旅人は、途方に暮れていた。
 急ぐ用事があるからと、村人の制止を振り切って村を発ったものの、日が落ちるのが想像以上に早く、結局身動きが取れなくなってしまったのだ。
 道程はまだ半分ほどしか来ていない。辺りはちょっとした林道になっており、木々が邪魔をして星明かりさえもろくに差し込まない。自分の手さえも見えない、正真正銘の暗闇だった。
 こうなってはやむをえない。彼はため息を一つつくと、腰を降ろした。これ以上動くのは危険のようだ。旅を始めてからまだ日が浅く、野宿の経験は多くなかったが、少なくとも初めてのことではなかった。
 明るくなり始めたらすぐに発つようにすれば、用事にもなんとか間に合うだろう。彼は手近な石を集めて簡単な風除けを作り、枝を集めて暖を取ろうとした。だが、辺りの湿気が邪魔をしているのか、火打石では火花も出すことができない。
 そういえば、なにやら生暖かい風が吹いている。いつからともなく、いつのまにか、だ。
 不気味なものを感じた彼は、火をつけるのは諦めて、さっさと寝てしまうことにした。


 そうして更に夜も更け、真夜中を過ぎた頃。
 彼は、妙な感触に目を覚ました。何かぬめったものが、むき出しの胴を這っているようだ。
 彼は反射的に身を起こそうとしたが、どういうわけか、できなかった。何かが足から腹にかけて絡まっているらしい。
 何かはわからないが、何かが起こっている。
 急に焦りを感じ始めた彼は、もがくようにしてなんとか首を起こし、自分の胴体を見つめて、思わず息を呑んだ。
 暗闇ではっきりとは見えないが、黒く、大きな何かが、自分の足に巻き付いているようだ。それに延長している白い物が、着衣を乱され肌の覗いた自分の腹にのし掛かっている。反射的に手を伸ばそうとして、その手が何かに阻まれた。
 暗闇の中でさえ白く浮かび上がるそれは、どうやら女の手のようだった。と、不意に、自分の胴の辺りに何かが光った。
 彼は、一瞬それが何であるかわからなかったが、程なく、それが二つの眼であることがわかった。瞳孔はやや細く、人の眼のようにも見え、猫の眼のようにも見える。
 彼はしばらくの間、呆然とそれと見つめ合った。わずかに差し込む月明かりに眼が慣れてくると、それが女の顔であることがわかった。
 細面に、すっと通った鼻筋を持ち、長い髪から切れ長の眼が覗いている。薄い唇から覗く舌は、ぞっとするほど赤く、細く、長く――先が割れていた。
 胴体を這う、ぬめった感触の正体はそれだったらしい。彼は思わず声を上げようとしたが、できなかった。自分の体を這うようにして寄ってきた女が、彼の口を塞いだからだ。


「んっ……、ふっ、んん……」
 細い舌が、反射的に閉じた唇をあっさりと割り入ってくる。それはうねるようにして縦横無尽に駆け回り、彼の口内のあらゆる箇所を蹂躙した。
 女が口を離すと、名残惜しげに唾液が糸を引いた。あまりに情熱的なキスに、彼は言葉も失い、恍惚と彼女の顔を見つめた。意識が朦朧としている。
 そんな彼の様子に満足したように女は微笑むと、今度は軽いキスを一度して、そこから首筋、肩、胸と、順番に口付けた。まるで愛撫のように。
 そうして彼女の唇が下腹を通り過ぎると、下半身の締め付けがわずかに緩められた。すると、ずり落ちるようにして下の着衣がずらされ、自分自身が曝されたのがわかった。
 彼女は彼の胴から体をずらし、その白いなめらかな手で半勃ちのそれを包むと、優しく上下させ始めた。キスの刺激もあり、彼のそれはすぐに起き上がった。
 彼女は手を止めると、赤い舌でぺろりと唇を舐めた。細められた目には欲情の火が灯っている。女は器用に体を折ると、彼の分身に顔を近付けると、薄い唇から長い舌を一気に伸ばし、彼のそれにぐるぐると絡みつけた。
 背筋まで電気のように快感が走り、彼はおもわずうめき声を上げた。そんな彼の様子を女は楽しげに見上げると、絡めた舌をずるずると音を立てて前後させ始めた。
「ちゅ……は……ん……」
 長い舌先は乾きやすいのか、彼女は頻繁に唾液を垂らし、彼のそれを湿らせた。そして、そのたびに舌を器用に動かし、彼のそれを締め付ける。
 経験したことの無い感覚に彼は翻弄され、口からは意に反した声が漏れ出る。女はそのたびに嬉しそうな顔で彼を見上げ、いっそう複雑な動きで彼自身を蹂躙する。
 ただでさえ経験の無かった彼はあっという間に快感に飲み込まれ、二つに割れた舌先が亀頭の裏を舐め上げた時、彼自身は限界を迎え、勢いよく白い液体を吐き出した。
 女は口を開いてそれらを受け止めると、顔にはねた分も長い舌で余さず舐め取った。その妖艶な姿に、彼は自分自身が捕らわれていることも忘れて見入ってしまった。


