とにかくタケルを起こさないようにリビングへモモを案内する。
タケルなんぞに知られたら、あとがややこしい。モモは飛び跳ねるように階段を降りる。
「あぶないぞ」
「平気平気!そーれ、ぴょんぴょんぴょん!!」
と言ったか言わないかの瞬間、履いていたスリッパを滑らせてこけそうになった。
ところがやはりうさぎはうさぎ。くるりとムーンサルトで身をかわし、見事な着地を決めた。
「モモ!!」
「わたしに惚れた?」
んなわけないだろ。
ばらばらにこぼしたペレットを拾いながら、むしゃむしゃとモモはうさぎのように頬張る。
いや、どう見てもうさぎか。コイツは。

リビングにモモを通す。久しぶりにモモはここに来るのだろう。
なんせ、タケルが面倒を見なくなって、あまりケージから出してくれなくなってるのだから。
まわりはシーンと静まり返っている。うちの両親は、珍しいくらい早寝。

「ん!何コレ」
「ゲームだよ。ゲーム」
モモはタケルが置きっぱなしにしていったNyaaに興味を示した。
くんくんと匂いを嗅いだり、ちょっと出た前歯で噛んでみたりネコ型のハードは
うさぎに蹂躙されている。見かねたおれはモモに遊び方を教えてやる。
ゲームは「ねずみDEピンポン」。キッチンのテーブルの上でねずみたちが卓球をするゲーム。
まず、おれがお手本を見せるとモモはさっそく興味を持ち、おれからコントローラーをひったくる。


「こんなのは得意中の得意だにゃ!」
モモが右にスマッシュを決めると、CGのねずみもしゃもじでコーンと玉を弾く。
モモが左に跳ぶと、CGのねずみもかもめのように空を舞う。
三段跳びで、もんどり打っておれの方にモモが跳んできた。
「うぎゃ!」
「トオルっち!」

モモの甘い汗の香りがおれを包む。はだけたパジャマからは白いお尻と尻尾が見える。
柔らかい髪の毛が、おれの首筋をくすぐる。そして、モモのすらりとした脚が絡みつく。
耳をピクピクさせながら、てへへとモモは笑う。白い歯に吸い込まれそうだ。
「わたしね、興奮しちゃった!おもしろい!!」
おれも違う意味で興奮している。ごめん。
あれ…。おれってケモノはダメなんだけどな…。モモの不思議な魅力に巻かれてしまったのだろうか。

外で新聞屋のカブの音が聞こえる。夜明けが近い。
「トオルっちね。わたし、そろそろ帰らなきゃ…。さみしいね」
「明日もくるの?」
「うん。じゃあね!」
モモはコントローラーを持ったまますっとんで行った。

不思議な夜だった。しかし、おれも眠い。寝よう。居間でおやすみなさい。

そして、この日は学校を遅刻した。

「兄ちゃん!!Nyaaのコントローラーがないよ!!」
学校から家に帰ると、躾の悪い子犬のように叫ぶタケルの声で迎えられた。
そうだ。Nyaaのコントローラーはモモが持っていったままだった。
「あれは、モモが…」
「うそばっかり!モモが持って行くわけないじゃん!」
「だから、モモが…」
「モモ、モモうるさいよ!どうせ、お兄ちゃんが隠したんでしょ!」
収まりの付かないタケルを連れてモモのケージを覗き込ませる。
すやすやと寝ているモモのおなかの下にNyaaのコントローラーがうずまっていた。

「だから言っただろ。モモが」
「持って行くわけないじゃん!お兄ちゃんのうそつき!!」
くそっ。このこわっぱめ、ぶん殴ってやりたいわ!

