「はい、人族一人と猫で」
「ではここにお名前を」
 辺りはすっかり夕方になり、空一面が赤く染まっている。
 少し歩けば着くと思っていた村だったが、結局こんな時間になるまで掛かってしまいレオンは疲れ気味に宿に入った。
 小さな村は純粋な人間、この世界では人族と呼ばれる種族がおらず、村人全員が獣人。
 そして小さな宿は悪く言えばボロいのだが、野宿よりはマシ。
 入り口の受付のような場所には犬耳の女の子がにこやかに立っており、レオンが名簿に自分の名前と種族、そしてブランシュネージュの名前をサラサラ書いている。
 その彼の肩に乗っていたブランシュネージュは、レオンから離れ一人歩き出した。
「私は疲れた。先に部屋に行っているぞ」
「あ、はい」
「ペットと一緒に旅ですか?」
「その人間が私のペットみたいなものだ、勘違いするな小娘」
「す、すみません……」
「いえ……こちらこそ」
 長い尻尾を揺らしながらゆっくり歩くブランシュネージュを見て、宿の犬耳娘はレオンに笑顔で聞いた。
 その刹那、振り向かずやや怒り口調でブランシュネージュは犬耳娘に一言言うとそのまま部屋の中へと入っていった。
 この場に重い空気が流れ、レオンと犬耳娘はお互い苦笑しながら謝っていた。


「ふぅ、レオン飯はまだか?」
「少し待ってもらえませんか? 食材が足りないので買出しに行きたいので」
「ならば早くしろ、私はここで寝ている」
 宿の部屋は四部屋ある。その内一番奥の部屋がブランシュネージュ御一行の部屋となった。
 少し埃を被っているベッドを、魔法にて新品同様にしつつその上に丸くなりながらブランシュネージュはレオンに空腹を訴える。
 しかし、食料が足りずレオンは買出しに出かけてしまった。
 一匹取り残されたブランシュネージュは何をするわけでもない、ただ尻尾を揺らしながら肉球を舐めたりし普通の猫のようになっていた。
「……満月も近いな……」
 日は沈み、外の部屋も暗くなり始める。
 部屋の中央にある小さな机の上に置いてあるロウソク。それに火をつけ窓から外を眺めるブランシュネージュ。
 暗い夜空に輝く月は、後数日もすれば満月となる。
 そんな月を見上げつつ、何かを感じ取りブランシュネージュの耳と尻尾は立ち、昼間オークが出没した森をじっと見つめていた。
 だが、すぐに気にすることもなく丸くなってベッドの上で寝息を立て始めた。
 しばらく経ち、レオンもリンゴやら肉やら食材を買い部屋に戻ってくると、そのまま幾つか持ち再び部屋を出る。
 料理をするためだ。宿は用意するといったが、ブランシュネージュはレオンの料理しか口にしないと言っているのでレオンが作るしかないのだ。
 さらに時間が経ち、レオンは笑顔で部屋に戻り、部屋にはいい匂いが漂う。
 その匂いに反応し、ブランシュネージュも大きな欠伸をし耳をピクピク動かしつつ、テーブルの上に置かれた料理をレオンの肩に乗り見つめていた。
 本日の料理は、ドラゴンの肉を使った料理。骨付きの肉が皿に乗っているが、その大きさは凄まじい。
 レオンの顔よりは遥かに大きい肉。その横にはパンとオニオンスープも添えられていた。
「ブラン様、何から頂きますか?」
「肉に決まっているだろう」
『つか、俺には!?』
「お前は食べられないだろう? 戦闘以外は出ないという決まりだ、我慢するんだな」
 ブランシュネージュが物を食べる際は、決まってレオンが食べさせる。
 猫のままでは自分で食べるのは難しい、魔法を使っても良いがそんな事に魔力を使うのは疲れる、という理由からだ。
 彼女の一口サイズに肉を切り分けホークで刺し、彼女の口に持っていくレオン。
「はい、ブラン様」
「あむっ………うん、今日も美味いな」
「ありがとうございます」
 ガジェットの訴えは軽く返され、料理を口にしブランシュネージュの機嫌も上がっていく。
 宿の入り口の件で怒っているのではないかというレオンの不安は、彼女の言葉を聞いた時点で何処かに消え去ったようだ。
