「これから一生、よろしく頼むで」
「……一生もなんて、やだ」
「な、なんやとぉ!!」
「何で俺が、お前みたいな虎女と一生一緒にいなきゃならないんだよ!!」
「当たり前やろ! ウチはあんたの……」


「……ぃ……おい、おい、零……」
「……うるせーな」
 昔のことを思い出していた。
 その中で誰かに呼ばれてハッと我に返って、零(ぜろ)と呼ばれた青年が、自分を呼び返した少女に苛立ち気に返した。
 そんな反応が返ってきたものだから、彼を呼び戻した本人は顔を真っ赤にして白いハリセンで零の頭を思いっきり叩く。
 彼らが歩いていた暗い森に小さな爆発でも起きたような音が響き、木々は揺れ鳥が一斉に飛び出し、あまりの衝撃でハリセンは壊れた。
「ってーな、馬鹿力なんだからむやみに叩くな。俺じゃなかったら死人が出てるぞコラ」
「うっさい! 零がボーっとしてるから優しく起こしたのに、第一声がうるせーな? そんなん誰でも怒る!」
 更に悪びる様子も無いゼロに、少女は壊れたハリセンを投げ捨てて彼に指を刺し怒鳴る。
 その声をウザそうに、両耳に指を入れ少女が怒鳴り終えるのを零はひたすら待った。
 少女が怒鳴り続けて数十分、ようやく治まったので耳穴から指を抜く零。
 そして怒鳴り疲れて肩で息をしつつも、零を睨んでいる少女がいた。
「はぁ、はぁ、と、とにかくや……今は、仕事中なんやから、ボーっとするな……はぁ」
「そういうサクラもいきなりバテてんじゃねぇ」
「誰のおかげで疲れたと思ってんねん。まったく……」
 冷静になり、零に何を言っても無駄だと分かると、サクラと呼ばれた少女はフッとため息を吐く。
 そして二人は森の中を歩き出した。
 既に真夜中という時間帯……数メートル先も見えない森を、サクラを先頭に零は進んでいく。
 障害物があろうともサクラは難なく避け、後方の零に伝える、それが何回か繰り返されている。
 零自身は先にある障害物など見えてはいない、いや一応見ることは出来るが見ようとはせず、メンドくさいという理由でサクラに頼っている。
 むしろ、偶にこうしないとサクラがブーブーうるさいので、零にとっては仕方が無い。
「そーいえば……」
「どうした?」
 ふと、サクラが立ち止まり零も彼女の横に着き立ち止まる。
 不思議そうな表情でサクラは、自分より背が高い零の顔を見上げた。
「さっきなんでボーっとしとったん? なんか考え事?」
「……なんでもいいだろ」
「そりゃそうやけども……その、気になるし。もしかして、ウチのこと、考えて……」
 最後まで言葉を言うことが出来ず、頬を赤くしていきなり女の子っぽい仕草になるサクラ。
 このような場面は多々あることだが、その度に零は思う。
 セミロングの白髪に見える丸みを帯びた白い猫耳、真紅の瞳に口から見える八重歯。
 要は、黙っていれば可愛いのに、と思ってしまうのだ。
 それでもサクラはサクラ、零にとって彼女は今のところ恋愛対象ではない、むしろ出来ないので少しドキリとする程度で終わる。
「まぁ、お前の事だと言えば、お前のことだな」
「え!? ほ、ホンマに!? そうかぁ……えへへ……」
「……」
 明らかに表情が緩んだサクラを、ジト目で零は見下ろすが彼女はその視線に気づかない。
 こうなった彼女はしばらく自分の世界に入ってしまう、呼び戻すのも面倒なので、零は休憩もかねて近く木に凭れ座り再び思い出していた。
 零がまだ幼かった頃、サクラと出会った日のことを……。


 その日は零が10歳を迎えた特別な日だった。
 特別と言っても、彼にとっては二つの特別が待つ誕生日だが。
 一つは普通に誕生日……そしてもう一つは、彼の使い魔が決められる日。
 零の家では、代々化け物退治などの仕事を行い、10歳になった者に使い魔がつくという慣わしがある。
 使い魔とは、まあ、簡単に言えば年をとらず、日常の世話から戦闘まで、主が死ぬまで永久に尽くす者である。
 無論人間ではなく、猫や犬、狐や鳥といった妖怪化した動物のことを言い、誰の使い魔になるかは使い魔本人たちが決めるのだ。
