「ワーレーワー・ウーチューウジンー・ナーノーカーァァァー……」


暖かな春も過ぎ去り、気温も温暖化の影響を素直に受け、だんだんと熱を帯びてきたある初夏の夕暮れ。俺は買ったばかりの中古扇風機を使って、宇宙人の真似をするという考えうる限り最もバカな遊びに耽っていた。

「…ハァー…悲しい…いや、、、侘しい…」

金なし・夢なし・彼女なしの三拍子が見事にそろった俺は、
狭いボロアパートの畳の上で悲しみとやるせなさに暮れていた。


「さて、いつまでもバカなことしてないで、部屋の掃除でもするか…。ん?」

ひとまず扇風機の入っていた段ボールを片付けるために窓を開けた俺は、
ひさしに張られた蜘蛛の巣に、白くて細い小さなトンボのような虫が、かかっている事に気付いた。


「こいつはたしか――蜉蝣だ」


蜉蝣《カゲロウ》 一生の大部分を水中で生活し、成虫になってからはごくわずかな期間しか生きることしか出来ず、その間に交尾、産卵を行う。


頭の中の薄っぺらい昆虫図鑑を参照しながら、俺はその虫を観察していた。
 幸い翅はどこも欠けておらず、巣の主も先日の雨で住処を変えていたらしい。そいつは時折、翅や脚を動かしては脱出を試みるが一向に脱け出せる様子は無さそうだ。


「せっかく地上に出てきたんだからな、逃がしてやるよ。ほれ、そらよっと」

翅や脚を損わないように、慎重に巣から剥がしてやると手のひらに乗せて、フッと軽く息を吹き掛けた。
 蜉蝣はゆっくりと翅を整え、こちらに頭を向けると翅を素早く振るわせ、夕闇へ消えていった。

同日深夜、俺は掃除で疲れていたのか、比較的早い時間に床についていた。ぐっすりと眠りについていた俺だったが、真夜中に涼しい風を身体に感じて、ふと目を覚ました。

(――扇風機はつけてないし、窓を開けっ放しだったかな……)


寝惚け眼で窓の方に目をやると、そこには見知らぬ一人の女性が立っていた。
普通ならば反射的に出ていたであろう、
悲鳴を押し止めたのは彼女のその際立った美しさだった。

胸の辺りまである艶やかな黒髪とそれに反するように白く透き通った肌。
整った顔立ちは眉目秀麗と言うに相応しく、ほっそりとした身体を純白の襦袢に包み佇む姿は、
言い表せぬ凛とした存在感に満ち溢れていた。

暗い闇の中にあっても彼女の姿ははっきりと見ることができた。まるで幽霊のようだと思ったが不思議と怖くは無かった。

「お目覚めのようですね」

女はそう言うと布団の横に正座し深々と頭を下げた。
「まずは突然お邪魔しましたことをお許し下さい」
「いや、えっ、はぃ…」

「私(わたくし)は影乃と申します。
夕刻、旦那様にお助け戴いた、蜉蝣にごさいます。」
「はぁ、そうですか、蜉蝣ですか…ん? 蜉蝣!?」
「左様にございます。
どうしても一言、万謝の意を伝えたく、人の姿を借り、参上致した次第でございます」

