目を瞑って虚空を感じ取る。無の世界に包み込まれて、安堵とも恐怖ともつかない不思議な感覚だ。
母親の胎内にも似た空間とどこか懐かしい空電の砂音。

『―――obj(オブジェクト)接触まで300秒。』

耳元から聞き慣れた声が聞こえて僕はふっと目を開ける。
月の鏡と地球の輝きの中に浮かび上がる老船。
「CCCP」と記されたそれは悠久の時の流れにも形を変えることなく静かに眠っていた。
僕は心の中で自らの腕と船のマニュピレータとを同調させていく。
時間の流れがゆっくりと、限りなくゼロになったかのような感覚。

『―――obj接触まで250秒。』
機械と化した僕の腕は静かに目標に伸びていった。




その日は何故だかいつもより早く起きてしまった。だがここで起きては体のリズムが崩れる。
「眠…こりゃもう一回寝るしかないな」
いそいそとベッドをかぶった俺だったが、そうは問屋が卸さない。

ドドドドド~!―――とりゃっ!
どすっ!
「ぐはあっ!」
何かがのしかかってきた。
「起~き~ろ~!」ゆさゆさゆさ…
こ、この起こし方とうるさい声は!
「うがー!クードーリャーフーカー!」
「きゃー逃げろー♪」
嬉しそうに白い尻尾を振りながらパタパタと走っていく。早い…。
「こらー!―――………くそう、逃げられた。」
やれやれ、なんで朝っぱらから走り回らなきゃならないんだ。
忌々しいぐらいに目が冴えてしまった。

「おはようございます。朝からお疲れのようですわね?」
「おはようムーシカ。なに、いつもの事さ。」
俺の答えに彼女は苦笑すると、絹のような黒い長髪と尻尾を揺らしながらキッチンに向かう。
「今温かいロシアンティーをお持ちしますわ。分量は…」
「ミルクと砂糖を多めだ。俺は苦いのは飲めないからな。」
ムーシカは戸棚からコーヒーカップと皿を出して4人分並べる。
匂いから察するに今日の朝飯、トーストにスクランブルエッグとみた!

予想は大当たり、しかも昨日のピロシキも付いてきた。俺は心の中でガッツポーズを取る。
「やったあ!ピロシキだ~!」
クドは思いっきりガッツポーズを取ってるし。
「クド、食事の場では静かになさい。あなたも女の子なんだから。」
ムーシカにたしなめられるが当の本人は意にも介してない。
「はいはーい!じゃ、いっただっきま…」
「クド、まだアルビナお姉様が来てませんわ。起こしてらっしゃい。」
「なんだまだ寝てるのか?よし、クドリャフカ訓練生に特別任務だ!
いかなる手段を用いてでもアルビナ訓練生を起こしてこい!」
クドは心底ワクワクした顔になって、勇ましく敬礼すると
「ラジャー!いかなる手段を用いてでも起こしてきます!あ、このタバスコ借りるね~」
ドタドタドタ…


数分後


―――ぎゃー!

「…起きたみたいだな」
「ですわね」


ドドドドド!
猛烈なスピードで笑顔のクドが駆け抜けて、
その後ろを茶色の耳と尻尾を逆立てたアルビナが追いかけていた。
「あ…おはようアルビナ」
「2人ともおはよっ!…って、待てクドー!今日は絶対逃がさねー!」
喧騒が去り、後に2人が残される。

「…食べようか?」
「そうですわね♪」
「「いただきまーす!」」

1955年11月3日 バイコヌール宇宙基地の朝
スプートニク2号打ち上げまで後730日




「んー…お!みんな見ろよ、スプートニクを見つけたぜ!」
天体望遠鏡を覗いていたアルビナが嬉しそうな声をあげ、クドリャフカが我先にとテラスに飛び出してきた。
「見せて見せてー!…んしょ…わ、ホントだー!」
背が低いクドリャフカは台によじ登って望遠鏡から衛星を覗いてははしゃぎ声をあげている。