「レオン、お前も食べろ。料理は冷めると不味い」
「あ、はい」
 そして四口ほど食べたブランシュネージュはレオンにも食べるように言う。
 彼は笑顔で頷き、巨大な肉に齧り付いた。
『おいレオン、俺にも食わせてくれよ~』
「だめだ、表に出してはいけないぞレオン」
「ごめん、ブラン様の命令だから」
『くぅ~~っ!!』
 ブランシュネージュの命令は絶対である。またもガジェットの訴えは軽く返された。
 悔しそうなガジェットの声が部屋に響く中、レオンは既に肉の半分以上を食べていた。
 パンやスープもブランシュネージュに与えつつ、一人と一匹の食卓は進んでいった。


「うぅ……ちょっと食べ過ぎたかな……」
 食事が終わり、レオンは空となった皿を宿の外に持っていく最中である。
 ドラゴンの肉は大きい上に脂もあり、食べ過ぎれば当然お腹に負担がかかる。
 レオンも食べすぎで膨れたお腹に苦しみつつ、皿を洗うべく井戸までやって来た。
 しかし、外に出ようとした瞬間、彼は何かにぶつかり豪快に皿を放り投げてしまいその場に倒れこんでしまった。
「きゃあッ!」
「うわっ!」
 レオンの声、そして女の声と皿が割れる音が宿と外に響く。二人はほぼ同時に尻から地面に倒れた。
 しばらくほぼ同じ動作でお尻を摩る二人。
 そして、先に口が開いたのはレオンの方だった。
「す、すみませ――」
「すみませんじゃないわよっ!」
「ひっ!」
 だが、謝罪するレオンの言葉を中断させ女のほうが怒鳴ってくる。レオンは思わず怯んだ。
 そして改めて女を見ると、人間、人族で人族ではないことに気づいた。
 この宿の娘さんと同じ犬に似ている耳を淡い緑の髪から生やしているが、尻尾は長くふさふさしている。
 すぐに、彼女は人狼族だという事にレオンは気づいた。
「何人のことじろじろ見て……あっ!」
 しかし、そんな事は些細なことだった。レオンの視線からは、少し開かれた両脚に彼女が穿いている緑のミニスカートから見える白い布。
 それに気づくと、狼女は足を閉じ顔を真っ赤にさせレオンを睨み付けた。
「今見たでしょ?」
 狼女がドスの利いた低い声でレオンに聞くと、彼は思いっきり頭を横に振る。
 しかしすぐに見抜かれてしまい、不意に手を掴まれ井戸の側までレオンは狼女に引き摺られていった。
「ごめんなさい」
「あんた、この村の人じゃないでしょ?」
「へ?」
 レオンは正座になり、その前には脚を組んで井戸に座っている狼女。
 むしろまた視線の角度的にレオンからは彼女の白い布が見えてしまうのだが、指摘したら殺されると思いレオンは黙っていた。
 せめて見ないよう、俯いていたが、明らかに怒ってはいない彼女の口調に再び顔を上げた。
「早く質問に答えなさいよ」
「え、あの、そうですけど……」
「ふーん………もしかして、あんたもこの村に雇われたの?」
「へ?」
 そして女からは意外な言葉出てきた。その言葉に目を丸くするレオン。
 別に雇われたわけでもなく、レオンはただ偶然にこの村に訪れていただけだから。
「違います、僕旅の途中でこの村に」
「そうなんだ……へぇー」
 レオンは正直に女に伝えた。
 それでも信じていない女は、じと目で彼の顔を見る。
 どう見ても女にしか見えないレオンの顔、一人称と格好から男だということがわかるが、どうしても可愛いと思ってしまうことに女は少し困っていた。
「あの、僕の顔に何か?」
「な、何でもない!」
 ジッと顔を見られ続けレオンも困っていた。
 指摘すると、女は顔を赤くさせ怒鳴ってくるからますます混乱する。
 とりあえず、レオンが嘘をついているようにも見えないので、女はその言葉を信じ立ち上がった。
「まぁいいわ。あんた、旅してるなら明日の朝にでもこの村を立ち去ることね?」
「へ?」
「この村の近くの森にオークが大量に出没してるのよ。それが村を襲っては女の子を攫っちゃうのよ。それで、あたしみたいな傭兵が雇われたって訳」
