目に映るのはセピア色のある風景。
 見覚えがあるこの場所は、俺が前に住んでいた家の庭。
 ド田舎だったけど、自然に囲まれていつも日が暮れるまで遊んでいた。
 そして目の前に移ってる子供。それはガキの頃の俺。
 何か、モコモコした巨大な毛玉のようなものに抱きついている。 

(……おい)
(なぁに?)

 ガキの俺は何かと話しているようだ。
 だけど何かは分からない。分かるのは話しているのは、声からして女の声。  

(十年後、会いに来い。私の婿にしてやる、ありがたく思えよ?)
(……おむこさん? じゃあおよめさんになってくれるの?)
(そうだ……嫌か?)
(ううん! ありがと! ぼくうれしいよ!)

 この偉そうな口調はどこかで聞き覚えがあるけど、思い出せない。
 ていうか、俺は既に誰かにプロポーズされてしまっていたのか。

(では約束だ。お前が戻ってくるまで、この村は私が守ってやる。ただし約束はちゃんと守れ――)

 女が言葉が途切れた。
 その直後、電源を切ったテレビのように目の前が真っ暗になった。
 その代わり、何故か俺の体がグラグラ揺れ始めた。



「おい、起きろ」
「駄目だよ海斗。そうやって乱暴に起こしちゃ。ここは優しく私のキッスで……」
「……勘弁してくれよ」

 既に意識はあり黙っていたのだが、唇の危機を感じたので目を開ける。
 真っ暗な空が見える。星が数えるほどしか見えない。
 頭がボーっとする中、起き上がる。

「おはよっ! はい、お目覚めのチュッ!」

 立ち上がろうとしたが、目の前にしゃがんで現れた女がいきなりキスをしてきた。
 彼女の手が両手に乗って、グイッと少し引っ張られる。
 唇はすぐに離れた。その直後、俺は立ち上がる
 あのまま起きようが起きまいが、結局唇を奪われてしまった。
 まぁいつもの事だが、俺的にやめてほしい。

「お前にはやらんからな」
「……いらないよ」
「ひどいっ!」

 あぁ、もう1人の人物の視線が痛い。
 尻に付着した埃を叩き、軽く伸びをする。
 少し寒い……放課後、屋上で寝てたら夜になってしまったらしい。

「海斗。今何時だ?」
「もうすぐ8時だ昼寝バカ」

 隣にいる、ジト目で俺を見ていた長身のイケメンにいきなりバカ呼ばわりされた。
 まぁ、こんな時間まで寝てた俺は確かにバカなのだろう。
 海のように蒼い髪のこいつは海斗(かいと)で、さっき俺にキスしたピンクの長髪の女は瑠夏(るか)
 義理だが二人は兄妹という関係だ。 

「早く寮に戻るぞ。飯の時間が終わっちまう」
「あー、それはやばい。海斗達は、もう食べたんだよな?」
「食ってねえよ。待ってやったんだから、デザートは俺の物な」
「わかったよ」

 何だかんだ言いつつ友達想いな奴め。
 キスが欲しいと言う瑠夏を放っといて、屋上の出入り口に向けて歩き出す。
 瑠夏が満面の笑みで腕を組んできた。

「ニャーン! 暗いのこわーい」
「はいはい。猫が言っても説得力ないからね」

白くて長い尻尾を揺らしながら甘えてくる猫娘。
 とりあえず面倒なので放っておく。
 少し痛い視線を感じつつ暗い屋上から真っ暗な校舎に入ろうとした時、寝起きのせいか軽い欠伸をした。
 その直後だった。

――法螺吹きめ――

「んぁ?」
「どうしたの?」
「あ、いや……今なんか……」

 声が聞こえた。それと同時に何かの気配を感じて、振り向き屋上を見る。
 しかし誰もいなかった、煙のように気配も消えている。
 海斗と瑠夏に聞いても、何も感じないし聞こえていないという。
 猫の瑠夏が何も感じないところを見ると、気のせいだったのだろう。
 俺はそう思い、友人達と並んで寮へ帰った。