ムーシカが淹れてくれたコーヒーを飲みながら空を仰ぐ。
満天の星空は新たに加わった「星」を歓迎するかのように瞬いている。
「…にしても、本当に宇宙まで飛んだんだな…いやはや、恐れ入ったわ!降参!」
「あらあらまあまあ、天下のベリヤ博士でも恐れなどという言葉を知っておられたのですね。」
肩越しにクスクスと笑い声が聞こえる。首を向けるとトレイにコーヒーを注いだカップを乗せたムーシカが嬉し気に笑っていた。

「アルビナお姉様、クド~!お茶にしましょう。博士はお代わりですわね?」
「ああ、いただくよ。全くあの二人もお前ぐらい落ち着きがあれば可愛げがあるのにな…」
「おだててもおやつは出ませんわよ?」
ちぇっ!

「―――でな、あの時は本当に大変だったんだぜ!」
「わふ…やっぱりアルビナお姉ちゃんはすごいなあ。
きっと私は怖くてできないよ~。」
アルビナがテストロケットで高高度実験をした時の話をクドに言い聞かせている傍らで当のクドはすっかり怖じ気づいている。
「自信をお持ちなさい。クドはいざという時にできる子なんですから♪」
しゅんとするクドを優しく撫でるムーシカ。

クドリャフカはいつだったか、モスクワの市内で迷子になっている所を俺が拾った犬だ。
しばらく飼っているうち、いつの間にかムーシカが家に住み着き、そうこうするうちにアルビナまで住み着いてしまった。
そして気が付いたときには姉妹になっていた。
それにしても…こいつらなんだかんだで仲が良いんだよなあ。

肩でそろえたブラウンの髪に茶系の犬耳と尻尾を持った強気で男勝り、お転婆な長女アルビナ、
美しく長い黒髪と同じくらいきれいな黒い犬耳と尻尾を持った物腰柔らかでとても元野良犬とは思えない風格の次女ムーシカ、
そしていつも姉達にくっついて歩き、ふわふわとした白銀で長い巻き毛の髪と真っ白な犬耳と尻尾を持った悪戯娘の末っ子クドリャフカ。

みんな俺のかけがえのない家族だ。
これからもずっと、ずっと…

今宵は…といっても時差はあるが、世界中の人々が天を仰いで新しい星を眺めているのだろう。
スプートニク1号は第一宇宙速度に到達して衛星軌道を周回している。
そのちっぽけなアルミニウムの球体は人類の希望の芽のようにも思えた。そこにはイデオロギーも対立もない、純粋な希望と無限の可能性が詰まっている。

『スプートニク計画はこれをもって第二段階へ移行。スプートニク2号打ち上げの成功に最大の尽力をされたい。』
中央からの書類にはそれだけが記してあった。
耳を傾けると、コテージの中からはお祝いパーティーの賑やかな声が聞こえる。
俺は黙ってタバコを口に加えると…
カチッ

「お、ありがとさん…って少佐じゃないですか。こんな所まで来てどうしたんです?」
火をくれたのは訓練教官のライカ少佐…美人で聡明な犬の獣人だ。
彼女はくわえた煙草をくゆらすと微笑を浮かべた。
「いやなに、たまたま近くを通ったら賑やかな声と空を眺めるお前が見えたんでな…お前一人か?」
「あいつらは中で大騒ぎさ。まあ確かに今夜は騒ぎたくもなるよ。」

少佐は空を見上げ、
「…ふむ、スプートニク1号か。確かにすごいな…」
―――肉眼で見える少佐も十分すごいぞ。

「あ、少佐だ~!みんな~少佐が来てるよ~!」
真っ赤な顔をしたクドの元気な声と共に姉妹が窓から顔を出す。
「少佐ぁ~!一緒に飲みましょ~!今夜のウォッカは格別ですぜ!」
アルビナも既に出来上がってるみたいだ。やれやれ、飲み過ぎるなといったのに…。
「どうする?」
問いに彼女はやれやれといった感じでコテージの方に歩いていった。
さて、もう一本吸ってから俺も戻るか…。