「傭兵、なんですか?」
「なによ、獣人の女が傭兵しちゃ悪いわけ? あたしこれでも少しは強いんだから」
「そ、そう、ですね……」
 女は自分の職業、そしてこの村の現状をレオンに話した。
 その際に、女がレオンの首を腕で締め付けるものだから、彼女の強さをレオンは痛感した。
 オークが大量出没、レオンには心当たりがある。何せ昼間襲われたばかりだから。
 その事を女に話すレオン。彼女はその話を聞き、獣耳を動かしつつ驚いていた。
 何せ見た目ひ弱そうな男、オークから逃げたのならともかく群れを倒したというのだから。
「あんた、やっぱり傭兵でしょ?」
「だから違いますってば……」
 実はかなりの実力者なのではという仮説を脳内で勝手に作った女は、再び疑いの眼でレオンを見る。
 村人の話では、自分以外に傭兵は雇っていないと聞かされていたし、報酬も減ってしまう可能性があったから。
「まぁいっか。とりあえずあたしの仕事の邪魔だけはしないでよね、えっと……」
「僕、レオンです」
「名前は男っぽいわね。あたしウィンって言うの。さっきも言ったけど、これはあたしの仕事なんだから邪魔しないでよ? あ、ただで手伝ってくれるなら話は別だけど」
 レオンに顔を近づけ、じと目で警告する狼娘ウィン。レオンは思わずドキリとしてしまう。
 暗くてよく見えなかったが、ウィンはかなり可愛い女の子。
 淡い緑の髪は腰まであり、瞳の色は青く綺麗。体つきは無駄なところがなく綺麗なラインを見せている。
 また服装も下は緑のスカート、上はジャケットなのだが、ジャケットの下が黒い水着のようなものであり露出も高い。
 その為、レオンも男なのでどうしても彼女の胸なのにも視線がいってしまうので正直困っていた。
 まぁ、ウィンの服装はただ単に動きやすいからということなのだが。
「戻ってこないと思ったら、何をしている?」
「っ! ぶ、ブラン様」
 ウィンがレオンに念を押していたとき、宿から出てくる一匹の猫にレオンは気づいた。
 ブランシュネージュだ。しかも口調的に少し怒っているので、レオンからは嫌な汗が出てくる。
 一方のウィンは、レオンがビビッているのが一匹の猫ということに疑問を覚えた。
「レオン、何この猫?」
「あ、駄目ですウィ――」
「触れるな小娘が。レオンもいつまでもこんな犬とじゃれ合っているんじゃない」
「い、犬ぅ!? あたし狼なんですけど!!」
「私から見れば犬だ。ほら行くぞレオン」
「は、はい。ごめんね、ウィン、仕事頑張って……」
 そしてウィンはブランシュネージュに近寄り、しゃがんで指を刺しつつレオンに聞く。
 だが次の瞬間、ブランシュネージュの一言に耳と尻尾を逆立てつつ彼女に怒鳴りこんだ。
 しかしブランシュネージュは全く気にすることなく、レオンの肩に飛び乗るとそのまま宿へと戻っていく。
 その際、レオンは苦笑いでウィンに謝ったが、彼女がそれで納得するはずがなく……村中に彼女の声が響いた。
 その刹那だった。村に悲鳴が響き、ウィンやレオン、ブランシュネージュもそれに気づいた。
「何!?」
 ウィンは宿の柵を一跳びで超え、悲鳴が聞こえたところまで走っていく。
 そしてレオンもまた、ガジェットを持ち、宿の犬娘や犬のおばさんに部屋に篭っているよう指示を出す。
 彼女達はレオンを止めようとしたが、彼は笑顔を見せ『大丈夫』と言い残し宿を後にした。
 ちなみに、ブランシュネージュは別でやることがあると闇夜の中に消えていった。


「オーク、こんなにいっぱいっ!」
 宿を出た瞬間、レオンを待っていたのはオークの群れ。既に数体が村の娘を攫っている真っ最中だった。
 そしてレオンにもオーク達は気づく。やはり女だと思い、昼間同様襲い掛かってきた。
「村人を助けながらだからね」
『おう、早くしろぉ!』
 ガジェットはやる気満々の様子。
