三木隼人はゴーグル越しに広がるマリンブルーの世界を目の当たりにした時、沖縄に来れたことをこの上なく嬉しく思えた。
普段の彼は中小企業に務め、デスクワークに腐心するしがない平社員だが、趣味としてスキューバダイビングを嗜んでいるという活発的な一面も持ち合わせている。
日頃の真面目な仕事ぶりが評価されてボーナスを貰った時、隼人は迷わず沖縄旅行に使うことを決めていた。
この神秘の楽園とも言える沖縄の海を潜ることは隼人にとって、数ある小さな夢のうちの一つである。
仕事の報酬を費やし、休日を念願の沖縄ダイビングツアーに費やす。自分は今ちょっとした人生の絶頂にいると言っても過言ではない。彼はしみじみと物思いに耽り、青く美しい世界を気ままに泳いでいた。
隼人が感無量の面持ちで眼科に広がる珊瑚礁を眺めているとき、ふと鮮やかな赤い森の中、物陰から何かがこちらを覗いているような気配を漠然と感じた。
珍しい生き物かもしれない。スキューバダイバーの性と好奇心が彼を突き動かし、アンノーンがいると思われる方角へ泳いでゆくと、珊瑚の笠が日光を遮って陰となっている箇所を見つけた。
彼は未知なる存在が陰翳の中に潜んでいると推測し、持ち前の防水懐中電灯で闇を照らし出す。そして物陰に潜んでいた者の正体を見た隼人は、先ず我が目を疑った。
そこにいたのは珊瑚礁から上半身を乗り出して、隼人に微笑みかける美女だった。
その上、ダイビングスーツや水着といった遊泳衣類どころか布一枚さえ着用しておらず、体裁を弁えている女性ならば当然隠すべき箇所も、無遠慮にさらけだしている。
突如出くわしたこの異様な状況の前に驚きの声すら上げられず、隼人は言葉を詰まらせてしまった。
空白の時間が数秒ほど過ぎた頃合い。はっと我に返った隼人は、彼の頭の中から湧いてくる数知れずの疑問を解消すべく、彼女との接触を試みようとした。
しかしながら、結局それは叶わずじまいだった。彼が声を出そうとするが、何故か弱々しい掠れ声しか出ない。しかも次第に身体中の力が抜けはじめ、水中で姿勢を保てなくなる。
目の前の怪奇現象を余所に、彼は自分の身に起きた危機を悟るが、時既に遅く、思考が鈍り視界がぼやけてくる。
深く青い海の中、彼の意識はゆっくりと海底へと沈んでいった。






目を醒ますとそこは見慣れぬ場所だった。
靄のかかった視界が晴れ、バチバチと火花を散らしながら燃え盛る松明のオレンジ色の灯りが反射した黒い岩肌の天井が視界に映る。遠くから微かに波がさざめく音が聞こえるあたり、おおよそ海辺の何処かにある洞窟の中といったところだろうか。
いつまでもこうして寝ているわけにもいかない、と思い立ち、反射的に体を立ち上げようとするが、腕や足に感覚が無いことに気付く。掌はおろか指先一つさえ己の意を介さず、ピクリとも動かない。
「一体、どうなってるんだ……?」
声も出せているし眼球を泳がすことも瞼の開閉も難なく出来る。ただ全身の骨を全て抜かれたかのように、手足の自由が効かない。
おまけに地面の硬い感触が背中越しから直に伝わり、洞窟に満ちたぬるく湿った空気が彼の肌を直接撫でている。何故か彼は先ほどまで着用していたダイビングスーツを脱がされていることに気付いた。
隼人は意識を失う以前の記憶を探った。彼が最後に見た光景は珊瑚礁の物陰に潜む美女。それ以外、特に変わったことは思い当たらなかった。
「あら、目をさましたのかしらぁ?」
彼が状況の詮索に没頭していると、突然洞穴に艶かしい女の声が反響した。どんなに寝付きが悪い子供でも、傍らで読み聞かせをしてくれれば安らかな眠りへと誘えそうな、抑揚の無くゆったりとした口調だ。
「――誰だ?」
「わたしは、『ミナ』っていうの、よろしくねー、ふふ……」
「俺を介抱してくれたのは君か?」
「それは違うわねぇ。むしろ、私はあなたがこうなった原因かしらねぇ?」
自分を『ミナ』と名乗った女は、間延びした語尾でゆったりとした喋りながら、彼の顔をそっと覗き込んできた。彼には彼女の顔に見覚えがある。自分の記憶が確かならば、珊瑚礁にいた美しい女性と彼女は寸分の違いが無かった。
しかしながら、改めて間近で眺める彼女の顔はうっとりするほど綺麗だった。隼人は思わず、夢中になってその美貌を凝視してしまう。
陶磁器のようにきめ細かく白い肌。顔の造形は作り物のように整っており、ダークブラウンのショートヘアが落ち着いた雰囲気を醸し出している。憂いを感じさせる垂れ目と右目の脇に控える泣き黒子がチャームポイントの余裕のある大人のお姉さんといった風貌だ。