「きゃはは~♪少佐ってば女の子なのに胸ぺったんこ~♪」
戻るや否や飛び込んできたのがこれだよ。少佐怒るぞ~。ってあれ?
クドが“ぺったんこ踊り”をしている傍らで少佐は真剣な眼差しで自分の胸を見つめていた。
「なぜ…なぜ私は…」
「少佐気にするなってー!胸が大きくてもしんどいだけなんだからさぁ」
アルビナは肩がこるだとか動くのに邪魔だとか、自らの豊かな胸の弊害を説いている。
だが、芽生えかけた“巨乳は大変”論は一瞬にして瓦解する。

「でも…クドより胸が無いのはあまりにも不憫ですわ…」
ムーシカが心底悲しげな表情で呟く。
「AA…いやAAAでしょうか?貧乳というか微乳というか…無乳ですわね。」
あちゃー。

「う…う…うわーん!」
あーあ、少佐泣いちゃったよ。
それにしてもこの人いったい何歳なんだ?
昔、まだ中尉だった頃は地雷犬部隊の小隊長をしてたって聞いたことあるな。
大戦時の写真見たけど、背格好も発育も変わってなかったし…うーむ今度聞いてみよ。

次の朝、クドが少佐にこってりと絞られたのは言わずもがな。

1957年10月4日 スプートニク1号打ち上げ成功
スプートニク2号打ち上げまで後720時間




「ふぅ…何度着ても着慣れないですわね…まるでぬいぐるみですわ。」
生命維持装置という世界一高い服で着膨れしたムーシカが愚痴をこぼす。
「なかなか似合ってるぜ~」
しししっ、と笑いながらアルビナが楽しげに言う。
クドに至っては文字通り“抱腹絶倒”して思いっきり笑っていた。

「ク~ド、いずれはお前もあれを着るんだぞ?明日は我が身ってことだ。」
えー、とかやだー、とかいろいろ聞こえるが無視する。
「ムーシカ、準備はいいな?」
ガラス越しに幾重にも防護壁が重ねられた防護室の中のムーシカにマイク越しに声をかける。
『―――ええ、準備は万端ですわ。実験を開始して下さいまし。』
いつもと変わらぬ調子でムーシカの声が制御室のスピーカーから聞こえる。
「頑張れよ…それでは、生命維持装置のテストを開始する。フェイズ1を開始。」

「気圧及び温度に於ける変化を観測。フェイズ1を終了、続いてフェイズ2に移行する。」
淡々と実験は進んでいく。ライカ少佐も口を開くことなく防護室を注視している。
『アルファ線、ベータ線、ガンマ線を検出。生命維持装置及び制御装置に異常なし。』
ムーシカも淡々と状態を報告している。よし、フェイズ2終了…。

ムーシカお疲れ様…と声をかけようとした時、制御室内部に警報が響き渡った。
計器類を見ていたオペレーターが慌てて叫ぶ。
「博士!ガンマ線が異常値を示しています!どんどん増加―――」
「実験中止!被験者の保護を最優先しろ!」
口をつぐんでいたライカ少佐が叫ぶ。
「ダメです!被験者との無線は断絶!心拍数、脳波ともに低下!」
だんだん声が遠ざかっていく…

―――救護班を呼べ!
―――心臓停止!被験者生命反応なおも低下!
―――基地内に非常警報を発令するんだ!
―――ちくしょう、何でこんな事に!

「ムーシカァァァ!」
慌てて走り出す俺を少佐が獣人の力で引き止める。ふりほどこうとした次の瞬間、頬に痛みが走った。
「ベリヤ…貴様分からないのか!?何故ムーシカがすぐに出てこなかったか!
今出たら皆までが被爆するからだろう!」
「じゃあどうしろって言うんだよ!」
声を荒げたその時、唐突に警報は鳴り止んだ。

「残留放射線の消失を確認!救護班を行かせます!」
防護室から、体一つ動かさないムーシカが運び出される。ヘルメットで表情は分からない。
彼女はそのまま集中治療室に運ばれていった。