「でさぁ、その時ね、妹として言ってあげたのよ……」

 今日はやたら眠い。
 まだ9時ちょい過ぎ。
 夕食を終え、風呂も入って、自由時間になって瑠夏が俺の部屋にやってきた。
 俺のベッドの上に座り、俺はその横で天井を見ながら彼女の話を聞いている。
 ただ、頭がなんか少しボーっとして……瑠夏の話が頭に入ってこない。

「眠いの? 私の話つまんない?」
「あ、いや、そんな事ないけど、とりあえずどいてくれ」

 瑠夏の声が聞こえなくなったと思ったら、目の前に彼女の顔が映った。
 俺の体の上に、のしかかるように乗っている。
 顔もかなり近い、瞳孔が縦に長細い綺麗な蒼い目が見える。

「今日はずっとおねむさんだったの? でもまだ寝ちゃだめだよ。今日は上映会するって約束したでしょ?」
「約束……」

(では約束だ……)

 ふと思い出した、屋上で寝てたときに見た夢。
 あの夢の内容を考えるたびに、何か胸がモヤモヤする。
 何か、大切なことを忘れているような気がする……
 そんな事を思っていたが、いい加減この体勢を何とかしようと瑠夏ごと起き上がった。

「悪い、今日はやめとくわ。もう寝たい」
「そっかぁ……まぁ、本当に眠そうだし仕方ないね……」

 起き上がっても、瑠夏は俺に抱きつくような体勢を取っている。
 さっきと変わってないどころか、むしろ近くなっているのは気のせいだろうか。
 顔が熱い。きっと俺は顔赤くしてるんだろうな。照れもあってか横に視線を逸らす。
 その時、まるで俺の隙をついたかのように、瑠夏がまたキスしてきた。
 しかも、いつもの軽いものじゃなく舌が入った深いキス。この娘は1日何回キスすれば気が済むのだろうか。

「……んッ…………ふぅ。これはお詫びとして頂いてくわね」
「あのなぁ、俺だっていつまでも我慢できるわけじゃ……」
「んー? 何か我慢してるの? 教えて?」
「……それは」
「いやーん、かわいいー!」

 瑠夏の質問に答えられず、思いっきり抱きしめられた。
 知ってる、この娘は俺が答えを絶対知ってる。
 ピクピク動いてる猫耳を引っ張ってやろうかと思ったが、何をされるか分からないからやめておこう。

「次は、ナオトの童貞いただいちゃうからね?」
「……絶対参加します」

 耳元で、とても妖しげな口調で囁かれた。
 その声を聞いた時、なんだか少し寒気がした。
 この猫娘は本気で奪う気だ、俺はそう感じて即答する。貞操を守るために。


 そう感じた時、風が吹いた……はて、窓は閉めたはずだが。
 電気も時折消える……この前交換したばかりのはずだが……

「なに? 故障? こわいよー」
「笑顔で言ったって説得力ねえよ!」

 超常現象をいい事に瑠夏が更に抱きついてきた。
 彼女の両肩に手を置き即座に引き離す。

『それは私のだ。いい加減離れろ』
「へ……?」

 声が聞こえて、瑠夏が部屋の入り口まで吹き飛ばされた。
 一瞬、何が起こったか自分でも分からなかった。
 壁に当たり、倒れた瑠夏は動かない。
 事態を飲み込めないが、急いで瑠夏の元に駆けつける。

「おいっ! 瑠夏!?」
「……ぅ……う、ん……なおとのえっちぃ……」
「……」

 どうやら無事のようだが、俺はこいつの夢の中で何をしているのだろうか。
 それはそうと、すぐに背後の気配に気づいた。
 ゆっくり、スロー映像のように後ろを向く。

「な……っ!」

 まず目に映ったのは、十数個の青い火の玉みたいなのと紅い目、金色の体毛、4本ある大きな尻尾。
 四本足で立っている……狼、いや狐にも見える。
 ただなんにしても、思わず声が出なくなるほど大きい。

