SA/Bloody Maze

八月。
 それは一年の中で最も暑い月。
 けたたましく鳴く蝉と、ギラギラと照りつける太陽がそれを克明に示している。
 そんな中で俺はクーラーをガンガンに効かせ、家の中でゴロゴロゴロゴロ。
 今日、温暖化問題で悩まされているこの地球にとっては悪しき行為なんだろうが、この暑さには流石に耐えられないんだ。許してくれ、地球よ。
 しかし、いくら夏休みだとは言え、こんな自堕落な生活を死んだじいちゃんに見られたら、蹴っ飛ばされて喝を入れられそうだ。
 っと、俺は妹尾 真夜(せのお しんや)。地元の高校に通う極普通(だと自分では思っている)の高校二年生。
 俺には、大きなコンプレックスがある。
 それは、身長。高校二年生で、しかも男子なのに155cmしかない。せめて、175cmは欲しかったのに……。何処へ消えた、俺の20cm……!
 そして、その低い身長に加えて、更に女顔。本当にやってられない。
 体格と顔のこともあって俺は学校で「まや」とか「まやちゃん」とか。とにかく、マシな呼ばれ方をされていない。
 しかも、俺の名字に「妹」という漢字が使われていることもあって、遂には「まやタソ」にまで発展した。
 「妹」で思い出したが、俺には中学二年生の妹がいる。名前は妹尾 亜美(せのお あみ)。
 中学生と言えば微妙な年頃だが、真っ直ぐでとても優しい妹だ。
 だが、この妹。身長がなんと170cmもある。中学二年生で、しかも女子で、だ。普通ならまず有り得ないが、その有り得ない奇跡をこの妹は起こしたのだ。
 俺と亜美の身長差は15cmもあるから、会話をする時、必然的に俺は亜美を見上げる格好になる。だから、外ではしょっちゅう姉と弟に間違えられるわけだ。
 この間も二人で買い物に行ったら、店員がにこにこ笑いながら、ごきょうだいですか、って聞いてきた。
 多分、『兄妹』ではなく『姉弟』の方だと思ったんだろう。いや、絶対そうだ。
 もっと酷い時なんか、仲の良い姉妹ですね、って言ってきた店員もいた。もうその時、俺は怒りなんか通り越して哀しさを覚えた。
 きっと、俺が失った20cmは妹が全て吸収したんだ。そうに違いない。
 でも、だからと言って俺は別に亜美を恨んでなんかいない。
 というより、小さい俺が喧嘩を吹っ掛けたところで敵うはずもないし、それに亜美は怒るとめちゃめちゃ怖い。
 一度だけ、本気で怒った亜美を見たことがあるが、あれは本当にやばかった。普段の優しい亜美からは想像もつかない程の激昂だった。
 うぅ、思い出したら鳥肌がたってきた……。
 これ以上、身長のことについて話すと、鬱で死ねるからもうおしまい。
 それよりも、この暑さをどうにかして欲しい。外ではゆらゆらと蜃気楼が起きて、道行く人もハンカチを手放せずにいるみたいだ。
 俺が部屋に置いてあるペットボトルの麦茶に口をつけた瞬間、部屋のドアが開いて亜美がひょっこりと顔を出した。
「お兄ちゃーん。明日、山登りに行くってー!」
 俺は亜美のその言葉に口に含んでいた麦茶を盛大に噴き出した。
「や、山登りぃ!?海じゃなくて!?」
「うん、山登り。皆で行くんだよー」
「え゛ぇ゛ーーー!!」
「お兄ちゃんも一緒に行くよねぇ?」
「(ビクリ……!)あ、あぁ、もちろん行くよ!」
「やった♪じゃあ、お父さん達に二人とも行くって言ってくるねー!」
 嬉しそうに部屋を出て行く妹の背中を見ながら、俺は溜め息を吐いた。
 あれは、一緒に行こうっていうお願いじゃなくて、一緒に行かないと殺るよっていう脅迫だったな。
 もし、あの時、行かないって言ってたら……想像もしたくない。
 ということで、妹尾一家は夏に山登りに行くという奇行をすることになった。

