「ん……ふぁぁぁ…ぁ……」
朝の気持ち良い日差しが、カーテン越しに飛び込んで来て眼が覚めた。
こんなに気持ち良い目覚めは久しぶりかもしれないと、僕は思った。
僕の名前はモト。魔法都市『アデューカス』に、2年前から魔法を学びに来ている獣人だ。
何の獣人かは、まだ秘密だけど。
でも、パッと見て女の子みたいな外見の上、獣の『シルシ』が無いから、純血の人間に間違われる事も少なくない。

「モトー!朝だよ、起きなー!」
「あ、はーい!ありがとうございます、カトライアさーん!」
階下から大きな声で僕を呼ぶのは、虎獣人のカトライアさん。この街僕が辿り着いてから…
それこそ、身寄りが無いと言って良い僕を拾ってくれた上、
自分が経営してる酒場『タイガーテイル』に下宿させてくれた恩人だ。

なにせ右も左も解らない大都市の上、頼れる身の上も無かったから、彼女には本当に感謝してる。
それに……綺麗な金髪の髪、腕を覆う綺麗な黄色と黒の縞々の毛皮…なにより、飛び切りの美人で…
僕はこの人に拾われて、本当に幸運だったと、未だに思う。
とりあえず服を着替えて、軽快な足音と一緒に1階の酒場兼食道に下りて行った。
「今日の朝は、アンタの大好きなベーコンエッグと…」
「コーンスープにライ麦パン、ですよね?ありがとうございます!」
「さ、早く食べな?今日の1時間目、間に合わないぞ?」
「今日は大丈夫。授業は午後からだし…仕込み、手伝いますね?」
この街にある、一番大きな魔法学校『ガンエデン』に、僕は通っている…と言うより、カトライアさんに通わせて貰っている。
なんでも、夭折された旦那さんが軍のお偉いさんだったらしく、軍からの生活費の仕送りがかなりの額な上、
しかもカトライアさんが経営するこの酒場も『アデューカス』で十指に入る人気店だから、お金の点では何の不安も無かった。
僕はこの人にお世話になりっ放しで…卒業できたら、何かの形で恩返しが出来たらと、いつも思っていた。


この街は、1万年前に起こった『大崩壊』の後、生き残った人間や、人間に元々兵器として作り出された
獣人、人獣、魔獣が力を合わせて復興させた、初めての街だ。元々発達し過ぎた科学に加えて、
まだこの星に人間が跳梁跋扈していた時代に発見された、『魔法』をフルに活用したから、復興自体は簡単だった。
だけど、それからが大変だった。人間、獣人、人獣、魔獣…4つの種族の違いから、世界は2つに分かれかけた。
勿論、人間と獣の『シルシ』を持つ人達だ。此処で言う『シルシ』とは、呼んで字の如く『印』で、獣の姿を少しでも持つ人は、
3つの種族のうちどれかに分けられた。人間の部分が多い人は『獣人』、人間に近い、2足歩行の獣を『人獣』、
そして、完全に兵器として創られ、神話上の神獣をモチーフにした、人型、獣型両方に変化できる人達が『魔獣』…
一時期は戦争になりかけたけど、『ベヘモス』と呼ばれた獣の『シルシ』を持つ者が、全ての種族を凌駕した知性と暴力を
以ってして、4種族間を諌めた。以来、4種族間で、『ベヘモス』は伝説の存在となっている。

だけど、流石に1万年も経つとそんな存在もただの御伽噺になった上、それぞれの種族の誤解も氷解して、
少なくとも表面上は、4種族仲良くやっている。
勿論、僕が通う『ガンエデン』でも、人間、獣人、人獣、魔獣…4種族が訳隔てなく、立派な魔導士を目指して、勉学に励んでいる。
けど、やっぱりたまにはイザコザがある訳だし、善人も悪人もいる訳で…今日も、そんな事件が起きてしまった。



「ただいま…うわぁ。今日も大盛況だね……」
「よぉ、お帰りモト。今日も一杯やらせてもらってるぜ?カトライアさんの笑顔をツマミにな」
「あらやだよ…褒めたっておかず1品奢ってあげるくらいだからね?」
『ガンエデン』から帰ってくると、今日も『タイガーテイル』は多くの人間、獣人、人獣、魔獣で繁盛していた。
常連である、犀の人獣のおじさんが楽しそうに声をかけてきてくれた上、カトライアさんも楽しそうに切り返してる。
でも……僕は知っていた。カトライアさんが時折、亡くなった旦那さんの遺影を抱えて、一人泣いているのを……
それを知っているからこそ僕は、目の前の笑顔にいたたまれなくなって、小さく微笑み返すくらいしか出来なかった。
この人を支えてあげたい……この人を幸せにしたい。正直、僕のこの感情は、抱いちゃいけないものなんだろうけど…
その想いは日に日に強くなっているのが本音だった。
「ほら、何をボサッとしてんのさ。早く予習復習しちまいな?ご飯も作ったげるからさ♪」
「うわっ!う、うん…カトライアさん、手伝えること、無い?」
そんな事を考えていた所に、いきなり目の前にカトライアさんの顔が来たものだから、心臓が跳ね上がる思いだった。
「なーに素っ頓狂な声あげてんの。いいよ、板さん達も頑張ってくれてるし、だいじょーぶ♪ご飯出来たら呼んだげるから…」

