「猫の集会」

猫たちには公園や空き地に数匹から数十匹が集まって集会をする習性がある。
野良猫・飼い猫の区別なく、である。
これがいわば猫の集会と呼ばれるものだ。
そしてそれはこの世界に住む猫獣人たちにとっても例外ではない。
さて、この集会。ここでは一体いかなることが話されているのであろうか。
今日はその謎を探るべく、この高性能赤外線カメラを公園に設置した。
早速獣人たちがやってきたようである…

「うい~っす」
ベンチで1人佇んでいた獣人が入り口に2つの影が現れると同時に立ち上がった。
茶色がかった髪から生えるやや尖った猫耳に、すらりとした体型。アビシニアンの獣人である。
「タマキちゃん、こんばんはだよ~」
「こんばんはです」
2人が同時に挨拶。
1人は三毛猫、もう1人はアメリカン・ショートヘアの獣人のようだ。
「…これだけ?」
タマキと呼ばれたアビシニアンの獣人が訝しげな声を出す。
「誘ったんだけど、ねえミヤコちゃん…」
三毛猫の獣人が傍らのアメリカン・ショートヘアの獣人に振り向く。
「うん、チカちゃん…」
俯く2人。
「ったく最近は… まあいいわ、早速本題に移りましょう」

「にゃ? 本題?」
チカが首をかしげる。
「エッチのことに決まってるでしょう」
途端に2人の顔が赤く染まる。
「タマキちゃん、セクハラだよお…」
「そんなのいいじゃないですか…」
「だって、それ以外大して話すこともないでしょ。
 …異存が無いなら私から話すけど?」
問われても2人は顔を染めたまま動かない。
タマキははぁ、とため息をつくと、髪を払って2人に向き直った。


「にゃ? 本題?」
チカが首をかしげる。
「エッチのことに決まってるでしょう」
途端に2人の顔が赤く染まる。
「タマキちゃん、セクハラだよお…」
「そんなのいいじゃないですか…」
「だって、それ以外大して話すこともないでしょ。
 …異存が無いなら私から話すけど?」
問われても2人は顔を染めたまま動かない。
タマキははぁ、とため息をつくと、髪を払って2人に向き直った。

「私はこないだの週末の夜、いつもの様に駅前に行ったの。
 普段のメイクに加えてマタタビ入りの香水を少し付けてみたわ。
 そうしてその辺りをうろついてたら、やっぱり馬鹿な男はいるものね、声を掛けられたってわけ。
 そのままホテルに直行して、エッチしたの。私から襲ってね。
 しっかし最近のは軟弱だわね。4回くらいで音を上げるとは思わなかったわよ。
 ストレス解消にもならないわ。
 やっぱり人間の男じゃダメなのかしらね。
 今度は3Pでもやってみようかしらね。はい。以上、終わり」
一気にまくし立てると、何事も無かったような顔をする。
「うわぁ、ビッチだ、ビッチがいるよお…」
「相変わらず不潔なんですね…」
口々に非難の声を上げる2人。
「煩いわね…まあ、いいわ。
 さてと、私は話したわよ? 今度は貴方たちの番ね」
途端に2人の顔が赤く染まる。
「わ、わたしは、そんな…」
「そ、そうですよ、ちょっと…」
共にじりじりと後ずさる。
「なあに? 2人とも彼氏はいるんでしょ?
 …まさか、別れたとか?」
それを聞いて、2人が文字通りに飛び上がって抗議する。
「そ、そんなわけないよおっ!」
「達也先輩と私がわ、分かれるなんてありえませんっ!」
詰め寄る2人を制するタマキ。
「落ち着きなさいて…はいはい分かったから。
 そんなに好き合ってるなら聞かせてくれていいじゃないの」
その後、しばらくうーうーと迷っていたが、やがてチカがおずおずと口を開いた。
「ええっ…と、…わたしのこっ、恋人、分かるよね…?
 たっくん、一応幼馴染、なんだけど…
 えっと、えっちは…1日5回、くらい、だよ…」
その時、ミヤコがベンチにドサッと音を立て倒れ込んだ。
「え、ちょっとミヤコちゃん!?」
「まけた…」
「え?」
「負けた~~~っ!!」
手足をじたばたさせる。
「負けたって、何が…?」
「私、そんなにエッチしてもらってないよお~!
 最近、襲っちゃえと思っても先輩すぐ逃げちゃうんだもん。
 ずるいずるいずるい~~~~~!!!」
「そ、そんなこと言われても…」
を言われ、チカは困り果てた様子である。
「うう…じゃあ勝負だよ、チカちゃん!」
「勝負?」
「次の集会までに何回エッチするか、勝負! わかったね?」
「よ、よくわかんないけど、とにかくエッチすればいいんだよね!?
 よ~し、負けないよお~~~!」
「………あのねぇ…」
と、ここで傍観していたタマキが口を開いた。
「あなたたち、盛り上がるのはいいけど… 相手の事も考えなさいよ?」
2人してきょとんとした顔をする。
「たっくん、別に平気だよ?」
「先輩は人一倍丈夫な人なんですよ~」
はぁ、とため息をつくタマキ。
「まあいいわ…せいぜいお幸せにね」