ある程度は予測していたが、やっぱり車の中は暇だ。
 運転席に座っている父さんと助手席に座っている母さんは話し込んでいて、それなりに盛り上がっているようだ。
 後部座席に座っている俺達は亜美の提案でしりとりをして時間を潰すことになった。
 しりとりにおいて、とある亜美の必殺技が存在する、それは、『る』攻め。その名の通り、語尾が『る』で終わる言葉で攻めてくる亜美の得意戦法だ。
 この戦法でいつも負けてしまうのだが、今日の俺は一味違う。とっておきのカウンター技を用意してきたのだ。
「じゃあ、俺から。しりとり」
「りか」
 あれ、おかしいな。いつもなら『リール』で返してくるのに。
 今日は『る』攻めを使わずに普通にやるつもりなのか?折角、用意したカウンター技がぁ……。
「からす」
「すまた」
「な……!?」
 い、今、何て!?俺の聞き間違いか!?
 そ、そうだ、きっと聞き間違いだ。亜美がそんなこと言うわけがない。
「『な』じゃなくて『た』だよ。早く早くー」
「わ、分かってるよ。たんぼ」
「うーん、ぼっき!」
「ぶ……!」
 今度こそ聞き間違いじゃないぞ!?今、確かに亜美は……!
「んー、お兄ちゃんパスー?じゃあ、あたしの番ね。きとう」
「今日は淫語攻めかぁーーー!!」
 そんな淫語しりとり(俺はしてないぞ)をしていると、いつの間にか俺達は目的地の山に辿り着いていた。
 外に出た瞬間、もわっとした外気が肌に触れ、汗が噴き出る。俺はその汗を持って来たタオルで拭くが、次々と汗が滴り落ちてきてきりがない。
「あぢぃぃぃ……」
 山登りを始めて僅か三十分。暑さのせいで既に俺の体力は限界に達していた。
「もう、お兄ちゃん体力無さ過ぎだよ。お父さんとお母さん、もうあんなに上まで登っちゃってるよー?」
 先に登る亜美の方を見上げると、ずっと遠くに父さんと母さんの姿があった。二人共、とても四十代とは思えない体力だ。
 そもそも、何でこんな暑い中で山登りなんだ。夏って言ったら、海だと思うのは俺だけではないはずだ。
 父さん曰く、高く伸びた木々が直射日光を防いでくれて、時折、樹間から吹く風が最高に気持ち良いらしい。
 残念ながら、直射日光はガンガン当たるし、樹間から吹く風とやらも全く感じない。単に俺が鈍感なだけか。
 そんなことを考えながら、ふらふらよろよろと歩く俺を心配して、亜美が俺の背後に回って後ろから押してくれる。
「ほら、押してあげるからちゃんと歩いて!」
 亜美のお蔭でだいぶ楽になったが、それでも時間が経つにつれて次第と足は重くなり、歩幅も狭くなる。
 やがて、ぐいぐいと背中に加わる亜美の力が俺の前進する力を超え、俺はバランスを崩した。
 何とか体勢を立て直そうとしたが、運悪く小石を踏んでしまい、遂に俺は全体重を後ろにいる亜美にかけることになってしまった。
「や、やべっ……!」
「え?ちょ、ちょっと、お兄ちゃん!?」
 俺は成す術も無く後ろに倒れ込み、それを支えようと踏ん張っていた亜美もバランスを崩し、後ろに倒れ込んだ。
 だが、いつまで経っても地面にぶつかる衝撃は訪れず、一瞬、俺の耳元で風が空を切った。
「え……?」
 下を見ると、そこには徐々に迫ってくる木々が。つまり、これは俺達が落ちていることを意味している。
 このままではまずい。俺はそう思い、腰に回してある亜美の手を緩め、そのまま反対方向を向く。
 そして、自分の胸に亜美の頭部が来るように抱き抱え、そのまま両目をぎゅっと閉じた。
「お兄ちゃん!?」
「だ、大丈夫だ……!目、瞑っとけ!」
「う、うん……」
 自分よりも身体が大きい人を抱き抱えるのは不自然だが、それでも俺は亜美の頭部だけは守ろうと必死だった。
 そして、俺はやがて訪れるであろう鋭い痛みを覚悟しながら、いつの間にか意識を失っていた。
 
俺は右足に襲い掛かる鋭い痛みで目を覚ました。どうやら、意識を失っていたらしい。
 人間は落下して地面に激突する寸前に意識を失う、と何処かで得た知識だったが、それは本当だったようだ。
 しかし、あの高さから落ちて生きていられるとは本当に奇跡だ。恐らく、樹がクッション代わりになったんだろうが、それでも奇跡と呼んでおかしくはない。
 ふと、傍らにいる亜美の方を見る。掠り傷を負っているが、大きな外傷は見られない。俺は安心して、亜美を起こそうと身体を揺するが、一向に目を覚まさない。
「亜美……?亜美!?」
 亜美の口元に耳を当てる。どうやら、息はあるようだ。だが、何処か身体の内部を傷つけてしまったのかもしれない。
 とりあえず、ここにいても仕方が無いし、亜美のことも心配なので立ち上がろうと足に力を入れた瞬間、さっき俺を襲った鋭い痛みが再び蘇った。
 そして、辺りに充満する血の臭い。何か嫌な予感がする。少なくとも亜美からではないことは確かだが。
 俺は痛みがする右の太股に恐る恐る目をやると、直径1cmくらいの枝が俺の太股を貫通していた。
 傷口からは、だらだらと大量の血が流れて地面を奇妙な色に変色させている。このまま放置すれば、俺は間違いなく出血多量で死ぬだろう。
 まずは、とりあえず、止血をしなければならない。
 俺は持っていたタオルと辺りに転がっていた枝を使って止血をした。これで何とか出血多量は免れたが、まだ一つ問題がある。
 人間の身体には傷口を塞ごうとする治癒能力が備わっている為、長時間この枝を突き刺したままにすれば、傷口の周りの筋肉が硬くなって一生抜けなくなる恐れがあるのだ。
 つまり、俺は自分自身の手でこの突き刺さった枝を抜かなければならないのだ。
 他人に抜いてもらうのならばともかく、自分で抜くのは精神的に相当なダメージになるだろう。
 だが、状況が状況だから、そんな悠長なことも言ってられない。
 俺は持っていた登山用リュックからもう一枚のタオルと綺麗に洗濯された予備のティーシャツを取り出す。
 タオルを口に咥え、歯を食いしばり、両目をぎゅっと閉じる。そして、一つ大きな息を吸って一気に手前に引き抜いた。
「んぐぅぅぅぅぅぅぅ!?」
 予想していたものを遥かに越える激痛が襲い掛かり、俺は涙をぼろぼと零しながら意識が飛びそうになるのを必死で堪えた。
 枝を全て引き抜くと、傷口からまた大量の血が溢れ出した。いくら止血をしているとはいえ、突き刺さっていたものを引き抜いたんだ。無理もない。
 俺は用意していたティーシャツを半分に破り、両方の傷口に当て、咥えていたタオルで強く縛った。
 これで応急処置は完了したが、これからまた歩かなければならないことを考えると、ずんと肩が重くなる。
 暫く何もしないでぼーっとしていたが、やがて、ゆっくりと立ち上がり、意識を失っている亜美を背負って太股の痛みに耐えながら歩き出した。
 突き刺さっていた枝を引き抜いたことによる痛みと精神的ダメージで疲労感が募り、俺の足取りは全くおぼつかなくなる。
 亜美を背負う力も少しずつ抜け、途中から引き摺る格好になってしまう。そんな俺に追い討ちをかけるように、少しずつ雨が降り出した。
 さっきまであんなに晴れていたのに……。山の天気は変わりやすいというのは本当なんだと改めて実感する。
 ぽちょぽちょと振っていた雨だったが、それも本降りになり、更には雷まで鳴り出した。
 俺はずぶ濡れになりながら、それでも一歩ずつ一歩ずつ前進し続けた。
 疲労もいよいよピークに達し、半ば諦めかけたその時。目の前に大きな建物があることに俺は気付く。段々、近付いていく内にそれは大きな屋敷だと分かった。
 こんな山奥に屋敷が建っているのも不自然だと思ったが、何よりも亜美の身を案じて俺は最後の力を振り絞ってそこまで辿り着き、ドアを力強く叩く。
 何度か叩いていると、ドアが開き、中から人が現れた。
「すみません、助けてくだ……」
 最後まで言えず、俺は遂にその場に倒れ込んだ。
「きゃっ!?だ、大丈夫ですか!?」
 女の人の声を聞きながら、俺は意識を失った。
 この屋敷が俺達の人生を大きく変えることになるのは、もう少し後のことである。
 