 女が射精したばかりのそれをいたわるように口に含むと、すぐにそれは固さを取り戻した。だが、彼女はすぐにそれから口を離してしまう。
 彼が思わず名残惜しげな声を上げると、女はくすりと笑って彼を見上げた。場違いな恥ずかしさが何故かこみ上げて、思わず彼は視線を逸らす。
 だが、彼女は起き上がり、また彼の体を這うようにして彼の上体に体を移し、彼の胸に両手のひらを立てて、自らの体を月明かりの下に曝した。
 病的に白い肌が幻想的に淡く光りを帯びる。白い腕の伸びる肩はやや華奢に見えたが女性らしくなだらかなラインを描き、その延長にある鎖骨の下では豊満な乳房がぶら下がっていた。
 幻想的な光景に意識を奪われつつ、彼は下に視線を移し――そして、思わず目を見張った。
 彼女の体は、白い骨盤を通り過ぎた辺りから、まるで接いだかのように、黒く光るぬめったウロコになっていた。まるで――そう、黒い蛇のように。
 女性器はまだ人のそれに近く見えたが、そこから下は完全に人間以外のものである。どうやら、彼の自由を奪っている黒く長い何かの正体はその下半身らしい。
 彼の心にはいまさら恐怖がもたげてきたが、そんな彼の様子を察したように彼女は素早く彼を組み伏せてしまった。豊かで、柔らかな胸が、彼の胸板――どうでもいいがあんまり厚くは無い――で潰れて形を変える。
 そして、甘えるように、遊ぶように二、三度彼の顔を舐め、例の舌を差し込む熱いキスをすると、どういうわけか、彼はまた朦朧としてしまった。


 彼女はもう一度愛しげにキスをすると、また上体を起こした。そんな彼女を、彼はただ惚けたように見つめることしかできない。
 彼女はまた口元だけで妖艶に微笑むと、やはり器用に這い回って、彼女の女性自身と彼の反り立ったままのそれの先端を重ね合わせた。
 その光景を、彼は朦朧としながらも見つめる。月明かりは幻想的に彼女を浮かび上がらせていて、今や彼女の蛇の下半身すらも美しく思える。
 惚けている彼の視線を受け止めながら、彼女は見せ付けるようにしてゆっくりと、彼女の中へ、彼自身を沈めていく。
 朦朧とした意識が、即座にはっきりと覚醒した。彼女自身があらかじめ準備していたのか、すでに粘液でしとどに潤っていたそこは、熔けるような熱さを帯びていた。
 まるで別の生き物のように激しく蠕動しながら彼自身を飲み込むそこはそれこそ蛇のようだ。彼は、激しく、それでいて情熱的に包み込むような快感にまたも翻弄され、彼女が彼自身全てを飲み込まないうちにまたしても射精してしまった。
 彼女はそれを感じ取ったらしく、ぴくんと背筋を跳ねさせて動きを止めた。少し驚いたような顔だ。彼は密かに傷ついたが、彼女はすぐにまた妖しげな笑みを浮かべて、片目を瞑り力を込めるような動作をした。
 すると、不思議なことに、彼女の中が軟らかくなりかけた彼自身をぎゅっと締め付け、また先ほど以上の激しさで蠕動し始めたのだ。
 彼のそれはたちまち固さを取り戻し、驚く彼に彼女はまた楽しげな笑みを浮かべて見せた。