その時、店の一番奥で、バイトに来てる犬獣人の女の子の悲鳴と、グラスが割れる音が聞こえた。
「いやっ…や、止めてくださいっ…」
女の子は尻尾を丸め後ずさろうとしてるのに…4人の蜥蜴の人獣、リザードマンは彼女を取り囲んでいる上、
その手を掴んで離そうとしなかった。正直、普通の人間なら吐き気を催すほど下卑た笑みを浮かべていた。
「いいじゃねぇかよぉ…俺達に酌くらいしてくれたってよぉ!」
「そうそう…ついでに犬獣人の獣くせぇワカメ酒と洒落込んでくれねーかぁ?」
リザードマン達はかなり酔っ払っている上、生来卑しい人間なのか益々嫌悪感を催す笑みを浮かべていた…
しかも差別主義者らしいのか、犬獣人の女の子を平気で罵っている。

「…カトライアさん、僕が魔法で……」
僕が今日習ってきたばかりの、風の呪文で吹き飛ばそうかとも思ったけれども、
カトライアさんはやんわりと僕を押し止め、牙を剥き、普通の種族なら縮こまる唸り声を上げながらリザードマン達に近づいた。
「あんた達…ウチはそういう店じゃないし、この子もただの雇われだよ?アタシの店は皆で、獣人も人獣も人間も魔獣も…
皆訳隔てなく、楽しく飲む店だ!迷惑掛けるなら代はいらないから出てっとくれ!」
カトライアさんは牙を剥き、いつもは仕舞っている爪をむき出しにして、リザードマン達に凄んで見せた。
しかし…このリザードマン達も、それなりに修羅場慣れしてるらしく、ものともしていなかった。
「ヘッ…なぁにが楽しく、だぁ?アンタみたいな偽善者……虫唾が走るねぇ?」
「そうそう…大方アンタも、そのスケベな身体で媚売って生きてきたんじゃねぇか?」
「俺なら一晩いくらつんででも買うねぇ…死んだ旦那ともそういう出会いだったのかぁ?」
…リザードマン達は、差別の標的をカトライアさんに変えたらしく、今度は彼女を罵ってきた。
その光景に、僕は血が出るほど拳を握り締めながらも、見ていることしか出来なかった。
「冗談じゃない…アタシの旦那は誇り高くて雄雄しい虎の人獣だ!あんた達みたいな下衆と一緒にするな!」
亡くなった旦那さんまで侮辱され、カトライアさんは我慢出来なくなったのかその爪と牙で圧してしまおうと、飛び掛るその瞬間…
「うるせぇよこの売女がっ!」
カトライアさんの態度がよほど気に食わなかったのか、
リザードマンの一人が不意打ち気味にその太い尻尾で、カトライアさんを叩き伏せた。
しかも、的確に急所を狙ってきたらしく、カトライアさんの頭からは、血が流れていた……
店は静まり返り、しかも最強クラスの虎の獣人が叩き伏せられた事で、誰も立ち上がろうとはしなかった。
僕は、その光景を見て……もう、我慢の限界だった。見てるなんて無理だ。
魔法でもなんでも使って、こいつ等を叩き出してしまおうと…そう思って魔導書を取り出した瞬間
「いいねぇ…誇り高い虎の女が、俺等に跪いてるよぉ?」
「どうせなら此処で輪姦しちまおうぜ?虎女の公開レイプと行くかぁ!」
そいつ等がこの世のどんな汚物より汚いものを取り出そうとした時、
店中が立ち上がり、リザードマンに襲いかかろうとした瞬間……




店の空気が一気に冷たくなり、殺気で充満し、店内の全員が動きを止めた。
…原因は、僕だ。なぜなら僕は決して唱えてはならない呪文を……自分の野生を、本能を、衝動を開放する言葉を口にしていた。

「……天よ怯えろ、海よ咽び泣け、地よ許しを乞え……我は三千世界の蹂躙者にして調停者…破壊者にして新生者…」
「モ……ト……?」
……カトライアさん、ごめん…この姿だけは、貴方に、見せたくなかったのに……
「全ての命よ、我が前に跪け。我こそは絶対者……『ベヘモス』」