目を覚ますと、俺は大きなベッドの上に寝かされていた。
 一体どのくらい眠っていたのだろうか。
 窓から外の景色を見てみると、相変わらずの大雨だ。時折、大きな音を立てて雷が鳴り、薄明かりの部屋を一瞬だけ明るくする。
 辺りを見渡すと、何処か西洋風の雰囲気を漂わせる置き物がいくつも並べられていることに気付いた。
 世の中にはこういった置き物(骨董品と言ったか)を集める人もいるらしいから、この屋敷の主もその類なのだろうか。
 とりあえず、助けてもらったお礼をしなければならないので、俺はまだ少しだけおぼつかない足取りで部屋を後にした。
 廊下にも様々な西洋風の骨董品が置いてある。中でも俺の目を引いたのは、獅子の顔をかたどった燭台だった。
 今更だが、この屋敷の明かりには電気ではなく蝋燭の火を用いているようだ。しかし、これだけ広いと火の管理も大変そうだ。
 そんなことを考えながらきょろきょろして歩いていると、階下に続く階段を見つけた。俺は素直にそれを降りて行く。
 歩く度に襲い掛かっていた右足の痛みも、既にほとんど消えていた。これもこの屋敷の主が手当てしてくれたのだろうか。
 一番下まで降りて、また暫く歩いていると、とても長い机とやけに背もたれが高い椅子が置いてある部屋に辿り着いた。
 西洋の映画のワンシーンでしか見たことがないが、恐らく晩餐会などに使う机と椅子なのだろう。ということはここはダイニングルームなのだろうか。
 ふと、一番奥を見ると、二人のメイドに囲まれて何かを飲んでいる女性の姿があった。屋敷の雰囲気からして紅茶かもしれない。
 見たことがないものばかりだから、俺は全て憶測でことを片付けるようになってしまっている。まぁ、仕方ないといえば仕方ないが。
 恐らく(これも俺の憶測だ)あの女性がこの屋敷の主なのだろう。俺はティータイムの邪魔をしないように静かに女性の傍まで歩み寄った。
 両目を閉じて紅茶を味わっている途中に話しかけるのは気が引けたが、意を決して尋ねた。
「あの、あなたがこの屋敷の主ですか?」
 女性は口につけていたティーカップをゆっくりと離し、両目を開けながら静かに答えた。
「いかにも。わたくしがこの屋敷の主、リーゼロット・ヴァン・シルグレッドですわ」
 名前からしてどうやら日本人ではないらしい。外人にしては珍しい黒髪だ。
 年の頃は二十歳くらいだろうか。少なくとも俺より年上なのは確かだろう。
 そして、近くで見ると、この女性はかなりの美人であることが分かった。赤いドレスを着て紅茶を嗜んでいる姿はまさに絶世の美女と呼ぶに相応しいだろう。
 って、何を考えているんだ俺は。助けてもらったお礼を言わなければならないのに。
「助けてもらってありがとうございました。本当に助かりました。あ、俺、妹尾 真夜っていいます」
「玄関で倒れられた時には驚きましたわ。それにしても、この大雨の中どうされたんですの?」
「登山中に落下してしまって、助けを求めて歩いていたら偶然ここに……」
「まぁ、それは大変でしたわね。命があったことに感謝しなければなりませんわね」
「いえ、リーゼロットさんの助けがなければ、今頃は……。あっ……!?亜美!?」
 亜美の存在を思い出し、俺は慌てふためく。
 屋敷の前で意識を失う寸前も俺は亜美を背負っていたことは覚えているから、離れ離れになっている筈は無いが。
「あみ……?もしかして、背負っていた女の子のことですか?」
「はい!俺の妹なんです!」
「その子でしたら、二階の部屋に寝かせてありますから、ご心配なさらずに」
「そ、そうですか。良かった……」
 ほっと胸を撫で下ろす。
 俺はやっと、兄として妹に何かしてやれた。
 今までは亜美が俺にしてくれることが多かったから、俺は兄として本当に情けなかった。
 そのわだかまりが少しだけ取れた気がして俺は少しだけ達成感を覚えた。そして、それと同時に妹が無事だと聞いて心底、安心もした。
「それと、わたくしのことはリゼと呼んで頂いて構いませんわ。リーゼロットでは長いでしょうから」
「はい、分かりました」
「あら、妹さんも目を覚ましたみたいですわ」
 リゼさんが見ている方向に俺も目をやると、そこには黒いドレスを着た亜美が立っていた。