『久しぶりだな、ナオト』

 更に驚くことに、目の前の犬は喋るどころか俺の名前を知っていた。
 無論、俺はあんなでかい生物なんて知らないし、見たのも初めて……のはず。
 だが、何故だか始めて見た感じがしなかった。
 いや、それどころか、俺はこいつをよく知っている……ような気がする。

『どうした、何を呆けている? 10年ぶりの再会ではないか』
「……あ、いや、その……」
『まさか、私のことを忘れた。と言うのではないだろうな?』
「えっと……どちらさまでしたっけ?」
『……ほう』

 俺の言葉に反応するように、火の玉が大きくなった。
 あれ、もしかして怒らせちゃった?
 ゆっくりとこちらに近づいてくる、襲われて喰われると直感的に感じた。
 気絶してる瑠夏を担いでこの場は逃げようとしたが、腰が抜けてしまっていた。
 俺の目の前まで近づいてきた。
 青い火が近くにあるのに、なぜか熱さは感じない。

『まぁ、人間にとっての10年は長い。忘れてしまっても仕方ないが……』
「おわっ!」

 口で後ろ襟を咥えられたと思ったら、いきなり俺の体が宙に浮いた。
 顔面からベッドの上に落ちる、壁に当たらなくてよかった。
 いとも簡単に人間1人を持ち上げ投げるとは、なんという力だろうか。
 こんな奴に襲われたらひとたまりもない……これは本気で俺の人生終わったかもしれない。
 せめて瑠夏だけは救出しようと、起き上がって化け物を見た。
 しかし、さっきまでいた大きな体の化け物は何処にもいない……

「ど……どちらさまですか……?」
「この姿になっても思い出さないか……まぁいい……」

 代わりに立っていたのは1人の美女。
 それも服も何もない全裸である。青い火が豊富な胸や女性の大事な部分まで照らしている。
 美しい……やばい状況だけど彼女の姿を見てつい思ってしまった。
 妖艶な笑みを浮かべ、ゆっくりとこちらに近づいてくる女の声はさっきの化け物と同じ声だった。
 よく見れば、尖がった動物の耳や揺れている4本の尻尾がある。
 あれはさっきの化け物が人間の姿になったんだろう。
 何故か、俺はすぐにそう思った。そして驚きもあまりなかった。
 なんか、どこかで見たような気がしたから。

「忘れていようがいまいが、お前は私のものになるのだから」

 ギシっとベッドを軋らせ、女が四つん這いで俺に迫る。
 真紅の瞳を光らせ、女は俺を見つめる。
 何か吸い込まれそうなその瞳を見ていると、逃げようと思っても体が動かなかった。
 そして、俺は自分でも驚くほど簡単に押し倒されてしまった。

「まず、この服が邪魔だな」

 そう言うと、女は俺の胸の真ん中あたりに手を置いた。
 その直後、青い炎が一瞬にして俺の体を包んでいった。
 皮膚が、肉が、骨が、俺というものが全て灰になる光景が脳裏をよぎり、俺は絶叫した、本当に自分の言葉かと思うくらいに。
 炎を振り払おうとするが、女が乗っているせいで手足をバタつかせる位しかできない。
 女は俺を見て笑みを浮かべている。

「安心しろ。燃やしたのは服だけだ。少し落ち着け」
「え…………ぁ」

 彼女の言葉どおり、落ち着いて見ると燃えているのは服だけで、俺自身には火傷ひとつない。
 ただし服は灰になり、風に飛ばされていく。
 俺も女と同じ裸になってしまった。
 下半身も涼しく感じるということは、ばっちり丸出しなのだろう。