……『タイガーテイル』店内が金色の光に包まれた。そして次の瞬間……そこに僕は「居なかった」。
其処に居たのは、金色の獣。文字通り金色の筋肉に覆われた重戦車以上の巨躯、紅い鬣、獲物を瞬時に噛み殺せる様に2列に並んだ牙…
顔は僕自身の顔を留めてる筈も無く、正に獣のソレで、鋭い爪と、リザードマンの尻尾など、まるで赤子の小指ほどしかない程
太く長く発達した尻尾と、その先には骨が進化した、鋭い剣が付いている。止めに、肩と頭から突き出した計4本の鋭く太い角。
「……驚いたか、小童ども……我が、我こそが…『ベヘモス』なり……」
そう。僕こそが『ベヘモス』だ。はるか昔、全ての種族を捻じ伏せた絶対者。
そして、僕の姿はあらゆる絵画や書物に正確に描かれているため、この姿を見て『ベヘモス』と解らない物は居なかった。
僕は、僕の愛する者を侮辱したリザードマン共に、爛々と輝く緑の瞳で睨み付けた。
「愚かなる…蜥蜴の小童共……我の…最も愛する者を…侮辱し、傷つけ、汚そうとした罪……」
僕がこの世のどんな音より禍々しくおぞましい声を発した瞬間、リザードマン達は店の玄関へ一目散に駆け出した。だが
「……汝等の…虫ケラ以下の命で…償うがよいっ……!」
無駄な事だった。生憎と、僕はこの巨体にも関わらずチーターの獣人、人獣より速い。
あっという間に4人の内2人の身体をこの丸太より太い腕で掴み、1人を鉄塊より重い脚で踏みつけ、
最後の1人を大蛇を束ねた様な尻尾で絡め取った。
勿論、殺すつもりで握り、踏み、締め上げているのだから、声など出るはずも無いが、それでも彼等は精一杯の命乞いをしてきた。
「かはっ……!す、すまねぇ……ベ、ベヘモスさんが居るなんて…知ってたら俺達だって、こんな事…」
「お、お願いですっ…見逃して、くださいぃっ…」
「死にたくねぇ……死にたくねぇよぉ……」
「母ちゃん助けてっ…母ちゃぁん……」
…無駄な事だ。どんな命乞いをされようとも、喩え大金を積まれようとも、僕はこいつ等を許すつもりは無かった。
ましてや、僕の一番愛してる人を傷つけ、汚そうとした罪は、どんな事をしても消えない。こいつ等の命なんかじゃ足りない。
だから、僕はゆっくりと腕に、脚に、尻尾に力を込め始めた。…死の絶望を、味あワセてヤる……
「……死ぬが、イイ……」
殺してやる…殺してヤる……こロシてやル……コロシてヤる…コロすころスコろスコロス……


もう少しで、リザードマン達がトマトの様につぶれる……僕は只でさえ醜い獣の顔を、歓喜で引き歪めた瞬間、背中に暖かい物を感じた。
冷たくなった心に、獣になった身体に、暖かさを、人間らしさを取り戻させてくれる、暖かいモノ……
「…アタシなら、大丈夫だから…もうおやめ、モト……」
「アタシは、そんなアンタ、見たくない……お願いだから、元のモトに戻っとくれ……」
            • カトライアさんだった。彼女の言葉が、心が、染み込んでくる……
そう感じた瞬間、僕は蜥蜴達を解放した。そして、いつも通りの声で彼等に告げた。
「……早く、僕の前から消えて下さい。そして…二度とこの店に近づかないで下さい…もし、この約束が守れなかった場合は…
今度こそ、貴方達を……殺しますから……」
静かに、出来るだけ冷静にゆっくりと言葉を紡ぎ上げると、リザードマン達は悲鳴を上げながら
一目散に駆け出して、夜の闇に消えて行った。


「……モト、ありがと……アタシのために、怒ってくれたんだね…?でも、やり過ぎだっ!」
カトライアさんはそう言うと、まだ『ベヘモス』の身体のままの僕を思いっきり引っ叩いた。
僕が驚きで眼をパチクリと瞬きさせていると、カトライアさんは拍手を打ちながらお客さん達に告げた。
「さぁさぁみんな?今日はもうお終いだよ…この子が店の床板踏み抜いた上、テーブルブッ壊しちまったからね。
悪いけど、また明日来ておくれ。明日はアタシから皆に1杯ずつ奢るからさ。」
そう言うと、お客さん達は僕に畏怖と、羨望と、感謝の視線を向けながら、三々五々散っていった…


……2人きりでお店を片付けた後、ちょっと遅い夕食になったけど…僕もカトライアさんも、一言も口を開かなかった。
この静寂に先に耐え切れなくなったのは…僕だった。
「その…驚かないんですね?僕が『ベヘモス』だったのに…」
「別に?」
「えっと…聞かないんですね?僕がどうして、『アデューカス』に来たのか、とか…」
「うん。」
「えーっと…その……なんで魔法を習いたいのか、とか……」
「アンタが勉強したいなら、それで良いよ…」
…本音を言うと、その辺りの突っ込みを心待ちにしていた僕は、なんだか拍子抜けしてしまった。
その肩に、ぽん…と優しく、カトライアさんの毛皮に覆われた、暖かい手が置かれる。
「…アンタが『ベヘモス』だろうと、モトはモトだよ…アタシには、それで充分。それより…」
カトライアさんは突然、僕の頬を掴み、視線を合わせた後に意地悪く微笑んだ。
「聞こえたよ?アンタがあのおっかな~い声で…『我の最も愛する者』って言ってくれたの……♪」
「……え?うそ?そんな事言いました?」
僕はあくまで白を切り通す。そうしないと…この生活が、壊れそうだったから……
なにより…カトライアさんが愛したあの人に、悪い気がしたから……
「い・い・ま・し・た♪やだよ、この子ったら…何時の間に、アタシみたいなのに惚れちまったんだい…?」
意地悪な風でもなく、嫌味な風でもなく、ごく自然な疑問の視線を、カトライアさんは投げ掛けてきた。