 どうして亜美がドレスなんか着ているのだろうか。
 確か、登山していた時はティーシャツにジーンズだった気がしたが……。
「わたしくのドレス、お気に召しましたか?サイズの方は如何です?」
「大丈夫ですけど……これ、あなたのですか?」
「そうですわ。着ていた服は泥だらけでしたので間に合わせとして、そのドレスを」
 なるほど、リゼさんが気を利かせて服を変えてくれたらしい。よく見ると、俺も服が変わっている。いや、流石にドレスではないが。
 今までの経緯を説明されていない亜美は未だに頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
 俺は分かりやすいように順を追って亜美に説明した。
「じゃあ、リゼさんはあたし達の命の恩人ってこと?」
「ああ。リゼさんに助けてもらわなかったら、俺達は間違いなく死んでた」
「そうなんだ。リゼさん、助けてもらってありがとうございます」
「いえ、当然のことをしたまでですわ」
「まぁ、お兄ちゃんがあそこでドジしなかったらこんな目には遭わなかったんだけどねー」
「……ごめん」
 本当のことを言われ、俺はしゅんとなる。
 良く考えてみれば、確かに亜美の言う通りかもしれない。元を正せば、あそこで俺がバランスを崩したから、こんな目に遭ったのだ。
「でも、落ちる時、庇ってくれたでしょ?それは嬉しかったよー」
「ま、まぁ、兄として当然のことをだな……!」
「調子に乗るなー!」
「ふふ、仲の良いご兄妹ですわね。あ、丁度良かった。夕食の準備が出来たみたいですわ」
 奥の方から様々な料理を持ったメイド達が次々と現れ、食卓に並べていく。
 俺達は指定された席にそれぞれ座り、メイド達が全ての料理を運び終わるのを静かに待った。
 そして、全ての料理が食卓に並べられると、一人のメイドが俺に歩み寄り、膝にナプキンを掛けてくれた。
「こちらをどうぞ」
「あ、どうも……」
 まるで何処かの高級レストランのような配慮である。幸い、テーブルマナーを少しはわきまえていたから困ることはなかったが、それでも緊張はする。
 亜美はというと……。やっぱり、悪戦苦闘しているようだ。
「どうですか?お口に合えば良いのですけれど」
「とても美味しいです!ね、お兄ちゃん!」
「あ、あぁ!」
「ふふ、それは良かったですわ」
 一通り食べ終わり、俺と亜美はほっと一息つく。緊張のせいかほとんど味は覚えていないが、それでもかなり美味しかったと思う。
 だが、やっぱり日本人はナイフとフォークよりも箸だと改めて実感した。
「一息ついたら、お湯に浸かってきては如何ですか?先程、下の者に沸かさせましたので」
「夕飯をご馳走になって、お風呂まで貸して頂いて本当にありがとうございます」
「お兄ちゃんはもうリゼさんに頭が上がらないねー」
「ふふ、気にすることはありませんわ。さぁ、行ってらっしゃいな。服は下の者に用意させますから」
「では、お言葉に甘えて」
 リゼさんの言葉に甘えて、俺達は湯に浸かりに行った。
 どちらが先に湯に浸かるかを決めるためにじゃんけんをして負けた俺は、一番最初にいた部屋に戻って亜美が出るのを待つことになったのだが、
ものの五分も経たない内に亜美が戻って来た。
 亜美によるとどうやら浴場が二つあるらしい。ということで、贅沢にも俺達は一つずつ浴場を使うことにした。
 途中で亜美が、一緒に入ろうと生意気に誘惑をしてきたが、俺は顔を真っ赤にしてそれを撥ね除け、そして、今に至る。
 こんな広い浴場を独り占め出来るなんて、そうそう出来ない体験だ。
 俺は、おぉーとか、んんーとか、まるで中年の親父のような訳の分からない声を出しながら、絶妙な湯加減にすっかり気分を良くしていた。
 独り占めの大浴場をたっぷりと堪能して出ると、俺はとてつもない睡魔に襲われた。
 それに耐えられなくなった俺は部屋に戻って、ころんと横になり、そして、あっという間に夢の世界へと落ちて行った。

