あの子を拾ったのは、小学校一年の時。
冬休み間近のある日。ダンボールの中で、今にも消え入りそうな弱々しい声で鳴いてた子猫を見つけて、家に連れ帰った。
鳴き方が『ミィミィ』という感じだったから、ミィ。今考えれば安直極まりない名前だ。
最初はすぐ死んじゃうんじゃないかと思ったぐらい、痩せてて、汚くて、見るからにみすぼらしい猫だった。でも、体を洗ってやって、
餌もしっかり食べさせてやると、ミィは見る間に元気になった。パサパサだった毛も女の子らしくさらさらになり、体重もグッと増えた。
ミィとはいつも一緒だった。学校に行く時は玄関で見送ってくれたし、帰ってくる時も玄関でお出迎えしてくれた。母さんから聞いた話に
よると、ミィは僕が帰るきっかり五分前に、なぜかしっかりと玄関で待っていたらしい。
僕はミィが大好きだった。たぶん、ミィも僕が好きだった。だから、ずっと一緒だった。
寝るときも、起きるときも、ご飯のときも、お風呂にまで、ミィはついて来た。この先もずっと、ミィとは一緒にいられると思っていた。
でも、小学校三年になったある日。
ミィは、フッと姿を消した。家のどこにもいない。父さんも母さんも知らない。僕は泣きながら母さん達をなじり、一人でミィを
探し回った。学校を、友達の家を、近くのコンビニを、あっちこっち探し回って、それでも見つからなくて、僕はまた泣いた。
その日以来、ミィは二度と僕の前に現れなかった。
猫は、死期が近づくと一人で死に場所に向かい、誰にも見られないまま死ぬ。そんな話を聞いたけど、僕には信じられなかった。
そもそも、ミィは拾ったとき子猫だったんだから、寿命まではまだまだ先のはずだった。でも、こうして姿を消した以上、僕は
それを信じざるを得なかった。
深い深い悲しみも、時が経てば徐々に癒える。一日経ち、一週間経ち、一年も経つ頃には、その悲しみもだいぶ薄れていた。
それでも、僕は道端で猫を見かけるたび、その猫がミィじゃないかと思った。心のどこかでは、まだ僕は泣きながらミィを探していた。
だけど、見つかるはずもなく。
いつしか、僕は小学校を卒業し、中学も卒業し、今は高校三年になっている。
目前に迫る大学受験。とりあえず志望校はあるけど、そこに入るには成績が足りない。というか数学がやばすぎる。この前の中間でも
赤点だったし、とにかくこの数学をどうにかしない限り、浪人するのが目に見えている。
他はまだいい。国語なら絶対の自信があるし、英語もそれなりに得意。でも、数学はやばい。因数分解のやり方を覚えたのが一昨日だと
言えば、どれくらいやばいかはわかってくれるかと。
そんなわけで、僕は今日も勉強机に向かい、必死に勉強していた。とりあえず、今日の目標は微積分を覚えること。
時計は午前1時を指している。もうそろそろ寝たいところだけど、あとこの問題集1ページを終わらせてからじゃないと、区切りが悪い。
カスっと、小さな音が聞こえた気がした。何か硬いものが窓ガラスを軽く引っ掻いたような、妙な音だった。でも、ここは二階だし、
何かが当たるなんてあまり考えられない。
気を取り直して再び問題集に向き合うと、また例の音が聞こえた。今度は、さっきよりはっきりしている。
「……何だよ?」
怖さを隠すためにそう声に出し、そっと窓に掛かるカーテンをめくってみた。
外は何もない。ただ、暗い空が広がるばかりだ。
「何もない、か。そりゃ、そうだよ…」
カスン、と、今までより大きな音。心臓が口から飛び出るんじゃないかと思うぐらい驚き、思わずそこから飛びのいた。
何かが、いる。正直、怖いのは苦手だ。このまま放っておきたい気もするけど、正体を確かめたい気もする。ていうか、正体が
わからないと安心できない。『幽霊の正体見たり~』って言葉もあるし、きっと何かが窓ガラスに当たってるんだろう。