「それは…カトライアさんが優しくて、綺麗で…僕の憧れだったって言うか…いつの間にか、支えてあげたくなったというか…」
僕の、真っ直ぐな心の声を、そのまま言葉に出した瞬間、あろう事かカトライアさんは大声で笑い出した。
「ぷっ…くくっ……あははははははっ……アタシが?優しくて綺麗?その上、支えてあげたいって…アンタ、結構オマセさんだねぇ?」
「し、失礼なっ!コレでも5千年は生きてるんですよっ?!」
あまりの笑いっぷりに、ちょっぴり腹立たしくなった僕は、顔を紅くして反論したが、この大人な虎獣人の前では無意味だった…
「何言ってんだい…そんな純血の人間の女の子みたいなナリで言われたって、誰が信じるもんかい…と言いたいけど。」
急に真剣な顔になったカトライアさんは、真っ直ぐな眼で僕を見つめてきた。綺麗な、真紅の瞳で。
「…あんな姿を見せられちゃ、信じるしかないよね……でも、ホントに『ベヘモス』様が、アタシなんかで良いのかい?」
「………カトライアさんだから…良いんです……」
…5千年以上生きてる『ベヘモス』らしくないと自覚しながら、真っ赤な顔で僕は告げた…
「……根負けしたよ…おいで、モト…アンタ、その様子だと、何千年も生きてる癖に、女を知らないね?」
「へっ?!」
この人が何を言い出したのか、直ぐには判断できずに、僕は物凄くマヌケな声を上げてしまった。
「アタシが教えてあげる……アンタなら、モトなら…良いよ……」
そう囁くと、カトライアさんはそのぽってりとした、でも綺麗な唇を、僕の唇に押し当ててきて…

ちゅぷっ…くちゅっ……ちゅぷっ、ぢゅぢゅっ……
「んふぁ…モ、トぉ……」
「んむっ…カトライア、さんっ……」
部屋に響くのは、唾液と舌が絡み合ういやらしい音と、僕とカトライアさんの吐息だけ。
あれから数分しか経ってないのに、もう何十分も続けているような気がする、深い深いキス。
カトライアさんの瞳はすっかり蕩けきり、興奮してるのが良く解る。
「んふっ…これだけで発情しちゃって…ホント、女を知らないんだね、モトったら……」
ニコッ…と淫靡で綺麗な笑顔のまま、カトライアさんは僕を抱きかかえた。
「う、うわっ?!カ、カトライアさんっ!?」
「モト……アタシの部屋で、シよ…?」
「え……?」
カトライアさんの部屋……駄目。それだけは絶対に駄目。だって、カトライアさんの部屋には、あの人が…
思わず俯いた僕の表情から心情を読み取ったのか、カトライアさんはまるで、女神みたいな笑顔を浮かべた。
「大丈夫だよ……あの人なら、アンタを認めてくれるから……」
そう言うと、有無を言わさずカトライアさんの部屋に連れ込まれ…旦那さんの遺影の前に立ってしまった。
そして、カトライアさんは僕をベッドに下ろすと、そっと旦那さんの遺影を閉じた。

「アンタ……アタシ、見つけたよ。アンタに続いて…生涯かけて愛せる人が。だから…ちょっとだけ、眼を閉じてておくれ…?」
何かのまじないみたいに呟くと、カトライアさんは服を脱ぎながら、僕に近づいてきた。
……綺麗だった。それは比喩表現なんかじゃなく、本当に綺麗で…月光に照らされて光る金色の髪、
耳と腕を彩る、金色と漆黒の、縞模様の毛皮…そして、彫刻みたいにバランスの取れた、無駄の無い褐色の身体。
でも、出ている所はしっかりと、且つ大きく柔らかくて、桜色の乳首は、いやらしくしこりきってた……
「モト……アタシ、アンタだけのモノになるから…アンタも、アタシだけの『ベヘモス』様になっとくれ……」
熱に浮かされた、艶っぽい声色で囁くと、カトライアさんは僕に圧し掛かってきて、僕の服を脱がせ始めた。
「カ、カトライア、さんっ…」
「なんだい?服を脱がされるだけで…興奮しちまうかい?可愛いねぇ……」
淫蕩に蕩けた表情で舌なめずりしてくる彼女の顔は、まさに虎のソレで、まるで今から食べられてしまうような錯覚に陥った。
だけど、彼女が食べるのは僕の肉じゃなくて……これから行われる事に、僕は目眩がするほどの興奮を覚えてしまった。
「華奢だねぇ…ホントに女の子みたいで……これじゃ、『ベヘモス』様とは解らないよねぇ?」
意地悪く囁いた後、カトライアさんは…興奮で勃起しきった僕の乳首を口に含んできた。
「んぁっ!カ、カトライアさんっ…んやぁぁぁぁっ!」
「ふふっ♪ホントに女の子みたいな声で…可愛いよ、モトぉ……」
カトライアさんはそのまま、ミルクを強請る子猫みたいに僕の乳首に吸い付きながら、僕の男性を…ペニスを扱き始めた。