 というより、ブランシュネージュに妙な扱いをされ続けてイライラしていたのだ。
 そして魔装具の中央に埋め込まれている赤い宝石のようなものが光り、一帯を赤く染める。
 その光にオーク達は腕を目に当て、光が治まると、そこには黒い大剣を担いでいるレオンがいた。
「ふぅ、ようやく憂さ晴らしができるぜ」
「グ……オオオオオ!!」
 明らかに目の前の”女”の雰囲気が変わり少し怯むオークの群れ。
 だが、こいつ等頭悪いので、考える前にまず雄たけびを上げながらレオンに突撃していった。
「てめーらなんざ敵じゃねーんだよ!! さっさと斬られろっ!!」
 レオンもまたオークに向かっていった。
 一を書くようにオークの一体は上半身と下半身に分かれ、レオンは村の娘を抱えているオークに向かっていく。
 そして高く飛び上がり、重力に任せてオークを二つに斬る。赤い血が飛びレオンにも、連れ去られようとしていた狐耳の娘にも返り血が付く。
 狐の娘は恐怖で涙を流し続け体を震わすだけ。
 そんな彼女に背を向け、レオンは向かってくるオーク達を大剣で次々と斬り倒していく。
 両腕、両脚を斬り五つに分かち、肩から横腹にかけて斜めに斬ったり、頭と体を分離させたりもした。
 血は飛び散り、目玉が地面を転がりオークの悲鳴が村に響き続ける。
 目の前に広がるグロテスクな光景、そしてオークを斬りながら笑っているレオンにも恐怖し狐娘は気を失った。
 その直後、レオンは周囲のオークをすべて斬り殺し終えた。
『あの、少しやり過ぎじゃ……』
「うっせーよ。向こうが向かってきたんだし、大体この娘だって助けただろうが」
『それはそうだけど』
「まだこの筋肉どもの気配がしやがる……へへ、いいねぇ」
 レオンは自分の中の主人格と話す最中も、村中のオークの気配を感じて楽しそうに笑みを浮かべる。
 気絶している狐の娘を民家の家に中に置き、レオンは大剣を担ぎながらオークが一番いると思われる村の入り口に向かって走り出した。

「しつこいんだからもうっ!」
 村の入り口では、ウィンが一人オークと戦っていた。
 その手には短弓を持っており、彼女に襲い掛かるオークの何体かは肩や胸に矢が刺さっている。
 だが致命傷まではいかず、ウィンはやや手こずっていた。
 ウィンは少しずつ後退る。だが、彼女の体が大きな影に覆われた。
 背後にオークがいた。前方のオークに気を取られ、別の場所から入ったオークに気づかなかった。
 オークの巨大な拳がウィンに襲い掛かる。
 ウィンは弓で防ぐが、防ぎきれるわけもなく弓は粉々に折れ、ウィンはその場に倒れこんでしまった。
 起き上がろうとするが、既にオークに囲まれ逃げることもできない。
 ウィンは綺麗な女の子、オークにとっては格好の獲物だった。
 オークの群れの、無数の手が彼女に伸びる。ウィンはジャケットから何かを取り出そうとした。
 だが、その前にオークの群れは血を噴出し何体かに斬り分けられその場に倒れた。
「おい、大丈夫かよ?」
「あ、あんた」
 オークを倒し、自分を見下ろしている男にウィンは驚いた。 
 それは先ほどまで自分にやられてもがいていたひ弱そうな青年、レオン。
 だがすぐに何かが違うことに気づいた。少し鋭くなった目、黒くなっている髪の毛、真紅の瞳、そしてオークの血が付いた黒い大剣。
 そして何より、戦いを楽しんでいそうな笑みにウィンは恐怖さえも覚えた。
「こ、こんなとこで何やってるのよ? 大人しくするよう言ったでしょ?」
「ふん、やられてたくせによく言うぜ。俺が来なきゃどうなっていたのかなぁ?」
「う……た、助けてくれたのはありがと……だけどもう帰りなさい、これはあたしの仕事なんだから」
「やなこった。こんな楽しいのに帰れるかよ」
 ウィンの言葉にも全く聞く耳持たずで口答え。
 目の前のこいつは自分に似ていると思いつつ、ウィンは周囲のオークの気配を感じた。それは無論レオンも感じていた。
「ヴゥ……ウウウ」