「怖かったか? 涙が、出ているぞ……ん」
「うぅ……ちょ……」
「んッ……ことわる……チュルッ」

 女は俺の上で体を寝かせ密着する。
 そして俺の顔に近づき、不意に涙を舌で舐めた。この時初めて俺は泣いていたんだと知った。
 気持ち悪い舌の感触に顔を横に向けると、今度は耳を甘噛みし頬を舐め回す。
 小さな唸り声のようなものが出てしまう。
 まるで俺の頬を、唇を味わうように舌を動かしていく。

「や、やめろ……」
「ン、はァ……今のお前が、私に命令できるとでも思っているのか?」

 力ない声が出る。
 だが、そんな俺の訴えを聞いてくれたのか、女は舌の動きを止める。
 助かった……女が離れた時、つい思ってしまった。
 その思いが表情にも出てしまったらしく、彼女は再び顔を近づけ妖しげに微笑み口を開いた。

「これで終わったと思うなよ?」


 彼女の言葉に、ゾクッと俺の身体が震えた。
 その直後、俺は彼女の両端の尻尾が伸びていることに気づいた。
 まるで蛇のように、ゆっくりと俺の腕に巻きついてくる。
 太くて毛がふさふさな尻尾のせいか、手以外自分の肌が見えない。
 そして少し痛みを感じるくらいに締め付けてくる。本当に蛇のようだ。

「知っているだろう? 私の尻尾は伸縮自在……抵抗しなければ、これ以上は締め付けない」

 つまりは、抵抗したら腕の保障はないということだろう。
 これ以上ない脅し文句の前に、俺はただ女の言うとおりにするしかなかった。
 俺の抵抗力が無くなったのが分かったのか、女は起き上がり自らの性器を俺の顔に近づけた。
 目の前まで性器がくると、思わず生唾を飲んでしまった。
 本物を見るのは初めてだが、形は人間のモノようだ。

「ほら、舐めてくれ……」

 俺に頼むような言い方だが、命令されてるようにしか聞こえない。
 少し躊躇したが、今逆らうことは出来そうにないので、少し上体を起こして舌を伸ばした。
 性器に触れた瞬間、女はビクンと体を痙攣させ、思いっきり性器を顔に押し付けてきた。
 呼吸を止められ、手も動かせないので足をバタつかせる。
 すぐに呼吸ができるほどに離れ、俺は女の命令どおり性器を舐め始める。
 本当はこんな事したくないんだけど、命にかかわるので止むを得ない。

「んッ! ハッあァ……な、なかなか、ぁッ、の舌使いじゃない、か……」

 性器からはすぐに愛液が溢れ出てきた。
 初めての行為でよく分からなかったが、とりあえず気持ちよくなっている証拠だろう。
 変な味に戸惑いつつ、舌で性器の入口を探していた。

「ああぁッ!」

 入り口はすぐに見つかった。
 舌先を侵入させると女の動きが激しくなる。
 それと同時に、女が両手で俺の後頭部を押すものだから舌はさらに奥へと侵入した。
 なんか、ぬるぬるでぶつぶつな膣内は少し痛いほど舌を締め付ける。
 それを押し広げるように舐め回した。

「んんッ、ハッ、ああんッ! ぁッ、あッン……ッ!」

 女は笑みを浮かべながら甘い声で喘いでいる。
 さっきまで攻められてたのが、今度はこっちが攻めているみたいだ。
 このまま絶頂させてしまおうと思った。絶頂させれば逃げる隙ができるかもしれないし。
 だが、そんな魂胆を見抜いたかのように、性器が離れていった。

「ぁッはぁ……ふぅ……ここまで濡らせば十分だろう」

 女は微笑み、俺のモノを尻尾でしごきながら言う。
 彼女の性器を舐めてる間もずっとしごかれていたせいで、すっかり完全覚醒してしまった。
 いやむしろ、危機的状況とはいえ美しい女の裸体を見てしまったら、男だったらこうもなろう。
 時々チクッとする体毛が、快感として俺を刺激する。
 これだけでも何度か射精してしまいそうになったが、その度に尻尾がモノに巻きつきギュッと締め付け強制的に射精を止められた。
 そして、尻尾がモノから離れると、亀頭の先が女の性器に触れた。

