某国、元々空気の汚染などで環境が悪かったが、戦争が続いてさらに荒廃した都市。

ブゥウウウーーーーーーーーーーーン。

俺は軍用の自動車を運転しながら 敵の1部隊から逃げていた。
敵部隊もその国の車に乗って追って来る。その数車5台。そして、その中に乗っている敵兵約20~30人。敵の撃ってくる無数の銃弾が俺に向かって襲って来た。
一発目は車体のどこかに孔を空け、二発目は右のサイドミラーに当たり、鏡にヒビを入れた。
(もう少しだ…もう少しで……!)
俺はただ単に敵から逃げているのでは無い。
俺という名の「餌」で敵をおびき寄せているのだ。
もう少し先にいけばあの『ヒト』が待っている…。
目の前の通路に入る。

ようやくその場所にたどり着いた。

10階くらいあるだろう建物 その屋上で俺を待っていたその『ヒト』。
その『ヒト』は車に乗って逃げている俺と、その後ろの5台の車に乗っている敵を視認し、
俺が建物を通りすぎるのを確認すると。両手を地面に付けた獣のような体勢になると、両脚に力を入れ、敵兵の乗っている車目掛けて……、跳んだ…!!

……ヒュゥゥゥゥゥゥゥ……  ガチュィン!!!

その『ヒト』は一番先頭の敵の車を落下したときの重さで金属が一瞬で折れ曲がったような音を出しながら着地し、その直後、腰に付けていた手短機関銃を手に持ち、片手でその車に乗っていた敵兵達を撃ち殺した。
残りの車に乗っていた敵兵は、最初は何が起こったか解らないかのように破壊された車と血を流して死んでいる仲間とその車の上に立っている『ヒト』をただ呆然と見ているだけだった。

その『ヒト』、2m以上ある身長ではあるが、灰色の三つ編みの長い髪と紫色の瞳。 
ムキムキではなくムッチリと引き締まった筋肉。 
そして急所を守る為だけの戦闘服の上からでもわかる大きめの胸とお尻は『女性』だということが解るが、それよりも普通の女性と違うのは、『彼女』には頭にある髪の毛と同じ色の犬のような耳 大きいお尻の上の部分で地面に付きそうなくらい長くて、ゆらゆらと揺れるフサフサした尻尾。
その姿は普通の人間とは違っていた。数秒の時が流れて、敵がその事態を理解してくると、慌てて車を降り、『彼女』に機関銃や拳銃を向ける。
敵が引き金を引こうとするその前に、『彼女』はさっき破壊した車から飛び降りて獣のように四本足で走り、一瞬で敵兵の視界から消えた。しばらくキョロキョロし、敵兵の一人が『彼女』を発見する。発見した敵兵が周りの仲間に指で追いながら場所を教えた。
一斉に機関銃を向ける。しかし獣のような四本足で、壁を横走りするような、もの凄いスピードで走る『彼女』には銃弾を当てるどころか照準を合わせることすら出来なかった。
次第に敵の機関銃の弾が切れ始め、再装填するために新しいマガジンを取り出す者が現れてくる。

銃撃音が止み始める。
と その時・・・。
ダダッ…!ダダッ…!
『彼女』は獣のような姿勢で敵兵士達に向かって突っ込んでいった。
まだ弾が残っている数人の敵兵が彼女に銃口を向けて弾を撃ってくるが、『彼女』の動体視力と素早い動きですべての弾を避けきり、そのまま敵に対し、持っていた大きなナイフで通り過ぎざまに首元へ切りつける。
切りつけられた敵はその切り口から致死量の血液を噴出させ、力を失ったその体が倒れ始める前に、そのすぐ後ろにいた敵兵に切りつけ、さらにまたその後ろの敵を切りつけた。

ひと通り敵の固まりを切り裂き、通り過ぎた『彼女』は再び4つ足で走り抜ける。軽く跳び、間逆へターンした後、また走り、敵の固まりを切り殺していく。彼女が通りすぎるたびに、次々と血の雨が降り注いでいった。

味方の血で宙を舞い、地面が真っ赤に染まっていく様に敵兵達は恐怖し、逃げて行く者が出始める。それに続くように次々と敵が逃げ始めていった。彼女は持っていた短機関銃逃げていく敵兵に撃ちはじめる。俺も車から出て、置いていた拳銃で手伝うように撃ち始めた。

敵の何人かを殺して残りは逃げ切り、見えなくなった。
「ウヲヲヲォォォォォォォォォォ~~~ン!!」
戦闘が終了した後、彼女が天に向かって吠えた。まるで『狼』のように。