そう自分に言い聞かせ、僕は震える手で窓の鍵を外した。そして一回深呼吸し、思い切り窓ガラスを引き開けた。


その瞬間、外から何かが部屋の中に飛び込んできた。
悲鳴すら押し潰され、僕は本能的に飛びのいていた。その影は部屋に入ると、当たり前のような動作でベッドにポンと飛び上がった。
「オッス、久しぶりー」
影が、喋った。しかも、その影は見覚えがある。
黒と白のぶち。さらっとした毛艶。僕を見つめる金色の瞳。ピンと立った耳。唯一記憶と違ってるのは、尻尾が根元から二本生えてる
ことぐらいだけど、僕が見間違えるはずがない。
「ま、ま、ま、まさか……ミ……ミィ…?」
「そうだよ。えーっと、確かここ出たのがあの時だからぁ…」
ミィはひょいと前足を持ち上げ、ひいふうみいと指折り数え始めた。
「……うん、9年ぶりだねー。元気?」
「いや、元気も何も…」
言いたいことと聞きたいことは山のようにあった。あの時なぜ消えたのか。今まで何をしてたのか。今の姿はどういうわけなのか。そして
何のために戻ってきたのか。
すると、ミィはふ~っとため息をついた。
「質問の多い奴だなー。一つずつにしてくれる?」
「えっ!?……まさか、僕の考えてることわかったとか?」
「そうだよ。ほらほら、見て見て。これ、猫又の証!」
誇らしげに言い、二本の尻尾をグネグネと動かすミィ。とりあえず、今まで何をしてたのかは、おぼろげながらわかった。
「わかってくれたねー。ん~で、あの時いなくなったことだけどぉ~」
もう、何だか驚きの許容量を一気に突破してしまうと、すべてをあるがままで受け止められるんだなあと言うことがよくわかった。
突然帰ってきた猫が、猫又という妖怪と化し、べらべらと人間の言葉を喋っていると言うのに、僕は一瞬のうちに、それに順応して
しまっている。もはやここまでくると、呆れるしかない。
「そ、それより!どうして何も言わないでいなくなったんだよ!?みんな、どれだけ心配したか…!」
「えー。だって、下僕にいちいち断る必要ないじゃん」
僕は耳を疑った。
「……はい?」
「だぁかぁらぁ、私が消えたのだって、猫又になるためなのよ。だって、そうしたらもっとみんな、私のこと大切にしてくれるでしょ?」
「……はいぃ???」
「あーもう、相変わらずあったま悪い下僕だなあ」
ミィはイラついたように言うと、ベッドにクタッと寝そべった。
「いや、そもそも下僕ってのは、一体どういうつもり…?」
「だぁって。みーんな勝手にご飯くれるし、可愛がってくれるし。それって、私が偉いからでしょ?」
「………」
「だ・か・らぁ、もっと偉い猫又になれば、も~~~~っとみんな、私のこと大切にしてくれるでしょ?」
「………………」
感動の再会、なんていうのは世界中に溢れてるけど。9年ぶりに帰ってきた猫をぶん殴りたくなったなんていうのは、世界中どこを
探しても、僕ぐらいのものじゃないだろうか。ていうか、こいつはそんなつもりで今まで過ごしてたのか。
「まあ細かいことはいいや。でもねー、あんたは下僕の中で一番頭悪いけど、私の命助けてくれたり、寒いとき湯たんぽになって
くれたりしたからさ。少しは私の方も、あんたのために何かしてやろっかなーってさ」
「……はぁ」
「んーじゃ、まずはあれかなー」
そう言うと、ミィはギランと目を光らせ、僕の顔を見つめてきた。何か、やばい予感がする。


「な……何する気?」
「一週間ぐらい見てたんだけどさー。あんた、子供作りたいんでしょ?」
「なっ!?」
「だって、精液ビューって出して、ティッシュに包んでそこの箱に溜めてるじゃん」
何か壮絶な勘違いをされてるのはともかく、一体こいつは何をどこまで、どこから見てたんだ!?
