【幼なじみは蛇娘】

鉄道などは完全に死んでいたが、その周りにある商店街はどっこい生き残っていた。
その商店街を歩く一人の若者がいた。
彼の名はケンヂ。
この街で生まれ育ったが、八年前からある事を学ぶという理由で旅に出ていた。
「ここはいつも賑やかだな…」
商店街である。今も昔も賑やかなのは当然である。
ケンヂは天然系のボケであると思われる。
そんなボケが一体旅で得たものとは!?ま、まぁその内判るだろう。
ケンヂは帰郷の報告をするため、歩きだした。
ここから20キロは離れた、海沿いの我が家に向けて。
ぐぎゅるぅぅぅぅぅ~…
ケンヂは思い出してしまった。
彼此二日、水しか口にしていない!
(だりぃなぁ~、死んじまうんでねぇかなぁ~。)
くどいようだが、ケンヂは今商店街に居る。
周りで売られているのは海の幸山の幸、食べ物ばかりだ。
何故何も買おうとしないのか?理由は簡単、彼は無一文であった。
所々で働いて小金を稼ぎながら旅をしていたが、つい先日財布と共に働く際の必需品、身分証を紛失してしまったのだった。

今の世は、獣人だけでなく人も己の身分を証明するものを所持していないと働けない。
持たないものは、廃墟に潜む魔物や荒野を徘徊する鬼畜と同じ扱いを受ける。
人の社会には受け入れられない存在として。

ところがこのボケケンヂは、そんな命の次に大切なものを無くした。
このままでは金を稼ぐ事が出来ず、当然旅など出来たものではない。
身分証は地元で、肉親と共に申請に行かないと発行してくれない。
ぶっちゃけ旅にも飽きたし、ここらが潮時と踏んで帰ってきた、と言えなくもない。
情けない話である。
(帰って親の稼業、農業と漁業継ぐのが一番だわな。
あと余裕が出来たら畜産も始めてみるか。
鶏なら家の土地で出来るだろう。)
悠かなる故郷を思いながら、彼はそんなことを考えていた。


ここで思い出してほしい。彼は、“ある事”を学ぶため、旅に出た。そう、“畜産”である。
コウチでは大戦前から野菜や果物の栽培が盛んであった。
一方畜産は、小規模な農家が点在する程度だった。
遥か昔、ケンヂがまだ幼い頃、一度だけ肉を食す機会があった。
魚と野菜で育ってきた彼にとって、肉の味はとても素晴らしいものに感じられた。
しかし、それ以降肉に出くわすことはなく、肉を食べたいという欲求は募っていった。
ある時ケンヂは気付いた。野菜も魚も、自分達で作り、獲って食べている。
じゃあ肉も自分達で作り獲ればいいじゃん!素晴らしくいい考えに思えた。
が、彼の家の近くには畜産をやっている家はなく、コウチの外に出ないとまともに学ぶことは出来ないという現実があった。
そしてケンヂは旅に出た。畜産を学ぶという大義名分を抱えて。
あーよかった、旅の目的をちゃんと書き上げられた(笑)。

紆余曲折はあったが、ある程度の畜産の知識を身につけ、ケンヂは帰ってきたのだった。
およ?いきなりヘタリ込んでるよ?お~い、どしたの~?
ぐぎゅるるるぅぅぅぅぅ
…空腹で目を回していたのだった…

「あれ?ひょっとしてケンヂじゃない?どうしたの?何でこんなとこで寝てんの?」
透き通るような、それでいて人懐っこさを感じさせる声がした。
聞き覚えのある、そして懐かしい声で名を呼ばれたケンヂは意識を取り戻した。…気力で。
目を向けた先には、美しい蛇人族の女性がいた。
(確か彼女は…いや“こいつ”は!)
彼女はケンヂの幼なじみのコトノだった。
昔散々いじめられた記憶がよみがえる!
「懐かしぃ~久しぶり!どこ行ってたの?
てゆーか何でこんなとこでたれてんの?」
人懐っこい笑みを浮かべて質問攻めをするコトノ。
ケンヂは悪態を吐こうとしたが、
ぐぎゅるるるるぅぅぅぅぅ
ぎゅぐゅりゅるぅぅぅぅぅ
今までで一番の腹の虫が鳴り、ケンヂは何も言えず力尽きた。

GAME OVER.......?