この日の夜もタケルが寝たのを見計らってモモはやってきた。
この夜はちゃんとパジャマを着て、モモにとっては少し長い袖から指が
ちょこんと見えているのは、おれにとってはツボだった。あれ?
「きょうもいっぱい楽しもうね!」
昨日と同じようにゲームに夢中になるモモ。
人の形である時間を惜しむように、めい一杯遊んでいる。ふと、疑問がひとつ。
どうして、モモは人になってやってきたのか。

「それはね!トオルっちとね!」
「お、おれ?」
「もー!分かってるくせに。つんつん!」
おれの乳首をモモが指先でぐりぐりと玩びながら、上目遣いで能天気に答える。
モモは女の子の香りがする。うさぎなのに、ひとりの人間のように甘い香りでおれを誘う。
しかし、おれはどうしたらいいのだろう。自慢じゃないが、おれはまともに人を好きになった事ないぞ。

ひとしきりゲームを楽しむと、汗を流しながらおれの太ももの上にちょこんと座るモモ。
にっと笑うと、少しかわいい前歯が光る。おれの方からケモノを触る事はないが、
ケモノの方から近づいてくるのは、どう対処したらいいのだろう。
そんなおれの悩みをよそに、モモは俯きながらおれに何かを話しかけてくる。

「わたしね、一人にすると死んじゃうの」
「でも、それってウソなんだろ」
「ウソって言うか…、違うの!!死んじゃうの!」
何時にない寂しい顔を見せるモモ。明日で人として会うのはしばらくのお別れ。

「次の満月は、何時かな…。トオルっち」
「うーん。28日でひと周りだから…、えっとお」
「セミが鳴き、あさがおが咲く頃だね」
計算上はそうだとモモは言う。寂しがり屋のモモがおれの胸に顔を埋め、おれのTシャツを濡らす。
「あしたも…いっぱい…楽しもうね」

どうしよう、おれ。
どうする事も出来ないまま、冷酷にもすずめたちが朝の光を呼び込む。
―――おれが目を覚ますと、うさぎの姿のモモがおれの懐にいた。

この日は頭の中はモモのことばかり。いつしかノートには、モモの似顔絵を描いていた。
『あしたも…いっぱい…楽しもうね』
モモの寂しげな言葉が授業中も離れない。


学校から帰ると、タケルは昼寝をしていた。いかん、きっと夜更かしするぞ。
脚でちょこんと蹴っても「むにゃあ」と言うだけで、びくともしない。おれも昼寝をしようか。

―――案の定、タケルは夜更かしをしていた。明日は土曜日、小学校はお休み。
だからと言って夜更かしするとは、ゆとり世代はまったく。そういうおれも夜更かしをしているので強く言えない。
時計の針がてっぺんを回っても、タケルは寝ようとはしない。夜鳴きのラーメン屋が通り過ぎる。

「いいじゃん!あしたはお休みだもん!!」
湯上りの火照った体を更に火照らせる気か、タケルはNyaaのコントローラーを
振り回しながら、画面上のねずみを右往左往させていた。
お願いだから、今日は早く寝て欲しい。モモもケージでがさごそさしている。
結局、タケルが寝床に入ったのは丑三つ時から2時間経った頃だった。
夜空には立待月がぽつんと輝いている。

「トオルっち!」
聞きなれた声も今宵で聞けなくなるのだろうか。いつものリビングでモモがおれを呼ぶ。
モモは相変わらず、指をちょこんと袖から出してニシシと笑っている。
「もう、こんな時間だね。わたし、時計ぐらいは読めるよ」
「タケルがね…」
「うん、わたしは大丈夫。ただね…。次の満月の夜までこうやってお話とか
出来なくなるからトオルっちの事、もっともっと好きにならなきゃねって思うの」
モモがこんなに寂しそうな顔をするのは初めて見る。

「だから…」
「うん」
「…今夜はいっぱい楽しもうね…」

モモの瑞々しいくちびるが触れる。ご愛嬌の前歯もおれの舌を優しくなぞり、
言葉で伝え切れない優しさが、甘い舌のしずくとともにやってくる。
モモは嬉しいと言いたいのか、長い耳をぴくぴく動かしおれのほっぺをくすぐる。
ケモノは言葉で伝える事が出来ないからか。そんなモモの精一杯の表現だろうか。
「わたしの気持ち、伝わってる?」

弱くなりつつある蒼い月の光を窓から受けながら、モモは野生の血を取り戻している。
押し倒されたおれは、軽く抵抗しようとしたがモモの健気な声に揺り動かされるだけだった。
モモは下着をつけていない。ん?
と言う事は、モモの柔らかな肢体がおれに触れていると言う事とほぼ同じと言う事。
そのことを気にしだしたら、膨らみかけた小さなモモの胸が、おれにはせくしーなおっぱいに見えてきた。

