毎週、一日だけはノー残業の日にして定時で帰る。
駅前の将棋クラブで似たような同好のサラリーマンやOLと一局対戦した後に焼き鳥屋で一杯呑んで帰るのが
いつものルート。

今日も そのつもりで扉をくぐったわけだが、
見たことの無い美人が盤の前で腕を組んでいた。 少し大柄だがたっぷりと量感のある豊かな胸は男として視線を魅かれるものがあるし
引き締まったウエストと丸い腰のラインは決して太めなのではない証だ。
スリットの深いところからのぞく脚線はほっそりとはいかないが、程好く筋肉で引き締まった無駄の無い肉体を想像させるには十分だった。
腰に届く長い黒髪は いまどき珍しく思えて、返って新鮮さを感じた。
不躾な視線に気がついた彼女が私を見つける。
強い意志を感じる力強い眼差し。 肉感的で厚さのある濡れた唇が開き、私に向かって誘いの言葉をかけた。

「よろしければ、一局いかがですか?」

少し低めのぞくっとする色っぽい声に背中が震える。 これは、何かが違う。 賑わっているなかで独りで相手待ちをしていたことも気になる。
何があるのだろう。 何が見れるのだろう。 好奇心が抑えられなくなった私は、彼女の前に座った。

「よろしく……」

対局を始めると彼女は飛車と王将を大きく動かし、堅い守りの陣形を作った。
『穴熊』
ここまで見事に守りに入られると、崩したくなるのが人の性。 挑発的な微笑を崩したくなる。

「穴熊ですか……堅そうですね」
「入り込めるかしら?」
「お堅い美人に誘われたら、入りたくなるものですよ。 そういう堅いところを突付くのが好きなものですから」
「楽しみね。 期待してるわ」

一進一退の攻防が続く。 2時間を超える対局の末に、金と飛車を押さえ込み王将を詰んだのは私だった。
仕事とは違う頭を使い、充実感に満たされた私が目にしたのは 不自然に頬を赤く染め、目を潤ませた彼女の熱い視線だった。

「素敵だったわ」
「良い勝負でした。 また機会があればお願いします」
「またなんて……このあと、食事でもいかがかしら? お時間、よろしいのでしょう?」

素が美人な上に まるで情事のあとのような彼女に誘われて断れる男がいるのだろうか?
躊躇うこともなく二人で店を出る。

「何か食べたいものはあるかしら?」
「うーん、特にこれといって……」
「じゃあ、私の部屋へいらっしゃいな。 すぐそこのマンションなの」

こんなことがあって良いのだろうか? 知り合ったばかりの美人に部屋に誘われるなんて。
勝負に勝った余韻のせいか、何の警戒もなく彼女についていく。
下心は先端から溢れて下着を濡らす。 スラックスがキツイ。 歩くことすら難しくなってきた。 きっと、顔も上気しているに違いない。
振り返った彼女の妖艶な微笑み? ニヤリと笑って舌なめずりをしたように見えたのは気のせいか?
部屋に着いたとたんに彼女に抱きすくめられ、まるで かぶりつかれるような激しいキスを交わす。
上着とネクタイが剥ぎ取られ、肉食獣に捕食されるような勢いで胸に吸い付かれ首筋を舐められる。
ハグに息苦しさを感じつつも、彼女に与えられる快楽に腰が砕けそうになる。

「は、激しいんだね」
「ごめんなさいね、抑えが効かないの。 貴方が悪いのよ。 私の指す一手一手を崩して奥まで入り込んで……。
 まるで、一枚一枚着ているものを剥ぎ取られて、手足を抑えられて大事なところを弄ばれた気分になったわ。 レイプされたような感じね。
 あの場で軽くイッちゃたじゃない、もう下着の中はタイヘンなことになっていたのよ。 部屋に入るまで我慢するのが辛かったんだから。
 だからね……」
「え……?」
「セキニンとってね♪ 逃げられないわよ、ここは私の巣穴だから。 メス熊はね、巣穴に獲物を引きずり込んで食べちゃうのよ♪」

穴熊を攻め崩したつもりが、もっと大きな包囲に取り囲まれていたことに気がつかなかったとは。
翌朝、解放された私は精も根も尽き果てたミイラのような状態で黄色い太陽の下、艶やかな彼女と腕を組み駅への道を歩くのだった。