「んふっ…流石『ベヘモス』様だねぇ……こうしてズボンの上からでも、ぶっといのが解っちまうよぉ……」
カトライアさんは我慢出来なさそうに呟くと、僕のズボンと下着を脱がせて、天を衝きそうな僕の男根を取り出した。
「あぁ……こ、これが今から…アタシの、中に…」
カトライアさんが驚くのも、無理は無かった。だって…僕の男根は、それこそ子供の腕ほども有って、
血管が必要以上に浮き上がり、雁首のエラは硬く反りあがっていて…自慢じゃないけど、女性を悦ばせる為だけのモノだった。
おまけに、尿道口がパクパクと口を開けたり閉じたりするのに合わせて、透明な粘液が後から後から噴き出してくる…

カトライアさんは、僕の剛直を愛しそうに撫で回しながら、大きく口を開けて…亀頭に狙いを定めた。
「食べ応えのありそうなオチンチンだねぇ…モト…食べちゃうよ?」
「カ、カトライアさんっ…待っ……ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
僕の返事を待たずに、カトライアさんの口の中へ、僕のいやらしいペニスが飲み込まれていく。
カトライアさんの口の中は、熱くて、ヌルヌルして…暖かい舌が、僕の亀頭を捏ね回しながら扱いてくる。
こんなの…何千年と生きてきて、一度も味わったことが無かった。目の前が真っ白になりそうなくらい…気持ちいい。
「やっ、まって、カトライアさっ…僕、ぼくぅっ!」
僕はもう、『ベヘモス』としての威厳なんてそっちのけで、与えられる快楽に耐えるのに必死だった。
我慢汁がマグマみたいに溢れ出てきて、カトライアさんはソレを、喉を鳴らして飲み込んでた…
「んぢゅっ、ぢゅるぢゅっ…ぐぷっ!ぐぷっ…はぁ……全部、食べきれないよ…それに、モトのお汁美味しい…もっと飲んであげるよ……♪」
一度口を離したカトライアさんは、淫蕩に微笑んだ後、もう一度僕のペニスを咥え直した。
今度は、さっきより強い勢いで吸い上げながら、裏筋をメチャメチャに舐め回して、飲み込めない根元の部分を柔らかい指で扱いてくる。
カトライアさんのドロドロの涎がペニスに絡みついて…おまけに、淫靡な視線で僕を見つめてきた。
さっきより気持ちよすぎて…おまけに、いやらしい音も大きくなってて、僕はもう限界だった。
「か…かとらいあ、さ…ぼく、ぼくもうだめぇっ!でるっ…しろいの、しろいのでひゃああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ホントに女の子みたいな情けない声で叫ぶのと同時に、僕のペニスは射精し始めた。
頭がもう…真っ白になって、なにも考えられない。ペニスから来るキツすぎる快楽に、ただただ身を任せてた…
「んぶぅっ!んぢゅぢゅぢゅ~っ…ごくっ、ごくっ…んぐ、んっ…んぷぁぁぁぁっ!」
射精が始まった瞬間から、カトライアさんは僕のペニスを思いっきり吸い上げて、残らず飲み干そうとしてた。
でも…あまりに多すぎる射精量に、カトライアさんはたまらず口を離してしまった。
僕の射精はまだ収まらなくて…白いのとばかり思ってた僕の精液は、黄色いゼリー状で、
自分自身、おぞましいと思える量と熱さで、容赦なくカトライアさんに襲い掛かっていった。
「あぁぁぁん……モト、熱いよ…アンタのザーメン、熱すぎて多すぎて…アタシ、顔中火傷しそうだよぉ……」
蕩けきった顔で、カトライアさんは顔にびっしりこびりついた僕の精液を指に絡めて、ピチャピチャ音を立てて舐め始めた。
その様子があんまりに綺麗で、いやらしくて……まるで性欲を司る女神様みたいで、僕はそれに魅入ってしまった…