 そして、昔から少し無愛想だった零は使い魔達から人気があまりなく、結局サクラが零の使い魔となったのだ。
「ウチが零に尽くしたる」
「……」
 一応サクラは、当時の使い魔の中ではトップクラスの強さを誇っていたのだが、零的には多少弱くてもいいからお淑やかな犬や狐がよかった。
 よりにもよって、うるさそうな虎が自分の使い魔となってしまい、零はかなり嫌そうだったがサクラは気にすることなく笑顔で手を差し伸べた。
「どーしたん? キンチョーしてる?」
「………別に、ただ……」
「ただ?」
「……期待はずれ」
「き…………きた……期待はずれぇぇーー!??」
 零の実家の庭に、サクラの叫びが響き、当時地元の村で大地震が起こり木々は揺れ鳥たちが逃げるように一斉に森から去った。
 そして出会って十分も経たないうちに二人は口喧嘩、今のように喧嘩するほど仲がよい的な関係に至るのだった。


「……ふぅ」
 零は再び記憶から現代に舞い戻り一息吐く。
 出会いの部分から更に余計な所まで思い出してしまった……サクラに無理やり童貞を奪われた時のこと。
 そのことを思い出すたびにイライラしてくるので、忘れるべく零は二、三度首を横に振り、ゆっくりと立ち上がる。
 そして、自分の目の前で勝手な妄想をしている虎娘の側まで行き、猫耳の零距離で大声を上げもとの世界に引き戻した。
「にゃっ!! こ、こら零! び、び、びっくりするやないか!!」
「さっきのお返しだ。それに、にゃってなんだにゃって? お前は猫か? あ、いや猫科か……すまん忘れてくれ」
「ふふん、ボケもツッコミもまだまだやな」
「漫才を語る使い魔なんて聞いたこと無い。ちょっとは優奈とか巧んとこのを見習えよ」
「うっさい、他所は他所、家は家や」
 やはり何だかんだ言いつつ気は会うようだ、多分。
 すでに一時間は休み、二人は再び暗い森の中を進み始めた。
 ちなみに何故こんなところにこんな時間にいるのかというと、大量発生した上半身は人間の女、下半身は大蛇という妖怪の退治の為である。
 そしてだいぶ森の奥へと入った二人は何かの気配を感じ取り、その場に立ち止まった。
「……はぁ、メンドくせぇ」
「かなりの数やな。大丈夫、零はウチが守ったる」
「へいへい、じゃあお言葉に甘えさせてもらいますわ」
 彼らが感じていた気配は、やがて円を描くように至る方向から感じるようになる。
 二人は例の蛇に囲まれ、無数のさっきを浴びせられていた。
 至るところから女の笑い声が聞こえ、サクラの耳はその度にぴくぴくと反応し長い尻尾は逆立って、彼女は戦闘態勢に入った。
 が、零は一向にやる気が無い。まぁ、それは余裕の表れなのだが、サクラとは大違い。
 そして、零が小枝を踏み、その音が鳴った瞬間蛇は一斉に二人に襲い掛かり、零とサクラもまた仕事を開始するのだった……


「……」
 翌朝、蛇女たちとの戦いを終え、零は近くの旅館で眠っていた。
 おそらく百体以上いた蛇女たちも、彼とサクラの前ではほとんど無力であり、仕事の大半は一晩のうちに終わった。
 それでも、戦闘後の蛇女たちの死体の始末やらで体は疲労し、朝になっても零は起きることなく寝息を立てている。
 まぁ、次の瞬間彼女に叩き起こされるわけで、零の部屋の襖が勢いよく開いた。
「こら! いい加減に起きなはれ!!」
「………素晴らしい朝の目覚めをありがとうございます。おやすみなさい……」
「寝るなー! まだ仕事は終わってへんで!!」
 寝ぼけ眼で見上げると、腕を組んでいるサクラの姿。
 自らの安眠を妨害され、再び眠りに入ろうとした零の布団を一気に剥ぎ取ると、サクラの顔が赤くなり零に背中を向ける。
 布団を剥ぎ取った瞬間彼女の目に映ったのは、シャツとトランクスのみの零の姿と、朝の効果によりトランクスにできているテントだった。
「と、と、とにかく! 朝ごはん冷めてまうから、は、早く着替えなさい!」
「つーかサクラ………お前まだペンギンのパ……」
 零が自分の目に映るものの事を口にした瞬間、サクラに蹴り飛ばされて壁に叩きつけられた。
 その瞬間、彼女のスカートの中からペンギンさんのパンツが見えたわけだが。
「う、うるさい! 余計なとこばっかり見て……」
