この家は、どこにでもある普通の神社である。
世間に隠れて妖怪退治をやってるわけでもなく(そりゃ、お祓いくらいはやるが)冠婚葬祭や地鎮祭、年末年始や夏祭りやらの興行収入、さらに国からの補助金などで細々と食ってる、単なる一宗教法人に過ぎない。
敢えて、よその神社仏閣と違う点をあげるとするなら、この人外の者たる四人が何故か居候を決め込んでいるくらいだろう。
この四人がいつからウチにいるのか。
覚えているのは、オレが高一の時にレックスがいきなり“世話になる”と言って転がり込んできた事くらいだ。
つまり、それ以外の三人は、オレが物心つく前からこの家にいた事になる。
猫又の玉梓は、ときどき気が向いたようにふらっといなくなって、何年も帰ってこないときもあったがそれでも帰ってくれば、それ以外の二人、人狼の信乃と妖狐の葛葉とともに、ほとんど姉代わりにオレの面倒を見てくれた。
直情的な信乃と陽気な玉梓、そして神秘的な葛葉、
三人とも確かに綺麗だ。美しい。街で男を振り向かせるに足る、充分な魅力を持っている。
そんな三人が家族としてこの家にいる事は、かつてのオレにとってかなりの自慢だった。
そして、その上でオレは、いつからともなく彼女たちが人間でない事も知っていた。
テレビやマンガで活躍している正義のヒーローたち。宇宙人、地底人、未来人、改造人間、超能力者、霊能力者、アンドロイド、・・・・・・・・・そして、妖怪変化。
そういった子供文化にどっぷりハマって育ったオレとしては、彼女たちはいまさら驚くほどの存在ではなかった。例えば彼女たちは妖怪変化である以上に、姉であり、母であり、友であり、師であり、そして家族であった。しかし、しかし断じてそれ以上の存在ではなかったのだ。
だが、オレが第二次性徴をむかえ、見てくれや趣味が男くさくなるにつれ、彼女らの視線が変化してきた。
何かこう・・・切なげな、訴えるような、それでいてトローンと濡れた瞳。そんな視線をオレは四六時中(例えば入浴中とかに)感じるようになった。
今なら、ハッキリと判断できる。
―――――あれは『牝』の眼だ。オレを『牡』と見なし興奮する、発情した獣の眼だ・・・・!
「・・・・・・やめろよ、もうやめてくれよ・・・もう痛くてアソコが勃たないんだよ」
「聞こえないね」
「ホントなんだよっ!ホントにもう限界なんだよっ!!」
「じゃあ静馬、さらなる限界に挑戦しようぜ?」
「したくない!したくない!」
「あ~もう、我がまま言ってんじゃねえ!!」
信乃がオレのシャツを胸まで捲り上げ、れろん!と横っ腹に舌を這わせる。
「うぐっ!」
「くふふふ・・・・・・・・静馬の肌って、すっごく美味しい」
(うっ、うれしくねえ!)
この血走った眼で、人外の者に身体を舐めまわされながら言われても、恐怖以外のどんな感情をも覚えようの無い。
こいつらの剥き出しな性欲が、今この瞬間にも食欲に変質するかもしれない。いや、その貪欲すぎる性欲自体が、オレに対する食欲から派生したものだとすれば・・・・・・・・。
そういう絶望に似た疑いがオレの頭を離れない。
いつからだろう。かけがえの無い家族だったはずの彼女たちが、いつオレを食い殺すか知れない強姦殺人鬼の陰を帯び始めたのは。
しかし、だのに、にもかかわらず・・・・・・・。
「いたいいたいいたい!」
こんなにも怖いのに。こんなにも寒いのに。
――――眼前の信乃の淫気にペニスはしっかりと反応し、膨張を開始する。堅くなればなるほど電流のような激痛がペニスを貫くというのに。いや、それ以上に、恐くて恐くてたまらないというのに。
「何だよ、やぁっぱり限界なんざ来ちゃあいないじゃないの」
「違う!痛いんだよ!本当に痛いんだって!!」
「だったら、確認してやるよ!」
ずるっ!!
「あっ!」
オレのパンツがジャージごと脱がされた。激痛にもめげずに堅くなったペニスが、こんにちはと言わんばかりの勢いで、ピョコンとおっ勃つ。しかし、やはりと言うべきか、若干イキオイが無い。
「ふ~~~ん。痛いってのはホントみたいだな」
「だから、何度もそう言ってんだろっ!!」
「だったら、やさしく責めてやるよ。痛みなんざ忘れちまうくらいの、とろけるような優しさでね」
―――――ザワザワザワッ!
みるみるうちに信乃の体がこげ茶色の体毛で包まれていく。
彼女はすでに着衣を脱ぎ捨て、生まれたままの姿になっていたが、その裸体の喉も、乳房も、腰も、太腿も、人狼たる彼女の‘本当の意味での’産まれたままの姿に戻ってゆく。
いまや、頭部以外の信乃の全身は、そのブラウンの毛皮に完全に覆われていた。
「ひいいいいいっ!!」
「おいおい、レディーのセクシーバディを前にして、マジな悲鳴をあげてんじゃねえよ。傷つくなぁ」
「―――――食うのか?オレを、オレを、食うのか!?」
あまりの恐怖に腰を抜かし、敷布団の上をあとずさるオレ。
「ああ。じっくりたっぷり一晩中、骨の髄までしゃぶり尽くしてやるぜ」
そう言うと、信乃は69の体勢でオレに覆い被さってきた。
「ああああっ!!」
(きっ、気持ちいい!!)
信乃の絹糸のように柔らかな体毛が、オレの全身をほどよく緩やかにこすりつけ、それが恐怖に鳥肌を立たせて性感神経を敏感にしていたオレの身体に、信じられない心地よさを与える!
「しっ、信乃ぉぉっ!!」
「気持ちいいか?」
「うっ、うん・・・・・・」
「聞こえねえ!男だったらハッキリ言え!」
「気持ちいいいいよぉぉぉ!!」
「そっかぁ、ふふん、・・・・・・・静馬は気持ちいいんだ?」
信乃は、頬を染め、嬉しそうに笑うと、こっちに向かってニヤリと流し目を送ってきた。
「もっともっと、気持ちよくしてやろうか?」
「くぅ・・・・・・・!」
「して欲しくないのか?」
信乃はオレの口から‘おねだり’をさせたいらしい。
これもこいつなりの勉強の成果なのだろうか?それはともかく、どっからこういった知識を仕込んでくるのだろう。
「して欲しくないのか・・・・・・・・・?」
口調が急に弱気になった?
オレが怒ってシカトを決めこんでると思ってるのか?―――――オレははただ、こいつの体毛の気持ちよさに、声もあげられなかっただけなのに。
――――――分かってる。本当のところ、この可愛くも凶暴な強姦魔たちが、オレを心底から愛してくれているということは。
だからなのだ。
だからこそ、オレは彼女たちの愛に怯え、“いやいやながらも”彼女たちの情欲に付き合わされる、哀れな仔羊を演じ続けなければならない。そうでなければ、せめてオレの、このちっぽけな自我が、プライドが保てなくなってしまうかもしれない。そう思うからだ。
だからオレはこう叫ぶ。
人外たちに蹂躙される哀れな被害者として。
強姦魔たちに与えられた快感に身悶えながらも、あえてそれを否定することで僅かな理性を保つ、哀れで無力な少女のように。
「・・・・・・・して下さい・・・・・・・もっと、もっと気持ちよくしてください・・・・・・・」
最終更新:2006年12月22日 10:47