「ふう、今年はちゃんと年越し蕎麦を食べれたぞ」

ホカホカと湯気を立てる年越し蕎麦(カップ麺)を啜りつつ、俺はポツリと独り言を漏らした。
去年は某お笑い特番を見ていた所為で年越し蕎麦を食いそびれてしまったが
今年はその反省を活かし、某お笑い特番をビデオした上でキチンとカウントダウンに望んだのだ。
一度やった失敗と同じ轍を踏まない、これは俺、狭山 光喜のポリシーでもある。
……まあ、あの獣人二人の前では、そのポリシーも守れそうに無いのだが……。

「ごっそさんと」

年越し蕎麦の汁まで全部飲み干した後、俺は空となった容器を洗い、プラゴミ入れへ放り入れる。
そして、その脚で玄関へと向かい、玄関のドアノブへ手を掛ける。
多分、俺の予想が正しければ……

「光喜っ! あけおめ―――って、のわぁっ!?」
「光喜さん、開けまして……って、ああッ、先輩! 大丈夫ですか!?」

俺がドアを開け放ったと同時に、
恐らくドアを思いっきり開けようとしていたであろう着物姿の虎姐が肩透かしを食った形で玄関へ転がりこむ。
そして、その後に居た獅子沢さんが虎姐が転んだのを見て慌てた声をあげた。

……ほーら、思っていた通りだ。 やっぱり来ていたよ、この二人。
もし、俺がドアを開けていなければ今頃、ドアは去年と同じく悲惨な事になっていた事だろう。
あの時の修理費、結構高かったんだぞ? と……それより、

「あけましておめでとう、虎姐」
「は、はは、あけおめだ……」

ジト目で虎姐を見下ろしながら言う俺に、やや引き攣った笑みを浮かべつつ立ち上がる虎姐。
後に居る獅子沢さんも虎姐と同じく、引き攣った笑みを浮かべていた。
どうやら、先手を取られた事が相当堪えている様で。……だが、俺はこれで終わらせるつもりは毛頭無い。

「んで、いきなり来て何の用だ? ……まあ、多分、虎姐と獅子沢さんの事だ。
多分 『寂しさを紛らわす』とか何とか言って、俺を性的な意味で襲うつもりだろうけどな」
「それは違うぜ、光喜」
「……何?」

違うだと? まさか俺の予想が外れるとは……!?
じゃあ、虎姐達は一体何の用で俺の家に来たって言うんだ?
と、思わぬ否定に若干戸惑っている俺へ、虎姐は朗らかに笑いながら言う。

「いやな、ここに来る前にアキラと二人で話し合ったんだけどよ、
話し合った結果、やっぱまどろっこしい事は抜きにしよう、って事で話が落ち着いてよ」
「それで、もう最初から姫始めをするつもりで来たって訳なんですよねー?」
「ま、そう言う事だから、光喜。 覚悟しろよな~?」

なるほど、回りくどい理由抜きにストレートに来ましたか。 
しかし、それならば俺にだって対処する手段はある!

「二人には悪いが…今年こそは初日の出を拝みたいのでね。―――ここは逃げさせてもらう!」

叫ぶと同時にポケットに入れていた玉のピンを引き抜き、じりじりと俺に迫ろうとしていた虎姐達に向けて放り投げる。
その投げられた玉が、ちょうど俺と虎姐達の中間地点に差し掛かった辺りで、

ポム バシュゥゥゥゥゥ!!

――――玉が破裂して強烈な閃光を発し、玄関を白一色に染め上げた!

『うおっ、まぶしッ!』

二人とも突然の事に対応出来なかったらしく、まともに閃光を直視して何処かで聞いた悲鳴を上げる。
無論のこと、俺はその時には踵を返し、窓に向かって走り出している。
予めこれを予想し、あるクラスメイトから閃光玉(所謂フラッシュグレネード)を貰っておいて正解だった。
後であいつにパンの一つでも奢ってやるとしよう。

しかし、思った以上に強い光だった所為で俺も目を少しやられたらしく、前が良く見えない。
だが、それも見越して窓の位置は頭の中に叩き込んであるし、ついでにこの時を予測して窓は開け放ってある。
更に外へ逃げる事を考え、靴と財布を入れたリュックサックを背負っていたりもする。

うん、なんという用意周到ぶり、流石は俺。去年の反省を活かしきっているぞ。
これで後は窓の外へ脱出し、そのままほとぼりが冷めるまで隠れるだけ!
そうやって俺が自由の為の逃避とばかりに、窓があるであろう位置へ向けて前かがみの体勢で走り出した矢先

ふにゅん

―――俺の顔に当たる非常に柔かく弾力のある物体。それと同時に俺の身体が何かによって受け止められる。
何やら激烈に嫌な予感を感じつつ、顔を上げてみれば……

「新年になったものだから挨拶くらいはしていこうかと思っていたのだが……
いきなり人の胸元に飛び込むとはな、中々大胆になったものだな、光喜」

ほぼ目の前に、俺に向けてニヤリと微笑む熊谷さんの顔があった。

「え、えっと……義姉さん? 何で窓から入ってきているのですか?」
「ん? 何、少し少し意表を突いてみたいなと思ったのだが……今回は逆に意表を突かれてしまったな」
「そ、そうですか……で、もう一つ聞きたいんですけど、何で俺の身体をしっかりと抱き締めているんですか?」
「うむ、それはな、久方ぶりに再会した義弟へ親愛を込めてハグをしたくなったからだ」
「じゃ、じゃあ……もう一つ聞きたいんですけど、
そのハグの体勢から俺の身体を脇に抱える体勢に変えて、一体、これから如何するつもりなんでしょうか?」

まあ、聞かなくても頬をほんのりと赤く染めて、さらに隻眼の瞳を潤ませている時点で予想はついているのだが……。

「無論決まっているだろう、子猫ちゃんに邪魔されない場所でじっくりと楽しむ為にこれから移動するからだ」
「や、やっぱりそうなるのかぁぁぁぁぁっ!!」

予想通りの結果に俺が悲鳴に近い叫びを上げる間も無く、俺を抱えた熊谷さんが窓の外へ飛び出す。
その際、ようやく視界を取り戻した虎姐達がこちらの様子に気付いたらしく、俺の部屋の方から騒ぐ声が聞こえた、
だが、もうこの時には、熊谷さんは俺を抱えたまま夜の街へと走り出している。

「さあ、今夜は一晩中楽しもうじゃないか、光喜」

そして、虎姐達を振り切った熊谷さんが抱えている俺に向けてニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。
もう、この時の俺に出来る事といえば、覚悟を決める事しかなかったのであった。



……その後、近くの公園で熊谷さんに一晩中犯されつづけ、結局、俺は初日の出を見逃す事になった。
そして、その帰りに寄った神社でお御籤を引いてみると、出たのは『大獣吉』だった。

……去年よりパワーアップしてやんの……。

―――――――――――――――――――了―――――――――――――――――――――――――――――――――