左手で手綱を操りながら、右手の水平二連をブレークオープン。
 空薬莢を放り出し、手綱を放した左手で手早く二発のショットシェルを装填。手首のスナップで銃身を振り上げ、薬室を閉鎖する。
 その間、十メートルほど前を走って逃げている『悪魔』から視線ははずさない。
 もっとも、僕が目を離しても、僕の相棒である『彼女』が気を逸らすことなどありえない。正確に追跡し、打ち倒すべき『悪魔』の元へと僕を運んでくれる。
 僕が契約を交わして得た力のひとつだ。
 狭い路地に入ったところで、『悪魔』は立ち止まり、僕と彼女に正対した。
 長い四足に黒い体毛、赤く光る両目と、何よりもその体に纏う禍々しい臭い。かろうじて人型を保ってはいるものの、当然見た目は人間ではなく、成人男性ほどの大きさをした狒々と言える。
 逃げる後姿に何度か撃ち込んだダブルオーバックは無駄ではなかったらしく、手足の銃創から、黒い血がシューシューと立ち上っていた。
 なるほど、この傷ではもう僕と彼女を振り切れないと判断したわけか。
 夜半から追い掛け回してすでに夜明けは近い。不毛な追いかけっこの終局に、僕は鉄仮面の下でにやりと笑った。
 右手のショットガンをまっすぐに構える。銃身に黒い霧がまとわりつき、契約通り夜の女王の加護
を得た水平二連のソードオフは、僕の意思に忠実に従い、九つの散弾を吐き出した。
 が――
『悪魔』が跳躍する。斜めに跳んで壁を蹴り、空中で一回転。
 僕の頭上から牙をむいて飛び掛ってくる。
 反射的に左手で腰のロングソードを抜き放ち、逆手のまま突き出した柄と『悪魔』の牙がかち合い、爪が鉄仮面を傷つける。
 そして僕の肩を蹴った『悪魔』は、一回転ののち間合いを保って着地した。
「ちぃ……」
 鉄仮面の下で歯噛みする。仮面がなかったら少なくとも片目が持っていかれた。鉄仮面をつけるように勧めた『彼女』のアドバイスは的確だったわけだ。
 ロングソードをくるりと一回転半。風を切る音を響かせ構えなおす。
 低く唸り、毛を逆立てる『悪魔』に、構えた剣を揺らして戦意を示威――というよりかかって来いと挑発する。
 ひときわ甲高い唸りを発し、『悪魔』が跳躍。
 馬上にいる僕より、さらに高い位置からまっすぐに。
 かかった。右手をひるがえし、黒い霧をまとったショットガンを中空から真っ逆さまに降って来る『悪魔』に突きつける。
 赤い目が見開かれ、僕は残った一発を撃発させた。
 衝撃と銃声。至近距離から散弾をまともに喰らった『悪魔』は数メートル吹っ飛び、路上に転がった。
「空が飛べないんじゃ、空中ではいい的だろ。二発しかないんだから、弾くらい数えとけよ」
 もっとも、地面側から突っ込んでくるなら『彼女』に蹴り潰されていただろうけど。
 剣を納め、銃から空薬莢を抜き取る。
 九つの銃弾を浴びた『悪魔』の引き裂かれた体から黒い血が蒸発し、元の持ち主の姿に戻った。
 自分に取り憑いた悪魔の力を使い、強盗と強姦を繰り返した男。
 悪魔がそうさせたのか、そんな心に悪魔が取り憑いたのか。
 僕は手綱を操り、彼女を走らせた。日の出が近い。
 *
 兜と鉄仮面、皮製の肩甲や手甲、そして板金の胸甲を外して鋲だらけの分厚いブーツを脱いだ。
 自宅の倉庫に使っていた半地下の一室。明り取りの窓から差し込む朝日を浴び、装備一式にまとわりついていた黒い霧――夜の女王の加護は消え去った。
 魔女の霧と呼ばれる魔術の一種で、剣や銃撃の威力の強化、認識阻害や魔の力に対するレジストなど、多様な効果を持つ、僕が契約によって得た武器のひとつだ。
 もっとも――これは魔の力全般にいえるのだが――日の光だけには弱く、日光に当たると無条件にディスペルされてしまう。
 夜の内は悪魔の力をも叩き伏せた剣も銃も、今では人の手による当たり前の物だ。
「ご主人さま」
 入り口から『彼女』に声をかけられる。
「シャワーとお食事の準備が整いました。どちらを先になさいますか?」
 振り返った先にはすらりとした長身痩躯、黒髪のストレートを後ろで括り、白いブラウスとエプロンドレスに身を包んだメイドが一人。
 スカートは脛まである長いものだが、薄い生地がひらひらと張り付き、腰から太腿の女性を象徴するラインを浮き彫りにし、エプロンを突き上げる大きな胸にも思わず目が惹きつけられてしまう。
「ああ、シャワーから浴びるよ。それから食事して、一眠りしよう。今何時?」
「ご出勤の時間まで、四時間ほどです」
 彼女の名はメア。本来はメイドではなく、それどころか人間でもない。夜の間僕を乗せて走り回っていた闇夜の騎馬。僕の相棒であり、契約により使い魔として使役している魔の者。
 魔の者といっても、彼女は悪魔ではない。悪魔とは魔の者が人の心と結びつき、悪の側面を映し出してしまったもの。
 魔の者は魂――意思という指向性や肉体という存在の土台を持たないため、霊体に力を宿して漂い、こちらの世界ではやがて散り散りになっていまう。
 そのため魔の者は人間に取り憑き、心を結びつけて肉体と魂を得る。
 魔の者と心を重ねた人間は魔の力を自分の意思として振るうことが出来るが――その力に溺れ、堕落してしまった姿の一例が、昨晩の悪魔の姿だ。
 そうならないために行うのが、宣誓や契約だ。用途や使用条件を定め、魔の力に形を与え、場合によってはその対価を支払うことにより、魔を操る術。
 すなわち魔術であり、それを行使する者が魔術師、僕もそのひとりだ。


