15スレ目、662-664
ID:BQ95TCaL 氏


 どこが光源かまるで解らない真っ白い部屋の中。
 その中で、狭そうに膝を抱えてうずくまる巨大で美しい裸の少女は、詰まらなさそうに僕に目を向け
た。
 彼女の十分の一ほどの大きさにも満たない僕は、彼女の憂いを湛えた瞳を見上げると、勤めて明るい
声で言った。
「こんばんわだね。マム」
 僕が声をかけると、マムはふい、と目を背けてしまった。
 やれやれ、困った。
「マム、何か用があるから僕を呼んだんじゃないのかい?」
 勤めて優しい声で話しかけてあげると、マムはでんぐり返しの要領で体をくるりと丸めて一回転する
と、僕を踏み潰さんばかりだった大きさが僕と同じ大きさへと変化した。ここは夢の中だから、体の
大きさだってマムの自由自在だ。
「だってつまんないんだもん」
 ふくれっつらを見せて、腕を組んで、その黒い髪を振ってそっぽを向いたマム。
 最近はずっとほったらかしにされていたから、マムの気持ちも僕はわかる。
「うん。でも仕方ないんだよ。最近は、新しい発見も多かったしね」
「私は詰まんないもん。面白いもんも無いし、お話しても構ってくれないし、事務処理と泳いでばっかり」
 裸のマムのお尻から伸びている、鯨の尻尾がぶん、と振られて軽い風が白い部屋に巻き起こる。
 僕は頭を掻いた。ここ最近ずっとそうだが、どうやら今日もまた、マムの愚痴を聞かされそうだ。
「うん。ごめんねマム。でもその前に、服を着たらどうかな? いくら夢の中でも寒そうだ」
 マムは拗ねたように僕をみる。このまんまじゃ、僕が風邪を引いてしまいそうだよ。というと、よう
やくマムが服を纏った。マムが一番お気に入りの、ひらひらのたくさんついた白と黒の服。
 何も無い場所から服が生成されてマムの体に纏われていく様というのは、いくら夢だとわかっていて
もとても不思議だ。
「ありがとうね」
 そういうと、マムは少し頬を赤らめて、黒い鯨の尻尾を振った。
「クルーに風邪を引かれては、困るからな」
 幼く見えても、マムはやっぱり僕らのマムなのだ。


