怪しげな露店で買った小瓶は姉に使って以来まったく
使用していないが、それは”人を虫にし、虫を人にする”
というこの小瓶に興味をなくしたからでなく、むしろ逆で
はやく、”ある事”を試したくて仕方が無いのが本音だった。・・が
一ヶ月間まったく別の心配事に頭を占拠されていた僕は
使用に踏み切ることが出来なかった。
それは、以前の性交で姉が妊娠していないかどうか?という問題だ。

結論から言えば、姉には無事生理が訪れ二人とも心から安堵したのだが
詳細は割愛したいと思う。

…そして、僕は次の使用を目前に控えていた。



駆け足で学校から帰った僕は自分の部屋に入ると
夕暮れ時にも関わらず窓を全開にし、アレの来訪を待った。

やがて、耳障りな羽音と共に僕の腕に一筋の痒みが走った―――
そう、僕が待っていたのは「蚊」である

ひとつきもの間、僕が試したかった”ある事”とは”虫を人にする”
と言うもう一つの使用法である。かつての僕なら鼻で笑うこの妄言も
この小瓶の液体なら叶えられる。

だが、何故蚊なのかというと――

虫にこの小瓶の液体をかけるに当たって僕がまず直面した壁、
即ち、はたして雄か?雌か? という根本的な事が理由である。
生憎、昆虫を見て性別を判別できる能力は自分に無いので
人の血を吸う蚊は全て雌という数少ない僕の中の知識を頼りに
今回の実験の被験虫を選び出したのだ。


僕は自分の腕に吸い付いた蚊が逃げないよう、慎重な動作で
小瓶を手に取ると二滴ほど、蚊の体に落とそうとしたのだが
気持ちが急いたせいか5、6滴もかけてしまった。
突然訪れた多量の水分に蚊は驚き、羽を広げようとするがじっとりと
湿った体では飛べないと見え、僕の腕の上で手足をばたつかせた。

5秒、10秒が過ぎた頃やっと変化が訪れた。蚊が巨大化し始めたのだ。
しかしどこか様子がおかしく、体積が増えると同時に肉体の色が白く染まり
硬質化していき、まるでサナギのような外皮を形成していくのだ。

僕の腕に収まりきれない大きさになった蚊のサナギ?を床に下ろした
ものの、巨大化は続けており今や自分と同じ大きさになったサナギ
はやっとその変化を終えた。と、同時にその真っ白な外皮に亀裂が走った


蚊がどういう生態なのかは詳しく知らないが、恐らくこの
小瓶の効用はその枠の外の事象なのだと勝手に自己補完した僕は
今の事態を静観しながら、サナギを見守った。

ふさり、という濡れた和紙を力なく破くような音がし サナギから
褐色の背中が現れ、次いで黒い髪をもった”人間”の女が上半身を起こした。
細く、長くしなやかな手足は蚊ゆえだろうが、その胸部は予想に反して
豊かな膨らみを誇っており、巨乳という単語を中学生の僕は連想した。

なにより成功した!と言うことに感嘆の声をあげたい所だったが
サナギから最後に出てきた部位を見て、この女が虫であった事を忘れそうになった
下半身は姉のときと同じ様になることを想像していたのだが、それに反して
褐色の、肉付きに良い脚が現れたのだ。つまり彼女は、ほとんど完全に
人の姿をしていたのだった―――――――――

僕はもしかしたら、対象にかける液体の量によって変化の度合いに
差が出るのかもと推測を立て始めたが、眼前に立つ女の美しさに目を奪われ
思考は中断せざるをえなかった。

蚊の女は羽化したばかりで全身を半透明な粘液で覆われていたが、一瞬身を
震わせたかと思うと、その背に張り付いた羽を大きく広げた。

そして、僕の瞳を見据え怪しく口元を緩め、呟いた。

「あなたが私を生んでくれたの?」
虫だったとは思えぬ流暢な言葉を紡ぎ僕に話し掛けてきた事に驚いていると
「ちがうの?」
大人びた体つきをしてはいるもののその顔はまだ
あどけない少女のもので、不思議そうに聞きなおしてきた。

確かに、新しい生命へと変貌させたと言う意味では自分は”親”と
呼べるかも知れなかった。だから
「そ、そう。ぼくが君を生んだんだ・・・」
僕は肯定の言葉を口にした。