 服を脱ぎ、シャワールームに入ってバルブをひねる。降り注いだ湯が、肌に薄く張り付いた汗を洗い流していく。
 思わず声が漏れる。
 と、背後の扉が開き、メアが入ってきた。当然服は着ておらず、彼女の瑞々しい肢体が湯を弾いていた。
「ちょっ、メア……」
 狭いシャワールームだ。するりと近づくと、僕の背中に抱きつくようにぴったりとくっつき、
「ご主人さま……昨晩は、ご活躍でしたね」
 耳元に息を吹き込む。
 背中には柔らかな乳房の感触が一面に広がっており、濡れた肌がぷりぷりとした弾力を主張していた。
「……ですが、わたくしは一晩中走り回って少々消耗してしまいました。ですので、契約にもとづき、対価をいただきたいのです」
 魔の者は肉体を持たない。彼女がこうして実体を持ち、人や馬の姿をとっているのは魔術による契約で得たものだ。
 当然、対価や代償は織り込み済み。
 魔の者が肉体を構成するその対価は色々あるが、彼女の場合は僕の精液。つまり、彼女は僕と交われと言っているのだ。
 契約である以上、僕に彼女の要求を断ることなどできはしないが――
「ちょ……昨日の夕方したばかりじゃないか」
「そんなもの、あれだけ激しく走り回ればもうないも同然です。ですがその前に……」
 メアはより強く僕の背に抱きつき、石鹸とスポンジを手に取った。
「ご主人さまの体を洗って差し上げますね」

