日は既に西に傾き、辺りは次第に燈色から藍色に染まっていく。
街には既に人影は無く、ばたんばたんと扉を閉める音が寂しく響いていた。
人が火を起こし、自らの思うがままに使えるようになってからどれ程の時が経とうと、夜の恐怖を克服する事は出来ないままである。
夜は依然として魔物のものだった。
コボルトが畑を荒らし、オークの群れが人を襲い、グールが腐臭を撒き散らしながら街を徘徊する。
高い城壁で周りを囲んでいる大きな街ならともかく、首都とは程遠い田舎の街ではそれが当たり前の光景だった。
不作の年は城壁の石積みをして生計を立てたものだ。と、男は窓に頬をつき、暗くなった街を見ながら感慨深げにため息をついた。
人狼の遠吠えが聞こえる。
そしてようやく今日が満月の夜である事に男は気付き、慌てて、痛む身体に鞭打ちつつも夕食の準備を始めた。

支度を終え食卓に料理を並べた。いつもは二人分作るのだが、今日は一人分だけだ。だからといって過程が楽になる訳でもない。
むしろ、裏の山で取れたマムシやら何やらの苦く毒々しい食材で作られたそれらの料理は、苦行といっても相違なく、男にとっても好ましいものではなかった。
一刻も早くこの飯をたいらげなければ。男は悪臭に耐えつつ料理を食べていく。少し涙ぐんだ。何度口にしようとも不味いものは不味い。

 どんどんどんどん。
マムシを丸々一匹胃に収めた所で木のドアを連打する音が聞こえてきた。男の歯がガタガタと音を立てているのは、三十回噛むと健康に良いとか、そういう事では決してない。
 どんどんどんどんどんどんどんどん。
扉まで走るものの、乾いた音はいっこうに鳴り止まない。
その音と同じ、いやそれ以上の速さで男の心臓は鼓動していた。脂汗が頬をつたり、背中がぞっと寒くなる。
 どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんばきゃっ。
ついに悲劇は起こってしまった。

魔物がそこに立っていた。


    かわらない毎日


「ちょ、おまっ、ドア、またかっ」
男は、二つに割られて床に転がっている木片と、吹き抜けとなった我が家の入り口を見て、どもりにどもった。何度目にしようとも驚くものは驚く。
扉を買い換えるのも馬鹿にはならない。起こってしまった悲劇を前に男の視界は涙で歪んだ。
非難の声を上げようとして、ドアを壊した本人の方を見たがそこに姿は無く、気付けば天井が正面に見えた。押し倒されていたのだ。

「ね、ちょっと、お、落ち着いて、ほら、ここ玄関ですよ? せめて、寝室まで、いや居間まで行きませんか? ご、ご近所さんに覗かれちゃいますよ?」
目に涙を溜めて懇願する男。既に半泣きである。
「知るか」
と冷たい答えが返ってきた。
仮に、もし誰かに覗かれていたなら誰もが男女が逆だろうと突っ込まずにはいられないであろう光景がそこにはあった。
成人を迎えている大の男を押し倒したその者の姿は、年端も行かぬ幼い女だった。長い金色の髪が床に垂れ、その顔は名のある職人が作る人形よりも美しかった。
それだけならまだしも、その姿は只の子供とは違っていた。甲殻類のハサミに人の皮が被さっている、そんな印象を抱かせる手が両腕に備わっていた。
あと、その姿はまさしく幼女であるのに、無駄に胸がでかかった。
一般女性と比べても十分大きく、その大きさは男が初めに少女と会った時、その手よりもまず胸に注目した程である。男が助平なだけだが。

少女は男の言葉に耳を傾けず、その唇を貪った。ちゅぷちゅぷと舌を絡ませあう音がこだまする。
「んっ、むぁっ、んぅっ、んっ、ぷはぁっ、だまれ、農民」
仰向けに倒れる男の胸に、むにゅむにゅとした柔らかい感触が伝わる。
以前に城下町で見たメロン位の大きさのその胸をすりつけ、幼い子が口の端から唾液を垂らすその姿はとても背徳的であった。
少女は膝で男の肉棒をこねこねと手馴れた様子で弄り遊び、
「なんだかんだいって、体は正直だな、この変態」
「んなっ、こんな、事されたら誰だって、うっ」
罵りあざ笑う少女。男は真っ赤になって反論するが、その声は顔に乳房を押し当てられた所為で途中で遮られてしまう。
「むぐっ、んっ、」
「ほら、何、ひぅっ、くちごたえ、してる? ふぅっ、お前はだまって、んぁっ、私にほーししてればいいんだから、あぁんっ、はぁっ」
桃色の乳首を舐められ少女は息を荒げるが、その口調は変わらず尊大なままだ。しかしその顔は、男を熱っぽく見つめて媚びる様に微笑んでいた。
男は罵られながらも、柔らかい胸を揉みしだき、乳首を指で引っ張ったり、その感触を十分に楽しんでいた。
「ふぁっ、あぁっ、ぅあっ、お前も、だいぶ、うまくなってきたな、んんっ、どうせ、いつも私のむねをいじる事を、かんがえているんだろ、すけべっ、」
すると少女はにやりと笑い、更に言葉を紡いだ。
「そんな変態は、こんなのよりも、こっちの方がいいんだろ?」
男の顔から胸を離し、屹立する男の肉棒に腰を下ろした。