「悠阿。」
アルトの低い声で俺に声をかける。
俺の名は 根室 悠阿(ねむろ ゆあ)日本国の兵士をやっている。『彼女』のパートナー。
「お疲れ様です。追ってきた敵が多かった分、 結構ヒヤヒヤしましたよ。でも大神さんがやっつけてくれたから良かったです。」
と、俺が言葉を返した『彼女』の名前は 大神 鳴(おおがみ めい)さん。
「悠阿がおびき寄せてくれたから、倒すことが出来たんだ。私がいると知られたら敵は固まったままだろうからね。」
とニィッと白い歯を出しながら笑顔で言い返した。
その笑顔に俺は少しの間 見上げたまま魅入ってしまう。と、
「…さて、ある程度敵を倒したし…、基地に帰ろっか。」
俺に見つめられ続けた彼女の顔が少し赤くなって、顔と視線をさっき倒した敵兵の死体のほうへ逸らしながら言った。
「あ…ハ、はい!」

俺は彼女の顔をぼ~っとしたまま見ていたのを、その言葉で我に帰り慌てて返事をして大神さんに向けていた視線をそらす。

俺たちは逃げてきた車に乗り、一緒に帰ることにした。
さっきまでの戦闘を聞いて解るとおり、彼女は人間では無い。
彼女は『獣人兵士』と呼ばれる存在である。

21世紀も後半に入った頃、米国と と<中央の大国>の戦争が勃発。
兵器等の「質」で米国が有利と思われたものの、物量と米国の約5倍近い人口。
人の死によって政治が変わってしまう米国に対し、いくら人が死んでもが変わらないその国の政治の違いで、一度は先制で攻め込んだものの米国は数に負け、兵を撤退させることになってしまった。

その後、米国に勝った<大国>は勢いに乗り、周りの国、そして日本に対して関係を見直すよう要求してきた。

その内容は我々諸外国に対し「属国になれ。」と言っているようなものだった。
当然日本はそれを拒否。
拒否された中央の大国はそんな日本や同じく拒否した諸外国に対して、武力行使を行った。戦線布告である。


周りの国同士で同盟を結び、日本もその同盟に賛同し、自衛軍を派遣したが、結局負け、占領、属国になってしまい、日本も隊員を退くことになる。

そして日本侵攻。
自衛軍は戦線の中で一番激しかった「九州対馬防衛戦」で一応の勝利を掴むことが出来たが、数多くの戦死者を出し、かなりの戦略物資が消費され、次の防衛戦を支える余力が無くなった。
もっとも<中央の大国>も先に米国や他の近隣諸国との戦争が続いたのが原因でその勢いが止まり、戦争は膠着状態となる。

膠着状態になったが、いつか<大国>は戦力を温存し またいつか日本に攻めてくる。戦力も人口も少ない日本は勝つために、ある<戦闘思想>に行き着いた。

味方を極力死なせず、敵をより多く殺す方法を。
強さを見せ付けて敵の士気を削ぐ方法を。
銃弾から兵器の燃料まで戦略物資を出来るだけ消費しない方法を。

人口だけの単純計算で1人につき10人以上を相手にしなければいけないのだ。

その<思想>で一つ考えられたのが『強い兵士』を作り出すこと。
銃弾を受けても兵士が少しも傷付かないパワードスーツのようなものを作ったり、よくTVゲームにあるFPSを遠隔操作で出来るような無人兵器を考えるなど、色々な案もあったが、出てきた様々な案の一つに 
『超人』を創り出す。というのが挙がる。
SF映画でやっていたような、銃弾の雨を避け、格闘だけで武器を持った大勢の敵を薙ぎ倒してしまえるような、そんな『超人』。

その『超人』をどう創るかが課題になった。
材料に選ばれたのが、便利な物に頼った人間とは違う野性的な身体能力を持った『獣』。
その『獣』と、武器の扱いや、物事を考える事が出来る『ヒト』を合わせさせれば最強の兵士、『獣人兵』が出来ると。
これを創ることにはいくつかメリットがある。一つは人間では無いので戦死者の数には数えられないこと。 
高い身体能力で、戦車砲や軍用ヘリに取り付けられるミニガンなど普通歩兵では装備出来ないような、武器を装備出来ること 等である。

様々な合成実験で失敗も多かったが、何とか十数種類の『獣人兵』を創ることに成功した。創られた獣人兵達の実験におけるその戦闘能力は案を出した防衛省の上層部や創った科学者達自身の予想を遥かに上回っていた。
今は最前線で、その『兵士達』の実戦テストの段階である。 

彼女は、その数種類いる獣人兵の中で狼との合成で出来た、
いわゆる『狼型獣人兵』であり、
俺は彼女のサポート兼観察係であり、戦闘のパートナーである。
十数万人もいる兵士の中で何故か俺が選ばれた。