「オンナ、オンナ……サラウ」
 村はほぼ一直線なので村の入り口、そして背後からもオークは二人に向かってくる。
 レオンとウィンはお互い背を向けあいながら、オーク達に対し迎撃体制をとった。
「おいウィン、武器も壊れたんだし、てめーこそさっさと帰れ」
「冗談じゃないわよ、あんたの方が活躍しちゃったら報酬貰えなくなっちゃうかもしれないじゃないの」
「へっ、女が無理してんじゃねぇよ。あの筋肉ヤラれちまうぜぇ?」
「余計なお世話よ。大体、武器が無いなんて誰が言いました?」
 ウィンが使用していた弓は既にボロボロで使用不可能。
 だがウィン自身は何の危機感も持っていないことに、レオンは疑問に思う。
 それに答えるかのように、ウィンは先ほど手に持った何かを取り出した。
 それを横目で見て、レオンは少し驚いた。
「おい、ありゃあ……」
『魔装具?』
 それは、やや形状が異なるがレオンが持っているガジェットに似ている物質だった。
 黒く十字架のような形に、中央に埋め込まれている紫の宝石が怪しく光っていた。
「頼むわねリウ」
『うん、頑張るねお姉ちゃん』
 それはウィンの言葉に反応し喋った。この時点でレオンはあれが同じガジェットという事を確信した。
 そして、ガジェットが喋った瞬間、それは紫に眩く光り、レオンやオーク達は目を瞑る。
 光が治まると、そこには獣耳と尻尾の色が淡い緑から紫になったウィンがいた。
 ウィンはゆっくり瞳を開けると、瞳の色も紫になっており、手には黒い銃へと変わったガジェットを握っていた。
「こいつ……」
『ウィンも僕達と同じ?』
「オ? ゴオオ?」
 先ほどまでのウィンの雰囲気が、まるで別人になったように変わりオークも戸惑っている。
 そんな中、ウィンは銃口を前方のオーク達に向け口を開いた。
「お仕事だから君達倒すよ?」
「ウウ……グオオオオオオオオ!!」
 少し幼くなった感じウィンの言葉に、オークは答えるかのように雄たけびを上げた。
「答えは聞いてない」
 そしてその叫びにまた答えるかのように、ウィンは引き金を引いた。
 銃口からは普通の弾ではなく、魔力の篭った紫の光がオークに直撃し、そのオークの腹には大きな穴が開きその場に倒れた。
 そしてオークの群れはレオンとウィンに向け一斉に突撃していく。
 レオンはオークの群れに入り斬り倒していき、ウィンは一歩も動かずオーク達をなぎ払っていった。


 どのくらい経っただろうか、周辺にはオーク達の死体しかなく死臭が鼻を刺激する。
 その死体の山の上で、血まみれのレオンは大剣を担ぎ笑っていた。
「はっはっはっは……オークってのもホント大した事ねえな~! 俺の時代とは大違いだぜ!」
『この死体の山、どうするの?』
「んなもん、あの猫にでもやって貰え」
 主人格のレオンがオークの死体の始末や、村人の反応などを心配するが現表のレオンは気にしない。
 隣のウィンも、そんなレオンを何故か瞳を輝かせて見ていた。
「ん? 何だガキ?」
 そしてその視線にレオンも気づいた。
 ちなみに何故ガキ呼ばわりかというと、現表のウィンの口調が子供っぽいからである。
 ウィンの銃は再び紫に光ると、ガジェットは小さくなり彼女の獣耳と尻尾、瞳の色は元の色に戻り表情も戻っていた。
「何なんだよ?」
「あ、いや……何か照れてるみたい」
「はあ!?」
 いきなり照れてると言われれば、レオンの反応は最もと言える。
 ウィン自身もよく分かっておらず困惑する中、レオンは大剣を地面に突き刺しその場に座り込んだ。
「ったく、まぁいいや。とりあえずこの村にはもうオークはいねーようだな」
「そうね」
『そうなの?』
「「そうなの」」
 レオンはオークが周辺にいないことを感じ、ひとまず休憩といったところ。
 それはウィンにも感じていたが、主人格のレオンには分からない。
 元々戦闘に関しては素人、ウィンのように獣人というわけでもないので魔物独特の気配なども判別できるわけない。