 スポンジを泡立て、僕の背中や腋、腹から腕をスポンジが滑り、体中が泡だらけにされてしまう。
 泡の感触がくすぐったく、スポンジを握る彼女の右手に手を重ねようとすると、手を握られ、壁に押し付けられてしまった。
「ご主人さま、動かないでください。ご主人さまはじっとして、わたくしに体を委ねていただければいいのです。さあ、両手を壁に着いてくださいまし。足も開いて……」
 促されるまま壁に両手を着いて足を広げる。女性としては長身のメアに背中を抱きすくめられると、ほとんど身長差がなくなり、まるで彼女が覆いかぶさっているように感じる。
 壁に着いた両手にメアの手が重なる。彼女の体も泡だらけで、石鹸と彼女の匂いと体温が渾然一体となった幸福感に捉われ、力が抜けてしまう。
 こうなってしまえば、僕は彼女にされるがままになるしかない。
 メアは泡まみれな体を上下左右に擦り付ける。長く美しい手足が絡みつき、豊かな乳房が抜群の弾力を持って背中を洗い上げていく。
 体の汚れだけでなく、疲れや力み、戦いのために心を固めていた鎧がほどけ、はがされていく。
「ふ、あぁ――」
 長く続くため息と共に脱力する。彼女が僕の胸に腕を回して支えてくれなければ、僕は床に座り込んでいたかもしれない。
 けれど、そんな状態になってもたった一つだけ、例外がある。
「あら、動かないでくださいとお願いしましたのに……」
 僕の股間のモノは、彼女の肉体を感じた時から反り返っており、体を洗われている段に至っては、彼女に触れられるのを待ちわびてビクビクとわなないていた。
「いけませんわ、ご主人さま」
 ペニスが泡だらけの右手にきゅっ、と掴まれる。
「やはり、こうして手綱を握っていないと、ご主人さまは言うことを聞いてくれないのですね?
 ここからが大事な所ですので、ご主人さまが勝手をなさらないよう、しっかりとわたくしが手綱を取らせていただきます」
 ペニスを握った彼女の手が動き、肉棒全体に泡を塗りつける。
「あっ、あぁ……」
「ふふ、今度はわたくしがご主人さまの手綱を操る番ですね」
 ペニスを握る手に力がこもり、締め付けながら上下しだす。
「昨晩のご主人さまの手綱さばきは素晴らしいものでした……。雄雄しく、力強く……」
 手の締め付けが強まり、手の平がぴったりと密着。上下の動きが早くなる。
「それでいて、繊細で緻密……」
 肉棒を握っていた指がバラけ、裏筋やカリ、亀頭に絡みつく。
「うっあぁ、あっ!」
「なによりも、ご主人さまの心の優しさや意志の強さ。ご主人さまの取る手綱にすべてを委ねた恍惚と興奮は、今もわたくしの体にくすぶっているのですよ」
 指先が亀頭を這い回り、指の腹がカリの溝を擦り、手の平がサオ全体を揉み込むように上下する。
 耳元に囁く彼女の息。背中に感じる彼女の乳房。
 その動きは、男に射精を強制する愛撫以外のなにものでもない。
 僕はもう、彼女の愛撫に導かれるまま、射精するよりほかない――
「いけませんわ、ご主人さま」
 射精に至るその直前。メアはそれを感じ取り、愛撫を止めてペニスの根元をぎゅっ、と摘む。
 それ以上刺激したら射精していまう、絶妙のタイミング。こみ上げていた快感がせき止められ、じんわりと痺れていく。
「あ、うぁ……!」
 欲求を押し留められ、不完全燃焼なもどかしさに僕は腰を震わせる。
「ご主人さま。まだ洗い終わっていないうちに射精してしまわれては、また洗い直しですよ?」
「そ、そんなの……我慢するなんて無理だよ……。メアの手、気持ちよすぎる……」
 するとメアは僕を抱きしめる力を強め、耳元に頬を寄せて囁く。

「ご主人さまが我慢することなんてありませんわ。好きなだけ感じてくださいまし……」
 射精の波が治まり、メアの手の動きが再開する。
「漏らしそうになったら、わたくしが止めて差し上げますから……」
 泡を補充した手の平が亀頭を押し包み、くりくりと回転させるように動かしてくる。
 指がカリを摘み、手首の動きに合わせて溝をぬるぬると擦る。
「あ、あぁっ……イ、く……」
「はい、どうどう……」
 またピタリと射精を見切ったメアが刺激を止めてペニスの根元を摘む。
「う、ぐぅぅ……」
 射精を我慢できないばかりか、射精することもできない――。
 まさに彼女に手綱を取られ、意思も肉体も、生理さえも支配されているのだ。