車で走って3時間ほど、俺たちはようやく自軍の基地に辿り着いた。
この基地は日本国内では無く。新生日本軍が大国の占領地となってしまった国の旧首都を解放(または占領)した場所の一つである。
狭い日本列島での戦闘することを避けるために、占領されていた国を獣人兵が投入するより前に強行戦で大きな損害を出しながらも解放させることに成功し、敵の攻撃に晒されながらも何重もの城壁や監視塔 訓練場 飛行場等様々な軍施設を造った。
さらに日本兵士達に相手に商売する現地人(例として、現地の食料、嗜好品、春)も増えて行き、中には自分の構える店を持つものも現れ、今では城郭都市と呼べるまでに強固なものとなった。   
俺たちが行くのはその施設の中の「獣人兵科」である。

受付に帰還報告を出して、それぞれの待機場所に赴く。
俺は観察係の上司の所へ 大神さんは獣人厩舎へ
「じゃ!また後で、そっちの上司によろしく。」
大神さんは手を振りながら元気な声で。
「はい。また後で。」
俺は小さくお辞儀をしながら控えめにそれを返し、別れた。
俺の上官 観察係長
我々獣人観察官を監督する役割を持つ。
眼鏡とバーコード頭が似合う。 48歳。

「ただいま戻りました。」
上官のいる机の前に立ち、敬礼をする。
「はい。おつかれさん。」
どうだった?実戦結果は」
まるで徹夜明けして仕事をしたようなOLを気遣うように尋ねてくる上官。
「はい。訓練のときもそうでしたが、十分な結果が得られました。彼女の戦闘開始から3分も経たずに敵兵25人を倒しました。一人で。「大神さん」。 いえ、『狼型獣人』は成功だったようです。」

俺は彼女の戦果を報告した。さっきの戦闘の結果を話しているはずなのに今でも倒したその数と倒すのに掛かった時間が信じられない。
「そぅかそぅか」と何度も頷きながら聞く上司。
その結果に驚いていないのは多分、その他にもそんな獣人がいるから。または、それ以上の戦果を上げた獣人がいるから。
聞き終わった上官が考えながら言う。
「~と、なると 狼型獣人の量産に移る頃。 ということだな うん。」

彼女は狼型獣人兵のプロトタイプであり、実戦に耐えられるかどうかテストしに来た。
俺はそのプロトタイプの実戦観察係であり、彼女を色々とサポートして来た。
何かしらの創りだした兵器の性能が良ければ量産はされる。

「根室伍長。本日づけで狼型獣人の観察担当から量産係に移ってもらう。厩舎に赴くように。」
「は!」
ビシッっと敬礼のポーズを取る。
了解の姿勢はしたものの、ぶっちゃけ上司の言っていることがよく解らなかった。
普通、開発や生産は科学者の仕事である。何故、一兵士の自分に……?
と、敬礼のポーズを取ったまま疑問に思っていると上官が席を立ち俺の横に立つと俺の肩をポンっと叩き、
「がんばれよっ」
顔を近づけニヤァ~っと口角を吊り上げて不適な笑みを浮かべた。
???
獣人厩舎に着いた。
厩舎と言っても檻があるわけでも、床にワラが敷いてあるわけでも無い。
一体の獣人に一つ居住スペースが設けられており、そこに2~3人の科学者が同居し、各獣人たちの面倒を見ている。科学者と獣人は獣人達が生まれた時から世話をしているから家族のように仲が良い。

居住スペースがいくつかあり、小さな村のようなものを形成していた。
食料は人間でも食べる物と同じだし、寝床は普通にお布団だ。
お布団は、大柄な獣人が多いから敷き布団を4枚敷いた大きさだと聞いたことがある。

獣人厩舎 広場

大神さんの生活の面倒を見ている係の人達に会う。大体30~40代頃の男女二人である。
「君が根室君か。私の名は次郎。これからよろしく!」
「良子です…。…よろしくお願いします。」
男性の方は背が高めで明るく、爽やかそうな人で、
女性の方は綺麗だけど体が小さくて、いかにも「守ってあげなくては」と思ってしまうような人だった。何故だろう…?この良子さんを見ていると顔が大神さんにどことなく似ている…?
次郎さんの方も、雰囲気が似ていた。
(丁度足して2で割ったら…)
…って考え込んでしまっていた!二人とも、呆けていた俺を見て、不思議そうに思っている。

「あ…ス スイマセン! 自分の名前は『根室 悠阿』って言います!よろしくお願いします!」

我に帰った俺はちょっと焦りながら自己紹介をし、素早くお辞儀をする。
「ハッハッハ 面白いなぁキミは」
男の人はじぃ~~っと見つめた後、
ニコリと笑って俺に右手を差し出して握手を求めて来た。
「これからよろしくね 悠阿君。」
「はい。よろしくお願いします!」
俺も右手を出しお互い握手を交わす。
男の人の後ろで黙っていた女の人は笑顔で握手を交わした俺と次郎さんの手を見つめていた。