気が付くと、小綺麗な、どこか懐かしい匂いのする部屋に寝ていた。
(どこだ?これが天国ってやつか?)
…ボケ全開である。
起き上がり部屋を見回すと、なぜか見覚えがあるような気がした。
しかし考えてもわからないので、とりあえず部屋から出てみた。
そこでケンヂが見たのは、カマド相手にてきぱきと料理を作る、コトノだった。
その様子をケンヂがぼーっと見ていると、顔を上げたコトノと目が合った。
「あ、良かった気が付いたんだ。
すごいお腹の音鳴らしたと思ったら気絶しちゃうんだもん、びっくりしちゃった。
待っててね、もうすぐご飯出来るから。
あ、表の川で水浴びしてきなよ。ちょっと臭いよ?」
「あ、ああ。分かった。」
一気にまくしたてられ、とりあえず従うことにして川に向かった。

一応断っておくが、風呂なんて文化は残っちゃいないのだ。水浴びが、立派な入浴なのである。

まだ春先なので水は冷たかったが、暖かい陽射しがそれを中和してくれるようで、以外と気持ち良かった。
「おーい、ご飯出来たよー!」
コトノが呼んでいる。
妙に違和感じみたものを感じたが、気にせず服を着て彼女の下に向かった。

彼女の作ってくれたご飯はとてつもなく美味で、ケンヂは二日分取り戻すかのように貪った。
食後、お礼を述べたときに気が付いた。違和感の元を。
彼女の家族がいない。一人である。
「そういや、おじさんおばさんは?見掛けないけど」
――で死んじゃった…なんて展開になったらどーすんだこのボケは。今更はっとしても遅いぞタコ!
だがそんな心配を余所に、明るくコトノは言う。
「あれ、忘れたの?
あたし達蛇人族は15で成人になって、独り立ちするのよ。
もう10年も一人暮らしよ。」
「あ、そうだったっけ…………!!!???」
ケンヂはほっとしたのも束の間、トンでもない状況であることを理解し、驚愕した。
《美人の幼なじみと二人っきり》
ある意味において、凄まじいシチュエーションである。
それと同時に、ある記憶が鮮明によみがえってくる。


そう、10年前に一度、ケンヂはここに来ていた。一人暮らしを始めたばかりのコトノを尋ねて。
二人ではしゃいだり、共同で料理を作ったりした。そのマズさも覚えている。
そして、問題の記憶に差し掛かる。
夕方、ケンヂはそろそろ帰ると言いだした。
するとコトノがそれを引き止めた。
『淋しい』
15になったばかりの娘が、準備をしていたとはいえ一人にされた。
人恋しくなるのは当然といえる。
彼女の見たこともない淋しそうな表情を見たケンヂは、その晩コトノの家に泊まることにした。
天性のボケで楽天的なケンヂは当時、ガキであった。
コトノのことは友達の一人としか思っておらず、女として意識すらしていなかった。
《一人暮らしの女の子の家に泊まる》というイベントが、男にとってどれだけ意味をもつものか、
その時のケンヂは知る由もなかった。
その夜、ぐっすり熟睡していたケンヂを寝苦しさが襲った。
重苦しい…しかも寝返りが打てない…
意識が覚醒するにつれ、妙な声と、股間に感じるぬるぬるした感触、
そして全身が締め付けられる痛みを感じ、ついに目を覚ました。
そこには見たこともない光景があった。
全裸のコトノが絡み付き、下半身である蛇の胴を己の体に巻き付けている。
15らしい小振りな胸をプルプルと震わせ、喘ぎ声を上げて腰を打ち付けてくる。
そのたびにチンポにむず痒い衝動が走り、何かが込み上げてくる。
そしてついに、射精したのだ。
それはただの射精ではなく、記念すべき一回目の、[精通]であった。
そのまま長い時間、訳も分からないまま何度も何度も犯されて、遂にケンヂは意識を失った。

