゅぽん。

 ようやくオレの異常に気付いたのか、信乃がペニスから口を離す。

「静馬、どうしたんだお前、精に血の味が混じってるぞ、って・・・・・・・静馬?おい静馬?」

 無論、オレに何か言い返せる余裕なんぞあろうはずがない。余りの激痛に口をパクパクさせ、昼間さんざんオレを尿道責めにした事をコロッと忘れきってるこの犬娘を、力の入らない眼で見る。

 バタァン!!
「お兄ちゃん!!」

 その時、物凄い音と共にオレの部屋のドアが開いて(というより蹴破られて)玉梓、レックス、葛葉がなだれ込んできた。

「なっ、お前ら、何で!?」
「どきなさい信乃ちゃん!!」
「お兄ちゃん大丈夫!!」
 レックスと玉梓は、とっさの闖入者に石になっている信乃を突き飛ばすと、激痛でほとんど泡を吹かんばかりになっているオレに駆け寄る。


「御主人様・・・・・・・・おかわいそうに」
「お兄ちゃん、大丈夫だよ、もう大丈夫だからね?」
「なっ、何だよお前ら、かわいそうって何を言って―――――」
「信乃」
 葛葉が、その身にゆらりと陽炎のような怒りを纏い、信乃を睨む。いつもなら真っ向から睨み返す信乃だが、直情的なだけに後ろめたさがあると、やはり眼を逸らしてしまう。

「・・・・・・・・何だよ」
「あなたさっき、『何で』とお訊きになりましたね?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「『こんな強力な結界を張ってまで抜け駆けしようとしたのに、何故お前らがここにいる』そう訊きたかったの?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「ワタクシたちを呼んだのは、そこにおられる御館さまですわ」
「っ!? ばかな!このあたいが張った結界がそんな声を洩らすわけが――――」
「そういう信乃ちゃんこそ聞こえなかったの!?御主人様の悲鳴と痛みが!そんなわけないでしょう!?」
「だから!話が見えないんだよ、さっきから!あたいにも分かるように言えよ!」
「・・・・・・・・・その言葉、本気で言ってるの信乃ちゃん?」
「あたしのお兄ちゃんをこんな目にあわせといて、よくも・・・・・・・!」

 そう呟く玉梓とレックスも、その顔から半ば人間形態を捨てつつある。
 満月ならざる晩に行う“変身”は、すさまじい疲労や生理痛などの体調不良をあとあと肉体に強いるのだが、怒りに我を忘れている彼女たちにとっては、そんな事はどうでもいい事らしい。

「いいえ玉梓、それは充分ありえることなのです」
「なっ!?」
「葛葉ちゃんっ!!」
「この部屋の強力すぎる結界が、逆に内側に働き、御館さまの御心と信乃との間に壁を作ってしまったのでしょう。
 結果として、御館さまの御心は眼前にいるあなたではなく、ワタクシたちに届いたのです。結界の力がこの半分であれば、まずワタクシたちは気付かなかったでしょう。・・・・・・・・焦りましたね、信乃」
「くっ・・・・・・・・・!」

「二人ともっ!!そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!?」
「そうだよ、お兄ちゃんを早くびょーいんに!」
「その必要はありませんわ」
 そう言うと葛葉は着物の(そう、言い忘れていたが、この狐妖怪の普段着は和服なのだ)すそからポロリと乳房を取り出した。

「いつもワタクシが御館さまの尿道にご奉仕させて頂く時は、こうやって事後のことまでして差し上げるのですが、今日はうっかりと忘れてしまいました。つまり、責任の一端はワタクシにもあるということです」


 ぴゅっ、という音とともに純白の乳液がオレのペニスにかかる。

「うっ」
 その瞬間、まるで焼け付くような激痛がみるみる和らいでいくのが分かった。

「玉梓には以前お教えしたかも知れませんね。ワタクシの母乳には強度の治癒と鎮痛作用があるのです。そうでなければ、あのような責め・・・・・・いいえ、ご奉仕は危険すぎてとうてい出来ませんもの」
「そういや、聞いたことがあったような気がするけど・・・・・」
「お兄ちゃん、治るの!?大丈夫なの!?」
「ええ。ですから二人とも、今宵のこの件に関しての信乃の処置はワタクシに御一任して欲しいのです」
「いやまあ、葛葉ちゃんがそう言うなら・・・・・・・」
「でも、お兄ちゃんのおちんちん絶対治してよっ」
「はいはいレックス、分かりました」