「はぁ、それはわざわざどうも」
まるで日本昔話しだな、と思ったが、
彼女の真っ直ぐな瞳と人間離れした美貌には、おとぎ話を現実のものに変える魔力があった。


「この度はまことにありがとうごさいました。
あのままでは私は役目を果たせず、犬死にとなってしまうところでした」

「あ、いえ、それはどういたしまして。……役目?」

「左様にございます。
 我らが役目とは子をなし、次の世に我が子らを残すことにございます。
旦那様のお陰であの世の父母に顔向けができます」

彼女はもう一度、畳に額を擦りつけんばかりに深々と頭を下げた。


その健気な姿を見て俺は、あわてて頭をあげるよう彼女に言った。


「そうなんですか…。まあ、それならば俺も助けたかいがあったってもんです。ぜひ、お役目を全うできるように頑張って下さい」

彼女の丁寧さに触発されて俺は布団の上に座ると、彼女と同じように頭を下げた。

「――やはり素敵なお方…。
実は私、失礼を承知で旦那様に折り入ってお願いがございます。」

にこりと笑い、そう話を切り出した彼女の目はかすかな熱を帯びており、
その目は背筋にぞくりとさせる何かを感じさせた。

「お願い……と言うと?」

「先刻の役目のお話にございます。
無論、子を孕むには殿方の精が必要にございます。 私、勝手ながら人の身に化した時から、
いえ、この身を救われた時から決めておりました。
どうかお願いいたします。
旦那様の精を私にお恵み下さい!」

「えっ、いや、ちょっと、うわっ!」

彼女は熱意の目で俺を見つめたまま立ち上がると、布団の上に押し倒し、そのまま腰の上に馬乗りになった。

「このような恩を仇で返すような真似をして申し訳ありません。
ですが、私には時間が無いのです。ですから、旦那様が嫌と仰られても!!」

「ん!」

その華奢な身体の何処にあったかというほどの力で、俺を押さえつけると、彼女は俺の唇を奪った。
滑らかな舌はあっさりと俺の口内を制圧し、
彼女は自らの唾液を俺に飲ませた。
 その甘く痺れる甘露のような味は俺に抵抗の二文字を忘れさせ、
俺は獣のように相手の唇を貪った。


 甘く激しい口づけを終えると、
彼女は自らの帯を解き襦袢を脱いだ。
彼女の裸身が俺の目に晒される。純白の衣を脱ぎ去った彼女の身体は、変わらず白く美しかった。

誰も踏み入れてない雪の丘を彷彿とさせる腰から尻にかけてのライン。小振りだが形の整った品のある乳房。
 何よりほっそりとしていながらも、
必要な部分には程よく肉のついた身体が俺の欲望を刺激した。

「旦那様。私の裸、いかがですか?」
甘えるような目つきで彼女は訊いてきた。

俺が正直にすごく綺麗だと答えると、
「旦那様のも見せてくださいませ」
と言って、彼女は強引かつ丁寧な手つきで俺の服を剥ぎ取った。

 されるままに裸に剥かれてしまった俺は当然完全に勃起しきった股間を彼女の眼前に晒すハメになる。

「ふふっ、まぁ、旦那様。私、嬉しい…」

彼女はその白くしなやかな指で脈動する肉棒を優しく包み込むと、
ぎこちない手つきでしごき始めた。

 グロテスクな牡の器官とそれを握る美しい指というアンバランスな光景がいっそう俺を興奮させる。

 ひんやりとした指が敏感な部分に触れる度に、鈴口から透明な汁が溢れ出る。彼女はそれを潤滑油代わりにして、さらに激しく俺をを責め立てた。

「うわっ、あっあっ…」

雁首や陰嚢までもを責められる快感に押されて、自然と呻き声が喉から漏れた。
「旦那様のすごい…。とろとろでピクピクしてます…」
トロリとした目つきで一心不乱に俺のものをしごきたてる彼女だったが、
やがてなにかイタズラを思いついた子供のような表情をすると

「旦那様、このようなことは、いかがでしょうか?」

と掴んでいたものを口に含んだ。

「あぁぁっ!」
粘膜と粘膜が触れ合い、手でしてもらうのとは全く違う快感が脊椎を駆け抜けた。
 温かく湿度のある口の中はそれだけでも達してしまうような気持ちよさであったが、
さらに彼女は、さっき俺の口内を犯したものと同じ舌をペニスに絡めてきた。

「れろっ、むふ、ぐじゅっ、ぷはっ」
頭を小刻みに動かし、
舌で全体の形を調べるように丹念に肉棒を舐め尽くすと、
息が苦しくなったのか一旦俺を口撃から解放し、手で奉仕をし続けた。