 腹の辺りに感じる妙な重みで俺は目を覚ました。
 ゆっくりと両目を開け、その重みがする腹の方へ目をやった俺は信じ難い光景を目の当たりにした。
「リ、リゼさん……!?」
 そう、そこには俺の身体に跨り、ただ静かに見下ろすリゼさんの姿があったのだ。
 とりあえず、このやばそうな状況を打開する為に上体を起こそうとするが、身体が全く言う事を聞いてくれない。
 どれだけ力を入れても指先が少し動く程度。そんなことをしている内にリゼさんの顔が少しずつ近付いて来ることに俺は気付く。
「ふふ、身体が動かないでしょう?先程お二人が食べた食事に薬を盛らせて盛らせて頂きましたわ」
「一体、どういう……!?」
「真夜さんの……ですわね」
 目と鼻の先でリゼさんが何かを呟いたが、それは大きな雷の音で俺の耳に入って来ることはなかった。
 その直後、俺の首に何かがちくりと刺さり、じゅるじゅると血を吸っていく。俺は初めて血を吸われる未知の感覚にやり場のない嫌悪感を抱いた。
「っは……」
「真夜さんの血、とても美味しいですわ……じゅるり」
 ちくりとした痛みの原因はどうやらリゼさんの歯だったらしい。
 いや、人間とは思えない程、鋭く尖ったそれは歯というよりも牙と呼んだ方が相応しいかもしれない。
 口の周りに付着した血をぺろりと舐め上げながら言うリゼさんに俺はとてつもない恐怖感を覚える。
 この人は人間じゃない。このままだと俺は全身の血を抜き取られて殺されてしまう。早く逃げろ――
 俺の身体がそう危険信号を発しているが、俺の身体は相変わらず痺れたように全く動かない。
「一つ言い忘れていましたわ。わたくし、人間ではありませんの。本当の姿は……」
 もぞもぞとリゼさんの背後が動き出し、やがて、そこに漆黒の羽が姿を現した。黒かった瞳も真っ赤に染まっている。
 何だろう、吸血鬼だろうか。吸血鬼に羽なんか生えていたか?
 って、そんな呑気なこと考えてる場合じゃない。俺は今、命を狙われているんだ……!
「驚きましたか?わたくしは蝙蝠娘。そして、ここは空間を彷徨う蝙蝠の館」
 蝙蝠娘?空間を彷徨う?
 そんなファンタジー小説みたいな話が本当に有り得るのか?いや、でも、目の前にいるこの女性は間違いなく人間ではない。
 となると、やっぱりこの話は……。
 いきなりの摩訶不思議現象に俺の頭はすっかり錯乱状態に陥っている。
「この姿を見たということは、すなわち、もうこの屋敷からは出られないということ。真夜さんには私の玩具になって頂きますわ。永久にね」
「じょ、冗談じゃない!何で俺がこんな屋敷に一生……!」
「随分と反抗的ですわね。先程までの恭しい態度は何処へ?」
「っ……!」
 確かにこの人は俺と亜美の命の恩人だ。だから、最初は本当に感謝していた。
 だが、この人の言ってることはおかしい。理屈に合っていない。この人に対して持っていた好印象が全て崩れていくのを俺は感じた。
「こんな理不尽な話があって堪るか!さっさと俺達を外に出せ!」
「少し言う事を聞かせる必要があるようですわね」
 蝙蝠娘がそう言うと、周りに立っていたメイド達が次々と俺に伸し掛かってくる。
 そして、俺が着ている服を脱がし、身体のあらゆる箇所を思い思いに愛撫し始めた。
 あるメイドは俺の口に舌を突っ込んで口内を犯し、またあるメイドは俺の乳首に吸い付き、またあるメイドは舌を使って俺の耳を犯す。
 全身に降り掛かるメイド達の愛撫に悔しいが、俺は少しだけ感じてしまっていた。
「や、やめろっ……!こんなことしても無駄……くぅっ!」
「喘ぎ声を出しながら言っても説得力がありませんわよ?」
 溢れ出る声を必死で我慢しようとするが、強烈なメイド達の愛撫を前にして俺のその努力も徒労に終わる。
 その時、部屋の中でゴトンと音がして亜美の声がしたのを俺は聞き逃さなかった。

「ん、お兄ちゃん……?」
「あ、亜美!?くぅっ……!」
 声がした方を向くと、亜美が椅子に縛り付けられた状態でそこにいた。
 どうやら、亜美の食事にも薬が盛られていたらしい。
「あら、お目覚めですか?」
「リ、リゼさん、これは一体どういう……!?」
 この光景を見た亜美も驚きを隠せずにいるようだ。
 それもそうだろう。目の前には羽の生えた化け物がいて、兄はメイド達に蹂躙されているんだから。
「貴女達を助けたリーゼロット・ヴァン・シルグレッドは人間ではない。ただそれだけのことですわ」
 クスクスと笑いながら、蝙蝠娘はゆっくりと亜美の方に歩み寄っていく。
「貴女の血も美味しそうですわね……」
「えっ……?」
「や、止めろ!」
「何か?」
「亜美にだけは……妹にだけは手を出さないでくれ!俺はどうなってもいいから!」
「あら、妹思いの優しいお兄さんですわね。でも、人にものを頼む時はそれ相応の態度というものがありますわよね?」
「っ!……お、お願いします、妹にだけは……んぁっ!?」
 俺は羞恥心を感じながら哀願しようとするが、それを邪魔するかのように乳首に吸い付いていたメイドが甘噛みを始めた。
 いきなりの出来事に俺はまるで女のような喘ぎ声を出してしまう。
「良く聞こえませんわ」
「お願いしま……うぅっ、す……。んっ……妹にだけは、手を、出さないで下さい……!」
「仕方ありませんわね。真夜さんに免じて、妹さんには手を出さないと約束しましょう。でも……」
 一度離れた蝙蝠娘が再び俺に跨り、また顔を近づけて来る。
「ふふ、さっき真夜さんは自分はどうなっても良いと仰いましたわね」
 また血を吸われるのか、と思ったが、違った。
 今まで俺の口内を犯していたメイドの代わりに今度は蝙蝠娘が舌を突っ込んで来たのだ。
 メイドのものとは全く比べ物にならない熱烈な責めで思考力と抵抗力が少しずつ削がれていくが、それでも何とか自我を保っていた。
 そんな俺に止めを刺すかのように、蝙蝠娘はメイド達の愛撫によってすっかり硬くなっている俺のモノをぎゅっと握り締め、上下に少しずつ動かしていく。
 今までそこだけ触ってもらえなかったこともあって、快感も倍増する。
「れろ、ちゅっ……ふふ、こんなに大きくしてそんなに気持ち良いんですか?」
「ぷはっ……。こ、こんなの気持ち良くなんか……んんっ!」
「嘘はいけませんわ。こんなにビクビクして、汚い精液びゅくびゅく出したいんでしょう?」
「そ、そんなことないっ……!」
 そう言って強がったが、実際は図星だった。
 蝙蝠娘が愛撫している間も他のメイドは愛撫を続けているから、俺は性感帯という性感帯を責められ続けていることになる。
 そんな度が過ぎた快感に長時間も耐えられる筈がなく、既に我慢の限界にまで達していた。
 だが、それを悟った蝙蝠娘は射精しない程度に俺のモノをやわやわと弄り続ける。イキたいのにイケない、そんなもどかしさの中に俺はいた。
「ほら、またビクンって。真夜さんのココ、出したい出したいって叫んでいますわよ?素直にお願いしたらどうですの?」
「だ、誰が化け物なんかに……!」
「その強がりがいつまで続くか、わたくしとても楽しみですわ」
 俺は悔しさで涙をも浮かべるが、屈服するわけにはいかなかった。自分のためにも、亜美のためにも。
「もうやめて!」 
 そんな光景を黙って見ていた亜美が遂に口を開いた。