 そう苦笑すると葛葉は、オレの枕もとにひざまずき、鼻をきゅっとつまんだ。
「さあ御館さま、おっぱいの時間でございますよ」

 痛みの余り、奴らの会話も全て聞き流して歯を食いしばっていたオレだが、鼻をつままれれば、息苦しさの余り口を開かざるを得ない。
「――――くはっ!」
 その唇の隙間に、葛葉は乳首を含ませた。
「さあ、どうぞ。お飲み下さい」

 葛葉の、その分厚いおっぱいに圧迫されて、かろうじて薄目を開けたオレは、やむなくチュウチュウと音を立てて母乳を吸い始めた。
 その時オレは、悪戯っぽい、それでいて勝ち誇った、そんな視線を一瞬信乃に送った葛葉を見たような気がした。
「葛葉、あんた・・・・・・・!」

「うわあ、お兄ちゃんったら、まるで赤ちゃんみたい」

―――――赤ちゃん・・・・・!

 例え百歳以上年上でも、見てくれロリータの美少女にそんな事言われちゃあ、オレの屈折したマゾヒズムがさらに脳みそを刺激する。さっきの血の射精で玉袋よりも縮んでしまったペニスが、なんとなんと、また膨張を開始し始めたのだ。

「くすくす、よかったですわね御館さま。“若君さま”がご健在で」
 そう言いながら、さっきぶっかけられた母乳まみれのペニスを緩やかにしごかれる。

 痛く、ない!?・・・・・・・・いや、それどころか、いつもに倍して気持ちいい!?

「さあ、もっともっとお飲み下さい。いつものようにワタクシのお乳にまみれて、身も心も真っ白になってくださいませ!」


 二人きりの晩ならともかく、大の男が、三人の美女の眼前で母乳を飲まされるというのは、屈辱といえばあまりに屈辱的だ。
 しかもコイツは、羞恥に真っ赤になっているオレの耳に、こう囁く。
「もっと音を立てて飲んでくださいませ。さもないと・・・・・・・」

 さもないと?
 いや、その答えはわかっている。あああ、やっぱり手が止まりやがった!やめろ!じゃない、やめるな!その手コキをやめないでくれっ!

「くすくす・・・・・・やっぱり御館さまの葛藤のお声が聞こえないというのは、いささか物足りのうございます」
「葛葉・・・・・・・・!!」

 またぞろ上では人狼VS妖狐の視殺戦が始まってるんだろうが、この際オレにはどうでもいい。その手を求めて夢中になって母乳を飲む。

「ああああ・・・・・・・・・いいですわ、御館さま・・・・・・・すごく、すごく、気持ちいい・・・・・・・」
 手の動きがさらに加速する。

「御館さま、ワタクシのお乳は、そんなに美味しいのですか?」
 実際、そんなに美味しいわけでもないのだが、ここまできてこいつの機嫌を損ねても意味はない。というより、そんな事を考える理性もなく、ただただ反射的に頷く。唇に乳首を挟んだままで。その動きが、新たな刺激を葛葉の胸に与えたらしかった。
「くぅっ!」

 反射的にオレのペニスの根元を握り締める葛葉。今度はオレが声を上げる番だった。
「っ!」
 それまで順調に上昇中だった射精感をいきなり邪魔されて、やや恨みがましい目線で葛葉を見る。すると彼女は『慌てないの』と言わんばかりの視線を返してくる。

「さて、玉梓、レックス」
「なっ、なに?」
 妖狐のあまりの淫蕩さに、ただ声もなく見とれていた二人が慌てて声を返す。

「そろそろ御館さまが、お出しあそばします。さっきの一件のお詫びといってはなんですが、お二人にその精を差し上げますので、仲良くお飲みください」
「えっ!」
「いいのっ!?」

 おいっ、オレの意見は!?

「あたいは!?あたいは!?」
「信乃ちゃんはダメに決まってるでしょ!」
「う・・・・・・・・」

 だから、おいっ、オレの意見は!?


「まあまあ、レックスもそんなに声を立てないで、はしたない。――――信乃?」
「・・・・・・・・あんだよ」
「今日の一件、どうかまじめに反省なさって下さい。ワタクシたちに平等にお情けを下さる御館さまは、いつもいつも体調が万全であるとは限らないのです。いや、御館さまの体調管理すらも、本来ワタクシたちの仕事なのです。お分かりですね?」
「・・・・・・・ああ」
「なら、今後はこういった結界を張ってまでの抜け駆けはしない。ワタクシたちにそう誓えますね?」
「・・・・・・・ああ」
「こっちを向きなさい、信乃っ!!」

 手を止めるなっ!ってか、こんな情況で女教師ばりの説教してるなっ!