俺は…無力だった。


翌日。俺とアルビナ、クドリャフカの三人は隔離病棟の一室の前にいた。
「ムーシカ…いるか?」
ドア越しにどうぞ、と聞き慣れた言葉が聞こえる。

「ムーシカ、大丈夫―――」
ベッドに横たわるムーシカの変わり果てた姿に俺たちは息を呑んだ。
あの墨を流したように艶を帯びた黒髪は全て白髪と化し、黒かった瞳も赤くなっていた。指や肌も透けそうなほどに白い。
白色個体。俗に言う「アルビノ」という奴だ。

「ムーシカ…すまない…俺のせいで…」
「いえ、博士は何も悪くはありませんわ。」
責めることもなくムーシカが優しく答える。
「クド…こっちにいらっしゃい。」
ベッドに寄ったクドを胸に抱いて櫛で髪をといている。
「ふふ…これでクドとお揃いね♪アルビナお姉様、この髪は似合ってますか?」
アルビナはニカッと笑って親指を立てた。クドもじゃれあっている。
いつも通りの姉妹だった。

「ムーシカ…お前の体のことなんだが…」
「今話してくれて構いませんわ。いずれは皆が知ることですから。」
俺は息を一つ吸って一つ一つ語り聞かせた。

ムーシカの遺伝子や免疫はほとんどが破壊され、人間並みの寿命となったこと。
卵巣や子宮が破壊されて、二度と妊娠できないこと。
未だ解析されないことが多いため、これからムーシカの身に何が起こるか分からないこと。

最後に俺が謝るとムーシカは笑って首を振った。
「私は幸せですわ。この子のため、ひいては人類と獣人の輝かしい未来のための礎になれたんですもの。」
クドを撫でながら微笑むムーシカ…彼女は慈愛に満ちていた。
俺は…彼女の微笑みの中に頬を伝う一筋の涙を見た。

―――ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!
何が天才だ!何が科学の申し子だ!
俺に何ができた?黙って見てるだけか?
俺は…無力だ。

「博士?」
椅子を傾けて部屋の入り口を見るとクドが心配そうに見ている。
「博士の膝、座ってもいい?」
俺が無言で頷くとぴょこんと膝の上に座って嬉しそうな顔をした。
「ムーシカお姉ちゃんのことだけど…博士は気にしないでってお姉ちゃんが言ってたよ。」
「でも俺は―――」
「―――私たちには」
クドが言葉を遮ってまじめな口調になる。
「私たちには…ううん私たち“獣人”、全ての“人の姿を借りた生物”には口伝があるの。」
一言一言を噛みしめるように呟く。

「全ての事象は“結果”だけを求めていると近道をしたくなる。そして近道をした時“真実”を見失うかもしれない。
大切なのは“真実に向かおうとする意志”…。
今はたどり着けなくても、向かおうとする意志があればいつかはたどり着く。
だって、そこを目指して向かってるんだから…。」

胸に手を当てて、目を閉じて言葉を続ける。
「ベリヤ博士…私は…宇宙に行きたい。」
クドはそういって俺にキスをした。そしてえへへっ、と笑って駆けていった。

1957年10月――日(不許可) 実験中に事故発生。
計画に――%(不許可)の支障を来すも、進行に問題なし。
スプートニク2号打ち上げまで後――日(不許可)




その日、僕はボロアパートの402号室でいつも通り居間のソファーに腰掛けて
「子犬のワルツ」を聞きながらウォッカをひっかけて寝るつもりだった。
それがどうだ。目の前には雪のように白い長髪、髪から覗く白い犬耳と尻尾をもった美人が僕と並んでティータイムだ。

「美味しいですわ…」
赤い瞳を細めてほう、と息をついて紅茶を味わっている。どこか不思議な人だ。
「自己紹介が遅れました。私はストレルカさんのお父様の知り合いで、ムーシカと申します。」
「せっかく来てもらって悪いけど…父は去年の暮れに亡くなりましたよ。」
それを聞いたムーシカさんは少し驚いたようだったが、父さんが寝てる間に寿命で息を引き取ったことを教えると
「そうですか…」とだけ呟いた。