「ぼーっとしちゃってるけどぉ。ひょっとして見とれちゃってるのかなぁ?」
「――っ! そ、それより。今のはどういう意味なんだ? 原因って……」
隼人は彼女の美しさに気圧されながらも、意味深な彼女の言葉に対して問答を求めた。
「それはねー、……こういう意味よぉ?」
これが彼女の答えと言わんばかりに、ミナはか細い指で隼人の後頭部を支えながらそっと持ち上げ、自分の方へ見せるつけるように動かした。彼はその時になって、始めて彼女の全身を確認できた。
惜しげも無く曝け出されたミナのグラマラスな体つきの腰から下は、巨大な巻貝のような物体に続いている。彼女はまるで巻貝から女の上半身が生えたような異様な姿形をしていたのだ。
「ッ!? な、なんだ、それ。こ、コスプレでもしてんのか……?」
しかし、よく目を凝らして見ればこの貝殻の独特の色合いと形に、隼人は見覚えがあった。ダイバーなら誰もが知る沖縄の海に生息する殺人貝、『イモガイ』のものとそっくりだったのだ。
「ちょっと変なこと聞くけどさ……。君ってまさか……、イモガイの妖怪だったり……、して……?」
「あらあら、よく分かったわねー。えらいえらい」
彼は冗談を言ったつもりだったが、ミナはそれをあっさりと肯定し、まるで難しい問題を難なく解いてみせた子供を褒める母親のように柔和な表情を浮かべ、彼の頭の上を優しく撫でた。
「そうよぉ。わたしはね、すんごーく長生きして妖怪になれたイモガイなのよぉ」
「な、なら俺を気絶させたのも、俺が今動けないのは君の毒針のせいなのかな……?」
「その通りよ……、ふふふ」
なんということだろうか。
彼女の発言を真に受ければ、三木隼人は沖縄の珊瑚礁で半分美女の姿をしたイモガイの妖怪に遭遇し、彼女によって囚われの身になってしまったということになる。
第三者に聞かせれば、頭の病院を紹介されそうなくらい、にわかに信じられない話だが。彼女のイモガイの軟体の部分の表面が生きているかのように蠢いているのを見る限り、あながちアレが単なる置物とも思えない。
それに、もし本当に彼女が超自然的な存在だとすれば、裸の女が海の中で呼吸器具も付けずに潜行していたのも、悔しいが合点がいく。


仮に彼女がイモガイの妖怪と断定し順当に考え、わざわざ毒で殺さずに体を麻痺させ巣に連れ込んだのは『誰にも邪魔されず、獲物をじっくりと捕食するため』だ、と隼人は結論づける。そもそも元のイモガイが狩りをする生き物であるという既成事実が、彼の結論を裏付けていた。
「じゃあ。俺はこれから、君に捕食されるのかな……はは」
「んー、そーであってそーでないよーな……。まぁ厳密には合ってるのかな?」
「? 一体、どういう――」
ミナは意味深に微笑みながら顔を近づけたかと思った刹那、彼女のぷっくりとした唇が彼の口に重なり、言葉を遮った。
「んぐっ!?」
柔らかくて肉厚な舌が図々しく侵入し、彼の口膣内を隈なく蹂躙する。
突然の不意打ちに隼人は反射的に退けようとしたが、麻痺毒によって身じろぎ一つさえ出来ないので、彼女の深い口づけを甘んじて受けるしかなかった。
そして、数分に及んだと錯覚するほどに、長い間濃厚に舌を絡ませあっていたが、やがてミナの方から一方的に解放した。
「い、いきなり、何するんだ!」
「ん? まだ分からないのかしらぁ? 確か人間の雄と雌って、交尾する前に舌と舌で舐め合うって聞いてたんだけどぉ……」
「ちょっと待て! 交尾ってなんだよ! 君は俺を食うんじゃないのか?」
「あー、何か勘違いしてるようだけど、わたし人間は食べないの。あなたをここに連れてきたのは、あなたと交尾するためよぉ?」
そうミナが妖しく微笑みながら言うと、突如彼女の下腹部付近から二枚貝の水管のような器官が彼の体めがけて伸びてくる。
ゆっくりと迫るそれの先端にある口がみるみるうちに大きくなり、彼の全身を取り込むようにして包み始めた。