「・・・・・・・ああ、分かった。誓うよ。今後はそういった抜け駆けはしないってな」
「そうですか。誓えるのでしたら、この精を飲む事をあなたにも許しますわ」
「えっ!?」
「いいの葛葉ちゃん!?」

 だから、その、オレの意見は?・・・・・・・・というか、早く出させて・・・・・・。

「・・・・・・・いいのです。同じく御館さまをお慕い申し上げる者として、ワタクシにも信乃の気持ちは痛いほど分かりますもの」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・そうだね。あたしだってお兄ちゃんを独り占め出来るなら、したいもんね」

「ありがとう・・・・・・あたい、ごめんね。もうしない。もう絶対こんな事しないって、みんなに誓うよ!」

 もうどうでもいい!早くしてくれ!そんな表面張力ギリギリのところで快感をキープしないでくれ!

「それじゃあ、いきますわよ三人とも。御館さま、遠慮しないでお出しくださいね」

 ああああ・・・・・・・やっと、やっと、イカせてもらえる・・・・・・・・。
 その瞬間だった。緩やかに動いていた手が加速したと思ったら、今度はまた止まったのだ。
「!?」

「―――――ダメですわ御館さま、やはりワタクシには最後まで御館さまにご奉仕する資格はございません」

 その瞬間、オレを含めたこの部屋にいた全ての者が、きょとん、という顔をした。

 何を言ってるんだコイツは!?さんざんオレを焦らして、嬲って、仲直りと反省のダシにまで使っといて、今さら何を――――?

「だってワタクシ、御館さまに申し上げてしまったのですもの。『今日はどんなにご命令なさっても御館さまの粗相は許しません』と。
 そのワタクシ自らが、その舌の根も乾かぬうちに、御館さまを果てさせてしまうなどと・・・・・・天が許しても、御館さまご自身がお許しにならないでございましょう?」


 そんな!?そんなバカな理屈があるかっ!?って言うか、それだってお前が勝手に言い出したことじゃないかっ!!

 オレは葛葉の乳房から思わず口を離し、文句を言おうとした瞬間、それまでペニスを握っていた奴の手がオレの手首を握り締めた。
「痛っ!」
「御館さまのお口はここ、でございます」
 再び乳首をオレの唇に捻じ込む。
 そして、オレの右手―――――たいして力を込めているようにも見えないが、まるで鉄環に絞められたような手首の痛みが、オレから抵抗の意思を奪う。
「そして、お手手は・・・・・・こちらでございます」

 オレの右手を、ペニスに?まさか・・・・・・・・?!

「ワタクシのおっぱいをお飲みになりながら、御自分の手で、お出し下さい」

 嘘だろ、そんな、ひどい、いくらなんでもあんまりだ!・・・・・・・でも、でも・・・・・・。

――――ごくり。

 三人のうちの誰かだろう。唾を飲み込む音がした。見られてる。強烈なまでの視線を感じる。
 みんなに見られながら、それも、赤ちゃんみたいに母乳を飲まされながら、オナニーして果てるなんてっ!!でも、でも、そう考えたら・・・・・・ああああ・・・・・・!!!
 にちょり、ぐちゃり、ねちょり。母乳まみれのペニスをしごく音が再び部屋に響く。

「すごい・・・・・・・お兄ちゃんのおちんちん、昼間よりおっきくなってる・・・・!」
 やめろっ!言うなっ!そんなこと言うなっ!!

「御主人様・・・・・・・・・素敵です・・・・・・!」
 やめろっ!やめてくれっ!見ないでくれっ!!

「静馬・・・・・・・・今のお前、すっげえかわいいぜ・・・・・・」
 だっ、だめだっ!手がとまらねえ!!恥かしい!恥かし過ぎるっ!!見ないでくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!


―――――――ドクン!ドクドクドクッ!!


「御主人様っ!!」
「お兄ちゃんっ!!
「しっ、静馬っ!!」

 三方向からむしゃぶりつく三つの舌の感触を味わう余裕もなかった。
 何故ならオレはその余りの気持ちよさに、今日三度目の失神をしてしまったからだ。