「ストレルカさん…貴方にお父様より渡すよう頼まれていた物を持って参りました。」
そう言って小さな手のひら大の小箱を差し出してきた。
その箱には『いつかの空へ』と書いてあり、中に小さな指輪が収められていた。
「これは…?」
「貴方のお父様からは“空へ届けてほしい”と言伝をもらっています。では…」
「まあまあ、せっかく来たんだから。ウォッカでもどう?」
ムーシカさんはしばらく考えた後、笑顔で頷いた。

それからたっぷり二時間、いろんな事を話してムーシカさんは帰っていった。

僕がまだ赤ん坊の頃に父に拾われて育てられたこと。
父は僕を拾った時には50近くだったから参観日が恥ずかしかったこと。
宇宙や星が大好きで、僕に世界のいろんな星空を見せてくれたこと。
僕が宇宙飛行士を目指すと言った時、複雑な顔をしたこと。
そして…僕が宇宙飛行士に選ばれた日のこと。

今でも覚えている。
―――父さん、僕は『スプートニク6号』に乗って宇宙に行くよ!宇宙飛行士だよ!
嬉々として喋りたくる僕を父さんはしわがれた手で抱きしめて一言『頑張れよ』と言った。

翌朝、父は老衰で息を引き取っていた。
その表情は微笑みを浮かべて…とても安らかだった。

父さん…行ってくるよ。

2007年10月1日 スプートニク6号打ち上げまで後48時間




雲一つない青空に巨塔がそびえ立っている。
バビロンの人々は空を目指す塔を、そして俺達はさらなる高みを目指してこの白い巨塔を作り上げた。
この星に生命が産声を上げて以来何者をも到達し得なかった高み…。

「っかー!でっけーなおい!こんなのにクドは乗るのか?」
大きな胸を反らして天を仰ぐアルビナにつられてクドも控えめな胸を反らしてロケットの先を見上げる。
「わふ~、大きいなあ…」
「お姉様!クド!はしたないことはおよしなさい!その…ブラを付けてないんですから…」
その通り。胸をいくら誇示しようと大いに結構だが、ノーブラにタンクトップ一枚では目のやり場に困る。
「うーむ、俺はアルビナの巨乳っぷりの方が偉大だと思うぞ。」
「だろ~!どう、触ってみる?」
「もちろ―――」

…殺気!この圧倒的なプレッシャー!
「ライカ少佐か!」
後ろを振り返ると、みるからに気が立った少佐が仁王立ちで殺気を送っていた。
「あ、つるぺた少佐だ~♪」
クドが真っ先に駆け寄っていく。
「うるさいっ!クドリャフカなんかに言われたく…ひゃんっ!…ぁ…どこ触って!」
ふにふに。
「やはり発育がよろしくありませんわね…」
ムーシカ、お前はいつの間に…。

その夜はどんちゃん騒ぎの大宴会。俺はヘベレケな少佐に浴びるほどウォッカを流し込まれてKO…KO…KO……k……o

気が付くと俺は寝室に寝かされていた。
「うーん…酔った少佐とアルビナが脱ぎ出した所までは覚えてるんだが…なあクド、あの後どうなったんだ?」
クドが水の入ったコップを持ってきてベッドの脇に座る。
「はいお水。少佐とアルビナお姉ちゃん、なんかムーシカお姉ちゃんに空きビンで殴られてたよ?」
「うわぁ…。ムーシカはなんだかんだでお守り役だからな。
いろいろ鬱憤が溜まってたんだろうよ。」
足をパタパタさせながらそうだねー、とクドが笑う。
「その中にお前も含まれてるんだよ。」
ぷにぷにと頬を指で突いてやる。

「ね、博士…」
「ん?なんだ―――っんむ!?」
クドは俺の返事を唇で塞ぐ。
「んむ…むー!」
クドの顔が見る見る赤くなり、やがてぷはっと唇を離す。

「息をしないとだめだろ。まだまだ子供だな。」
すかさずツッコミを入れると真っ赤な顔をして手をブンブン振りながら叫ぶ。
「だってだって、初めてだから仕方ないの!それに子供じゃないもん!
ちゃんと“交尾”だってできるもん!」