 零の正面を向き、穿いているスカートを隠すように両手で押さえて耳まで顔を真っ赤にさせる。
 壁に凭れている零はこの一撃で目が覚め、サクラはやっぱりスパッツにしようと思い部屋を出ようとした。
「まったく、これだから零はだらしがなくてアカンのや……」
 最後に言い残し、襖を閉める音は部屋中に響き渡り、壊れた襖を見ながら零はゆっくりと立ち上がる。
 腰を少し強く打ってしまい痛いが、のんびりしているとまたうるさいのが来るので、しかたなく起きることのした。
 洗面所で顔を洗い歯を磨き、今日は蛇女の残存狩りの為再び森の中へいくので、汚れても破れても燃えてもいいような服を選択し着替え始めた。


「ふぅ、こんなもんか……」
 蛇女たちの血の臭いが漂う森の中で、返り血を浴びて所々赤に染まっている零が一息ついた。
 こういった仕事は主に三日で行われる。
 一日目は相手の壊滅。ここで全て倒せれば苦労は無いが、数で攻められれば逃げ出す者もいる。
 そういった奴を二日目で倒す、いわば残存狩り。
 大抵の妖怪はすでに強さを知っているので零やサクラの就寝している時も襲ってこず、一晩のうちにどこか遠くへ逃げてしまうかその場に残り強敵が去るのを隠れて待っていることが多い。
 そして次の町や村を襲うか、零たちが去ったのを見計らって再び襲うかのどっちかなのだ。
 遠くへ逃げられれば追いつくの難しいが、その場に残っている場合は見つけて倒していけばいいし、妖気を感じることができればすぐに見つかる。
 今回の蛇女は、零の姿を見た途端、零に襲い掛かったので彼にとっては楽な仕事だった……妖怪とはいえ、綺麗なお姉さんを殺すのはちょっと複雑だが生活がかかっているのでそこは割り切っていた。
「おーーい、零ーー!」
「どうした?」
 頬についた血をタオルでふき取っていた時、茂みの奥から零を呼ぶサクラの声が聞こえた。
 そして彼女に呼ばれるがまま、零はサクラがいる所まで草木を手で払いつつ進んでいく。
 サクラのそばまで行くと、彼女は埃等の汚れやスカートなどが少し破れてはいたものの、返り血などはまったく浴びていない。
 零の視線が彼女の足元に行くと、力ずくで折られた大きな木が倒れており血がベッタリついている事から、大木を振り回して蛇女をなぎ払ったと零は考えた。
 だが、彼の視線はすぐにサクラの大木とは別のところにいった。
「……なんだ、こいつは?」
「戦ってたら見つけたんよ。まだ子供や」
 零の目に映るもの、それはサクラや自分を不思議そうな表情で見つめる黒い長髪の女の子だった。
 少し小麦色で日焼けしたような肌に、サクラと同じく真紅の瞳、外見でいうと小学生くらいだと零は思う。
 そして何より彼が注目したのは、少女の腰から下が蛇のものだということだった。
「生き残りか……悪く思うなよお嬢ちゃん」
「??」
「ちょい待たんかい!!」
 直ぐに先ほど自分に襲い掛かった妖怪の仲間だと判断した零は、仕事に取り掛かろうとする。
 だが、蛇少女の前をサクラが両手を左右に広げ壁を作り零の動きを止めた。
「何だよ、どけ」
「待って言うてるやろ、まだ子供なんやで? 幼児虐待」
「虐待って……これが俺たちの仕事だろうが」
「だから、まだ子供……」
「今は子供でも、すぐにでかくなって人を襲うかもしれないんだ。そうなる前に……」
「だめ言うたらだめ! この子の親を殺したんはきっとウチらや。そー思たらウチは。それに、まだきっと善悪も知らんし、共存できるように教育すればええ!」
 二人の口調は徐々に強くなっていき、蛇少女を殺すか生かすかで討論し、しばらく見つめ合う。
 少し真剣な零をサクラは少し睨みながら僅かに涙を浮かべて見上げている。
 サクラは妙な所で優しかったりする、その結果危険な目にも遭ってきた。
 しかし彼女の言うことにも一理あったりする。
 サクラの言うとおり、彼女に守られている蛇少女は本当に子供なのだろう、サクラや零に襲い掛かる様子も無く不思議そうに見つめたまま。
 こういった仕事は割り切らないとやっていけないが、サクラの言葉を聞いて零の中にも僅かに罪悪感のような感情が生まれたが、腕は上がったままだった。