「ひっ……!! こ、これは一体!?」
「そんなに怖がらなくてもいいのよぉ? 別にあなたを捕食するわけじゃないってぇ。ただ、あなたをこの私の『生殖器官』で私の体内に取り込んでからー、たーっぷりと搾り採るだけだからぁ♪」
ミナは朗らかな口調でそう宥めたが、それでも彼は恐怖を感じざるを得なかった。彼の体の表面を這うように覆っていく軟体を目の当たりにした時、隼人は以前動画サイトで見たイモガイの捕食風景を連想した。
毒針を打たれ、身動きが取れなくなった魚にじりじりと迫る殺人貝が、体から伸ばした管で魚を丸呑みにしてゆく様を映した、あの身の毛もよだつ映像を。
一切の抵抗ができずただ餌として取り込まれ消化されるのを待つ運命にあるあの哀れな魚の立場と、今自分が立たされている状況は非情に酷似しているのだ。
「い、今すぐやめろ! 大体何で、俺が君とこんな事しなくちゃいけないんだよ!」
「何でぇ? うーん。何となく、かなー? ……まぁ強いて言えば、わたしがあなたを見かけた時、あなたがとってもわたしのタイプで、美味しそうに見えたからかなぁ?」
彼女のの理不尽な理由に納得のいかない彼は声を荒げて抗議するが、ミナは軽く受け流して気にも留めない。そうこうしているうちに、粘液が滴る不気味な器官が隼人の体を顔以外全てを包み込んだ。
すると、今度は本体の貝殻へ収納するかのように彼の体を咥えたまま器官が引っ込みはじめる。しまいには隼人の顔から下が丸々彼女の大きな巻貝の中に収まると、妖艶な女の半身と向き合う状態になる。
ミナは仕留めた獲物の生死を握り、優越感に浸っている肉食動物のような面持ちで彼を上から見下ろし、怯える獲物の顔を眺めて満足気にニヤけながら舌なめずりする。
「あ、ああ……」
「それじゃあ、いただきまーす……」
すると、顔を近づけて甘ったるい声色で耳元に囁きかける。それを合図とばかりに体を包み込むヌメヌメとした襞が活発に蠢き始めた。


「なんだこれ……! ひゃぁっ!?」
身体のありとあらゆる場所に、あたかも無数の生きたナメクジが隙間無く密集し全身を這い回るような異様な感触に陥り、今まで感じたことも無いぐらいの強烈な快感をもたらした。
「あん……、おちんちんからザーメン、どぴゅどぴゅ出てるぅ……!」
あまりの気持ちさに、彼のペニスは瞬く間に勃起し、そのまま間髪入れずフィニッシュを迎えてしまう。
分身の先端からドクドクと放たれた精が、生殖器官の中にぶちまけられ、蠢く肉襞の隙間に染み込んでいった。
「クスクス……もういっちゃったのぉ? まだわたしのおまん○に入れてすらいないのにねぇ……」
「うっ……はぁ……はぁ……!」
彼が絶頂後の心地良い疲労感に浸っている間。達してもなお固さを維持する肉棒の先端に、ぱっくりと開いた割れ目があてがわれる。
「じゃあ、次はここにちゃんとぉ、あなたの精子をいーっぱい出してね?」
生き物の口のように割れ目が亀頭にしゃぶりつき、そのまま中へ中へと飲み込むように、体を覆う襞とは別の柔らかい肉感の襞が吸い付きながら肉棒を咥え入れる。
イチモツが根本まで収まり、まぐわいを達成した彼女は熱い溜息を漏らしながら、恍惚とした表情を浮かべた。
「ん……、あなたのおちん○を直に感じるわぁ……。おっきいし、形も硬さもわたし好みねぇ……。わたしたち、結構相性いいかもぉ♪」
彼が仄かに色気の香ってきたミナの顔を見て胸が高なったのも束の間。突如、幹に密着する膣肉が、肉棒をさらに奥へと取り込もうとするかのように蠕動し始める
その貪欲さは、まるで彼女の膣そのものが意思を持ち、男性器から精を徹底的に搾り尽くせんとしているようだ。
「ふふふ……、どお? わたしのナカぁ……。でも、まだまだ、こんなもんじゃないわよぉ?」
彼女がそう言い放った次の瞬間。愚息を包む膣壁が一定の速度で上下にシェイクし始める。肉筒が奥にズルズルと引っ込みカリ首の部分まで引き抜いたのを境に、泥沼を掻き分けるようなくぐもった水音を出しながら再び飲み込む。
激しくなったかと思ったら急に穏やかになり、また激しくなる。主導権を握り、弄ぶようなその絶妙な生殖器官の動きは、まるでこの巨大巻貝の中で彼女が下半身を艶めかしく揺さぶっているのではないかと思わせるほどだ。