「はい、おしまいです」
 メアはたっぷりと時間をかけてペニスを洗い上げ、やっと解放した。何度も寸止めされ、もはやペニスは常に射精寸前の状態だ。
 丹念に洗っただけに、綺麗なものだ。まるで皮をむいたばかりの子どものペニスみたいに、メイドの手ほどきに翻弄されるまま震えている。
「それでは、上をお洗いいたしますので、こちらを向いてくださいまし」
 言われるままメアと向かい合う。スポンジで新しい泡を作って乳房に塗り、そして背中にしたように僕の胸に乳房を押し付ける。
 僕の首に両腕をまわし、正面から抱きつく格好だ。胸に豊満な乳房が潰れ、張りのある肌が石鹸の泡で滑ってにゅるにゅるした感触を伝えてくる。
 そして密着したまま円を描くように擦りつけ――
「はぅぅ……」
 柔らかな胸の感触と同時に、散々寸止めされたペニスがメアの下腹に擦れ、その刺激に思わず腰を引いてしまった。
 狭いシャワールームの壁に腰が当たる。これ以上はさがれない――。
「あら……ご主人さま、わたくしを困らせないでくださいまし。ご主人さまは手綱を握られていないとすぐに勝手をなさってしまうのですね」
 すると彼女は右手で僕のモノを摘み、位置を調整して――
「そんないけないご主人様は、こうして……もう放してあげませんよ?」
 手をペニスから離して僕の首にまわし、鼻先が触れそうなくらい顔を近づけてにっこりと笑う。
 肉棒がどんな状態になっているのはまったく見えないが――どうなっているのかはわかった。
 彼女の太腿に挟まれたのだ。
 敏感になった亀頭に触れる、瑞々しい肌。しなやかな筋肉の上にしっとりとした脂が乗って、手とも胸とも違う独特の感触がペニスを掌握している。
 そして石鹸とは違う、彼女の熱をともなったぬめり――。
 頬をくっつけ、僕の耳にメアの息づかいが響く。
「今度は止めたりはいたしません。気持ちよくなられたらそのまま射精されてけっこうです」
 そして乳房が胸板の上を左右に滑る。それにともなって左右の太腿が擦りあわされ、挟まれたペニスを圧迫し、扱き始める。
 さらにメアは腰を前後に揺さぶりだす。石鹸でない粘液でぬめった襞がカリに擦れ、強すぎる刺激に腰が震えるが、彼女と壁に挟まれ、満足に動かせなかった。
「あぁっ、あっあっ、あぁ……!」
 もとより寸止めを繰り返され、射精寸前の状態だった僕に、そんな愛撫を受けて一瞬でも耐えることなど無理な相談だった。
 彼女の太腿の間でドクドクと精液があふれる。
 何度も焦らされ、空射ちの痙攣を繰り返したペニスの射精に勢いはなかったが、止められた分をすべて吐き出すように、漏れ出すような射精は長く続いた。
 射精している間、彼女は緩やかに太腿を締め付け、快感を助長して最後の一滴まで搾り出した。
「あっという間でしたね、ご主人さま。気持ちよくなっていただいて、わたくしも嬉しいです」
 そしてメアはシャワーで泡や精液を流し、射精したばかりで力を失ったペニスを手に取る。
「ふふ……。さぁご主人さま。ベッドへ参りましょう。今度はわたくしがご主人さまに乗る番です」


 彼女の温かな手に握られていると、たちまち興奮がよみがえって固く充血してしまう。
 そして彼女に引かれるままシャワールームを出て、体を拭くのもそこそこにベッドへと導かれる。
 ペニスを握られて引き回されるさまは、まるで手綱を引かれる馬のようだ。
 そしてこれから、ベッドの上で、彼女に馬のように乗られてしまうのだ。
 なぜなら、それが契約だからだ。
 彼女は一般的な悪魔召喚によって呼び出した魔の者ではない。魔導師として名高い、夜の女王の異名を持つ大魔女に、とある契約の元に譲り受けたのだ。
 その契約のひとつが、彼女と交わる時は必ず女性上位の体位で、というもの。
 そもそも彼の魔女は古代において、夫との性の不一致によって飛び出し、魔の者と契約して魔女となった女だ。どうしても下に寝るのはイヤだったらしく――というか、もう意固地になっているように思う――契約の条件として僕にそれを迫った。
 別にソッチのほうは断ることもできたのだが――それを承諾すれば『夜の女王の加護』として強力な術を伝授してくれるとのことだったので、僕はその条件を承諾したのだ。
 まぁ、女性経験がないせいで、そっちの方がいいかなと思ったのだが――。
 そのおかげで、こっちの方はすっかりメアにいいようにされている。