「それ以上お兄ちゃんを虐めたら……」
「虐めたら?」
「ゆ、許さないんだから……!」
「ふふ、どう許さないんですの?貴女、今の自分の状況を分かっていて?」
「っ……!」
 嘲笑いながらそう言う蝙蝠娘をぎゅっと唇を噛み締めながら睨み付ける亜美。
 だが、正直言って亜美には反抗的な態度を取って欲しくなかった。
 亜美は俺のことになると、まるで別人のようになる。もし、亜美の挑発によって蝙蝠娘が逆上して手をかけたら……それは、俺が最も望まない展開だった。
 今まで兄らしいことをしてやれなかった分、俺は今ここで妹を守るという責務を全うしようとしているのだ。
「人外に犯される実の兄を貴女はそこで黙って見ていなさい」
 え、今、何て……?
「そ、そんなこと絶対にあたしが許さない!さっさとこの縄を解いてよ!」
「威勢の良い妹さんですわね。……さぁ、始めましょうか。わたくし達の快楽の宴を」
「ちょっと、やめ……!」
 制止する亜美を無視して蝙蝠娘は着ていた赤いドレスと下着を脱ぎ去り、自分の秘所に俺のモノをあてがう。
 そして、そのまま何の躊躇いもなく腰を落とし、俺のモノはずぶりと蝙蝠娘の中に入り込んでいった。
 温かく柔らかい肉壁がやわやわと俺のモノを包み込み、俺を少しずつ高みへと導いていく。もうそれだけで十分、射精が出来る程だ。
「……!?」
「さぁ、全部入りましたわ。如何です、私の膣内は」
「そ、そんなっ……!」
 初めて味わう膣内の感覚に俺は何も言えず、まるで金魚のように口をぱくぱくさせるだけだ。
「言葉も出ない程、気持ち良いんですの?それなら、もっと気持ち良くして差し上げますわ」
 そう言って蝙蝠娘は腰を上下に振り出し、更なる快感を俺に送ってくる。自分でするのとは大違いだ。
「んっ、真夜さんの大きいのが奥に当たって……んんっ!」
「くぅっ……!」
「んぁっ!ほらほら、何か言って下さらないと、んっ、分かりませんわ」
 気持ち良い。それが素直な感想だが、それを言ってしまえば、俺は蝙蝠娘に屈服したことになってしまう。屈服することは、つまり、俺が敗北すること。
 だから、俺は唇を噛み締めて、溢れ出そうになる声を必死で堪えていた。
 そんな俺の様子を見て、無情にも蝙蝠娘は腰の動きを更に激しくする。今度は上下運動だけではなく、左右に動かしたり、円を描くようにして腰を回したり。
 そのことで遂に俺は溢れ出そうになる喘ぎ声を抑えきれなくなった。
「うぁっ……!ぐっ、かはっ……くふぅっ!」
「あんっ!ふふ、良い喘ぎ声ですわ。んんっ、こんなに大きくなって、そろそろ出したいんですわね?良いですわ、精液いっぱいわたくしの膣内に出して下さい!」
「中は、だ……め、くぅっ!うっ、出る……!」
「あぁっ!わたくしもイキます……!んぁぁぁぁぁっ!!」
 己の意思に反して喘ぎ声を出す自分の情けなさを慙恚する中で、俺はとてつもない射精感を感じた。
 そして、蝙蝠娘が力強くズンと腰を落とした瞬間、俺のモノから大量の精液が噴き出し、膣内を駆け巡っていった。
 あれだけ焦らされていたこともあってその量は半端が無く、収まりきらなかった残りの精液が逆流して俺の腹に流れ落ちる。
 俺が射精したのとほぼ同時に蝙蝠娘も絶頂を迎えたらしく、蝙蝠娘は俺の方にくたりと倒れ込んだ。
「はぁっ、はぁっ……。ふふ、わたくしも、イッてしまいましたわ」
 絶頂の後の余韻を全身で感じ、ぶるぶると身体を震わせながら蝙蝠娘はそう呟く。
 化け物に良いように犯され、更に中出しをしてしまった俺は絶望に打ちひしがれ、涙を流しながらただ天井を見つめていた。