「実は、私たちは地上に出た後は物を食べる事が出来ないのでございます。
 ですから、きっと私のこの口は旦那様に喜んでもらうためにあるのですね」

彼女は嬉しそうにそう言うと髪をかきあげて、再び屹立を整った唇で包み込んだ。

 手で陰嚢をやわやわと揉まれながら、淫靡な音をたてて肉棒をしゃぶるという二段攻撃は確実に俺を射精へと追い立てた。

「ん、くちゅっ、じゅる、はむっ。
 だんなひゃまの、オ×ンチン、とってもおいひいれす…、ぢゅっっ」

彼女は一気に口内の空気を抜くように、強くペニスを吸い上げた。
 くわられたまま喋られるのもキツかったが、
その直後のバキュームの刺激は完全に快楽に対する俺の許容量を越えるものだった。


「くっ、もう、出る!!」
「はっ! なりません、旦那様!!!」

俺の限界を告げる声に反応して、反射的に彼女は竿の根本をぐっと押さえつける。

「うわっ、あっ!」

射精を無理矢理止められ、苦しみに喘ぐ俺。
 狙ってやったわけじゃないだろうが、彼女は完全に射精を阻止する事に成功した。


「申し訳ありません、旦那様。
 しかし、孕ませて戴くために旦那様のお精子は、全部、ここの中にぶちまけていただきとう存じます」


そう言い放つと、彼女は自分の濡れそぼった秘所に指をあてると、くぱぁと開き俺に大切な部分を見せつけた。


 無毛の恥丘は他の部分と同じように白く、色素の沈着などは微塵もなかった。 桜色の割れ目からは止めどなく蜜が溢れる様子は、
卑猥と言うよりむしろ神秘的なものを感じさせた。


「影乃さん…」
俺は、今、まさにひとつになろうとする相手の名前を呼んだ。


「旦那様、それでは参ります…」

彼女は自分の唾液にまぶされた屹立する肉棒を掴むと、腰を浮かせ濡れた秘所にあてがった。
 そこで少し間を置き、
俺を見つめると、顔を近づけ、ちゅっ。と軽く唇を重ねた。

ぐっと接合部に一気に体重かけると、やや抵抗がありながらも彼女の膣は僕のモノを根元まで受け入れた。

 こつん。と先端部分が天井にキスをすると、彼女は恍惚の表情で喘いだ。

「あぁっ、旦那様のが私の中に入っています。
 これで本当に私たち、つがいになれたのですね! 私、私、、」



 俺は彼女を抱きしめながら在るべき場所に還ってきたような幸福感を噛み締めていた。


しばらくそのまま、ただ繋がったまま抱き合っていたが、
彼女はゆっくりと起き上がると俺の肩に手をついて、上下左右にゆっくりと腰を振り始めた。


華奢な身体の彼女の膣の中は温かく、少し窮屈だった。
キュウキュウと四方八方からの包まれる感覚は俺の脳とペニスを蕩けさせた。

 他のものとは一味違う性器同士の接触がもらたす快感は、
俺にこのままずっと彼女と繋がったままでいたいとさえ思わせた。


俺の上で乱れる彼女の腰の動きが、射精を促すようにだんだんと激しくなり、膣壁全体が俺を求めるようにぐねりとうねった。

彼女の動きに合わせるように俺も腰を使って下から彼女を突き上げた。

 雪のように白くひんやりとしていた肌は、
いつしか桜色に火照り、とても熱く情熱的に変化していた。


「影乃さん、俺、もう…げ、限界で、す」
射精直前まで追い込まれていた俺には、
彼女の中で長く堪え続けることは不可能だった。

「旦那様、わたくしもです!!いっしょに!いっしょに参りましょう!!」
彼女は顔を紅潮させて、がくがくとうなづいた。

「うぅっ、おぉォォォ!!」
「あぁぁぁぁぁ!!」
俺自身が深く彼女の中に入り込み、先端が彼女の最奥にたどり着いた瞬間、
俺はこれまでに経験したことの無いような量の白濁とした子種を彼女の胎のなかにブチ撒けた。