何が起こったか理解するのに、少しばかり時間を要した。
僕がしゃべり終えた途端、蚊の女は僕に文字どおり飛びつくと
唇を重ねたのだ。
「ッ!?」
痛みを感じて、声を発した僕は唇から僅かに血が出ていることに気付いた
どうやら女に薄く唇の皮を噛まれたようで、大した痛みは無いが
出血したようであった。女はとろんとした目で僕を見ると、再度
唇に吸い付いてきた。出血した個所を念入りに舌でねぶり回し
僕の血が一時的に止まるまで丹念なディープキスを施してきた。

「やっぱり、おいしい・・・なんて甘いの・・・」
唇に付着した僕の血液を舌で舐め取り、そう呟いた女は
ゆっくりと布団に僕を腰掛けさせ、自らも身をもたれさせて来た。

「本当に、あなたには感謝してる・・・だってこんなに素晴らしい
肉体を与えてくれたんだもの・・・おかげで」
「?」
「”人を犯す”悦びを体感できるわ」

僕が身を起こそうとするより早く、女はその蠱惑的な口を大きく開け
僕の首筋に牙を突き立てた。鋭い痛みが走ったが、意外にも痛みはすぐに引き
首筋を垂れた僕の血液の感触をしっかりと確認できた。そして
女が喉を鳴らしてその血を吸い取るこそばゆいような感触も――

牙はもう突きたてられていなかったが、首筋に空いた小さな
傷口から女は大事そうに僕の血液を吸っており、僕の全身は
痒みを伴った虚脱感で麻痺していた。動こうにも体が言うことが聞かない
状態で豊満な肢体の女が首筋に吸い付く様は、ひりつくような快感を
湧き上がらせた。

そして、僕の股間の怒張が衣服越しに女の柔らかな腹部に擦れた時
僕は不覚にもイってしまいそうになるのをこらえる為
「ぅう・・!!」
と低いうめき声を出した。なんとかこらえたものの、首筋から唇を離した女は
嬉しそうにその声をもう一度しぼり出させようとするが如く
腹部を僕のモノに押し当ててきた。
「あれぇ?、そんな苦しそうな顔してどうしたんですか?」
「・・ぅ・・・くぅ」
僕は射精した。ズボン越しに精液が染み出るほどの勢いで
熱い迸りを放った。
なんとなく、屈辱感にまみれた射精だと感じた。
「あ~!?出しちゃったんですかぁ?もうー」
もったいない、と女は口にし僕のズボンに手をかけると
アッサリと剥ぎ取り、白濁色に塗れた一物を常人の二倍はある細く長い
舌で舐め始めた。ひとしきり嘗め尽くすと満足そうに顔を上げ
「もう、血はいいです・・・今度はこっちの蜜をいただきます・・・」
「いいですよね・・・あは」

女は長い舌を見せつけるように垂らすと。僕のモノの丁度
尿道口に先をあてがい、涎をじっとりと流し出した。
僕のモノは先ほど出したばかりだと言うのに、すぐに固くなり
滑り気を帯びてビクンッビクンッと痙攣していた。

「そういえば、知ってます?・・・蚊に刺されると痒くなる理由」
「・ふぅ・・へ?」
僕は絶え間ない刺激で舌がもつれ、息も絶え絶えといった所だが
女の質問の意図を理解しようと痺れる体で思案した。結果――
「まさか・・・お前、この唾液!?」

女が笑った

「がぁっ!?ああああッ」
僕の股間はこそばゆいような、心地よいような猛烈な痒に襲われ
女から持続的に垂らされてる涎の微妙な刺激でさえ、
射精に繋がりそうな状態になった。

身を捩ろうにも、麻痺して動かない肉体は小刻みに震える事しか
出来なかった。多分、拷問といえたかもしれない。
僕は、女の口に二度目の迸りを放った。

「だめだ・・・もぅ・・体が」

「ンク・・・ンク・・え?まだですよう?たった二回しか出してませんよー」
蚊の女は、披露困憊の僕の様子を仰ぎ見ると、僕に覆い被さり
その豊かな乳房を僕の口に密着させ舐めるように催促した。
鼻先から香る女の臭いに僕の舌先は伸び、女の乳首を愛撫した。