「いやっ、そのっ、それは別に子供作るためとかそういんじゃなくてっ!だ、大体、子供がほしかったら女の子いないとダメだろっ!」
「ん~?違うの?……あ、そっかー。女がいないから、たまにそうやって自分で精液抜いてるんだねー。へー、人間って面白いなあ」
なんか微妙に傷つけられてる気がする。それはまあ、この際置いておく。なぜ、ミィは僕に近寄ってくるんだ。
「な、何する気だよ!?」
「ほんっと、頭も悪ければ勘も悪い下僕だよね。私が相手してやろうっての」
「ま、待て待て待てええぇぇ!!!そ、その、気持ちはありがたいけど、僕にそういう趣味はないっ!」
「あ、体が合わないかー。でも大丈夫!私は猫又だもん!」
言うなり、ミィは軽く目を瞑った。途端に、ミィの体は見る見る大きくなり、僕とほとんど変わらない大きさにまでなった。
猫というより、今のミィは虎に近い。
「これで大丈夫でしょー?」
「そ、そういう問題じゃなああぁぁい!!!」
「えー、じゃあ何なのよ!?あ、わかった。人間相手じゃないと嫌ってんでしょー?ほんっと、下僕の癖に注文の多い……まあいいか。
下僕相手なら、下僕の仲間の体でお相手した方が、分相応ってもんよね」
この鼻持ちならない猫はそう言うと、再び目を瞑った。すると、今度は体型がどんどん変化し、体中の毛も消え、数秒後には、一人の
女の子の姿になっていた。しかも当然というか、裸だ。
「今度こそいいよね?」
結構可愛い姿だった。確かに、いいか悪いかと聞かれれば、むしろこっちからお願いしますと答えたいぐらいではある。
張りと艶のある肌。ほっそりとした体に、ほんのりと膨らんだ胸。その割にお尻ははっきりと丸く大きく、キュッと引き締まっている。
猫だけに、下半身は結構筋肉がついてるのだろうか。
それにしても、猫で9歳といえば結構な高齢のはずなのだが、今目の前にいる女の子はどう見たって僕と同じ程度だ。尋常ならざる存在に
なったためなのか、それともわざわざ僕に合わせてくれたのか。が、さすがにこのまま流されるのはやばい気がした。
「えーと、その、それは確かにいいんだけど……ただ、僕にも心の準備ってもんが…」
「何よ!一週間待ってやったじゃない!」
「はぁ!?知らん!いつの一週間だ!?」
「今から一週間前!」
「知らん!」
「私は一週間で覚悟決められたのに、あんたはできないっての!?」
「一週間前から、君がここにいたことすら知らないぞ僕は!」
「そんなの知らないよ、下僕の都合なんて!」
「無茶苦茶だ!」
ミィが僕の体を掴む。あっと思う間もなく、次の瞬間には体が宙を舞い、ベッドの上に放り投げられる。おまけに何か術でも
かけられたのか、体がピクリとも動かせなくなっている。
のそりと、ミィが僕の足元に乗ってくる。
「お、おい、ミィ……よせって…!」
「へっへ~。私だって、結構人間の勉強したんだよ。こういう時どうするかなんて、ぜ~んぶ知ってるんだから」

ミィがズボンに手を掛ける。妙に苦労しながらベルトを外し、ジッパーを下ろし、グイッと引っ張る。ミィの裸を見せられていたおかげで、
僕の股間は既に臨戦態勢だ。
「お?もうでっかくなってる。人間って、本当にいっつも発情してるんだねー」
何だか楽しそうに言うと、今度はトランクスに手を掛ける。それをえいっとばかりに引き下ろすと、その下から現れた僕のモノを見て、
ミィは少し体を引いた。
「わ……人間って、ここ無駄にでっかいね」
無駄で悪かったな、と返そうとしたが、声すらも出せなくなっている。やはり金縛りにされているようだ。
ミィの手が、怖々と僕のそこに触れる。それがビクッと動くと、ミィもビクンとして手を引っ込める。何度かそれを繰り返し、ようやく
それを握ると、ぎこちない動きでゆっくりと扱き始める。
「うっ…」
初めて他人から受ける刺激に、思わず呻く。どうも意図しない動きはできるらしい。
「ふ、ふーん。熱くて硬い……変なの…。えっと、それで、次は確か…」
ミィは一旦体を離し、僕の目の前で足を広げて座る。そして、今度は自分の秘裂に指を這わせる。
「んっ!に、人間の体って、面白い……ここ触るだけで、何だかビリってするぅ…」
うっとりした声で言い、少しずつ指使いが激しくなっていく。目の前でこんなオナニーショーなど見せられて、我慢できる男などいない。
が、さすがに元が猫であるだけに、ミィとするのは抵抗がある。しかし悲しい事に、体の方は完全にミィを求めてしまっている。
「あ、ぬるぬるしてきた…。これで、準備オッケーなんだよね?」
自分の指についた液体をじっと見つめ、そっと指を開くミィ。にちゃっと小さく湿った音がし、指の間に白い糸が引かれる。