3人で居住スペース というか『家』に入って食堂、というか台所に入ろうとするとフワフワ揺れた灰色の尻尾が見えた。

あの人だ。
「あっ 悠阿 いらっしゃい。」
椅子に座っていた大神さんが笑顔で歓迎してくれた。
奥さんが迎えてくれたみたいで嬉しい。ってあぁ…二人が居たわ…。

大神さんと良子さんが作った料理をご馳走になった後、テーブルを4人で囲んで会話をする。俺の隣に次郎さん。向かいに大神さん。その隣には良子さん。

「~~でね、軍の方では戦うことしか教わって無いけど、次郎と良子にそれ以外に大切なこといっぱい教わったんだ。料理のこととか、その…色々…。」
大神さんが俺に二人の事を色々話してくれる。

俺は、俺を見つめながら話してくれる大神さんに嬉しく思いながら耳を傾ける。途中で何かを思い出したように大神さんの顔が赤くした。隣で良子さんがクスクスと小さく笑う。3人を見て あぁ やっぱり獣人と担当の科学者って家族みたいなモンなんだな って思った。
今度は俺が話す番。2人に大神さんのことを話した。殆ど戦闘のことだけど…。
「大神さん強いんですよ!10m以上高い場所から飛び降りて敵をバッタバッタと…」
2人に大神さんの戦果を自分のことのように誇らしげに話す。
「おぉ~そうか。偉いぞぉ 鳴~。」次郎さんが斜め向かいにいる大神さんを褒める。良子さんは大神さんを見ながら戦争の事を聞いて苦笑いになった。4人で会話した中、深夜になる。

いつの間にか、量産のことは忘れていた。

「あ、こんな時間…。」
いつの間にか深夜の1時になっていた。自分の宿舎に戻らないと…って、もうこっちに移ったんだっけか。どうするんだろう…?
すると次郎さんが、
「あ!そうだった。君、今日からこっちに移るんだろう?部屋を用意するからそっちで寝るといい。その間お風呂入ってなよ。」
「はい、そうさせて頂きます。」
大神さんは俺が一緒に住むことに喜んでくれていた。風呂に入って、布団で寝る。なんかここが戦場だってこと忘れるなぁ…。とか思いながら段々意識が薄れていった
…zzz。


次の日。

俺と大神さんは軍服では無く、ジャージを着て厩舎で訓練していた。
厩舎の訓練といってもほとんど人の姿をしているので人間それと変わらない。俺と大神さんがやったのは射撃訓練と2人で柔道の試合をした。
勝てるわけが無い。俺よりずっと背が高くて体重もある上に普通の乗用車も浮かせてしまえるんだから…。
…少し変なことに気付く。訓練中、いつもの明るい大神さんでは無かった。いつもは休憩中とかには楽しげに話しかけて来るのに今日は黙ったままだったのだ。何かを考えて込んでいるかのように。それでも俺は負けっぱなしだったけど…。
それは訓練が終わってもそのままだった。

その日の夜

訓練を終えた俺と大神さんは次郎さんと良子さんの待つ『家』に帰る。
が、何故か2人の待っているはずの『家』は真っ暗。
別に驚くことも無く、大神さんはただ「そうだね…」と下を向いてただ相槌を打つだけだった。
大神さんに「先に入って」っと言われ、『家』に入って灯かりを点ける。誰もいない。
2人が居ないのを不思議に思っていると、俺の左右に片方ずつ腕が…。この手の正体が大神さんだと気付いたときには、
「悠阿…。」
と後ろで俺の名を囁いて、ギュって抱きしめられた。
両腕ごと抱きしめられ、身動きが出来ない。
「あの、ちょっと…! 大神さん……!?」
彼女は黙ったままだった。
力の強い彼女はそのまま俺の足が浮くくらいの高さで持ち上げると、そのまま前進し始め、何処かに連れていかれた。
途中、数秒だけ俺の視界に写ったテーブルに置いてある茶封筒を少し気にしながら。

俺が連れて行かれた場所は…、彼女の部屋だった…。
大きな部屋 彼女の使っている机 軍服や戦闘服を入れる為の箪笥。そして部屋の真ん中にはおよそ6畳分あるだろう大きな布団が敷いてあった。
彼女はゆっくりと俺を押し倒し、敷布団の上に仰向けで寝かせられた。捕まえられてから初めて彼女の顔を見る。
彼女は顔をほんのり赤らめて、俺を見つめていた。
「大神さん…。」
しばらく見つめあったまま彼女が俺の上で四つん這いになり、顔を近づける。
彼女の柔らかい灰色の髪の毛が俺の額に掛かる。手を握られた後、

んッ…
俺の口は彼女の唇でゆっくりと、柔らかく押さえつけられた。