「教育……できるのか? そいつら見た目は人間と同じだけど、知能は低いかも知れんのだぞ? あ、でもサクラもバカだし……」
「待たんかい! 最後の言葉は聞き捨てならん!!」
「言ったとおりだろうが、力技だけで術はまったくできないんだから。それを一言で言ったまでだ」
「うっさい! ウチだって術ぐらいできる! だいたい、バカ言う方がバカなんや! バカバカバーカ!!」
 腕を下ろし、腕を組みながら言った零の言葉に、獣耳を立たせて反応するサクラ。
 そして事実なのだまた腹が立ち、尻尾の毛を逆立てて零に怒鳴る。
 その時、サクラの後ろでずっと二人を見つめていた蛇少女の口がゆっくり開いた。
「あの、けんか、しちゃだめ……」
「「……え?」」
「けんかはぁ、よくない、です」
 ややゆっくりでのんびりだが、蛇少女はいつもの口喧嘩をしている零とサクラを止める。
 喋るのは、襲い掛かった蛇女たちも喋っていたので大して驚かなかったが、蛇少女が喧嘩を止めたということに二人は驚き、しばらく彼女を見つめる。
 喧嘩も治まり、まず冷静になった零がサクラに背中を向けた。
「……俺は教育なんてしないからな……」
「じゃあ!」
「まぁ、その子の親も、俺かサクラが死なせちまったみたいだし……仕方ないだろ」
「さっすが零!」
「でもどこで教育するんだよ?」
「あ……」
 どうやら零は蛇少女を生かすことにしたようだ。
 その事にサクラも笑顔になるが、零の言った言葉に言葉を失い獣耳を寝かせた。
「はぁ、仕方ない……面倒だが、家に連れて行くぞ。どっちみち、ここらにはこの子以外のラミアはいないだろうしな」
「ホンマにええの? 今日の零はなんか優しゅうて、ちょっと不気味やわ~」
「……俺の気が変わらないうちに、さっさと宿に戻るぞ。俺は寝る」
「了解や!」
 零は微妙に喜べないサクラの台詞を聞きながらそのまま歩き出した。
 サクラはしゃがみ、蛇少女を抱きかかえようとした。
「……おかあさんはぁ?」
「い……っ! え、えと、それはなぁ……」
「……ふぅ、やれやれ」
 だが、蛇少女から来た致命的とも言える質問に、サクラは慌てふためき、零はメンドくさいと思いつつため息を吐いた。
 そして、蛇少女の質問に零が正直に答え、蛇少女は涙を浮かばせ、サクラもまた涙を浮かばせる。
 そんなサクラと零の言葉を聴き、蛇少女は彼らと共に暮らすことを自分で決めた。
 憎まれたり恨まれても仕方ないと思っていたサクラにとって、蛇少女の回答は嬉しいものだ。
 零はあえて蛇少女に聞いた、自分たちを恨んだり憎んだりしていないのかと。
 その問いに、蛇少女はお母さんも悪いことをしたのだから仕方がない、と答えた。
「お前は、サクラよりもしっかりしてるな」
「なんちゅーことを! いつも零のご飯、洗濯、掃除してるのはウチなんですけど!」
「使い魔なんだから当然だろう!」
「けんか、だめ……」
 再びサクラと零の口喧嘩が始まった。
 さっきまでの重い空気は完全に消え去り、少し涙目で二人の喧嘩を止めようとする蛇少女が可愛らしい。
「……まぁいい。とりあえず戻るぞ? もう日も暮れたし」
「せやな……よっと」
「あ……」
 あたりは既に夕方。暗くなると森の中は何も見えなくなる、零だけ。
 仕事も終わり、未成年だが早く帰って酒が飲みたい零は先に歩き出した。
 そしてサクラは蛇少女を抱きかかえ、下半身の蛇部分を隠すように上着を乗せた。
「………はむっ」
「ひゃっ! こ、こら! 耳かじるんやない! ちょッ、そこ敏感なんやッ、にゃあぁッ!!」
「じゃあ尻尾はどうなんだ?」
「やめんかい! 先に帰っとれ!!」
 サクラに抱きかかえられた瞬間、目の前でぴくぴくと動くサクラの獣耳を、蛇少女は小さな口で軽くかじった。
 獣耳は彼女にとっては敏感部分、それをかじられるサクラは頬を赤くして蛇少女を引き離す。
 そして蛇少女に便乗しようとした零を蹴り飛ばし、零は宿付近まで吹き飛ばされたそうな……


「んっ、んっ……ふぅ」
 仕事終わり及び風呂上りの酒というのは格別である、と零は昔言われた。