目に涙を浮かべ力説するクド。なにもそんなにムキにならなくても…ってあれ?
段々眠く…。
「あ、お水に混ぜた眠り薬と痺れ薬が効いてきたんだ~♪」
「薬…?」
「ムーシカお姉ちゃんが“きせーじじつを作ればこっちのもの”って教えてくれたんだ~♪」
脳裏にぐるぐる廻るムーシカの高笑い。
「あんにゃろ…無…念―――」

俺は深い深い奈落に落ちていった。

闇に包まれた意識の中、俺は頬を這う温もりに目を開けた。
「クド…お前…」
ベッドに横たわる俺に馬乗りになったクドがいた。
獣が愛情を示すように丁寧に頬を舐めるクドは、幼い顔つきの中にどこか大人びた雰囲気がある。
獣人同士で耳や尻尾を舐めて、毛繕いしたり主人や親しい者の顔を舐めることはよくあることだ。
だが…今のクドはそれらとは違う感じがした。
「ねえ博士…。」
「ん…?」
クドはしばらく押し黙り唇を噛んでいたが、やがて顔を上げてその青い瞳をまっすぐに向ける。

「私…博士のこと、好き。」

「…」
「アルビナお姉ちゃんや、ムーシカお姉ちゃんも大好きだけど…博士のことはも~っと好き。」
手を大きく広げて一生懸命に話している。
「宇宙ってきれいなのかな?」
「地球ってどんな感じに見えるのかなあ…」
「博士やみんなにお星様持って帰ってあげる!あ、でも一番大きいのは私のだからね!」
「きっと、忘れられないぐらいきれいなんだよ!」
「きっときっと…忘れられない…ぐすっ…ぐらい…きれい、なんだよ?」

「クド…」
「だから、博士は私の事嫌いでもいいから…私を…忘れないで…」
ぽろぽろと涙が零れ落ちて体を濡らしていく。

俺は言葉が出なかった。
たった独りで…少女は怖かったのだろう。
数々の厳しいテストをクリアして、祖国の英雄と褒め称えられ、
あまりにも大きな『希望』をその小さな小さな体に背負わされ、独りゴルゴダの丘を歩かされる気持ちはどんなに辛いだろうか…。

俺は小刻みに震える少女の手をとり抱きしめる。
か細く、折れそうな手だった。
そうしていつまでも、いつまでも抱きしめていた。
クドはふっと顔をあげて唇を重ねてくる。
「―――んっ…」
恐る恐る入ってくる舌はぎこちなく、かえってそれがクドらしいくて笑ってしまった。
「ぷは…博士、今笑ったでしょ~。」
「いやあ、やっぱりクドはクドだなあって。」
どうもクドはそれが気に食わなかったらしい。ぷくーっ!っと頬を膨らませている。
「いいもん。ムーシカお姉ちゃんには“ごういんにやればいい”って言われたもん!」
「ちょっと待て―――むぐっ!」
猿ぐつわをかまされる。なんだか雲行きが怪しい。
クドは“ひみつちょう”と書かれたメモを取り出すとそこに書かれた内容と俺を見比べながら言った。
「えっと…“おすのおかしかた”」
やばいことに、なってきた。

「口は利けないようにしたから、次は…“ふくをぬがせてせいきにしげきをあたえましょう”かあ。
なるほどなるほど。」
「ふむー!(待てー!)」

動かない手足では抵抗もままならず、いいように脱がされていく。
目の前には一匹の“獣”がいた。

抵抗もままならないまま空しく俺は服を剥かれてクドに眺められる。
「これが博士の…つんつん。あ、動いた。」
く…人の大事なところをおもちゃにしやがって…アンドリュー・ベリヤ一生の不覚!
だがもっと不覚なのは、クドの小さな手の感触や先にかかる熱い吐息で見事に反応してしまったことだ。
「わ~大きくなった~♪んと、次は…これを舐めればいいんだよね?」
「ひふはー!(知るかー!)」
「え、くわえた方がいいの…?」
親の心子知らずとはよく言ったもの。もっとも親になったわけではないが。