 すとんと仰向けに押し倒される。
 そんな僕の腰をまたぎ、メアはのしかかってくる。
 彼女の白い肌と黒い髪が美しいコントラストを映し、細い喉元から鎖骨、女性らしい肩と引き締まった二の腕。くびれた腰に平らなお腹、小山のように突き出している丸い乳房。
 それらを下から見上げていると、たちまち股間が固くなる。
「昨晩はあんなに激しくご主人さまに乗り回されて、わたくし、何度も忘我の域に達してしまったのですよ? しかも一晩中……。
 昨晩わたくしが味わった悦楽……わたくしもご主人さまを乗りこなして差し上げます」
 メアは恍惚とした表情でつぶやくと、固くなった肉棒を自身の股間に導いていく。
 その入り口はすでに粘液があふれ、女性器が男性器をにゅるにゅると呑み込んで行った。
「ふあぁ……!」
 何重もの襞がペニスの敏感なところを執拗に撫で回し、肉壁が密着して吸い付いてくる。
 奥まで咥え込み、腰を落としたままの彼女はしかし、その中は熱を帯びた柔らかな肉襞が別の生き物のように蠕動し、ペニスに絡み付く。
「ん……。ご主人さまと重なって、わたくしのココが、とっても悦んでます。締めたり緩めたりして……あ、ご主人さま、手を……」
 彼女は僕の両手を取り、自分の乳房に押し付ける。手を広げてもなお圧倒する質量を持つメアの乳房に両手がうずめられてしまう。
 その圧倒的な量感と柔らかさに体が脱力し、股間の快感が決壊した。
 どくんどくん……と噴き出した精液は膣の蠕動に吸い上げられ、尿道に残った一滴さえも搾り出される。
「ふふ……いっぱいあふれてます。ご主人さまの精液がわたくしと一体になって……」
 そう言ってメアは僕の両手を握っていた手をぐい、とベッドに押し付ける。

「昨晩のご主人さまは、逃げる悪魔を追いかけてこうして――」
 メアは膣にペニスを挿入したまま上体を倒し、腰を挟んだ太腿を締める。
 手を重ねて指を絡め、乳房が胸板に触れた。
「――お互いに同じものを見つめて、まさに人馬一体でした」
 今は互いの顔を見つめあい、心も体も結合した一心同体だ。
「そして、夜の街を駆け抜けました。……こんな風に」
 眼前のメアがにやりと笑う。同時に、その姿勢で激しく腰を振りたて始めた。
「うあっ、ああ!」
 襞が擦れ、締め付けられ、絡みつき――僕は耐え切れずに射精してしまう。
「あらあら、まだ走り始めたばかりですよ、ご主人さま?」
 彼女の息づかいを感じ、体を締め付ける力が強まり、腰の動きが激しさを増す。
 膣の蠕動が精液を吸い上げ、射精の脈動が終わっても彼女は僕にしがみついたまま放さない。
 男根が女陰に咀嚼され、快感に溶かされた精液が呑み込まれていく。
「ちょ……メア、激しすぎる……」
「昨晩のご主人さまはこんなものではありませんでしたよ?」
 挿入したまま三回目の射精。ほとんど連続の絶頂に意識が途切れかける。
 いや、このままだと気絶するまで時間の問題だ。
 精液が吸い上げられる感覚の中、腰をグリグリと揺さぶられ、次の射精へと導かれてしまう。
「うあ、ぅあぁ――!」
 もはやされるがままに射精を繰り返す僕を見下ろし、メアは微笑を浮かべる。
「ふふ。夜は悪魔を追ってわたくしを駆り、雄雄しく戦っているご主人さまが、わたくしに乗られ、快感に喘いで――」
 手をほどき、僕の首にまわしてきゅっ、と抱きつく。
「愛しいご主人さま……」
 上半身を抱きしめたまま、腰をくい、くい、と振りたてられ、僕は射精の快感とぬくもりの中で意識を手放した。