 あまり好きにはなれない獣女だったが、これだけは同感だと思い出に浸りながら二本目の缶ビールを飲み干した。
「あはははは♪ ……にゃははははは♪」
 ふとテレビの方を見ると、寝そべりながらお笑い番組を見て笑っているサクラの姿。
 その光景と同時に零は何かに気づいた。
「………おいサクラ」
「ん? どないしたん?」
「尻尾、咥えられてるぞ」
「え? にゃっ! こ、こらミア!!」
「……♪」
 零に指摘され、自分の尻尾を見たサクラは驚き起き上がった。
 サクラと零が助けた蛇少女が、サクラの白く長い尻尾の先を口に咥えて軽く噛んでいたのだ。
 ちなみにミアというのはサクラが付けた蛇少女の名前で、ラミアから取っている。
 そのミアは、森でサクラの獣耳をかじったように、何でも口に咥えてかじるという癖があるということをサクラ達は知った。
 その為、零はあまりミアに近寄ろうとはしない、手や足、服の裾等を既にかじられ済みだから。
 というより、ミア自身はあまり零には興味が無い様子で、むしろサクラの獣耳やゆらゆら揺れている尻尾に興味がある。
 そして今もつい咥えたくなって咥えたわけで、割と敏感な尻尾を軽く噛まれて何とも言えない感触が体に伝わり、サクラは尻尾をブンブン音を立てて左右に振るうがミアは一向に離れる気配が無かった。
「は、離さんかい! こ、こら、噛むんやな、ッにゃッ!! た、助けて零ぉ!」
「……面白いからほっとく」
「そ、そんにゃッ! は、な、れ、ろぉぉーー!」
「むー……」
 零から見れば、まるでサクラの尻尾が更に長くなったようである。
 慌てふためき、何とかミアを引き離そうと尻尾をプロペラのように回すサクラを面白そうに零はビール飲みながら見ている。
 ミアもまったく離す気がないので、虎と蛇の攻防はしばらく続いていた。
 そんな時、零は背後に何かの気配を感じ、静かに口を開いた。
「なんだ、二匹も来るなんて珍しいな。ヒナギク、スズラン」
「こんばんわ、零くん」
「夜分遅く失礼します」
 ゆっくりと後ろを向いた零の先には、二人の女が立っていた。
 零が彼女達を二匹と呼んだように、この二人は人間ではなくサクラと同じ使い魔。
 ちなみにサクラはミアとの攻防で二人には気づいていない。
「何しに来たんだ?」
「零さまの様子を見に行けとの、わたくし達の主様のご命令ですので」
 少し口調が強くなった零の問いを、静かに丁寧な口調で答えたのはスズラン。
 サクラと同じ真紅の瞳に、長い白銀の髪の後ろ髪を紐で縛っており、その頭には髪と同じ色の狐を思わせる狐耳と、正面からでも見える大きな尻尾。
 彼女は狐の使い魔。
「蛇女は壊滅したようだけど、後始末がまだだったわよ? 相変わらずだらしがないわね?」
「ほっとけ。俺はお前らの主様とは違って出来が悪いからな」
「あはは♪ そんなのとっくに知ってるわよ」
 そして笑顔で零に喧嘩売った子の名前はヒナギク。
 スズランと同じ主の使い魔で、スズランほどではないが背中の半ば程の薄いピンクの髪の毛と綺麗な緑の瞳。
 頭からは髪の毛と同じ色をした先が尖った犬耳に、尻からは狼を思わせるふさふさした尻尾が伸びている。
 彼女は狼の使い魔で、二匹とも純白の薄い和服を身にまとっていた。


「まぁ、後始末はわたくし達がしておきますので。それより、聞きたいことがあるのですが?」
「あ?」
「その、サクラの尻尾とお馬鹿な事をしている蛇は一体……」
「もしかして生き残り? だめよ? ちゃんと全部始末しなきゃ」
「……こいつは……」
「あぁ~~!! ヒナギクにスズラン!! 何しに来よった!?」
 スズラン達がミアの存在に気づいた……むしろ最初から気づいていた。
 仕事の内容は蛇女の全滅、それはミアに対しても同じことであり、零は若干回答に困る。
 そんな時、ようやくミアを尻尾から離すことに成功したサクラがスズランとヒナギクの存在に気づくと、威嚇した猫のように尻尾を逆立てて大声を上げた。
「あら、こんばんわサクラ。相変わらずお馬鹿さんな顔ですね?」
「主が主なら、使い魔も使い魔ね」
「やんやて! もういっぺんゆーてみ!!」
