春は名のみの、風の寒さや。

 されど、暦も弥生と相成って『女の子祭』無事終了、『白い日』へのカウントダウンも
一桁台に突入した今日この頃、黄砂混じりの少しざらついた風の中にも、仄かにナニカの
甘い香りが絶妙にブレンドされてるような気がしないでもない。

 ……もっとも、それ以上に『あぁ、今年も(俺以外には)ちゃーんと“春”が……』
なんて思い知らされるのは、こっそり回覧されてくる『異動トトカルチョ』下馬評と
辞令交付予想上位者たちによる、切羽詰った『合コン』への頭数用お誘いラッシュと
夜毎、狂おしくも朗々と響き渡る『猫の妻恋』声だったりするのだが。
 しかし、今現在俺の耳に届くのは、半分虫の息風の哀れな擦れ声のみ。

『ナ゛、ァ゛……ォ゛……ン゛』

 駅前のコンビニで購入したささやかな食料品と、ついでに受け取った宅配便小荷物を
小脇に抱えながら、アパートのドアの鍵を開けようとポケットを弄ってたら、ポリ袋の
がさがさ音に誘われる様に小さなボロボロの毛玉が、足元にへろへろまとわり付いて来た。

「あー、真に御久しゅうございます、お嬢様。されど、今しばらくお待ちを……」
『ゥ゛ニ゛? ……フ゛シ゛ッ゛!!!』

 目ヤニと、鼻水と、涎と、それ以外のなんやかやで、ぐったぐたな御体を熱心に
擦りつけながら精一杯『喜び』を体現していらっしゃる……と言えば、幾分聞こえは
宜しいのですが、それならば体調の良好な時もおとなしく愛でさせて下さいよ、お嬢様。

 去年の晩秋、何処からか迷い込んで来た足元もおぼつかないようなキジトラの子猫が
霙交じりの雨の中、某所への階段に片足掛けてたのを、間一髪保護。
 一冬かけて、がりがりに痩せこけてた針金細工をなんとか、くたくたヌイグルミ風にまで
育て上げたのに、一昨日『くるるぅ、くるぅるん』とか甘く歌いながら、あっさり御出奔。

 流石に、涙で枕を濡らす様な真似はしなかったけれど、お嬢様が何時ご帰宅なされても
お宜しいように、昼も夜もずーっと窓を細く開けっ放しでしたので、この下僕めも少々
風邪気味で、本日の『合コン』も泣く泣くキャンセルした次第なんですが……。
 しかし、遂には俺の足元でくねくね喜びの舞を踊り始められたお嬢様をうっかり
足蹴にしない様、少々乱暴な仕草で摘まみ上げ、懐深くに押し込んでみたのだけれど
完全無抵抗状態。

「……コレくらいおとなしければ、“お風呂”もいけそうですよね、お嬢様?」

 体調不良と空腹につけ込んだ、不埒な下僕の無礼な申し出にも『グシュグシュ』と
『ゴロゴロ』の入り混じった囁き声を返すしか出来ない、哀れなお嬢様の温もりに
頬を緩めつつ、俺は早速ユニットバスに湯を張り始めた。

俺の掌への牙の埋め方にも、俺の頬への爪の振り下ろし方にも、何時もの鋭さがあまり
感じられなかったお嬢様がまっしぐらにコタツへダイビングされたのを生暖かい笑みで
見送りつつ、ヤカンを火にかける。
 カップ麺が出来上がる時間を利用して、実家から送られてきたダンボール箱をばりばり
解体してみたら、ナニカの干物や、ここいらのコンビニではまったく見かけた事のない
金色のえらく美味そうなネコ缶と共に、大量の『釣書』がぎっちり詰め込まれていた。


  ……いや、なんとなーく“予想”はついていましたが……。


 今年の正月、お嬢様と共に帰省した時『“女の子と一緒”って言うから、諦め半分&
それでも微かに期待してたのに……。やっぱり、そーゆーオチかーっ!!!』とか、訳解らん
逆切れをしたお袋に正座で小一時間問い詰められ、挙句の果てに騙されて連れてかれた
Lv.99overな仲人ババアの魔の手から、間一髪逃亡。
 そのまま、お嬢様だけを片手にアパートへ蜻蛉返り&仕事始めの日まで携帯in冷蔵庫を
敢行せざるをえず、まったりな寝正月を満喫されられました。
 しかし、それ以後も全然めげる事無く、週末になる度、携帯へガンガン送りつけられる
『○○さん所に来たお嫁さん』やら『××さん最愛の孫ちゃん』等の嫌がらせメールを
片っ端から着信拒否リストに叩き込んでたら、遂に実弾投下に移行したか。

「結構上等な紙だが、お嬢様の“トイレ砂”にすらならんし……。“爪とぎ台”とか?」

 ちょっと捲り上げたコタツ布団の隙間から、結構高級そうなネコ缶と温目のミルクを
差し入れるついでに、こっそり覗き込んでご様子を伺ってみましたが、体中を必死で
舐めまくってたお嬢様からは、碧の瞳を三角にして『シャーッ!!!』って、怒られました。
あ、すみません。
 だけどその直後、なんだか背筋に妙な悪寒を感じた俺は、次に目覚めた時にお嬢様の
ご機嫌が直っている事を祈りつつ、冷たい万年床へ一人寂しく潜り込んだ。

……で、誰、なんだろ。
とても良い匂いのする人が、俺の頬に、一生懸命、薬を、塗ってくれてる。
暖かくて、柔らかくて、少しざらざらした、肉片で、丁重に、ぺろぺろ……。
って、アレ?