「ぐぅうああっ! や、やめ、ろぉ……」
力なく絞り出した言葉で抵抗心を示す。しかしながら、全身をウネウネと所狭しに動き回る肉襞に舐めしゃぶられる背徳的な快楽に加え、己の分身に張り付いた熱い粘膜が肉棒を擦り上げる甘く蕩けるような愉悦感に、彼は次第に屈してしまう。
「うぅ……ああ……!」
隼人は肉欲に溺れた表情を浮かべ、快感に悶える悩ましい声を上げた。
「――うふふ、いい顔になってきたわぁ……。きもち、いいのぉ……? ひぁっ……わたしもぉ……んっ! きもち、いいわよぉ……! くぅうん!」
今までのおっとりとした物腰柔らかい態度が嘘のように、ミナは色狂いの売女のごとく卑猥に乱れていた。呼吸は不規則になり、吐息は熱を帯びている。
目は胡乱とし、淫靡な喘ぎ声を洞窟中に反響させながら隼人との交わりに夢中になっている。体中から大量に吹き出た汗は玉状となって白魚の肌を弾いていた。
「はぁん! ふぅ……んっ、……あっ……あっ、ひゃぁ……!」
ミナの昂ぶりに合わせて蜜壷の動きが速くなったかと思うと、彼女はしなやかな両腕を隼人の首に巻きつけて、襲い来る快感に耐えるように力強くしがみつき、上半身を密着させる。
すると彼の顔にちょうど彼女の豊満なバストが押し付けられる形となる。
「ふぐぅ……! ――っ!!」
彼女の巨大な乳房の暖かくて柔らかい、感動すら憶えるほどの極上の感触に顔を埋めたとき。情欲に流されながらも、かろうじて張りつめていた理性の糸がプッツリと途絶える音が、彼の頭の中ではっきりと聞こえた。
異形の者と無理矢理交わされているという現実も忘れ、脳内は性的衝動に支配される。搾取をありのまま受け入れ、飢えた獣の呻き声を上げながら悶え狂う。
彼の分身は絶え間なく与えられる快楽によって絆され、今にもはちきれんばかりに大きくのたうった。
「あはっ……ビクビクって……してる、わぁ! また……はぁん! ……イッちゃうのかなぁ!? 我慢、しなくて、いいのよぉ? んっ……思いっきりぃ、出しちゃえっ!」


すると、彼女の膣の上下運動に左右にクネクネと蛇行するような複雑な動きが加わり、もみくちゃに捏ねるように肉棒をいたぶる。
それにともなって、体を覆う襞も激しくうねり始め、彼に甘受される快感がより一層高まる。それは責めている彼女とて同じであり、二人は絶頂への階段を競い合うように上り詰めた。
「ふ、ふぐううう!!!」
「あん! んっ! もう、い、イキそうっ! イクうッ! イクぅうッ! イッちゃううううううう!!!」
共に絶頂の叫び声を上げながら、二人の視界はほぼ同時に弾け飛ぶ。
限界まで怒張したペニスは脈動しながら肉欲の迸りを吐き出し、彼女の胎内を隅々まで白く汚していった。






隼人はその後、休む間もなく彼女の生殖器官の中で嬲られ続けた。もはや時間の感覚さえ分からなくなった頃、卑猥な音と喘ぎを耳にしながら、彼の意識は再び沈んでいった。
次に目を覚ましたとき、彼は診療所のベッドの上にいた。医者の話によれば、『ダイビングスーツを着た青年が人気のない浜辺で倒れていた』と語る地元住民によって、近場の診療所へ搬送されたとの事だった。
それを聞いた時、「やはりアレは夢だったのだ」と彼は確信し同時に安堵した。あの珊瑚礁の中で見た美女も、日頃のストレスが原因で見た一種の幻覚か何かだったのだろう。
しかしながら、自分が気絶してしまった原因がどうしても気になった彼は、念の為に病院で身体を見てもらったが、『特に異常は見られない、至って健康だ』と言い渡されただけに終わった。
隼人はなにか釈然としないモヤモヤとした気分を抱えながらも後日、予定通り東京行きの航空便に搭乗し自宅への帰路に立った。
窓側の席から小さな窓ガラスを覗くと、眼下に広がる沖縄の青い海が望めた。彼は名残を惜しむようにその光景を目に焼け付けた後、旅の疲れを癒すためにアイマスクを装着し、シートに前体重を預ける。
視界が暗闇に切り替わった時、彼は夢のなかに出てきた異形の美女『ミナ』との行為を思い出した。
男を惑わす美貌、美しい声、妖艶な上半身、そして身体に密着する襞の感触と己の分身に絡みつく膣の暖かさ、その全てを心と体が憶えている。あんなにも生々しい夢は忘れたくてもすぐに忘れられるものではなかった。
「せめて、また夢のなかで逢えたなら……」
隼人はそう静かに祈り、そのまま深い眠りに落ちた。


しかし、その時の彼は知る由もなかった。
彼の荷物の中に、小さなイモガイが紛れ込んでいたのを――



おわり