翌朝起きると、コトノが泣いていた。
『ごめんなさい』と。
ケンヂは何も言わず帰宅し、その後二人が会うことはなかった。
ケンヂ、もうすぐ15という、春の事だった。

そして10年ぶりの再会。

トンでもない記憶がケンヂの頭の中を駆け巡っていた頃、コトノの方は疑問を多数構えていた。
もともと勝ち気な彼女だ、遠慮なく質問攻めにした。
「改めて、久しぶり。てか何であんなとこで気絶するはめになったの?
お金持ってなかったの?
それに随分臭かったけど…何したらあんなに臭くなれるのさ?
それに…10年間も音沙汰無しだったけど、それは友達としてヒドイんじゃなくて?」
ことばに詰まるケンヂ君。
旅のことを説明すりゃ九割は片がつくが、記憶の中の彼女とダブり気押されてなかなか喋りだせない。
「なんかいってよ~あたし一人喋ってるじゃんか」
「あ、うん。あ~その…」
何だか理不尽な愚痴をたたかれたが、喋りだすきっかけを与えられ、旅のことを説明した。
だが最後の質問、“なぜ10年間連絡無し”という質問には答え切れていない。
ケンヂが旅に出たのは八年前。
二年間、ケンヂはコウチにいたのにコトノと連絡を取らなかった。
そのことを説明するため、ケンヂは10年前の“あの事”について、尋ねる事にした。
「なあ、俺たちが会うのって、10年ぶりなんだよな。
俺がコトノん家に泊まったあの日以来だ。
その、“10年前の事”なんだけど、一つだけ教えてくれないか。
何で、あんな事をしたんだ?」
記憶の底に封印していた疑問を、10年来の疑問を、ぶつけた。
コトノの表情は曇り、沈黙した。

静寂が訪れる。

数分後、ポツリ、ポツリと、コトノは喋りだした。
「あの時のこと、覚えてたんだ。
怒ってる?あたし、ヒドイ事したよね。」
紡がれる謝罪のことば。ケンヂは黙ったままだ。
「眠っているケンヂを無理矢理…許して何て言えないけど、ホントに淋しかったし、それに…」
ケンヂは俯いたまま動かない。
…寝てんのか?いや起きてた。どうぞ続けて。
「それに、あたし、ケンヂの事、ずっとずっと、好きだったの。
あの晩、ケンヂが一緒にいてくれた事が嬉しくって、
ケンヂの寝顔見てたら自分が押さえられなくなって、それで…ごめんなさい。」
再び漂う沈黙の空気。

さあ次はケンヂのターン!ごめんなさい悪ふざけが過ぎましたもうしません。

何か納得したように、ケンヂが喋りだした。
「そっか、そうだったのか。
あの時は俺、本当に何も知らないガキだったんだ。
コトノが女の子だって事も意識しないくらいの。
だからあんなことされてびっくりして、コトノの事を避けるようになってしまったんだ。
その事は随分とコトノの事を傷付けたと思う。ごめん。」
一息に喋った後、ケンヂは深呼吸をして、再び喋りだす。
「俺、暫らく何度かあの場面を夢に見たんだ。
そのたびに、何でコトノはあんな事をしたんだろう、何の目的でって。
馬鹿な話だよな。
ちょっと知識があれば、好き人同士の営みだって理解出来るのに。
無知、鈍感は罪だなぁ~。」
そう言ってケンヂはおどけてみせた。