「ん~…はむ…」
「くっ…」
こいつ、ホントに初めてか…?
クドは小さな口いっぱいに頬張ってじゅぶじゅぶと音をたてながら責めてくる。
蛇のような舌は裏筋を撫で、包み込むようにしごいてくる。
白い髪をかきあげる仕草や時折俺の表情を覗き込むような視線がますます俺の扇情を煽り、思わず息を漏らす。
「んむ…きもひいい(気持ちいい)?」
「ばか…しゃべるな…くっ」
「んんっ…!」
不意の射精に驚いて咳き込みそうになるのをこらえて、目に涙を溜めながら精液を受け止めている。
くわえた口からは溜めきれなかった精液が溢れ出して俺の肉棒を濡らしていく。

クドは口いっぱいに溜め込んだそれをどうするか決めあぐねているようだ。
しばらくうんうんと唸っていたが、やがて意を決したのか一息にそれを飲み込んだ。
「んくっ…苦いよ博士…」
「…」
「あ、喋れないんだった。んしょ、これで大丈夫かな?」
「ぷはっ!やっと喋れる…ってもまだ体は動かないな。」
「ね~博士、気持ちよかった?」
この時の俺はきっと煙が噴き出すほど顔を赤くしたに違いない。
「………たよ」

「ん~よく聞こえないよ…?」
「気持ちよかった…よ。」
敗北感に打ちひしがれる俺と、満面の笑みを浮かべ尻尾をぶんぶん振って勝ち誇るクド。
「えへへ~。たくさん出たしね♪」
「…言わないでくれ。」

「まだ大きい…ということはまだ出るんだよね?」
クドリャフカの青い瞳が細められ、徐々に瞳が暁を照らし出したかのような色に染まっていく。
紅くなりつつある瞳は、未だ固さを失わない俺自身を撫でるように見つめてくる。
それは動けない俺を視姦するかのように舐めまわし、今すぐにでも犯しぬきたいかのような…獣の目だった。

「クド…お前…」
紅い瞳は獣人の本能を映し出す色。獣に神が与えたもうた純粋で、汚れなき本能。
「今夜は…とても月がきれいな夜…我々の在るべき姿に還るだけ…」
そこにいたのは、普段の無邪気で天真爛漫な彼女ではなかった。
白い髪と、白い耳、そして白い尾を持つ一匹の獣と化した少女がいた。
彼女は俺の耳にそっと唇を近付ける。

「―――お前の、子種が欲しい…。」
それは今まで抱いたどんな女よりも艶やかで、扇情的な声だった。

「ふふ…物欲しそうだな。そんなに出したいのか?」
熱を帯びた指が肉棒に絡みついて上下にしごいている。
彼女はそれに唾液を垂らし、ぬるぬると纏わりつく感触を楽しむかのように指を動かす。
「………っ」
「私も、もう我慢はできないようだ…」
寝そべる俺の前に差し出されたのは愛液に濡れて赤く染まった無毛の割れ目―――すじとでも言うべきだろうか。
それは彼女の幼さを感じさせると同時に男を知らない事も見て取れた。

「ん…ここ…か?」
割れ目をあてがってぬるりと動かしながら位置を探している。
亀頭への刺激だけで射精しそうになる…俺はすぐそこまで限界が近付いていた。

「あ…いくぞ…っ!」
ふいにぎり、と音がするほどの締め付けに襲われて俺は射精すまいと歯を食いしばる。
彼女の顔は破瓜の痛みに苦悶していたが…それでもなお腰を沈めてくる。
やがて8割方くわえ込んだあたりで彼女の子宮が当たる。
「ふあっ…奥に…っ!」
「ばか、急に締めるな…出るっ!」
「ひゃ…博士の精子ぃ…当たって…りゅぅ…いっぱぁい♪」
びゅく…びゅく…止まる事なく続く射精に俺は体中の力が抜けるのを感じる。
子宮にごぶごぶと注ぎ込まれていくのが自分でも分かる。