「ご主人さま、ご出勤の時間です」
 メアの声に目を覚まし、シーツを跳ね除ける。
 行為の最中に寝てしまっていたらしいのだが、その間に身を清められ、その形跡はまったくない。
 まぁ、シーツの下は裸だったのだが。
「朝食の準備ができております。お召し上がりくださいまし」
 彼女に促せらるまま、僕は服を着てテーブルに着く。

 パンとスープにベーコンエッグとサラダ。スープとサラダに使われている野菜は、彼女が家庭菜園で育てたものだ。
 テーブルの対面に座るメアは、やはり家の庭で実ったリンゴを剥いている。
 この家も庭も菜園も、父が残してくれたものだ。その父が失踪して丸一年。原因はいわずもなが、悪魔に関わることだ。
 父は十二年前、二人の仲間と共に悪魔召喚に挑んだ。果たしてそれは成功したのだが、同時に成功し過ぎてしまったのだ。呼び出した魔の者の数は666におよび、完全に父とその仲間たちの制御を超えていた。
 その結果が――この街に多量にはびこる悪魔たちだ。
 父はそれに心を痛めていたのだろう。僕が学校を卒業して騎兵隊に入ってから、ほとんど家に閉じこもって何か――魔術に関する研究らしい――をしていたと人づてに聞いている。
 一年前に騎兵隊を除隊して戻ってみれば、空っぽの家に驚いたものだ。
 僕は父を探すために父の研究資料をあさり、彼の大魔女を訪ねて――そしてメアを使い魔として譲り受け、悪魔を討伐しているのだ。
 そうすれば父の手がかりが見つかるはず、という望みを託して。
「……では、12番ゲージのショットシェルを1ダースですね?」
 用意された朝食を平らげ、デザートのリンゴをかじりながら補充すべき物品に頭をめぐらせる。
「ああ、いつものガンショップからでいいだろう。あそこは不発がなくて助かる」
「それに、鉄仮面に傷がついてしまいましたから、直す間、代わりの物を手配しなくてはなりませんね」
「ん、まぁあれは大した傷じゃないだろうし、急がなくてもいいだろう。ところで、あれからすぐに寝ちゃったけど、銃の整備は?」
「ご主人さまがお休みになっている間、わたくしが済ませておきました。問題ありませんわ」
 さすがである。本来僕はメイドを雇えるような身分ではないのだが、優秀なメイドや執事を持つ貴族の気持ちがほんの少しだけわかる気がした。
「それはそうとご主人さま。昨晩討ち取った悪魔で、百体目です。今夜はお祝いにいたしましょう?」
「おお、もうそんなになるか。うん、そうだね、今夜は二人でお祝いしよう」
「ふふ、わたくし、ケーキを作りますね。それに七面鳥を焼いて……お酒は社長に頂いた物がありますので、それを開けましょう」
 なんだか今から楽しみだ。
「っと、そろそろ行かなきゃな」
 壁にかけた時計は出勤の時刻を示している。僕は上着を羽織って立ち上がり、カバンを彼女から受け取って玄関へ進んだ。
「いってらっしゃいませ、ご主人さま。お昼にお弁当を持って伺いますね」
「ああ、頼むよ。じゃ、行って来る」
 僕が勤めているのは父の友人が立ち上げた、とある酒造会社だ。父の友人――つまり、十二年前の悪魔召喚に関わった仲間のひとりであり、つまり彼も魔の者を使役する魔術師である。
 と言っても、彼は魔の者の力をすべて味覚の強化と制御に費やしており、その能力を活かしてバーボンのブレンダーとして名を馳せている。
 一山いくらの安酒数種類を絶妙にバッティングし、高級酒と遜色のない味を作り上げる手腕はまるで錬金術である。
 会社を立ち上げて数年。今では自前の酒蔵をもち、従業員も百人を超える。僕もその一員であり、給与や税金の支払いといった会計全般を任されている。
 すべての人が彼のような人物なら、父も心を痛めることはなかったのだろうが……。
 玄関を出て歩き出し、振り返る。僕を見送る彼女に手を振り、晴れやかな気持ちで会社に向かう。途中で路上販売員が新聞の号外を配っていた。
 記事の内容は予想できた。やはり朝刊には間に合わなかったらしい。
『ナイトライダー、強姦魔を射殺する!』
 闇夜の騎馬を駆り、悪魔に取り憑かれた犯罪者を狩る、闇夜の騎士。
 僕のことだ。