「モト…美味しいよ、アンタのザーメン……アタシ、もっと…もっといやらしい気分になっちまう…なっちまうよぉぉ…!」
顔に付いた精液を飲みきると、カトライアさんは更に淫靡さを増して、僕にしなだれかかってきた。
「おかしいよ、モトぉ…アタシ、今までにこんな気持ちに…こんなにいやらしい気分になった事、ないっ……!」
「えーと…ごめんなさいカトライアさん……僕の精液ってどうも、女の人を必要以上に興奮させちゃうみたいで……」
恥ずかしい話だけど、僕が何千年も男女の交わりをしてないのは、コレが理由だった。
まだ今より子供の時―今も、この姿の時は子供そのものだけど―一度だけ、女性と交わる事があったけど…
僕の精液を飲み込んだ瞬間から、今のカトライアさんみたいになって…それが怖くて逃げ出したのが、一種のトラウマになってしまったんだ…
「そ…そういう事はっ…早く言っとくれよぉっ…!」
カトライアさんは、口の端から涎を溢すくらい興奮してて、乳首から母乳が噴出して…股間からは、まるで滝みたいに愛液が噴き出てた。
これも、僕の精液が引き起こしたんだと思うと、申し訳ない気持ちに…なる暇なんてなかった。
「も、我慢できないっ…モト、アンタを犯しちゃう…アンタの何千年も取ってきた童貞、アタシが奪っちゃうんだからぁっ…!」
そう言うと、カトライアさんは僕に馬乗りになって、股間の肉花弁を開いて見せ付けてきた。
ソコは充血しきって、真っ赤に染まってて…肉付きの良いビラビラの奥から、泡だって白くなった愛液が、ポタポタと垂れてた。
その光景を見ただけで、僕のペニスはもっともっと硬く大きくなって…自然に亀頭が、カトライアさんのラヴィアと触れ合ってた。

「あぁ…アタシの……こんなはしたないトコ見て、興奮してくれてるんだね…?嬉しいよ、モトぉ……」
すっかり発情した蕩け顔で舌なめずりしながら、カトライアさんは本当に嬉しそうに微笑んでくれた。
「うん…か、カトライアさん…僕、カトライアさんと、一つになりたい…」
「アタシもだよ、モト……このまま、一つになって…アンタの子供、アタシにおくれ…行くよ、モト……」
カトライアさんはとんでもない事を、至極あっさり僕に告げた。
「ま、待って、カトライアさん…僕、まだそんな覚悟……」
「ダメ。モトの覚悟は待ってやんないよ?丈夫な子を…産ませておくれよ……?」

カトライアさんがゆっくりと腰を下ろして…僕の目の前には、白濁で塗れた肉穴に、亀頭が埋まっていく卑猥すぎる光景が、
くっきり、はっきりと眼に飛び込んで来たけど…それに感激する事は出来なかった。
「んひゃううぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!カ、カトライア、しゃっ…しゅ、しゅごっ…んやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
カトライアさんのソコは、さっきの口より熱くて、まるでペニスが火傷しそう、なのに…
たっぷりとヌルヌルの愛液が絡み付いて、中の肉ビラが、僕のペニスに隙間無くしゃぶりつきながら締め上げてきて…
下半身全部が、カトライアさんの中に飲み込まれてる。そう錯覚するくらい気持ちよかった。
「んぐぅぅぅぅぅっ…モ、モトも凄いよぉっ…?ふ、太すぎて…全部、入らないかもっ…んあぁぁぁぁっ……!」
僕の胸板に手を置くと、カトライアさんは更に腰を深くしてきて…その内、僕とカトライアさんの腰が、ぴったりくっついてしまった。
根元まで、ヌルヌルの熱い肉穴にしゃぶられて…それだけでさっきの黄色い精液を吐き出してしまいそうだった。
「んふっ…♪モトの童貞、食べちゃったよ…?どうだい、気持ちいいかい……?」
玉のような汗を噴出しながら、カトライアさんは僕の顔を覗き込んできたけど、僕に応えられる余裕は無かった。
「あ……ひっ…ひゅごっ……んやぁぁぁ……」
僕は情けないけど、口から涎を垂らして、涙を流しながら、腰を小さく小刻みに振る事くらいしか出来なかった…
「ふふふっ…気持ちいいみたいだね?こうなっちまうと…『ベヘモス』も形無しだね…♪」
その言葉を発して、カトライアさんはゆっくりと腰を回転させ始めた。
ドロドロの媚肉が、僕の肉棒に纏わり付いて、彼女の腰が揺らめく度に「ぬちゃ、ぐぷっ」と、卑しい音が響いてきた。
たったそれだけで、僕はカトライアさんの中にあっけなく射精して…彼女の子宮に、黄色い塊を送りこんでた。
「ひゃあぁぁぁぁぁっ?!こ、こらっ…まだアタシが動き始めたばっかで、射精しちゃダ、メ…あつぅぅぅぅぅっ……♪」
僕の黄色い溶岩が、コレでもかって程噴き出して、カトライアさんの子宮を満タンにしていく。
繋がってる部分から、入りきらなかった精液がコプコプ音を立てて、泡立ちながら零れて来る。
思考が焼ききれるほどの気持ちよさに身を任せて、僕は精を吐き続けて…まるで釣れたばかりの魚みたいにのたうってた。
「んやっ……やぁ……カトライア、しゃ…しゅごいのぉ……!」
「このぉ…アタシをほっといてイっちまうなんて……モト、アンタはちょっと我慢を覚えなきゃいけないね?」
僕の耳元で囁いた刹那、彼女は身体の隙間に両手を差し入れて……僕の根元をキュッと締め上げてしまった。
「やぁっ?!カトライアさん、それダメぇっ!射精、できないっ……」
「そうさ…アタシがイくまで、イっちゃだめだよ、モト……」