「はぁあっ、ふぅっ、はっ、あっ」
金色の髪がランプに照らされてきらきらと輝き、ふくよかな胸は形を変えながら上下に規則正しく揺れている。
足をM字に開き、腰を動かす幼い少女の姿は煽情的で、単純に美しいと男は思った。
「呆けた顔して、ふふ、そんなにきもちいいのか?」
「は?ち、ちが」
「そんな事言いながら、ほら、腰が動いてるぞ」
気付かぬ内に動いていた腰を見て、もうだめかも分からんねと。そう男はため息をついた。
「……もうお婿に行けないわ」
「おむこ? 何だそれは。んぁっ、まぁ、お前のことだから、ふぁっ、やらしい言葉なのだろうが、んんっ、ぷちゅっ、にゅぅっ」
繋がりながら少女はまた口付けをしていく。顔をぺろぺろと嘗め回す姿は犬のようで、男はその位従順なら言う事はないんだけどなぁと少し思った。
「……」
じーっとこちらを睨む少女。
「今、何か、私に、しつれいなことを、かんがえただろ」
凄みを利かせたところで、彼女の整った顔は、なんら怖くない。男は何だかにやにやしてしまった。 それが悪かった。

「お前はほんとに、もうっ。こうしてやるっ、このっ、このっ」
「うわ、やめ、あいたっ、ぶっ、だっ、」
そして少女は先程よりも激しい勢いで腰を振り始めた。大きな胸が、たゆんたゆんと男の顔を叩いていく。
「あぁんっ、ふぁっ、ほら、どうだ農民? ああっ、気持ちいいか? はぁっ ふぅんっ」
少女の嬌声を聞きながら、男は限界が近い事を悟った。
おとこは すべての せいしを ときはなった! ぼうそうした せいしが ばくはつをおこす!
「え? だ、だめっ、ひゃあぁあ!!」
どくどくと脈を打つ肉棒の感覚に少女は絶頂に達し、そのまま男の胸に倒れ掛かった。
そして一言、
「はやい」
と呟いた。
その言葉に男の肉棒は再び勢いを取り戻す。
「これで終わりと思うなよ、謝ったってもう遅いからな!」
と叫んで、今度は逆に男が少女を押し倒した。


◇◇◇

「だ、だめぇっ、」
少女の声が響く。
夜は明け始め、もうすぐ朝になろうかという時間。男と少女はなおも交わり続けていた。
「もう、勘弁してください。……」
「まだ、やるんだから、全然満足してないんだから」

この日の朝とある街のとある家では、扉の外れた入り口の奥で股間を曝け出して放心して倒れている農民の若者の姿が見られたという。



やどかり、と呼ばれるその人ならざるものは、その名の由来である甲殻類の生物と同じように、いつの間にか民家に住み着き、いつの間にか去っていくのだという。
詳しくは分かっていないが、住み着いた家を自分の縄張りとし、その縄張りの中にあるものを自らの所有物として守る性質があるらしい。
満月の夜に発情状態になる事から人狼の亜種ではないかと疑う人もいる。
人に好意的なその姿は偽りで、いつかこちらに牙を向くと怯える人もいる。
かと思えば、そのハサミの如く奇妙な形をした手以外は人と変わらぬ様に見える為に、魔物と戦う為に人が進化適応していったのではないかと言う人もいる。
人や農作物を魔物から守るというその性質から、豊穣の神の使いだと崇める人もいる。

「ほら、あーん」
「……」
「どうせその手じゃ食べられないでしょ? ほい、あーん」
「いや、自分でくえる! わ、私を誰だと思ってる!」
「やどかり様です。ありがたや。はい、あーん」
「大体そんな事、一度もしてこなかったじゃないか。もしかして、怒ってるのか? いや、放っておいてすまなかった。このとおり」
「……別にそんな事ないですよ。何人の人に笑われようと、そんな事で怒らないですよ。僕は」
「まったく。……股間の物と同じで心も小さい奴だのう」
「ちょ! おまっ! さっさと食えよ!」


結局の所全ては憶測の域を出ず、何も分からずじまいである。


(かわらない毎日/了)