「ち、ちょっと、待って……」
「では、どれ程成長したか確かめるとしよう……ッ!」
「うぁあッ!」

 俺の言葉を無視し、女はモノの根元まで一気に受け入れた。
 その瞬間、これまで止められていたもの解放され彼女の膣内を汚していく。

「んんッ! あッぁ……さ、さっそくか……」
「くっ、ぅぅ!」

 強制的に止められていたせいか、すごい量が出ている。
 それを女は嬉しそうに受け止め、こっちがまだ出しているのにも関わらず腰を動かし始めた。
 卑猥な水音と肉がぶつかる音で体が勝手に興奮している。
 いつの間にか腕が自由になっているが、もう抵抗力は出てこなかった。

「んぁッ、お、おおきく、なったな……あァああッ!」

 腰が上下運動から前後運動へ変わっていく。
 モノの根元近くまで咥え込み、時折回転運動も加えてきた。
 出し終わっても絶えず刺激され、また射精感がこみ上げてきた。
 体を寝かせ密着してくる。素肌が触れ合う感触は気持ちいい。

「んっ、ぁンッ、ァんんッ……ッ!」

 舌を絡める深いキスをしてくる。
 口内を舐め回され、唾液を吸われる刺激で俺はまた女の膣内を汚した。

「んンんッ!! あ、あふいッ……ふぅッ……はあぁッ」

 腰の動きが止まり、女は体を震わせている。
 唾液の糸を伸ばしながら唇が離れていく。
 起き上がると俺の胸に両手を起き、彼女は再び腰をくねらせ始めた。

「うぅっ……も、もう、やめて、くれ」
「なにを言う……まだだ、もっと、アッ……出してもらうぞ、んッ、たくさん子を作ると、約束したろ?」
「なっ! ちょ、ちょっと、まて……ぅぁあッ!」

 子供という言葉で、消えかけていた抵抗力がよみがえってきた。
 起き上がり、女を引き離そうとする。
 だが、彼女の手の力は強く起き上がることも難しかった。
 更に、腰の動きが激しくなり、快感で力が出なかった。

「フフ、大人しくしていろ……ッ」

 女は再び尻尾を伸ばし、巻きつけて俺の腕を封じた。
 また、俺は身動きが取れなくなりされるがままな状態になってしまった。

「や、やめろ……もう、かんべんしてくれ……」
「心配するな、次で、やめてやる。続きはあの村で、しよう……ずっとな」

 どうやらもう一度俺が射精したら、この強姦みたいな行為もやめるらしい。
 ただし、女の言葉の意味を考えると、俺はどこかに連れ去られてしまうのだろう。
 俺は歯を食いしばって、射精を我慢する。
 しかし、すでに自分では抑えられない……もう無理、もう限界。

「うッ、くっ……出、る……ッ!」
「んッふぁッ、さ、さぁ出せッ! あッああァッ!」

 肉壁の締め付けが増し、我慢が切れて彼女の中に精液を放った。
 その直後、ちょっとした爆発音的なものが響いた。
 埃が舞い、驚き動きを止めた女とほぼ同時に見ると、閉めてた扉がただの薪になっていた。

「ごほっ! ち、ちょっとやり過ぎたかしら?」

 なんか、埃の中から覚えのある声が聞こえた。
 窓から強風が侵入して埃を消していく。
 部屋の扉を無残な姿にした犯人だろうと思われる人物が、そこに立っていた。

「こ、こ、校長?」
「一番偉い私の顔を忘れるなんて、あとでお仕置きですね」
「す、すいませんでした校長先生!」

 怖さすら感じる笑顔を作り出す女性。
 この学校で絶対的権力を持ってる校長先生が立っていた。
 校長のお仕置きは命を落としかねないので、必死に声を出して謝った。

「とにかく、彼から離れなさい」
「わっ! わわっ!」

 校長が手をかざすと、俺に乗っていた女の体が浮き離れていく。
 結合が解除される際、精液と愛液が混ざった液体が俺の上に零れ落ちた。
 ようやく解放された……疲れで起き上がるのもしんどい。
 とりあえずシーツで前を隠し、空中で暴れている女を見た。