 *

 仕事を終えて帰宅すると、家には七面鳥を焼く香ばしい匂いと、ケーキの甘い香りが漂っていた。
 テーブルの上にある瓶は12年物のシングルモルト。昨年末に社長から贈られたものだ。
 着々とパーティーの準備をするメアに勧められ、鼻歌を歌いそうになりながらシャワーを浴びた。
 一日の汗を流して椅子に座ると、メアが配膳を中断して一通の封筒とペーパーナイフを差し出した。
「ご主人さま、お手紙が届いておりました」
 封筒には切手がなければ宛名も差出人の名前もない。直接投函されたものらしい。が、封蝋にスタンプされた見覚えのある紋章に差出人の察しがつき、同時に内容にも予想がついて思わず顔をしかめてしまう。
 とはいえ、無視するわけにもいくまい。
 僕はペーパーナイフで封を切り、手紙を開いた。

『宛て、ナイトライダー殿。
 スカイレイダーが再び街に入った。
 今晩より動きがあると思われる。
 備えられたし。
          セカンド・シェパード』

 やっぱりという思いと、よりにもよってという思いが交錯し、舌打ちしそうになった。
 差出人のセカンド・シェパードは、犯罪者――悪魔に憑かれるような人の悪意に鼻の利く立場と能力を持っており、悪魔に対して僕と似た思いを抱いている者のひとりだ。
 悪魔を捜索する類の術が得意でない、というか、ほとんど使えない僕やメアにとって、得がたい協力者である。
 そして、警告と共に文面にある名前――。
 スカイレイダー。鳥乙女の姿をした魔の者を使役し、強盗や身代金目的の誘拐を繰り返した魔術師――というか、犯罪者が名乗っている渾名である。
 三ヶ月ほど前に一戦交えたものの、取り逃がしてしまった。
 リターンマッチ、というわけではないだろうが、再びこの街でそんなことを繰り返すなら、僕がすることは同じである。
「メア。パーティーは中止だ。それと、ナイトライダーとナイトメアの、101体目の首級が決まったぞ。スカイレイダーだ」
 僕の言葉に、メアは当然のようによどみなく、
「剣も鎧も準備はできております。いつでも」
 頼もしい答えを返してくれる。
「よし、それじゃ……」
 椅子から立ち上がろうとした僕に、しかしメアは、
「ですが……」
 僕の肩に両手をかけて座らせ、腰をまたいでのしかかり、向かい合いに座る。
「相手が彼のスカイレイダーなら、わたくしにも備えが必要です」
 そう言ってスカートをたくし上げつつ僕のベルトを外しにかかる。僕はといえば、張り詰めたエプロン越しの乳房に顔を埋められ、ろくな身動きも忘れてされるがままになっていた。
「し、しかし、メア。もう余り時間がないぞ……?」
「はい。月の出まで余裕がありませんから――」
 ズボンからすでに固くなったモノを引っ張り出し、スカートの中に招き入れる。
 お互いの下半身がスカートに隠れ、先端に感じる熱くぬめった柔肉の感触。
 履いてなかった。
 胸に埋もれて驚きの表情で見上げる僕に彼女はにっこりと笑いかけ、
「できるだけ手早く済ませます。連続で射精させますので、わたくしにすべてを委ねて、たっぷりと気持ちよくなって下さいまし」
 そして、ずむずむと肉棒が柔肉の中に呑み込まれる。
 どうやら今夜も、ハードな夜になりそうである。

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最終更新:2010年06月12日 16:15