びゅるびゅる! びゅっびゅー!!
音をたてて精子が俺から彼女へ注ぎ込まれる。彼女の膣も俺からの精子を逃さぬようにと、何度もきつく俺のモノを締めつけた。


 俺たちは頭の中で電気がスパークするような快感を覚えながら、
永遠ような一瞬をお互いを抱きしめ合い、感じていた。


ようやく快感の波が鎮まったころ影乃さんが僕の目を見ながら
「旦那様、いーっぱい出ましたね」
と心底嬉しそうに微笑んだ。

その言葉と笑顔に俺のモノは力を取り戻し、彼女の膣中で主張を始めた。

「ふふっ、まぁ、旦那様ったら。
それでは、このままもう一回、私と参りましょう」

そう言うと彼女は身体を倒し俺にもたれ掛かった。
俺はそれを受け止めると、強く抱きしめた。




結局、その夜俺たちは7回果てて意識の底に落ちていった――

―翌朝―

俺はハッと目を覚ました。
 身体をあらためたら、ちゃんと服を着ていた。

(まさか――夢落ち!? まさか、アリエナイ!)
僕は肩を落とした。

「影乃さん…」

「はい」

「!!」

驚いて振り向くとそこには昨日のように、純白の襦袢を着た影乃さんが居た。朝日の中でも影乃さんは相変わらず綺麗だった。


彼女は昨日、初めて声をかけられた時のように正座をして深々と頭を下げた。
「旦那様、命を助けて戴いただけでなく、
私の自分勝手な願いまでも聞き入れて頂き、まことにありがとうございます。
この恩、七生を持っても返すこと能いません」

「影乃さん…」
 俺は彼女の名前を呼び、次ぐ言葉を失った。
こんなにも他人に感謝され、必要とされたのはいつぶりだろう。


「ですが、旦那様のお陰でどうやら無事に役目を全うできるようです」

そう言うと彼女は愛しげに大きくなった胎を撫でた。
「それは、僕たちの…」

「ええ、私達の赤ちゃん」そう言うと彼女は聖母の表情で優しく微笑んだ。

 その笑顔を見た瞬間、なぜ自分が、犯されるようにまぐわった相手を、
こんなにも大事に想っているのかやっと理解することができた。


 毎日をただ、目標も無く生きてきた自分に対して、
俺はどこか、世界から存在自体を許されていないような思いがあった。


 でも、彼女がこんなにも自分を必要としてくれたおかげで、
やっと、自分の居場所を得たというか、生きている事そのものを赦されたような気がしたのだ。

 彼女は俺を頭の中の孤独な地獄から救い上げてくれた天使だった。



その事を伝えようとした瞬間、
彼女の笑顔は悲しみの色に染まり、俺は言うタイミングを失ってしまった。


「名残惜しいですが、時間がありません。私の命はあとわずか。それまでにこの子達を安全な場所に産まねば…」

「ちょっと、まっ…」

彼女は僕の顔に素早く手を当てると、顔を近づけて軽く唇を重ねた。

「旦那様、本当にありがとうございました。このご恩は、生まれ変わろうとも忘れはいたしません。
旦那様の人生に息災と幸多からんことを……最後に…愛しています――」

「影乃…さん、俺も…愛して―――」



部屋に差し込む朝日に溶け込むように、影乃さんは微笑みながら消えていった。





―1年後―

今年も夏が来る。

蜘蛛の巣は見たら全部取る癖がついた。

明日は俺が町内会に呼び掛けて始まった河掃除の日だ。


俺は何かを見つけるように窓から夏の夕闇を眺めていた。