「わたしがね、人の姿になれるのが今月は今日までなの!だから…トオルっちの事を
かわいいかわいいって出来るのも、今日まで!ちゅっ!!」
首筋を丁寧に舌で転がし、髪から桃の香りを振りまきながら大きな耳を揺らす。
いたずらに耳をかぷっと噛み付くと、怒ったモモはおれの乳首を抓った。

「人間とうさぎが仲良くなるには…こうするのね」
「はう!」
「へへへ。気持ちいい?もっとしてあげるね」
「ズボンの上からは…あああ!ふう!」
「タケルのはまだまだお子ちゃまにんじんだからね。だ・か・ら・トオルっちのが好きだよ」
指先でおれのにんじんを細かくさすり、頬をすり合わせるダブルプレイにおれは一気に参ってしまう。

「だんだんわたしもね…。うさぎジュースが…はぁ!ねちょねちょしちゃってるのね」
ショーツを履いてないモモのパジャマの下は、うっすらと湿っている。
おれがモモを受け入れているのは、ケモノ故のまっすぐさにおちたのか。

抵抗しないおれの体を玩ぼうと、モモはうんうんとズボンを脱がそうとする。
パンツと一緒に脱がされると、畑からぴょこんと飛び出した一本のにんじんがあらわになる。
既に先っちょはべたべたとしており、赤いにんじんはモモの心を鷲掴み。
「いつもご飯をくれるお礼だよ!!今度はにんじんを食べちゃうからね!」
体はかっかと熱いのに、モモの顔がある辺りは人肌ぐらいの温かみがする。
くゆらせる体と一緒にモモの尻尾もゆらゆらと揺れているのが、長い耳越しに見える。

「いって…いい?」
「にゃんだか…おくてぃの中があ!にゅるにゅるしゅるうう!」
「だ、だめ!!くぅうっ!」
「ふにゃああ!!!」
口を離したモモは、手で口を押さえながら顔を上げ、そのまま自分のパジャマをずり下ろし、
今度はさっきまで貪り舐め尽していた、にんじんの上にずぶっと腰を下ろす。
片手でにんじんを掴み、うさぎ穴に的を定めながらゆっくり、ゆっくり。
「いれちゃうよ!」
「んんんん!」
「いれちゃうよお!!」
ぬるっとモモのうさぎ穴に飲み込まれていく不思議な感覚。

モモも十分濡れ尽くしていたのか、自然とモモの中に入り込む。
長い耳がゆらゆらと揺れ、柔らかな髪の毛からはモモの香りがふわりと舞い降りる。
「ふぁああ!ふぁあ!」
喘ぐモモの口からは白いしずくがたらりとこぼれ、外の月と
部屋の中の電気の蛍の光に照らされ、妖しく輝いているのであった。
真夜中の魔術と、モモの甘い声でおれは飲んだ事もない酒に酔っているような、
めまいのような錯覚に陥る。いや…これは錯覚ではないな。うん。

「あーん!ああん!ト、トオルっひ…。見て見て…」
徐々にモモの体重から解き放たれたおれに、モモは自分のうさぎ穴からだらりと滴る白いしずく
を見せつけようとしていたが、もうおれは…モモに何もかも吸い取られた気分。
「ふう、トオルっちのことさ…もっと好きになったみたい」
そのまま息を切らしながら寝込むおれの薄っすらとした視界に、モモがどこかに行く姿が映る。
そして、まるで遠くにいるようなモモの声が届く。
「…また、望月の夜に会おうね…」
最後に聞いたのはモモのペタペタという足音だけだった。

おれもタケルも今日は遅起き。ケージの中のモモも、昼まで寝ていたらしい。
カレンダーを捲り、来月の暦をちらと見る。うん、この日か。
モモのことだったら何でも受け入れられる気がしてきた。タケルはこのことを知っているのだろうか。
いや、知らなくてもいいや。おれと今は無口なモモだけに知りうる事。

そういえば、エサのペレットも少なくなってきた。そろそろ買いに出かけなければ。
そう。モモが待っている。鼻をひくひくさせながら、待っているのだ。
おれは『にんじん』を買いに、月のすっかりいなくなった街へと出かける。
出かけようと玄関の扉を開けると、すっとんきょうなタケルの叫び声が聞こえてきた。

「お兄ちゃん!またNyaaのコントローラーがないよ!!」

end