「うん、だいじょぶそう」
抵抗できない僕に跨り、ミィは何だか楽しそうに僕を見下ろす。もしかして、僕に対して何か云々ってのはただの建前で、本音は自分が
楽しみたいだけなんじゃなかろうか。
「それじゃ、いくよー」
僕のモノを乱暴に掴み、それを入れるべき場所へ押し当てると、ミィはそこに全体重をかけた。
「うっ…!」
「いっっ!!!!!」
ものすごく熱い。そして、ミィの中はぬるぬるしていて、きつく僕のモノを締め上げる。初めての感覚に、僕は一瞬で
イってしまいそうになる。
が、ミィはそれどころではなかった。
「ったあああぁぁーーーーーい!!!!痛い痛い痛い!!!痛いよぉ!!!痛いの嫌ぁーー!!!」
「お、おいおい!ミィ、大丈夫!?」
体を起こし、その体を抱き締めてから、ようやく僕は術が解けているのに気付いた。
「嫌だよぉ……痛いよぉ……うぅ、人間の体ってやだぁ…!」
「もしかして、初めてだった…?」
涙で濡れた顔を上げようとせず、こくんと頷くミィ。言われてみれば、ちょっと血が出ている。
「……勉強不足だったね」
「馬鹿の下僕の癖に、うるさいなぁ…!」
ただの強がりなんだろうけど、さっきからこの下僕呼ばわりと馬鹿呼ばわりには少し頭にきていた。


今の状況を、サッと頭の中で分析する。僕はミィの体を抱き締めると、軽く腰を突き上げた。
「痛いっ!や、やめてよ!動かないでよー!」
「じっとしてたって、僕は気持ちよくないから」
「痛いのぉ!動かれると痛いのぉー!だから動いちゃダメぇ!」
その声を無視し、再び腰を動かす。ミィは悲鳴を上げて僕にしがみつき、背中に爪を立ててくる。
「痛たたた!!!ちょっ、ミィ痛いって!」
「私だって痛いんだってばぁ!もう動くなぁー!」
ポンッと、ミィの頭から猫の耳が飛び出した。
「み……耳が出たけど…?」
「うぅ……術が持続できないよぉ……だから、あんまり動くなぁ~…」
続いて、二股になった尻尾がポンと現れる。さらに、背中に回された手の感触が変わり、柔らかい肉球の感触になる。
しかし、それが意味することに気づき、僕はゾッとした。猫の手になってしまったのなら、もし爪を立てられるとただでは済まない。
それに、こんな状況で完全な猫になられると、色々と終わる気がする。仕方なく、僕はミィを抱き締めたまま、じっとしている事にした。
口では、じっとしてても気持ちよくないとは言ったが、実際はそうでもない。というか、初めてのセックスなのだから、気持ちよくない
わけがない。震えるように締め付けてくる感覚や、熱くぬるぬるした感触だけで、僕は今にもイキそうになっている。
ところどころ猫に戻ったミィは、それ以上猫化が進まないように術をかけ直しているらしい。やがてそれが済むと、僕の体に
しがみついたまま、大きなため息をついた。
「やっと、痛くなくなってきた。それじゃ、動くよ」
ほんの少しずつ、ミィが腰を動かし始める。ぬめった膣内が、僕のモノをきつく締め上げながら扱くその感は、今まで感じたことも
ないような快感をもたらす。
「あっ!んっ!す、少し余裕できたら……あぅっ!なんか、気持ちいい……かも…!」
ミィも楽しみ始めたらしく、その動きはどんどん性急になっていく。僕の方も、動かしにくいながら無意識に腰を動かし、ミィの体内を
突き上げる。その度に、ミィは鼻に掛かった可愛らしい喘ぎ声を上げている。
しかし、さすがにもう持たない。ただでさえ限界近かったのに、こんな刺激を受けて、こんな声を聞かされては耐えろと言う方が無理だ。
「ごめん、ミィ…!もう、出る…!」
「いいよ、全部出していいよ…!あんたの精液、全部……んんっ……受け止めて、あげるから…!」
ミィの中が、一層強く締め上げてくる。それで完全に、僕はとどめを刺された。
「ミィ!もうっ……うぅっ!」
「うあぁ!熱い……熱いのが、私の中に出てるぅ…!」
ミィの体を抱き締めたまま、僕は思い切りミィの中に精を放つ。ミィはうっとりした表情で、その快感に浸っている。
最後の一滴まで残らずミィの中に出すと、僕はモノを引き抜いた。ミィの尻尾と耳がピクンと震え、完全に抜けると同時に、
ミィはクタッとベッドに倒れた。
「痛かったけど、気持ちよかったぁ…。あとでまた、しない?」
「いや、それはその…」
一回出してしまうと、悲しい男の性で、僕はだいぶ冷静になってしまっている。そこで、僕はやりかけの問題集を思い出した。
「っと、そうだ!僕明日も学校あるし、これやって寝なきゃなんだよ!」
「ん~?何それ?冬休みの宿題みたいなもの?」
「いや、確かに問題集だけど、このページだけでも終わらせなきゃ…!」