 ウィンはレオンと同時に主人格のレオンにツッコむと、一枚の布を取り出しレオンに差し出した。
「はい、血が付いたままだとみっともないでしょ? 大体あんた何なのよ? どうしてあたしと同じようなもの持ってるわけ?」
「俺はレオンだ、それ以上でもそれ以下でもねえ。そんなに聞きたきゃこいつに聞け」
 ウィンから手渡された白い布は、あっという間に赤く染まり、レオンは言い残すように大剣の赤い宝石を光らせる。
 すると、彼の髪は元の茶髪に戻り瞳の色も戻っていた。
「あの、僕もよく分からないんだ……」
「逃げたわね」
『逃げたんじゃねぇバーカ!』
 とりあえず苦笑するレオンが持っていたガジェットを奪い、ウィンはその場に踏んでおいた。
「レオン、随分と楽しそうだなぁ」
 刹那、彼らの背後から明らかに怒っていらっしゃるブランシュネージュの声。
 レオンの体は竦み、ウィンはさっき犬扱いされたのでジト目で彼女を見下ろした。
「何しに来たのよ?」
「小娘には関係ないだろう? なに、オークの群れの数が少し気になってな、調べに行っていた」
「関係あるじゃないの!!」
 クールなブランシュネージュに、ウィンは口調を荒げて再びガジェットを取り出した。
 それをレオンは必死に止める。このままではウィンが殺されてしまうから。
「なんだ関係あるのか? まぁいい、私のレオンから離れろ小娘」
「その小娘ってのやめなさいよ猫!」
「……一度死んでみるか?」
「あぁ、やめて、やめてください~!」
 しばらく二匹の争いは続いていた。
 ウィンは今にもガジェット発動しブランシュネージュを吹き飛ばそうとし、ブランシュネージュは今にも魔力全開でウィンを吹き飛ばそうとする。
 どちらにしろ村が崩壊する危険性と巻き込まれる危険性があるので、レオンは涙目で二人を止める。
 その彼の表情にウィンは顔を赤くし、ブランシュネージュはクールなまま喧嘩をやめた。
 そして村中のオークの死体と血を、ブランシュネージュはすべて跡形も無く消し去った。
 ブランシュネージュはもうオークがこの村を襲うことが無いと二人に言い、宿に戻り一夜が明けた。


「え? 虎?」
「あぁ」
 翌朝、事の原因は何なのかとウィンはブランシュネージュに問いただした。
 白いベッドに座っているレオンの膝の上に丸くなっているブランシュネージュは、関係者であるウィンの質問に渋々答えた。
 オークはただ村を襲っていたわけではなく、誰かに操られる感じで行動していたこと。
 それをしていたのは、ブランシュネージュが森の奥深くにある洞窟内で見つけた虎耳の女の子だということ。
 その娘は、魔物を操る特殊な鈴を持っており、それはブランシュネージュが破壊したということ。
 そして、そんな虎娘がオークを操り村人を攫わせていたのは、家族が欲しかった一心で行っていたということ。
 その虎娘は、物心付いたときから一人であり家族が欲しかったから攫わせた、と言っていた事を全てレオンとウィンに話した。
「そうだったんだ……」
「しかし、おかしい点がある」
 さらにブランシュネージュは口を開く。
 確かにオークを操っていたのはその虎の女の子だが、何処でどうやってとその鈴を持っていたのか分からない。
 それを本人に聞いたら、知らないおばさんに貰ったのだと言っていた。
「つまりは、そのおばさんが本当の原因だって事?」
「そうなるな。しかし、これでもう力も失い、あの娘がオークを従えることも無いだろう」
「でも、それって危ないんじゃ……」
 レオンはブランシュネージュを撫でながら問う。
 今までは、その特殊な鈴でオークはある程度制御していたのだろうが、制御が利かなくなり再び村を襲うのではないか、という不安からだった。
 だが、その不安を取り除くように、ブランシュネージュは鼻で笑い二本の尻尾でレオンを軽く叩いた。
「あの森に居たオークならすべて消しておいた。安心しろレオン」