「いつの間にか妹さんも静かに……あら?何をそんなにもじもじとしていますの?」
「別に何でもないわよ……!」
「貴女、まさか?」
 蝙蝠娘が俺のモノをずるりと引き抜いて亜美に歩み寄り、足と足の間に手を突っ込んだ。
 つまり、そこは……。こいつ、亜美には手を出さないって言ったくせに……!
「きゃっ……!?何処、触ってんのよ、この変態!」
「変態?それは、もちろん自分のことを言ったんですわよね?」
 何やら様子がおかしい。
 亜美は赤面して俯いてるし、蝙蝠娘は突っ込んだ手の人差し指と中指を開いたり閉じたりしている。この謎の行動には何の意味があるのだろうか。
 薄明るい部屋でそれ以上の様子を窺い知ることは出来なかった。
「驚きましたわ。実の兄が犯されている姿を見て興奮しているだなんて。とんだ変態さんがいたものですわね」
「こ、興奮なんか……!」
「それじゃあ、どうして貴女のそこはそんなに濡れていますの?」
「それは……!」
「それは実の兄が犯されてる姿を見て興奮してしまったから、でしょう?」
「っ……!」
 俺は耳を疑った。そんな現実を直視したくなかった。
 亜美が、亜美が……いや、そんなはずがない。
 きっと、蝙蝠娘が仕組んだに違いない。そうだ、そうに違いない。
「ふふ、安心なさって。わたくしは貴女を軽蔑などしませんわ。まぁ、貴女のお兄さんはどうか知りませんけど」
「……」
「楽になりたいのでしょう?この男を犯したい。犯し尽くしたい。でも、自分達は血の繋がった兄妹。それは、禁忌を犯すことになる。だから出来ない。
でも、犯したい。喘がせたい。散々、弄って、嫐って、めちゃくちゃに壊したい。ふふ、わたくしに任せればすぐに楽になれますわ」
 蝙蝠娘が放つ一つ一つの言葉に亜美は眉をぴくりと動かす。
 亜美、どうしたんだよ……そんなことないって否定してくれよ……亜美!
 そう言いたいのに、何故か声が出ない。どうしてだ?まるで、声帯を失ったかのようだ。
「楽に、なりたいのでしょう?」
「……(こくん)」
 嫌だ。
 俺は絶対に信じない。
 夢だ。そうだ、俺は夢を見てるんだ。
 こんな悪い夢からは早く覚めなければならない。
 だから……。
 やがて、蝙蝠娘が亜美の首元に口を持っていき、そして――
「止め……」
 俺の発する言葉が外で鳴る雷の音と重なり、遮られた。
 眩しい稲光で見えなかった部屋の様子がやっと見えるようになる。
 そこにいたのは蝙蝠娘と……誰だ?蝙蝠娘と同じ姿の奴がもう一人いる。まさか、分身したのか?
 いや、違う。亜美の姿が無い。まさか……!?
 片方の蝙蝠娘がゆっくりと俺に歩み寄り、耳元で囁いた。
「こんばんは、お兄ちゃん」
 それは紛れも無く俺の妹、亜美の声だった。

「や、止めろ、亜美!正気を取り戻すんだ!」
「やだなぁ、お兄ちゃんったら。あたしはいつものあたしだよー?」
 目を細め、微笑みながら亜美は言う。その瞳は、赤。
「こんな悪い夢、早く覚めてくれ……。お願いだから、早く……」
「夢なんかじゃ、ないよ」
「え……?」
「あたしね、ずっと前からお兄ちゃんのこと好きだったったの。兄としてじゃなくて、一人の男性として。
でもさ、あたしがいくらアピールしても、全然気付かないんだもの。お兄ちゃんったら本当に鈍感だよねー!あははっ」
「亜美……」
「やっと。やーっと!お兄ちゃんと一つになれる時が来たの!こんなこと夢にも思わなかったなー」
 馬鹿、俺だって気付いてたさ。
 急に抱き締められたり、寝ている間に布団に潜り込まれたりして気付かないわけ無いだろ……。
 でも、俺は敢えてそれを言わなかったんだ。俺達は兄妹だから。兄妹としての関係を壊したくなかったから。
 俺だって亜美のことは好きだし、大切に思ってる。でも、それは家族としてであって一人の女としてではない。
 そうやって俺が気付かない振りをしている内に、亜美の中の俺への想いは極限まで大きくなっていたんだ。
 だから、化け物になってまで、俺と一つになろうとした。これは、俺の責任なのかもしれない。 
 でも、いくら人間でなくなったからといって、やっぱりこれは許される行為じゃない。大丈夫。ちゃんと話せば、亜美だって分かってくれる筈だ。
「亜美なら分かってくれる筈だ。俺達は……んむっ!?」
 まるで、その後の言葉を言わせないかのように、亜美は俺の唇を自分の唇で塞いだ。
 更に舌も入れてこようとするが、俺は歯を食い縛ってそれを阻む。
 だが、亜美は俺よりも何枚も上手だった。
 俺は両方の乳首を力強く摘ままれ、激痛で食い縛っていた歯を緩ませてしまう。その隙を亜美は見逃さず、隙間からすかさず舌を差し込んだ。
 上顎、下顎、歯と歯の隙間。亜美の舌が俺の口内の至る所を舐め回していく。俺は実の妹に口内を犯される奇妙な感覚に戸惑いながら、それが終わるまでじっと耐えていた。
 やっと終わったかと思うと、今度は俺の身体に次々とキスを落としていく。
 最初は触れるだけの優しいキスだったが、その内、肌を吸い上げる熱いキスへと変わっていく。
 吸い付かれた所は蚊に刺された後のように赤くなり、俺の全身はたちまち赤い斑点と亜美の唾液だらけになってしまった。
 それでも、亜美はキスを止めようとせず、夢中で俺を自分色に染め上げていく。
「んっ、あ、亜美、もうやめてくれ……」
「ちゅっ、ちゅっ。うん、じゃあ、そろそろだね」
「え……?」
 いつの間にか亜美は一糸纏わぬ姿になっており、そして、俺に跨り、自分の秘所に俺のモノをあてがう。
「ま、待っ……!」
 亜美は俺の言葉なんて完全に無視して、そのまま一気に腰を落とす。
 俺のモノが亜美を貫いていき、とある一点で何かを突き破った。恐らく、初めての証だろう。
 それなのに、亜美は全く表情を歪めない。おかしい、確か一番最初は物凄く痛い筈だが……。いや、俺は女ではないから分からないが。
「あれ、全然痛くない……。この姿だから?まぁ、いいや。じゃあ、動くよー」
 そう言って亜美は上下に腰を動かし始め、少しずつそのスピードを速めていく。
 最初は乱暴に上下運動をするだけだったが、慣れてきたのか、亜美は俺を気持ち良くさせるために様々な運動を付け加えていく。
「んっ、んっ!お兄ちゃんのおっきくて、奥に当たって……あぁっ!気持ち良いよぉ!」
 部屋中には激しく肌と肌がぶつかり合う音が響き渡っている。
 痛みは無いと言っていたが、やっぱり処女の締め付けは強烈だ。ぎゅうぎゅうと俺のモノを締め付け、射精へと導いていく。
 そんな強烈な締め付けに、俺は早くも限界に達していた。