それを聞くと、ミィの目が再びキランと輝いた。
「それ、終わらせればいいのね?」
「……今度は何考えてるの?」
「それもね、やってあげようと思ってたんだ!あんた、算数苦手~とか言って泣いてたじゃない?」
「嫌なこと覚えてるね……でも、これ今は数学って言って、昔よりずっと難し…」
「いいからいいから!気取った名前で言ったって、算数には変わらないでしょ?私、今なら割り算だってできるもんねー!」
とっても頼もしい言葉を吐くと、ミィは猫の姿に戻って机にぴょんと飛び乗った。そして、問題集をじっと見つめる。
「……何これ?」
「……微分と積分」
「どうやるの?解き方わかれば、私ができるから教えて」
「あ~……だから、この微積分ってのはね――」
こうして、僕はこの1ページを終わらせるのに、いつもの数倍の時間をかける羽目になった。徹夜になったのは、言うまでもない。

ミィが僕の元に帰ってきてから数ヶ月。とりあえず、父さんと母さんには猫又だということは隠し、また昔みたいに猫のいる生活に
戻った。猫又であることをバラすと、逆にミィの身が危険だということをわからせるのには非常に時間が掛かったが、今では一応納得
してくれている。二股の尻尾は、普段はうまい具合に一本にまとめ、普通の猫のように振舞っている。
今日は大学の合格発表の日だった。僕は絶対の自信を持って合否を見に行き、そして当然のように、合格を家族に伝えた。
「私のおかげだよねー、大学に合格したのは」
「そうだね。本当にミィのおかげだね」
「あんたも立場わかってきたじゃん。そうやって素直なのが一番だよー」
うん。確かにミィのおかげだ。
あれ以来、やる事なす事、全部ミィに教えながら勉強する羽目になったおかげで、僕としては非常にいい復習になっていたのだ。
おかげ様で、学年最下位だった数学もめきめきと順位を上げ、何とか平均やや上の点を取れるまでになっていた。
それに、受験勉強にありがちなストレス解消ができたのも大きい。
ミィはちょくちょく、僕の体を求めてきた。僕としてもそれは大歓迎だったし、ミィは自分がしたくなければ、僕の求めには絶対
応じなかったから、僕がその快感に溺れてしまうこともなかった。
ただ、一つだけ気がかりがあった。
「それで、どう?思いついた?」
「……最後のお願い?」
「そうそう。あんたさ、ずーっと答え引き伸ばしてるじゃん。一応大学合格までは待ったけど、もうそれ終わったんだからいいでしょ?」
ミィは、僕と肉体関係を持つことと、僕の課題を代わりにやることを、僕の願いのうち二つとして扱っていたらしい。体の関係の方は
実に一方的だし、課題の方はまったくと言っていいほど役に立ってなかったけど、そこはもう突っ込んでもしょうがない。
それで、ミィは三つのお願いを叶えたら、また猫又の里へ帰るという。猫又が大切にされるわけじゃないと知れば、ここにいる意味は
もうないそうだ。
だからこそ、僕はその答えをずっと引き伸ばした。結構何でもしてくれるそうだけど、どんな願いが叶えられたところで、
ミィがいなくなるのなら、そんなものに価値はない。
「……何でもいいって、言ったよね?」
「うん、何でも。誰か呪う?それともお金いっぱいいる?あるいは、何か特別な力欲しい?」
「一応、どれも魅力的だね」
「ほんと、なーんでもいいよ。言ってくれたら、何でもその通りにしてあげる」
これを言うのは、禁じ手だという気もしていた。だけど、僕の願いは、これ以外にない。他のどんなものより、僕はこの願いを望む。
「なら……ミィ。もう、二度と僕の前から消えないで、ずっと一緒にいてくれよ」
「え…?」
ミィは一瞬、ぽかんとした顔で僕を見た。そして焦ったように何か言おうとしてはやめ、やがて口を開く。
「……もう、ほんっとに、馬鹿の癖にずるいんだから。私が一緒にいれば、そりゃ何でも願いなんか叶うもんねー。」
憎まれ口のようでも、ミィの顔は抑えきれない喜びに満ちていた。
そういえば、そうだった。ミィは、ずっと不器用だった。
餌をうまく食べられないで、口の周りはいっつも汚れてたし、トカゲを狩ろうとして室外機に頭をぶつけたり、そんな武勇伝はいくらでも
ある。それは猫又になっても、直ってなかったらしい。
「ま、いいよー。何でもって言っちゃったし、そんな簡単な願いなら、いくらでも叶えてあげる」
嬉しそうに二本の尻尾をくねらせ、僕に頭をこすり付けるミィ。僕は彼女を抱き上げ、頬にキスをする。
もう、ずっと離さない。僕とミィは、これからはずっと一緒だ。



「で、この願い叶えたら、毎日本マグロの大トロ食べさせてくれるんでしょ?」
「うちにそんなお金あるか、阿呆」