「くそっ! なんだこれは!?」
「あまり暴れないでください。変な液体が飛び散ってます」
「うるさい! お前は何だ!? 天狐であるこの私を……っ!」
「天狐? 奇遇ですね、私もですよ?」
「な、なにぃ!!?」

 校長が仙狐と言った時、女はすごい驚いた様子。
 俺には何がなんだかさっぱりわからない。
 だがあの女を黙らせるなんて、うちの校長は本当に何者なのだろうか。

「何をしに来たのか知りませんが、生徒に危害を加える事は許しません」
「黙れ! 私は……」
「はいはい。話はたっぷり聞いてあげますよ、2人っきりでね」

 女は操られているかのように校長の傍まで寄る。
 強気な口調だが、決して暴れようとはしない。
 おそらく、校長との決定的な力の差を感じ取ったのだろう。
 俺もさっき感じたからよくわかる。

「今夜はもう寝なさい。扉の修理は早めにしたほうがいいですよ?」

 校長は俺に一言だけ言い残し、女を連れてどこかへ行ってしまった。
 それと同時に、覗き込んでいた野次馬たちも去っていく。
 皆、基本的に校長には逆らえないのだ。
 そして、勝手に壊しといて修理費は自腹なのかと不安がよぎった。

「大丈夫か?」
「海斗……」

 今度は金銭的危機に見舞われて、とても複雑な気分になっていた時、校長と一緒にいた海斗が話しかけてきた。
 まだ眠っている瑠夏を抱きかかえ、微笑んでこちらを見ている。
 海斗だけである、俺を心配してくれたのは。

「しかし、さっきの女は何だ?」
「さあな。なんか俺を知ってるみたいだったけど、俺はいまいち覚えてない」
「そうか。まぁ、今夜はあのおばさんの言うとおり寝とけ。どのくらいしたのか知らないけど疲れただろ?」
「あぁ、そうする」

 海斗の言うことはごもっともだ。
 凄まじい疲労感が襲い始め大きなあくびが出てしまった。
 マヌケ面と言って俺を笑い、海斗は明かりを消して部屋から出て行こうとする。
 だが、彼も一言だけ言い残して行った。

「部屋の修理費だけど。アイス1週間分で貸してやるぞ?」
「……頼む」

 やはり、持つべきものは素晴らしい友情である。






 まだ昨晩の疲れが残ったまま迎えた翌日のHR。
 そこで、今年最初で最後になるであろう衝撃的な事件が起きた。

「稲荷 空(いなり くう)と言う。よろしく」
「えー、彼女は天狐という狐だそうです。いいかみんな、天狐だからっていじめたらだめだぞ!」
「はぁぁーーい!!」

 昨晩、俺を襲い散々犯したあの女が、学園の制服を着てクラスの皆に挨拶をしている。
 何が起きているのか、正体は狐ってこと以外理解するのに少し時間がかかった。
 クラスの男どもは最高に盛り上がっているが、俺は頭がどうにかなりそうだった。
 そしてあろうことか、空と名乗った女は俺の隣の席に座った。
 間近で見ると、昨晩は美女だったが今は美少女になっている。
 4本の尻尾を揺らしながら、空はにっこりと笑った。

「約束は先延ばしにしてやる。よろしくな、ナオト」
「え、あ、あぁ、よ、よろしく……」

 男子のブーイングと殺気が俺に集められる中、戸惑いつつも挨拶を交わした。
 俺は学園生活は、一体どうなってしまうのだろうか。
 とりあえず、平凡じゃなくなるというのは確かだろうな。


【終】

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最終更新:2009年08月01日 23:20