「でもその女の子は」
「私から事情を言った。この村で共に暮らすそうだぞ?」
「そうですか、よかった」
 ホッと息を吐き安心するレオンの顔を、ブランシュネージュは彼の肩に乗り尻尾で軽く撫でている。
 その光景を、頬を膨らませながらウィンは眺めていたが、やがて村人に呼ばれて部屋を後にした。


「それで、どうして小娘までいるのだ?」
「小娘って言うな!」
 レオンとブランシュネージュ、そして名前をガジェと付けてもらった魔装具は村を後にしていた。
 ただし、ウィンも一緒にだが。
 その状況を不満げに着いて来た本人にブランシュネージュは聞くと、ウィンの声が空に響いた。
「今回の報酬、あんたと山分けになっちゃったのよ!」
「ぼ、僕とですか?」
「あんたも戦ったからね、当然といえば当然よ! ただあたしは納得できない、あたし一人でもできた仕事だしね!」
「それと着いて行く理由と何の関係がある?」
「関係あるわよ化け猫!」
 ブランシュネージュとウィンが再びにらみ合った。レオンは涙目になり体を震わす。
 ウィンが傭兵の契約を解除し、報酬を貰う際に何故かレオンと半々となってしまった。
 村人が言うには、レオンとウィンは同じくらい戦ってくれた、という事だが彼女は納得できるはずも無い。
 だからウィンは、本来貰うはずだった報酬の半分を持っているレオンに着いて行く事にしたのだ。
 そもそもウィンは養っている家族の下にこの金を送り届けなければならない。
 その道中、危険なこともあるだろう。レオンはウィンにとっては護衛代わりでもあるのだ。
「あんた……というか、あんたのガジェットがでしゃばるからいけないんだからね!」
『んだとこら!』
『ずっと一緒だね、お兄ちゃん♪』
『お、お兄ちゃん……?』
 更に言えば、ウィンの銃型ガジェット『リウ』も、強いガジェを気に入ったことも理由の一つである。
 お兄ちゃんという聞きなれない言葉に、ガジェは戸惑いを隠せない様子だった。
「とにかく、あたしの故郷まで着いてきてもらうからね!」
「行き先は私が決めることだ、下僕が決められるわけ無いだろう?」
「いつあんたの下僕になったのよ!」
「着いて行くと言うのならお前も私の下僕だ。嫌ならこの金は有難く貰っていこう」
 完全に足元を見たブランシュネージュの言葉に、ウィンも身を震わせて怒りを抑えながら頷いた。
 まぁ、それは上辺だけだが。
「レオン?」
「どうしたの、ウィン?」
「あんたはあたしより下だからね。ガジェット使わなきゃあたしの方が強いんだから」
「え……あ、うん、そう、だね……」
 そして、ウィンは耳元で囁く様にレオンに伝えた。
 レオンは戸惑いながらも、彼女の言っていることはある意味尤もなので頷くしかない。
 ブランシュネージュにも聞こえていたのだが納得の様子。
 レオンは深いため息を吐いた。
「嫌なの?」
「いえ、とんでもないです」
 どうやら自分はこうなる運命なのだと、レオンは心の中で無理やり納得させた。
 反論すると何かされるので、ウィンにも笑顔を向けて返す。
 そしてウィンがレオンと腕を組み、尚且つ胸に腕を押し当てながら歩き出しレオンは動揺す、ブランシュネージュは魔力を溜め始めた。
「レオンから離れろ、お前は私の下僕だろう?」
「レオンはあたしの下僕でもあるんだから、別にいいでしょ?」
 再びにらみ合う二人。その間でただ汗を流し笑っているしかないレオンがいた。
 ガジェもリウに自分のペースを乱されているあたりレオンと似ているかもしれない。
「あの、二人ともやめてください」
「お前は黙っていろレオン。これは私とこの小娘の問題だ」
「小娘って言うなって言ってるでしょう!?」
「うぅ……」
 この直後、ブランシュネージュとウィンはしばらくレオンを取り合った。
 レオンは嫌な顔もできないのでただ笑っていた。

 まぁ何はともあれ、新しい仲間ウィンと共にレオンの旅は続くのである。