 笑っている狐と狼、そして二匹を睨んでいる虎の目から稲妻が走る。
 彼女達は正直仲が良いとは言えない。それは零にも言えることだが。
 会う度にこうして喧嘩しているのだ。
「待て、こんなとこで喧嘩すんなお前ら。あの蛇はだな、俺の新しい使い魔だ」
 しばらくこの空間に沈黙が流れた。
 いずれ誰かが来るだろうと考えていたことを零は少し躊躇しつつ口にし、彼が何を言っているのか、一瞬スズラン達やサクラにも分からなかった。
 だが、まずスズランとヒナギクが理解し、お互いクスクス笑い始めた。
「ふふ……なるほど、新しい使い魔ですか」
「うん、いいんじゃない? 零くんにぴったりだと思うわ」
「……これで納得しただろ? 早く後始末でも何でもやりに行ってくれ」
 明らかに零を小馬鹿にしたような狐と狼の態度。
 零はいつもの事なので気にしないが、その態度に身を乗り出そうとしているサクラを止める。
 そして零が少し殺気を出し始めたので、スズランとヒナギクは笑みを浮かべながら獣の姿となって森の中へと消えていった。
「くうぅぅ~~!! 相変わらず腹立つで、あの二人!!」
「まぁ、俺は何言われようと別に気にしないがな。あいつより出来が悪いのは、本当のことだし」
 二人が消え、出て行った窓に塩を巻きつつサクラは顔を赤くし怒っていた。
 そんなサクラを宥め様と零がつぶやくと、塩を置きサクラは彼の顔を見つめた。
「ヒナギクとスズランのゆー事なんか気にすることあらへん! ……それに、その、ウチの中では……零がずっと一番なんやし……」
「有難いお言葉ありがとうございます。それと……サクラ?」
「え? な、なんや?」
 頬を赤らめ瞳を潤ませるサクラの言葉に、真剣な表情で彼女の両肩を掴んで見つめる零。
 じっと見つめられ一段と顔を赤くするサクラ。
 胸の高まりが高まり、サクラは自然と目を瞑って顎を出すようにする。
 それに答えるように、零の顔もサクラに近づいていき、唇が重なる寸前にまで到達した……その時だった。
「……また……尻尾咥えられてるぞ……?」
「へ……?」
「むー……」
 サクラは目を開け、そして気づいた。
 さっき離したはずのミアが、また尻尾の先を咥え込み軽く噛んでいることに。
 再びサクラとミアの戦いが始まり、サクラは尻尾を左右に動かしたり回したりしている。
 その二人を、やはり楽しそうに見ながら零は再びビールを手に取った。
「言っとくぞサクラ。俺の童貞こそお前に奪われたが、恋愛対象とかにはならんからそのつもりで……」
「そ、そんにゃ~~!!」
 人間と虎と蛇の夜は……この後も続いた……。


「……これはどういうことだ?」
 深夜になり、旅館の人間もミアもすっかり眠ってしまった時間帯に、零の声が静かに聞こえた。
 仰向けになって寝ている零の両手両足、胴体は動かず、僅かに頭が動かせる状態になっている。
 それは、彼の上に乗っているサクラが術によるもので、ピンポイントな金縛りのようなもの。
 彼女によって、零が穿いていたズボンはトランクスごと脱がされていた。
「うるさい……だまっとれ……」
 ミアを起こさないように声量を抑えつつ、サクラは零の肉棒を握り上下に動かし、やがて口内へとゆっくり咥える。
 零は電気のような痺れを感じ、前の経験を生かし小声である術を唱えた。
「ん? なんか、ゆーた?」
「……なんでも」
 その声はサクラにも聞こえ、獣耳を動かし零に問うが、零は白を切る。
 彼が唱えたのは、何かを封じ込める術。
 そしてその術により、零は自らの射精を封じた。
 いわば根元を強く握られ絶頂しても精液が出ない状態となっている。
 そんな事など露知らず、サクラは肉棒を口でしごき刺激していく。
 射精は封じられたものの、快感はそのまま伝わるので零も身を震わせた。
「んムッ……んッ、んッ……ほっひいれ……」
「咥えたまんま、しゃべるなッ……!」
「ふふ……んはぁ、かわえーな……こういう時の零は……」
 肉棒から口を離し、手でゆっくりをしごきつつ、サクラは笑みを浮かべて零を見下ろす。