「フフッ、バカ」
コトノは泣き顔でクスリと笑うと、こう切り出した。
「ねぇ、一つ聞いていい?
今のケンヂはあたしのことどう思ってるの?」
その質問が出た途端、ケンヂは石化したように動かなくなった。
実は、あの日の記憶は旅をする中薄れていったが、
ケンヂの中にあったコトノへの想いというものは、日増しに大きくなっていたのだ。
大事な事を忘れ、想いだけが募っていたために、ケンヂ本人は自分の感情に疑問を抱いていた。
しかしこの日、自分の気持ちの理由が判明し、相手の想いを知った。
そのことはケンヂの想いを何倍にも、何十倍にも膨らませ、暴発寸前まで追いやった。
だがケンヂは、筋金入りの、いや鉄筋入りの奥手であった。
顔はおろか首まで真っ赤になり、汗を掻いて黙っている。
幸いコトノは俯いており、ケンヂの恥ずかしいトマト顔は見られていなかった。
そのため、表情から悟ってもらうことが叶わず、意志疎通が無いまま二人とも完全に固まってしまった。
沈黙が支配したことをきっかけに最悪の返答を連想してしまったコトノの顔は、若干青白くなっていた。
「ぁ~ぅ~その、つまり、………だよ。」
やっと、う~う~唸りながらぼそぼそとだが、告げた。当然伝わるわけはない。
「…ぇ?」
顔を上げて聞き返す。涙を溜めた目が真っ赤である。
その顔を見たケンヂははっとし、腹を据えた。
この想いを彼女にしっかり伝えないと。大好きな彼女が、傷付き泣く姿を見たくないから。
コトノを抱き締めながら、己の気持ちを吐き出した。
「俺はコトノのことが好きだ、大好きだ!もうお前を悲しませたくない、ずっと一緒にいよう。俺と一緒に幸せになろう。」
一方コトノの方は茫然としていた。
悪い結末がビジョンを支配していたためか、完全に思考が止まってしまった。ネガティブな娘だなぁ。
「コトノ?」
相手が黙ったままだと、不安になる。ケンヂはコトノに顔を会わせた。
「もういっかいいって」
抑揚のない、擦れた声で言う。
「え?」
聞き返すケンヂに、コトノははっきりと言った。
「もう一回言って!」
「…好きだ。コトノが大好きだ。愛してる。」
再び抱き締めながら、はっきりと言う。
「もう一回!」
コトノもケンジに抱きつき、彼の想いを再確認する。
「愛してる!お前を幸せにしてやる!」
さらにコトノをを強く抱き締め、叫ぶように言う。
「もっどー!!」
彼に巻き付き、涙を流しながらことばをねだる。
「好きだー!愛してるぞー!!」
彼女に言い聞かせるように、叫びだす。
「ゔえ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ん゙!!!」
感極まって号泣しだしたコトノ。
「大、好きだーーーー!!!」
歯止めがきかなくなり愛のおたけびをあげるケンヂ。
想いの通じ合った二人は、長い時間抱き合っていた。
その間、歓喜の涙を流す女と、絞めあげられて脂汗を流す男がいた。


その夜、二人は10年ぶりに体を合わせた。

その時になってケンヂはちょっとだけ後悔の念を抱いた。
コトノは蛇人族である。
当然腰から下は蛇であり、好きな人にはたまらない姿をしている。
が、大蛇というべき巨大さを誇る。
つまり、重いのだ。恐らく、ケンヂの三倍くらいの体重があるものと思われる。
お姫さま抱っこなんかしたら腰が死ぬ。
その上、蛇人族の女性は、皆Hなのだ。
10年前のあの日のように、失神するまで求められたりすることは日常茶飯事だ。

翌朝、これから大変かもしれないという将来に対する不安と、
愛する人と一緒になれたという最高の幸せを感じながら、
コトノのとぐろの中で目覚めたケンヂなのであった。

HAPPY END......?

ってちょっと待ったケンヂ君、君身分証は!?実家に帰らなきゃいけないんじゃないの!?
その事に気付き、慌てて実家に向かったのはさらに翌日のことでしたとさ。
ボケっぱなしだなぁ~。

おしまい!