「くっ、うぅっ……!も……出るっ!」
「あんっ!あんっ!い、いよ、出して。お兄ちゃんの精液、あたしの膣内にいっぱい出してぇぇぇ!」
「だ、駄目だ……。亜美、抜いてくれっ……!」
「だめぇ……!あたしも、イクから、お兄ちゃんも一緒に!」
「ばっ、か……!抜……っぁぁぁぁ!」
「あぁん、だめぇ!あたし、もうイっちゃう!お兄ちゃんので、あたしぃ……!あぁっ、お兄ちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」
 さっきあれだけ出したのにも関わらず、大量の精液が亜美の膣内に流れ込んでいく。
 俺の射精と一緒に亜美も絶叫し、身体をピンと伸ばして絶頂を迎え、体液が俺の下腹部に降り掛かった。
「はぁっ、はぁっ……。凄い……こんなに気持ち良いの、あたし初めてだよ、お兄ちゃん」
「……」
 俺は何てことをしてしまったんだ……。
 一方的だったとはいえ、実の妹の処女を奪い、中出しまでしてしまった。
 もう俺は完全に禁忌を犯してしまったのだ。そう思うと自然と涙が溢れ出てくる。
「お兄ちゃん、泣いてるの……?」
「……」
「後悔、してるんでしょ?実の妹と性行為をしてしまったこと」
「……(こくり)」
「あたしは後悔してないよ。お兄ちゃんと一つになれて、本当に嬉しいし、それに、もうあたしは人間じゃないんだしさ。お兄ちゃんが悔やむことなんかないよ」
「そうじゃ、ないんだ。俺なんかのせいで亜美を化け物の姿に……」
「あぁ、そういうことかー。お兄ちゃんはさ、あたしが人間じゃなくなると、もう妹だとは思えない?」
「そ、そんなことない!化け物だろうが何だろうが、亜美は亜美だ!俺の大切な妹だ!」
「うん、じゃあ、良いよね?でも、もし、お兄ちゃんが人間じゃないと妹だとは思えないなんて言うのなら……」
「……?」
「あたしは、お兄ちゃんの喉を引き裂いて殺すよ。あたしをこんな姿に変えたお兄ちゃんは当然、罪を償うべきでしょう?」
「(ビクッ……!)」
「でも、良かった。こんな姿でもあたしのことを妹だと思ってくれて。あたし、やっぱり、お兄ちゃんのこと大好きだよ♪」
「亜美……」
「ふふ、実に良いお話でしたわ。わたくし、とても感動致しました」
「お前……!」
「あら、真夜さんは何か勘違いをされていますわ。わたくしは亜美さんの願いを叶えたまで。別に強制や脅迫はしていませんわ。全ては亜美さんの意思ですもの」
「うん、そうだよ、お兄ちゃん。さっきも言ったでしょ?あたしは後悔してないって」
「さてと、亜美さんはもう普通の生活には戻れませんわね。わたくしと一緒に、永久にこの蝙蝠の館で暮らしてもらうことになりますわ。でも、真夜さんは別。
貴方が外へ出たいと仰るのなら、わたくしは引止めませんわ。ただし、最愛の妹を独りここに残すことが出来ればの話ですけれども」
 亜美がいない普通の人生と亜美がいる異端の人生を天秤に掛けて、どちらに傾くかは明白だった。
「……亜美と一緒に、ここに残ります」
「分かりましたわ。自分の人生よりも最愛の妹を取ったんですわね」
「お兄ちゃん……あたし、嬉しい……」
 亜美が俺の身体をぎゅっと抱き締める。
 こうなったのも全て俺のせいだ。俺だけ責任逃れをすることは絶対に出来なかった。
 だから、俺は後悔なんてこれっぽっちもしていない。後悔するということは、つまり、亜美を妹として否定してしまうことになるから。
 それに、普通の人生に戻ったってどうせ罪の意識に苛まれるだけだ。
 これで……良かったんだ。

 その後――

「あっ、主様……!もっと優しくしてくださ……ひぅっ!」
「真夜さんのそんな可愛い顔を見せられたら、加減なんて出来ませんわ」
「そんなっ……!あぁっ!亜美様、そんなところ……!」
「お兄ちゃん、ここをこうするのが弱いんだよねー?えいえい」
「ひぃん!そ、そんなにされたら、俺、おかしく……!」
「いいよ、おかしくなっても。あたしが治してあげるから
「ふぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 俺の一日は主様と亜美様、メイドさん達に犯されることで始まり、主様と亜美様、メイドさん達に犯されることによって終わる。
 こんな毎日でも俺は満足だった。だって、全ては自分で選んだことだから。
 だから、これで――


 ここは、蝙蝠娘とそのメイド達がが住まう蝙蝠の館。一度、迷い込んだら永久に…… 
 
 デ ラ レ ナ イ





 THE END...