 僕は、それからマムの愚痴に長々と付き合った。
 サムが最近遊んでくれない。とか、火災が起きたと思ってあわててスプリンクラーを作動させたら、
なんとジルバが部屋で魚を焼いていたとか。サリーとレンカが最近あんまり構ってくれなくて詰まらな
い。とか。近海の鯨がマムのエコロケーションシステムに干渉してきてウザい。とか。まぁそんなとこ。
 それくらいは、いつものことだ。僕は一つ一つ、丁寧にマムの話に合わせて頷いたり相槌を打ったり
意見を挟んだりしていた。
 たくさん話して、マムのストレス解消を促すのも、クルーの大切な仕事の一つだけれど、僕はマムの
相手をするのがそう嫌いじゃなかった。
 そうして僕が眠っている時間は過ぎていき、そろそろ起床の時間が近づいてきた。
「ごめん、マム。そろそろ起きなきゃ」
 そうやってマムに別れを告げたのだが、今日はマムのご機嫌がいつも以上に斜めだったらしい。
「いやだ!」
 普段はわがままなんて言わないのに、マムが僕に抱きついてきた。
「マム、わがまま言わないで。今日の夜。また会いにくるよ」
 けれど、マムは僕に抱きついたまま放してくれない。たゆん、たゆん、とマムの胸が僕の背中にあた
ってくる。
「いやだ。どうせ起きたら、また仕事行っちゃうんでしょ。そんでトマとらぶらぶするんだ」
 トマ、というのは僕の恋人の名前で、僕と同じ、マムのクルーの一人。
 うーん、と返事に困ると、マムはますますむくれて、物凄い力で僕を押し倒した。普段はそんなこと
しないのに、夢の中ではすべてがすべて、マムの思うがまんまなのだ。
「いけないよ」
 僕は押し倒され、上にのしかかっているマムの、黒いつやつやの髪を撫でてたしなめた。
「マム、暴力はよくないよ」
 けれど、マムは言うことを聞かない。僕を睨んだまんまで、いやだ。ともう一度言った。
「いやだ。だってトマとらぶらぶしてるところなんて見たくないもの。私、知ってるんだから。トマと
シンがこういうことしてるの」
 マムが突然、僕の服を脱がしにかかった。慌ててマムを止めようとするが、マムは言うことを聞いて
くれない。『夢』というマムのホームグラウンドで、僕が叶うはずも無く、僕はなすすべも無く衣服の
すべてを脱がされてしまう。
「これが、シンのなのね」
 うっとりしたようにつぶやいたマムが、あらわになった僕のペニスに舌を這わせてくる。
 夢とは思えぬその感覚に、僕はんん、と声を出して耐えた。マムがこんなことを仕掛けてくるのは、
初めてだった。おそらく、いつの間にか監視システムを乗っ取ってクルーのプライベートを覗き込んで
知識をつけてしまったんだろう。
 腰をずらしてマムから逃れようとすると、マムは僕の両手を押さえて「シンは動けない!」と言った。
途端に、僕は体が弛緩してまるで動けなくなってしまう。
 マムは一心不乱に僕のペニスを舐めていた。マムの息遣いが、唾液の音が、生暖かな口内の体温が、
そして快楽が僕の中に送り込まれ、そしていつの間にかそこは夢とは思えないほど硬くなってしまう。
「シン」
 口の周りに唾液をてらてら光らせたマムが、僕に跨って僕の瞳を覗き込んでいる。マムは、いつの間
にか衣服を全て脱いでいて、マムの小ぶりな胸が、しっかり見えた。
「シン、私だって、トマに負けないくらい愛してるのよ」
 マムが腰を下ろすと、ペニスが言いようの無い圧迫感にゆっくりと包まれた。
「はっ、かっ……、かっ!」
「はっ!! あっ、あっ! シンのが、シンのが入ってくる……」
 弛緩した喉は、息をするのが精一杯で、その間にもマムは腰をゆする。夢の中のそこは、痛みという
ものを解さないのか、マムは気持ちよさそうにうっとりと一人で腰を振っている。マムのクジラの尻尾
が、びたん、びたん、と床を叩く音が、妙にリアルだ。
「あっ、あっ!! シン、すごい、気持ちいいっ……大好き、シン、愛してるっ」
 マムがぎゅっと僕に口付けしてきたとき、とうとう僕は我慢できなくてマムの中に射精した。
 それからマムは、僕の上に跨ったままで、ぼろぼろと涙を流していた。
「こんなに好きなのに、どうしてだめなの」
 僕は麻痺のようやく解けた体の上半身を起こすと、しゃくりあげるマムの体を泣き止むまで抱いていた。


 目を覚ますと、もう起床の時間をとうに過ぎていた。
 僕は、夢精したパンツをあたらしいのに履き替えると、マムの待つコクピットへ向かった。
 コクピットのガラスの向こうには水が満たされ、そこには巨大なクジラの脳がぷかぷかと浮いていた。
脳には電極がつながれ、伸びたコードが潜水艦のあちらこちらにつながっているのを、僕は知っている。
 この脳が、マム。
 人工的に処理された雌クジラの脳。僕らの乗っている、巨大な潜水艦の重要な、文字通りブレイン。
 他の人は朝食のため食堂にいるせいか、ここには僕の姿しかない。
 マムは、時々、誰かの夢に干渉するようになった。それは、一様にクジラの黒い尻尾が生えているが、
少女の姿だったり、妖艶な女性だったり様々だ。けれど、現実に居る彼女はこの巨大な脳がただ一つ。
「マム」
 透明な壁に手を当てて、僕はマムに呼びかけた。けれど、マムは喋らなかった。マムが干渉できるの
は、舟の操作と、僕たちクルーの夢の中だけだから。
「マム、ごめんね」
 僕がそう言うと、船が少しだけ、泣いたように揺らいだ気がした。



 おわり