295 名前:訳:私を巻いてください[sage] 投稿日:2006/10/30(月) 00:51:08 ID:x1tdS7cp

 ほどなく、彼女はまたゆっくりと腰を進め始めた。進むにつれて彼女の眉は徐々に張り詰めていく。
「ふっ……ん……あ……」
 そうして完全に彼自身が埋まった頃には、彼女の眉は完全にひそめられた形になっていた。目も軽く閉じられ、まるで彼のそれを、それこそ味わっているかのような様子だ。その姿がまた妖艶であり、彼はまた背筋がぞくりとするのを感じた。
「んぅ……あっ……、ぅん……」
 しばらくそうしてじっとしていた彼女だが、彼が見つめているのに気付くとまた笑みを形作り、ゆっくりと円を描くように腰をグラインドさせ始めた。熱くぬめった彼女の膣壁が、彼のそれを丁寧になぞっていく。
 そこに微妙な蠕動運動が加わり、彼はまたも自分が駆け足で上り詰めていくのを感じた。
 意識は覚醒していながらも、未だに頭はあやふやでまとまっていなかったが、こうして何度も射精してしまうのは、あまり男として好ましくない。ぼんやりとそう思った彼は、必死の思いで快感を鎮めようと努力した。
「……あっ……ん……?」
 そんな彼の様子を女は敏感に感じ取ると、半目で妖しげににやりと笑った。どうやら挑戦と受け取られたらしい。彼女はゆっくりだった腰の運動を徐々に速め始めた。同時に、中の蠕動運動も激しくなっていく。先ほど以上のペースで、先ほど以上の快感が、彼に襲い掛かる。
 堪えきれずに彼が声を上げると、女は嬉しそうに笑った。女はそんな彼の様子が気に入ったらしく、腰の動きを速めた。
「ふっ……、はぁっ、んぅっ……!」
 女が漏らす声の合間に、頻繁に彼の声も混じるようになった。そのたびに彼女は嬉しそうに笑い、ますます彼の声を引き出す行為に没頭した。


「はぁっ、んぅっ、ふっ、あぅっ!」
 円を描くようなグラインドだった腰の動きは、いつしか激しい上下運動が中心となっていた。激しく体を上下させる彼女の汗が飛び散り、月明かりにきらめく。
 微妙な腰のひねりと彼女の中の運動が彼の分身にねじるような感触を与え、そのたびに彼は思わず声を漏らし、彼女はそんな彼を愛しげに見つめた。彼の声が、いたく気に入った様子である。
 だが、その彼は、ついに限界を迎えようとしていた。いくら二度出したとはいえ、当然ながら、いつまでも持つわけではない。既に射精感は、こみ上げてきており、いつ出してもおかしくない状態だ。
「あっ、あんっ、はぁ、んぅっ!」
 そんな彼の様子を感じ取ったらしく、彼女は月明かりを背に彼を真っ直ぐ見降ろした。腰は激しく動かしたままだ。彼女の顔にもだいぶ余裕がなくなっており、目付きも浮ついているようにとろけている。
「はっ、んっ、ぅんっ、ふっ――!」
 そして、彼女の激しい運動に、彼がまたうめき声を漏らした時、彼女はぐっと彼を引き起こし、彼の頭をその豊満な胸に強くかき抱いた。甘く、むっとするように濃厚な彼女の香りを感じ、一瞬意識が遠のく。
 次の瞬間、彼は今まで以上に激しく射精していた。


「はぁ――あ……ぁ……――」
 彼女は上を向き、肩で息をしながら、彼の子種を味わうようにして受け止めていた。
 彼は何度も自分自身が脈打つのを感じ、そのたびに彼女の中がぐっと締め付け、また彼に巻き付く蛇の胴体もぐっと痛いほど体を締め付けた。その感覚が何故か心地よい。
 長い射精が終わると、彼女は抱きしめたままの彼の顔を引き寄せ、また唇を押し付けてきた。
 口内を激しく蹂躙されるのを感じながら、またしても彼の意識は朦朧とし始め、今度はそのままゆっくりと闇に落ちていった。


 旅人は、朝の光に目を覚ました。
 飛び起きるようにして起き上がる。太陽を見る限り、日の出からそう時間は経っていないようだ。
 ――いや、そんなことはどうでもいい。彼は慌てて辺りを見渡してみたが、あの蛇女は跡形もなく居なくなっていた。
 両足もちゃんと動くし、そういえば自分はしっかりと着衣している。――どうやら、夢だったようだ。
 彼は軽くため息をつき、軽く落胆している自分に驚いた。自分は襲われたのではなかったか。それも、場合によっては、命が危なかった可能性もあったろう。
 ……つまり、それほど昨夜の「それ」は凄かったということなのだが。
 彼は軽く赤面して、それから慌てたように自分の下着を確かめた。少し湿っている気はするが、夢精はしていないようだ。彼はほっとした。
 いつまでもそうしているわけにはいかない。彼は手早く荷物をまとめると、そこを立ち去る前に、もう一度振り返った。
 昨日寝床にした木は、思ったよりもずっと大きな木だった。妙に後ろ髪を引かれる感じがしたので、彼は一度だけ礼をすると、振り返って歩き出した。
 そんな彼の荷物の隙間から、黒く長い尻尾が一本、伸びているのには気付かないまま。

 以来、彼は行く先々で、毎夜同じ夢を見ることになる。