「ん・・・くぁ・・えへへ。おいしいですか?」
それまで余裕の表情を壊さなかった女は初めて快感に顔を歪めた。
僕は不思議な嗜虐心に火がつき、女の褐色の乳房に吸い付いた
「あぁあ!?う・・・そんな、急に、は・・・だ」
露骨に反応した女の声は、艶を纏っており僕のモノは三度息を吹き返してきた。
僕は乳房から口を離すと、両手で持ち上げるように揉みだした。
「っあ・・・やぁああん」
甘ったるい声を出す女、僕はえもいわれぬ様な柔らかさの感触に
手全体が性感帯になった錯覚すら覚えた。
しかし
「ふぅん・・・・・。ふふふ、そろそろ交代ですよ」
ほのかに紅潮した顔で、女は一際口を大きく開けると
先程噛み付いた側とは逆の首筋に噛み付いた。
途端に僕の四肢は痺れが蘇り快楽の中で身動きが取れなくなった。
もう、血は吸わないといったはずなのに――?
「だめですよぉ。だって・・・これは”おしおき”ですからね」
僕の疑問符を読み取ったかのように、女は答えた。


「じゃあ、最後はおなかにた~っぷり蜜を下さいね?」
首筋に吸い付きながら、耳元で女はそう囁くとしなやかな腰を
悩ましく動かし、僕の一物に近づけた。
そして、痛いくらいに勃起した僕のモノは濡れそぼった女の秘所にあてがわれ
柔らかな肉ヒダの膣に飲み込まれた。
「やぁ・・・ん、さいっこう・・・です・・・」
恍惚の表情を浮かべる女とは対照的に、僕は今にも飛びそうになる
意識を保つことに必死だった。女性の膣中を蚯蚓千匹と例えることがあるが
彼女の体内は千という数をはるかに越えた肉の生物が蠢いていた。

「どうですかぁ?あなたのモノから大事な赤ちゃんの素、吸い出してるんですよ?」
身動きの取れない僕は、女に跨られる姿勢で犯されていた。
「今にもイキそうって顔ですよ?悔しいですか?かつて虫だった
女に精を搾り取られるのは・・・屈辱ですかぁ?」

「うぅう・・・」
僕には女のような声を上げる事くらいしか抵抗の術は無く
女は緩慢な動きで、その肉付のいい腰に僕のものを深く埋めた。

「大丈夫ですよ?あなたの精子でちゃんっと身篭りますから・・・
赤ちゃんの種・・・吐き出しちゃってください」

その言葉は僕の背徳心を刺激し”絶対に射精してはいけない”と脳内で
警鐘をあげさせたのだが―――

その理性とは裏腹に、女の生暖かい腹の中に精をぶちまけていた。
「あぁああ・・・おなかの中でも解る・・・とっても濃~い、あなたの蜜が
私の中で動き回ってる・・・ふふ、元気なのね」
歓喜の声を漏らす女とは対照的に、女の下の男は恐怖感で全身を詰めたい汗が
噴出していた。”身篭る”!?とはどういうことだ?まさか、いや
そんな事を考え始める間もなく、次の快感が男を狂喜の中へ連れ戻した。

「もっと出ますよね?もっと私に種、下さい・・・動きますよ?いいですか?」
返事をする暇など皆無だが女は腰を激しく上下しだした。本格的な搾取が始まったのである。

「こんなにまだ、先っぽから蜜が溢れてるのに、ギブアップなんてしないですよね?
ふふ。あ・・・ん・・・ハァッハァッ・・・ハァ」

その後、幾度か彼女に精を放ったのだが
「・・・ま・・・ち・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
不鮮明な言葉が口から出たのを最後に、結局僕はまた意識を失ってしまった。


翌朝、どこか既視感のある目覚め方で僕は意識を取り戻した。
前回のことを考えればもうあの蚊の女は、小瓶の効力が消え
昨日の情事の時とは二目とつかぬ姿でそのへんを
飛び回っているのだろう・・・。

僕は開いたままの窓に目を向け、朝日の中で自分が下半身
全裸であることに気付くと、布団から起き上がり横に寝ている
褐色の美女を起こさぬように・・・・起こさぬように?

覚醒した。僕の脳内はかつてない速度で活性化した。
ズボンを探そうとしていたことなど頭から吹き飛び、
僕の傍らに寝息を立てるグラマラスな女、昨日僕をなぶり者にした女
に全意識が集中した。
すると、朝から青ざめている僕の視線を一身に受けた女が目を覚まし
あどけない少女のような笑顔で朝の挨拶を口にした。
「・・・あら、早いですね?おはようございます・・・”アナタ”」

わなわなと小刻みに震える口で僕はやっと精一杯の気持ちを声に出した。
「なんで?」



予想に反した小瓶の効力―――――――
僕は、きちんとマニュアルでももらっておくんだったなと
自分とあの胡散臭い店主を呪った。

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最終更新:2010年11月23日 20:41