カトライアさんは僕に反撃の隙なんか一分も与えず、そこから更に腰を上下左右に振り乱してくる。
さっきより彼女の膣肉が纏わり付いて来て、僕の脳はもう完全にショートしてしまった。
加えて、大きくなった水音と、交じり合う男女の匂い、降りかかるカトライアさんの母乳…
僕は触覚、聴覚、視覚、嗅覚、味覚、五感全部で、カトライアさんに責められ続けてしまった。
「あひぃっ!ひぃぃっ…んひぃぃぃぃっ!?しゅ、しゅごっ、しゅごしゅぎぃぃぃっ!」
「いいのかい、モトぉ…アタシのおまんこがっ…ううんっ、アタシがそんなに良いのかいっ?!」
「いのぉっ!カトライアしゃんしゅごいのぉっ!ぼくぅ…ぼくおかひく、おかひくなりゅうぅっ!」
もう女の子そのものの喘ぎ声で、僕は頭を振り乱してひたすら悶え続けた。
カトライアさんも、汗を、母乳を、愛液を飛び散らして、僕のペニスを貪ってる。
もう自分が伝説の獣であるとか、そんなの関係なかった。もう、この人に責めて貰う事しか考えられない……
「いいよっ…おかしくなっちまいなっ♪アタシも…アタシもおかしくなるっ、おかしくなるからぁぁぁぁっ!」
彼女も絶頂が近づいてるみたいで、今まで聞いた事も無い甘い声を漏らし始めた。
僕等はもう、マトモな言葉を紡ぐ事無く、ひたすら喘いで、悶えて、交わり続けて……そしてとうとう、終わりの時が来た。

「モトぉっ!アタシも…アタシもイくよぉぉぉっ!アンタのっ…アタシが一番大好きなモトの赤ちゃんっ…アタシに…アタシにちょうだいぃぃぃぃぃぃっ!!」
「ぼくもっ!ぼくもほしっ…カトライアひゃん、はらませりゅのおぉぉぉぉぉっ!!」
ラストスパートといった感じで、カトライアさんは今までより激しく腰を振り始めた。
僕もそれに合わせて、彼女の腰を掴んで、子宮ごと深く深く突き上げ始める。
「あおぉぉぉぉぉぉんっ♪アンタは責めちゃダメっ!ダメなのにぃっ…イくよっ!イくっ!イくイくイくうううぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
カトライアさんは背中を仰け反らせて、母乳を、汗を、愛液を飛び散らせ吹き散らして、とうとう達した。
同時に僕のペニスを解放して、彼女の媚肉が強く、優しく、僕をしゃぶりあげて来て…僕も今日一番、濃い精液を吐き出し始めた。
「んきゃああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!ぼくもぉっ…ぼくもイくっ!イくのっ!イくっ…イっちゃあああああああぁぁぁっ♪」
子宮を満たして、繋がってる所から零れて、ベッドを真っ黄色にしてもまだ、僕の射精は収まらなかった。
僕等は抱きしめあって、永遠に思えるくらい長い間、絶頂を貪って…それと一緒に、お互いの想いを確かめ合ってた。

…僕の射精が収まると、カトライアさんは僕を抱きしめたままで意地悪い笑みを向けてきた。
「ふふっ…モトったら、ベッドじゃ女の子になるんだね?可愛かったよ…」
僕はもうこれ以上ないほどに、トマトも真っ青になって逃げ出す位赤くなってしまった。
そんな僕の頬に、彼女はそっとキスしてくれて…今度は、優しい微笑みを向けてきてくれた。
「…モトの赤ちゃん、出来たと思うかい?」
「……正直、経験が無いので解りません。でも、多分……」
カトライアさんは微笑んだまま、僕の手を自身の手に添えて…お腹を撫でた。
「そうだね…10ヵ月後が楽しみだよ…それと、さっきはああ言ったけど…2回目を始める前に、モトの身の上、聞かせてくれるかい?」
その言葉に、僕はゆっくりと頷いて、『アデューカス』に来た理由、魔法を習う理由を話し始めた。
僕が此処に来たのは…僕は4種族間の争いを諌めた後、長い眠りに入ったんだ。そして、2年前に目覚めて…
まずは、僕自身も復興に携わったこの街が、どうなっているかを自身の目で確かめるため…
そして、魔法を習い始めたのは、魔法自体を修めるためでなく、魔法学校『ガンエデン』が、
この街でもっとも4種族が分け隔てなく暮らしている場所だったから…
僕はこの力を、『大崩壊』以前に最初に兵器として創られた力を、壊すためじゃなくて誰かを守るために使いたかった。
みんなの争いを止めるために使いたかった。僕の理想は月並みだけど、皆が仲良く、隔てなく暮らせる世界が欲しかった…
それが実現しているか確かめるため、『ガンエデン』に入学したんだ…