「精子…精子好きぃ♪」
全身で射精を感じ取ったかのように体を震わせている。
部屋中に充満するメスの匂いと、彼女の小さな膣内の中で俺の肉棒は固さを失う事は無かった。
そして俺は彼女の瞳が猛々しい紅ではなく、月光のような優しい青色に変わっていくのを見た。
「博士…好きだよ…。」
クドはそう言って体を重ねたまま俺に唇を重ねる。
痺れ薬はいつの間に切れたのか、俺は自由に動くようになった手でクドの頭を撫でる。
「…ばか、俺の方がお前の事好きだったっつーの。」
「…え?」
きょとんとした顔で俺を見つめるクド。
「なに呆けた顔してんだよ。俺はな、ロリコンだ。
それも白い髪に白い耳、白い尾と透き通った空色の瞳を持った犬型の獣人が…ついでに言えば、
そいつはモスクワのボロアパートに変な博士と仲の良い姉2人と住んでいてな…」

「うん…うん…ひっく…」
クドは頷きながら嗚咽を漏らしている。

「…いつも元気で悪戯ばかりして無邪気な笑顔を見せて、それでいつも皆の幸せを考えて、
俺のかけがえのない大切な家族…そいつの事がたまらなく好きなんだよ!
ま、まあ断じてお前みたいなのじゃないのは確かだけどな!」
なんで…俺も泣いてるんだよ…。
俺はクドを胸に抱いてぽろぽろと涙をこぼしていた。

「はぁ…クド…出すぞっ!」
「うん、きてぇ♪いっぱい出して♪」
「くっ!」
「はぁん!いっぱい博士の精子出てるよぉ…」
あれから何度目の絶頂を迎えたのだろうか。俺とクドは交互に攻め合っていた。
クドは抜いた拍子に子宮に収まりきらず溢れ出した精子をすくってはおいしそうに舐めている。
やべ…またしたくなってきた…。
ガタン!
「なんだ?」
クローゼットの中からガタゴトと物音がする。
…まさか…いやしかし、いくらなんでも…いやいや万が一という事も。
などと言った考えが頭をよぎる。

「博士、お姉ちゃん達はみんな寝てるから大丈夫だよっ!」
「皆まで言うな。お前はよく頑張った。」
…クド、声が震えているぞ。
全てを察すると同時に頭が痛くなってきたが、今は頭を抱えてる場合じゃない。
クローゼットの扉に手をかける。アーメン。

ぐわらっ!


「…で、お前たちは何をしてたんだ?」
正座する三人組に尋問する。

「参った参った!いやまさかここに来てバレるなんて思わなかったな。なあムーシカ?」

「全くですわ。気配を消すぐらい容易いはずですのに…ライカ少佐が胸を触っただけで動いたのがいけませんわ。」

「き、貴様ら…!いや博士。わ、私は反対したんだぞ?だと言うのにこやつらが…」
耳と尻尾を伏せてしゅんとなる少佐にはまだ同情酌量の余地はある…だが、3姉妹の片割れ二匹は全く悪びれる様子もない。

「いや~それにしても2人ともお熱いねぇー!久々にドキドキしたぜ!」
黙ってろこのおっぱいお化けめ。
「はぁ…私、正直申しますと発情寸前ですわ…思わず少佐に悪戯してしまうぐらいですから」
お前は両刀使いか。
「ふむ…実は私もこやつらの愛の営みに感動すると共に少しばかりあてられてしまったな…」
ちょ、ちょっと待て!

「だよなー!私もホントは発情しかけてるんだよ!ちょうど良いオスもいるみたいだし、交尾しよっか?」
「いいですわね。私はオスでもメスでもイケる口でしてよ?」
「…仕方ない!お前たちがするのなら私もしない訳にはいくまい。」
あの、俺の意見は…

そう言いかけて俺は見てしまった。彼女たちの瞳が皆赤く染まっている事に。ムーシカは最初っから赤かったが…。
「ん、これかい?今日は満月の晩だから発情してしまうんだよ。まあ私らは慣れてるから自我は保てるけどな。」
ク、クド助けて…

「ん、なんだまだ我と続きがしたいのか?」
クドは既に発情しきっているようだった。
1人の男に群がる四匹の発情した獣…逃げ場は、ない。

―――夜はあまりにも長い…。