 真紅の瞳は光って見え、彼女は全裸だったのだが、零は気にすることなく苛立ち気に彼女を見つめていた。
「お前……何やってんだ?」
「見てわかるやろ? 零を襲ってんねん」
「だから……ッ……なんで?」
 しごかれる快感に言葉を軽く絶えながら、零はサクラに聞いた。
「わかるやろ、自分なら……」
「は?」
「もう話すのもおしまい。ウチが気持ちよくしたる……」
「ちょ……うくっ!」
 サクラの回答は自分でも分からないことだった。
 そして一方的に話を切り上げらたサクラは、再び零の肉棒を口に咥えた。
 頭を上下に動かしつつ亀頭から出る液を飲んでいく。
 それだけでも気持ち良いが、時折サクラの八重歯がこりこり当たり快感は増していた。
「んぶッ……なんや、随分としぶといやないか……んッ」
「ふ、前の俺と思うなよ」
 零は自信たっぷりに言っているが、もう一回ほどイッている。
 ただ結界によって射精が封じられているだけなのだが。
 それでも、そんな事知らないサクラは零の成長を嬉しく思いつつ、精液を出させるべく肉棒を舐めあげていく。
 舌の先で亀頭を刺激し、竿全体を舐め上げ、袋を手で優しく揉む。
 しかし、いくら刺激しても精液は一向に出てこない。
 その事に、サクラは困惑し始め、いっそう手や舌の動きを激しくしていった。


「んんッ、んじゅッん、な、なんで? なんで何も出えへんの?」
「ッ……ッ……」
「なんで……なんで……?」
 零は時折身体を痙攣させる。
 その事から気持ちいいはずだと、サクラは思っている。
 だが何も出てこない、透明液は溢れ出るがそれだけである。
 次第に彼女の動きも止まっていき、最後には舌先で舐めているだけとなる。
 その時、零はサクラのある変化に気づいた。
「うっ……ひっく……」
 サクラが泣いている。
 ようやく暗闇に慣れた零の目に映る光景は、涙を流しながら肉棒を舐めているサクラの姿だった。
「ど、どうしたんだ?」
 普段サクラをおちょくっている零も、この異様な光景にさすがに焦った。
 身体は動かせないので、サクラを呼び続けても彼女はただ涙の雫を零の下腹部に落とすだけ。
 しばらく室内にはサクラが静かに泣く声だけが聞こえていたが、ようやくサクラの口が開いた。
「やっぱり、ウチじゃだめ?」
「は?」
「さっきゆーてた……ウチは恋愛対象ちゃうって……」
「……」
 寝る前に言った自分の言葉を思い出し、零は黙った。
 言い過ぎたかもしれん、そんなことを零は思った。
「ウチは、零が好きや。せやからずっと零と一緒におりたいから使い魔にもなった。望むんなら、どんな事でもしたると思ってた……」
「……」
「せやけど、零はウチをぜんぜん求めてくれへん、そーゆー対象にも見てくれへん……ウチじゃ、出しても、くれへん」
「それは……」
「ウチってそんな魅力ない? そら、胸はこんなやけど。はっきりしてほしいねん、ウチのこと、どんな風に思っとるか」
「……」
 真剣なサクラの表情を見るに、これはマジなんだと零は思った。
 そして黙ってしまった。
 こんな時、どう言えばいいか、彼には分からなかった。
「正直にゆーてええよ? 結果がどーでも、ウチはずっと零と一緒におる」
「……わかった、じゃあ正直に言う」
 迷っていた時、そんな零に気づいたサクラは泣きやみ優しげな口調で彼に伝える。
 その言葉に考えるのをやめ、零は素直に伝えることにした……その前に肉棒にかけた術を解いた。
「サクラ、もう一度咥えてみろ」
「え? うん……んむッ」
「うッ!」
 零の指示に従いサクラが肉棒を咥えた瞬間、溜まりに溜まったものが一気に噴出した。
「んんんッ!!」
 いきなりの射精に驚くサクラの表情が一瞬歪むが、すぐに嬉しそうに瞳を細め白濁液をすべて飲んでいく。
 数十秒続いた射精が終わり、サクラが肉棒から口を離すと精液やらが混ざった糸ができていた。
 しかし、今まで何をやっても出なかった精液がいきなり出たことにサクラは困惑の表情を浮かべていた。
「な、なんで、急に?」
「……えと、悪いな。封印の術で射精封じてた……」
「な、なんやとぉ!! こ、こ、このバカぁー!!」
 サクラの怒声が部屋に響き渡った。