「コレで、僕の身の上はお終いです…」
「そっか……強いんだね、モトは…アタシとは、大違いだよ…」
「え…?」
寂しげな顔で応え返したカトライアさんは、今度はお返しと彼女自身の事を離し始めた。

眠りから覚めたばかりで、力も巧く発揮できず、行き倒れた僕を拾ってくれた理由、だった。
ちょうど僕が『タイガーテイル』の前で行き倒れた時…それがちょうど、旦那さんの葬式が済んだ時だったらしい。
倒れた僕に、何故か亡くなったばかりの旦那さんの面影を感じた彼女は、そのまま僕を介抱してくれて…
それは、一人になってしまった寂しさを紛らわしたかった、彼女の言い訳。一人に、なりたくなかった。
「…だからアタシは、アンタを、モトを住まわせたんだ…一人で戦ったモトとは、違うんだ……」
「でも…だからこそ、今があるんですよ?」
僕は真っ直ぐな視線で、彼女を見つめた。
「月並みな言葉ですけど…運命だったんですよ、きっと…だからほら、僕もカトライアさんも…今はこんなに幸せ……」
一番大切な、一番大好きな人を、ぎゅ、と抱きしめる。お互いの暖かさを、幸せを、交換するみたいに。
「うん……ありがとね、モト……アンタに逢えて、良かったって、今は本当にそう思うよ?だから…」
カトライアさんの顔に、淫蕩なモノが戻ってくる。繋がりっぱなしだった僕のペニスは、彼女の媚肉に締め上げられた…
「ふぁぁああああっ?!」
「だから、さ…もっともっと…確かめ合おうよ。アタシ達の想いを、さ……♪」

そうして、夜が明け掛けるまで僕等は交じり合って…夕方まで泥のように眠った。
その夢の中で…僕は一人の、雄雄しい虎の人獣と出会った。それは…間違い無く、カトライアさんの旦那さんだった。
彼は僕に頭を下げて、一言こう告げた。
「『ベヘモス』殿…我が妻を、よろしくお願い申す……」
それだけ告げると、彼は光の中に消えて行った。僕は待って、と、何度も呼びかけたけど……
目覚めた時には、安らかに眠る愛しい人の寝顔が傍にあって…僕はその唇に、そっと口付けた。


それから、数年後――『ガンエデン』を、自慢じゃないけど主席卒業した僕は、『ベヘモス』という事も手伝って、
『アデューカス』から遠く離れた、国の魔法研究機関に誘われたけど…それは丁重にお断りして、今はすっかり…
小さな『タイガーテイル』のマスター兼、用心棒…というか、番犬ならぬ番『ベヘモス』だった。
「いやー…あの時は驚いたねぇ。まさかモト…マスターが『ベヘモス』ってだけじゃなくて、カトライアさんと祝言あげちまうもんなぁ…」
「そうそう!俺達の女神がぁ……」
僕はグラスを拭きながら、常連の人たちとお喋りしてた。何気ない、けど、大切なひと時。
「けど、あの人とモトなら確かにお似合いだろうな。なにせ『ベヘモス』とあのカトライアさん…」
「そりゃ、アタシと亭主が凶暴だって言いたいのかい?」
2階から大きな声が聞こえると、常連の犀の人獣さんが、申し訳なさそうな顔でカトライアさんを…妻を見つめてた。
それが可笑しくて、僕はついつい苦笑を漏らしてしまう。
「カトライア…寝てなくていいの?」
彼女は…マタニティドレスを着て、大きなお腹を抱えながら酒場に下りてきた。
「良いんだよ。子供達の世話も有るし…それに、店をアンタにだけ任せて寝てる訳にはいかないよ。」
そう告げた瞬間、階段からドタドタドタ…と大きな足音が3つ、駆け下りてきた。
「パパー、ママー!お腹空いたー!」
「パパ、パパ、今日のお夕飯なーにー?」
「ママー、赤ちゃんは大丈夫なのー?」
……店中があんぐりと大口を開けた。そう言えば…今回で4人目なの、言い忘れてたかも…
「モト…みんなこっち見てるけど、良いのかい?」
「うん…後でちゃんと説明しておかなくちゃ、ね。」
子供達をあやしながら、僕は満面の笑顔を店に…そして、愛しい妻に向けた。
…僕が手に入れたかったのは、勿論争いの無い世界だったけど…
本当に、本当に欲しかったのは、こんな小さいけど、満たされた幸せだったのかもしれない。

――Fin

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年05月24日 14:26