<<戦場の小さな恋>>
「ただいま~」
「おどぉおざぁ~ん!! おがぁざぁ~~ん!!」
戦場から無事、獣人居住区『家』に帰ってきた俺達狼型獣人部隊の家族は
少年が銀色に輝く灰色の髪を振り乱して泣き叫び、俺達のほうに走ってくる。
俺の方に抱きついてきた。
一体どうしたの、と妻が自分と同じ灰色の髪を撫でながら尋ねた。
「どうしたの? 英雄(ひでお)」

根室 英雄 (ねむろ ひでお)
俺、根室悠阿と
妻、大神鳴の
13番目の子供にして、初めての男の子。(5才)だ。

獣人は即戦力の為、一度に数人生まれ、人の3倍早く成熟するのだけど、
この子の場合1人で生まれ、人間として普通の人と同じ早さで成長していた。
息子より下の妹達はこの子より早く成長している。
(…今でもこの子が出来た日のことを思い出すと恥ずかしい…。)

…話を戻してこのショタ息子の話を聞くことにしよう。
「冴子ちゃんがね…、怖かったの…。」
『冴子ちゃん(さえこ)』というのは虎型獣人部隊『虎島(こじま)』の娘さんだ。
狼型獣人部隊と同じくパワー型の獣人部隊で、
ヘリに取り付けるミニガンや、戦車砲等の兵器を歩兵として装備する為、
その火力をもって『鬼虎島』とまで言われる程だ。
そして『冴子ちゃん』もその虎型の獣人『虎島冴子』だ。

息子と同い年で、優しく、仲が良い。手を繋いで歩いているのを良く見かける。
でも息子を泣かすようなことをしたのは何故…?
俺は『冴子ちゃん』に何をされたのか尋ねた。
「『学校』の帰り、無理やり冴子ちゃんの家に連れていかれて……、」
しばらく間を空けた後、再び話す。
「冴子ちゃんに……、おちんちん舐められたの…、いつもの冴子ちゃんとは違って…、恐くなって…、逃げてきちゃったの…。」
俺の胸で泣く息子。おちんちん舐められた…って…
とりあえず泣き止まないのでこのまま寝室の布団に連れて寝かせた。

次の日
我が家に客が訪れた。
インターホンが鳴ってドアを開ける。

出てきたのは、狼獣人と同じくらい体が大きく、金髪で色白の肌を持つ虎型獣人の母娘、そしてその父親だった。この人が虎型量産のパートナーみたいだ。
母娘、というよりは姉妹にも見えるが獣人というのは成長が早い。
この子が昨日言っていた冴子ちゃんだ。
「うちの娘がおたくの息子さんに迷惑かけたみたいで…。」
と父親が謝るように声を掛けた。
ここで話をするのもなんなので、
「とりあえず入ってください」
と言って、居間に案内することにする。

妻がお茶を出す。と同時に他の部屋に出て行ってしまった。

冴子ちゃんの父親が事を教えてくれた。
冴子ちゃんについて怒ってはいないけど、冴子ちゃんが怯えていたので
俺は優しく、冴子ちゃんにあんな事をしたのかと尋ねた。

うつむいていた冴子ちゃんが重い口を開く。
「好きだったから…、一緒になりたかったから…。
だから「ひでちゃん(英雄)」にお父さんとお母さんがシた時のようにおちんちんから……。」
と言って、冴子ちゃんが母親に抱きつき泣き始めた。
よしよし、と冴子ちゃんの頭を撫で、抱き返す母親。
一方父親は性の生活がばれ、恥ずかしそうにして、
とぼけるように横を向いた。

そう、か…。
息子の英雄が普通の人間と同じ早さで成長するのに対して、
冴子ちゃん達は獣人だから普通の人間の3倍早い。

息子にとっての5才は普通の人間と同じだが、
冴子ちゃんにとっての5才は15歳前後。

冴子ちゃんは…、息子を異性として、雄として見ていたのだ。
しかし、息子は第二次成長も、精通もしていない。
息子にとっていつもと違う冴子ちゃんの変わりようはさぞ恐ろしかったに違いない。

複雑な気持ちだった。
たぶん、冴子ちゃんに対する哀れみ。
大好きな異性に拒絶されたのだ。相当ショックだったろう。

俺と虎親子の4人はしばらく黙ったまま時が過ぎていったが、
部屋のドアが開いた。
灰色の髪と紫色の瞳の親子。
妻と息子だった。
2人が居間に入ってくる。
「ひでちゃん…」
「冴子ちゃん…」
涙でくしゃくしゃになった顔で息子と見、息子の名前を呟く冴子ちゃん。
気まずそうに冴子ちゃんの名前を呼ぶ息子。
一瞬目が合い、冴子ちゃんから視線を逸らす。

と、妻が息子の背中を叩いた。息子を見た後、
「冴子ちゃんの所に行け」と、顎で合図した。
息子は小さく頷くと、冴子ちゃんの所へ歩いて行く。

「ひでちゃん…。」
冴子ちゃんが抱きついていた母親から離れる。
そして、
ヒシッ……
息子が…、その小さい体で大きい体の冴子ちゃんに抱きついた。
「ひでちゃん…?」
抱きつかれて驚く冴子ちゃん。
息子が口を開く。
「…よくわからないけど…、僕も冴子ちゃんが好きだから。」
と囁いて、冴子ちゃんの大きい胸に顔を埋めた。
「大好き…!ひでちゃん…。」
二人はしばらく抱き合った。
好きと言っても、
英語で言えば、likeとloveくらい違っていたけど…。

冴子ちゃんの母親はにっこり笑い、俺と妻に
「今日一日、大神さんのところで泊めてもらっていいかしら?」
「ええ。」
俺が返事をするより前に妻が頭を縦に振り、了承した。
そして、冴子ちゃんの両親は帰っていった。

夜、姉妹が増えたかのように娘達は冴子ちゃんを歓迎した。
食事を手伝い、娘達と風呂に入り、息子と一緒の布団で抱き合いながら眠った。

次の日
上司から連絡があった。

息子の英雄を、本国に送るという。
俺の両親、つまり息子の祖父母に預けるらしい。
理由は
来年から小学校に上がらせるから。
息子自身は人間なので、戦場にいるわけにはいかない、という。
大好きな冴子ちゃんと離れるのは可愛そうかもしれないが、
俺自身から思って、そのほうがいいのかもしれない。
案の定、息子は泣き喚いて嫌がり、その日疲れて眠るまで暴れた。
一週間後、軍の飛行場で息子の服等身近にあるものを持たせて飛行機に乗る準備をしていた。
「おじいちゃんとおばあちゃんによろしくね」
「うん…」
軍用の飛行機が到着し、いざ向かおうとしたその時、
一人の虎型獣人の女の子がこちらに駆けて来た。
「ひでちゃん!」
「冴子ちゃん…。」
息子に抱きつき、
ンッ
ムグッ
冴子ちゃんは息子に口付けした。ただのキスでは無い。
舌を息子の口内に侵入させていた。
二人の唇と頬が妖しく動く。
しばらくのディープキスの後、冴子ちゃんが言う。
「ひでちゃん、待ってるから。成長するのも、ここに帰ってくるのも、私も生き残るから。」
「うん!」
息子は元気に頷き、別れの挨拶をして、軍用機に乗り、本国に行ってしまった。

獣人である冴子ちゃんはあと1~2年で成長が一度止まり、戦場にも出るようになる。
いつか息子も冴子ちゃんに追いつくだろう。
俺は息子がどのように成長していくのか想像しながら、戦いの日常に戻っていった。
終わり。