 だがその刹那、冷静になったサクラは頬を赤らめながら嬉しそうに微笑んだ。
「でも……ちゃんとウチできもちよーなってたんや……よかったぁ」
 不意に見せたサクラの安堵の笑顔に、一瞬マジでドキッとする零。
 そんな零の肉棒はまだまだ硬くなっており、サクラは肉棒を片手で掴み零の上に跨いだ。
 これからサクラが何をするのか、零には分かっていたのだが、その時点ではもう遅い。
 亀頭がサクラの膣内に入り始め、一気に腰を下ろすとサクラは軽く絶頂し、深く咥えたまましばらく身体を震わせていた。
 そして零も、久々の膣内の感触に絶頂に耐えていた。


「サクラ、いきなり、いれるなバカ」
「う、うる、さい……騙してた、罰や。う、うごくで……んんッ!」
 前かがみになり、サクラは腰を上下に動かし始める。
 一度射精し敏感になっている肉棒から強烈な刺激が零に伝わる。
 やがて零は快感に耐えながら、再び呪術を唱える。
 唱え終わった直後、零の身体は自由となり、腰を動かしサクラを突き上げた。
「ひゃあッ! な、なん、で?」
「お前の、術なんかで、動けなくなる俺じゃない」
 零が言うように、サクラは身体能力こそ優れているものの、術系はあまり得意ではない。
 その為、サクラが零の体を動けなくしていた術も難なく打ち消すことができていた。
 そうとは知らず、自分が攻めようとしていたサクラは急な零の攻めに驚きながらも、その快感に笑顔を見せた。
「はッああぁッ! き、きもちえ……んあッ、ぜ、ぜろは、どー?」
「まぁ、気持ちいかな」
「じゃあッ、もっと……くあッ!」
 サクラは上体を寝かし、零は彼女の脚を掴み腰の動きを速くさせる。
 やがて、二人の体位は騎乗位から正常位になっていた。
 すでに攻めの立場が逆転しているが、そんな事を気にすることはなく、サクラの脚が零の腰に絡みつき、両手を背中に回し彼を逃がさない。
 結合部からは肉棒が出し入れされる度に愛液が飛び散り、卑猥な水音を響かせていた。
「んあッ、ぜ、ぜろ? へ、返事を、きかせてくれへん?」
「ん? あぁ、そうだ、ったな」
 サクラは潤んだ瞳で先ほどの返事を求めた。
「そうだな、お前は力だけのバカだけど……恋愛対象にならないってのは、うそだ」
「ほ、ほんま、に?」
「あぁ、お前は、可愛い俺だけの使い魔だよ……」
「う、うれし……あぁッ!」
 自分で言って少し恥ずかしくなってしまったが、この際零は気にしない。
 やがて絶頂の予感が二人ほぼ同時に襲い、零は腰の動きを速くさせた。
「んッ、うち、あかん、あかん、もうイッ……ッッ!」
 そしてまず、サクラが絶頂を迎えた。
 それに続くように、零も絶頂し、彼女の膣内に精液を放った。
「――――ッ!」
 サクラは自らの絶頂と、膣内に注がれる精液の感触に言葉を失った。
 零は何度も体を痙攣させ、サクラの中に精を注いでいく。
 結合部からは収まりきれなかった精液が、一筋流れていた。
 やがて射精は治まり、肩で息をして繋がったまま二人は見つめ合った。
「零?」
「ん?」
「ウチのこと、好き?」
「………ちょっと考えさせてくれ」
「な、なんやそれ!!」
 サクラは当然、零も好きと返してくれると思っていたが、ある意味零らしい回答に声を上げた。
 無論零の方は冗談だが。
「あのぉ、なに、してるんですかぁ?」
 そして、二人の行為に目が覚めてしまい、終盤ずっと見ていたミアがようやく口を開いた。
 零は黙り、サクラは回答に困っていた、ミアはまだ子供だしね。
「みあも、やってもいいですかぁ?」
「な、なにゆーとんねんミア!」
「別にいいぞ? これも教育だし」
「やかましい! 零は黙っと、んあッ、これミア……そんなとこ、舐めたら、アカンて」
 三人の夜は、まだ終わりそうになかった。


「あら、後片付けが終わったから報告しに来たけど……どうするスズラン?」
「ふふ、でしたらわたくし達も混ぜてもらいましょう? 近頃、主様も求めてくれませんでしたしね?」
「そうね、溜まり過ぎて人を襲うよりはマシね」
 そしてもう二匹、今宵の零の相手は増えそうである……

―終―