 何故か、性急に口内へと捻じ込まれたしなやかな舌が、激しく動き回り始めて
隅々まで蹂躙されまくり、更に唾液を貪り尽くす様な勢いで、ねちっこく吸われると
いっ、息がぁ……っ!!!

「……ぶはっ!!! おまっ、俺を、殺す気かっ!!!」
「よしっ!!! やーっと目が覚めたわね、この莫迦奴隷っ!!!」

 カーテンを閉め忘れてた窓から、室内をぼんやり照らしてる朧月の蒼い光を全身に浴び
両手を腰に当てた凄く可愛い女の子が、ぴんと背筋を伸ばしつつ、超薄っっっすい胸を
力一杯反らして、俺の丹田上を跨ぐように膝立ちしていた、……全裸で。

「……あんたの、匂いを嗅いでるだけで、すっごくムズムズしてしまうしっ!
 あんたが、私の体を触る度に、どんどんオカシクなってっちゃうからっ!!
 あんたを、諦めるために、イヤイヤ同族の所に、行ったのにっ!!!
 なんで、あんた以外の雄には、死んでも抱かれたくない、私にしちゃったのょぉぉぉっ!!!
 さぁっ!!! この私を、こんな、はしたない暴挙に走らせた責任を、今すぐ取りなさいっ!!!
 この鈍感コックっ!!!」
“びしりっ”という効果音がどっからともなく聞こえてきそうなくらい完璧な仕草で
俺の鼻先に、白く細い人差し指を突きつけた少女が、妙に座った目つきで睨み付けつつ
頬を真っ赤に染めて、そんな意味不明なセリフと共に、ぐいっと腰を突き出す。
 その股間の淡い茂みの奥底から、なめらかな肉付きの太ももを経て、床にまでとろとろと
滴り続けてる愛液から立ち上る、微かな湯気と濃密な匂い。
 しかし、そんな痴態を“おおいばりっ!!!”で見せ付けられても、残念ながら今の俺には
熱暴走がでっち上げた淫夢を楽しんでる余裕なぞ、全然無い。

「はぁ? そんな事より、俺は、一刻も早く、薬飲んで、寝なおし……」
「そ・ん・な・事ぉ!? ……ふ、ふんっ!!! あんたの半端な風邪なんて、私と一緒に、一汗」

 まだ、なんだかんだと訳解らない事を喚き散らし続ける妄想を、ひょいと脇に押し退け
万年床から半分這いずるように抜け出……せなかった。

「夜伽を命じてる御主人様をガン無視して、何処行くつもりなのよ、阿呆召使いっ!!!
 今、あんたに許されている選択肢は、この私と……もぉっ、めんどくさいっっっ!!!」

 がっしりホールドされてた下半身が、ひんやりとした夜気に晒されたのも、ほんの束の間。
ちょっと冷たいけれど、ふわふわしてる、ちっこい、手で、優しく、握り締められ……。

「では、いっただきまーすっ!!! ……あむっ」

 暖かくて柔らかい口内に、ぱっくり咥え込まれた俺のモノを、少しざらざらのしなやかな
舌が、酷く丁重に、ぺろぺろ、くちゅくちゅ……。
って、なんでそんなに、容易くハッスルしやがるんですか、俺様っっっっ!!! 

「……んんっ、ぅふ、おぃひ……、おいひい、おろこちゅゆ、ろんろん、れてきらぁ!!!」
「可愛い“女の子”が、そーゆー下品な言葉、使うんじゃねぇぇっ!!!」
「れぇもお、ふらんょり、おっきく、ひゃってふょう!!!」
「……見た事有るのか、オマエはーーーっ!!!」
「もひろんっっっ!!!」
「へ? ……あ、あっ、あああぁぁっっっっ!!!」

 少女の糸切り歯が、完全な不意打ちで、俺の鈴口を掠めた時、まるで、生まれて初めて
射精を体験したリア厨並の、怖ろしく濃厚且つ大量の精液が、びゅるびゅる放たれる。
 一瞬、碧眼を丸くした少女が、酷く嬉しげに目を細め、ゆっくりゆっくり時間をかけて
こくこくと総て飲み干してゆく様を、肩で息をしつつ、ぼんやり見守る事しか出来ない。
 何故ならば、眼下の“女の子”の綺麗な栗色のツインテールの天辺で絶えず、ぴこぴこ
動き続けてるのは、こげ茶色のリボン……ならぬ、見事な猫耳で。
 更に、尿道内の残滓までをも完全に、啜り上げてからやっと俺に、満面の笑顔を向けて
くれた少女が、舌なめずりしつつ……。

「『女の子祭』分の人肌白酒、本当においしゅうございました。
 真に、良いお仕事でしたわ、朴念仁下僕。
 それでは、引き続き『白い日』分の絞りたてミルク、頂とうございます。……ココで」

 とか言って、いまだそそり立ってる俺のモノを、長いシッポでしゅにしゅに擽りながら
腰を下ろしていく光景なんぞ、そうそう見られるもんじゃな……アッー。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年05月27日 19:57