「あのぉ、おねえちゃんたち…?」



その時、不意に暗闇からもう1つの声が聞こえた。
皆が一斉に視線を向けると、やはり新たな獣人の姿がある。
長くふわふわとした白い毛を持つペルシャ種の一種、チンチラの獣人である。
顔つきと背丈から見るにまだ子供のようだ。
「どしたの? 何か用?」
タマキがしゃがみこんで視線を合わせる。
「わたし、シアっていいます… えっと、こうかくのかな…?」
落ちていた小枝を拾い地面に詩亜、と書いてみせる。
「それでね、ええと…きょうはそうだんがあるの…」
「うっわー、相談なんてされるの初めてだよお~!
 ねえミヤコちゃん、楽しみだね!」
「静かにしなさい…それで、相談って? なんでも聞いてあげるわよ」
チカを黙らせ、シアの顔を覗き込むタマキ。
そして、小さな猫の獣人はぽつぽつと話し始めた。

「あの、わたし、もともとその、すてられてた、らしいんだけど、…
 でも、いまのご主人さまが、わたしをひろってくれたの…
 ご主人さま、とってもやさしくて、だいすき、なの…
 それでね、わたし…
 ここで、いっつもそのおねえちゃん(タマキをちらりと見た)がここではなしてるのをきいて…
 ご主人さまがねてるとこに、ふ、ふくをぜんぶぬいで、もぐってみたの…
 そしたら、ご主人さまね、『お前にはまだ早いよ』っていったの…
 これって、どういうことなの…?
 わたし、きらわれちゃったのかなぁ…?」
それだけの事を言い終えると、しゅん、と俯いた。
「………えっと、………」
「…最近の子はませてるんですね…?」
「…っていうか、タマキちゃんのせいじゃ…?」
「五月蠅いわね…私が解決すればいいんでしょう!?」
タマキの優しげな雰囲気の変化に、シアがびくっと体を震わせた。
「あっ、ごめんね… ほら泣かないで。
 シアちゃん、だったかしら?」
シアがやや不安気に頷く。
「ええとね、それは嫌われたんじゃないと思うわよ?」

「えっ…」
「何といったらいいのかしらね。
 まあ、手をだしたら犯ざ…ううん、貴方はね、『そういうこと』をするにはまだ体も心も本当に小さいの。
 もしも『そういうこと』をしたら、きっと傷ついてしまう。
 貴方の好きな人も、きっと貴方が好きだから、そう言うんだと思うわ」
「ご主人さまが、わたしのこと、すき…?」
「きっと、いや必ずそうよ。私が保障するわ」
「ほんとに…?」
「本当よ」
胸を張ってシアに答えるタマキ。
「ご主人さまが、わたしを、すき…」
そのまま考え込むシア。
「わかったあっ!」
考え込んで、突然に大声を上げた。
「シア、わかった!
 わたし、がんばる!
 おねえちゃんたち、ほんとにありがとっ!」
そのまま、公園の入口に向かって駆け出していく。
「ほんとにありがと~~~っ!!!」
そして、真っ白な髪をなびかせながら、夜の闇へと消えていった。
3人はその様子をあっけに取られながら見守っていた。

「何だったんだろ…?」
「せ、性の乱れってホントに凄いんですね…?」
「まあ、私たちも人の事は言えないけど…
 …それにしても、光源氏計画かあ… ご主人さまとやらの顔を見てみたいものね」
「ひかる…? 何ですかそれ?」
「知らなくていいわ。
 さてと、悩み相談も解決したとこで、お開きにしますか」
伸びをしながら言う。
「ふにゃあ…そうだね、タマキちゃん」
「次はいつなんですか~?」
「まあ、その辺は適当でいいわ。気の向くまま、ってのが猫でしょう?」
「そうですか。また来ますから、伝えて下さいね」
「分かったわ」
チカとミヤコが入口に向かい歩いて行く。
「チカちゃん、あの約束忘れちゃダメだからね!」
「分かってるよお! よ~し、とりあえず起こしに行く時に一回しようっと!」
「あ、それ私もやるっ!」
「真似しないでよお!」
そんな言い争いを呆れ顔で見つめるタマキ。
やがて2人の影が入口に達すると、猫特有の俊敏さでしゅっとその影が姿を消した。
公園にはタマキが1人残される。
「さてと…
 気付かないとでも思ったかしら?」
その瞬間、タマキの影がぱっと消えたかと思うと、俺は隠れていた茂みから引っ張りだされていた。


「なっ…何で分かった!?」
「野生の勘を舐めてもらっちゃ困るわよ?
 それに最近多いのよね~、あんたみたいな覗きが目的の手合い」
「お、俺をどうする気だ…?」
「そうねえ…?」
その時、四方八方からの視線を感じ、身震いをしてしまった。
「あら、みんな何だかんだでこういう時は来ちゃうのねえ。
 まあいいわ、いっちょ皆でいきましょうか」
そのままわらわらと涌いて来た猫獣人一同によって抵抗空しく引きずられていく。
「た、頼む…」
「私たちの秘密を知った罪は重いわよ」
ああ、こんな事になるなら興味本位で覗いたりするんじゃなかった。
さよなら俺の貞操。

「私たちの『夜の集会』はこれからよ… 覚 悟 し な さ い ね」

おわり

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最終更新:2009年01月11日 22:43