1914年12月3日におけるヨークシャー沖での戦闘について。
報告者:駆逐艦『サーカス』艦長 ウィリアム=リード少佐
追記報告者:戦艦『オーガスト』艦長 ジョシュア=エズモンド准将

この日、ポーツマス軍港からスカパフロー軍港へかけて航行していた巡洋戦艦『ドーセット』を始めとする艦隊が、英国本土砲撃のために同海域に侵入していた
巡洋戦艦『フォン・デア・タン』をはじめとするドイツ帝国艦隊に遭遇。『ドーセット』は奮戦するも、ドイツ艦隊によって撃沈される。
なお『ドーセット』乗員997名は同伴していた駆逐艦『サーカス』『リーフ』によって救助される。その内訳は、無事な者が382名、重軽傷者535名、行方不明者22名、
死者58名となっている。
(追記・死者58名のうち2名がドイツ軍捕虜となっており、終戦までドイツ国内に抑留されていた)
これに対し、ドイツ艦隊の被害は装甲巡洋艦1隻と『フォン・デア・タン』の中破のみに留められている。
ちなみに、『ドーセット』沈没原因の一つには、巡洋戦艦の装甲の脆弱さが上げられている。

なお、ドイツに抑留されていた乗員のその後については別記する。
(1914年12月7日の英国海軍省提出用資料より抜粋・加筆部分のみ1920年8月1日)

1914年12月3日午後0時。英国海軍(ロイアルネイビー)の巡洋戦艦『ドーセット』は北海の鉛色の空の下を、二隻の駆逐艦を従えて
スカパフロー港へと向かっていた。
「ロイ。おいロイ」
10cm砲が等間隔でいくつも並べられた『ドーセット』の副砲甲板で、自分を呼ぶ声に僕は10cm砲の照準から目を離して振り向く。
声の主は、自分の先輩に当たる水兵だった。
「ロイ、交代の時間だ」
「ああ、そうでしたか」
僕は10㎝砲のそばから体をどかすと、入れ替わりにその水兵が座る。
「どうだ?ジャガイモ野郎の艦は見えたか?」
「見えないですね。というか見えたら化け物ですよ?」
「ははッ、そういえばそうだよな」
今、ドイツ帝国の誇る大海艦隊は100キロ以上も先にある港に引きこもっているのだ。巨大な望遠鏡でも使わない限り、そんなものを見るのは不可能だ。
「お前も疲れてるだろ、下行って休んでこい」
「はい」
その忠告に即答すると、僕は副砲甲板から鉄製の簡素な階段を下りきり、そのまま2段ベッドの置かれた居住区へと向かった。
『ドーセット』艦内の暮らしは三交代制であり、A班が勤務している時にB班が自由時間、C班が仮眠を取っている。といったものだ。
ちなみに僕はこの場合のC班なので、これから16時間以内はゆっくり寝れると思いながら廊下を歩いていると―――
「ロイくんみーっけ!」
「うわっ!」
いきなりの不意打ちを食らって僕は思いっきり鉄製の床に倒れてしまった。

「あつつつ……」
しばらくして目を覚ますと、僕はまず腹部に柔らかい妙な感触を覚える。先ほどの声と重ね合わせてそのまま上体を起き上がらせると、やはりそこには予想通りの顔があった。
「あ、ロイくん起きた?」
白いふわふわの髪、同じくらい白い肌の幼い顔、人間の物とは違う垂れた耳と、その横にちょこんと生えた角。
「あのなあ……ステフ、お前から襲っといて何を言うか」
「これから本格的に襲うんつもりだったんだから、ちょっと予定が早くなっただけですよーだ♪」
ステフは配給品の水兵シャツの胸元に実る少し小ぶりなモノを見せつけながら、そのまま僕に抱き付いてきた。
「襲うって……」少し考えて、僕は顔を真っ赤に染めながら激しく左右に振った。
「まだ昼前だろ! それに俺はこれから仮眠だ!」
「それはそっちの勝手でしょ、私は関係ないもん」
「俺だってつかれてるんだよ!」
僕の対応にステフはしばらく不機嫌そうな顔をしていたが、やがてにんまりと笑って
「じゃ、キスで許してあげる」
と言い出した。
「許して……って、お前が決める事じゃないだろ」
「いーからいーから。んっ!」
途端、僕はステフに完全に押し倒され、ちゅっ、と言う音と共にステフの唇と僕の唇が合わさった。
「んんっ、んっ……」
それだけで済む。と思ったがそれは甘い考えであって、そのままステフは唇を割って僕の口の中に舌を入れ、そのまま舌を絡め合わせようとする。
流石にやりすぎだ!と引き離そうと思ったが、ステフが僕の上に乗っているうえに、強い力で僕を押さえつけているため、そのような抵抗は不可能だった。
「んっ、んあっ、んん……」
僕の口の中もステフの舌に完全に浸食され、彼女の顔もだんだん上気づいてきている。
「んっ!ぷぁっ!」再びちゅっ、と言う音と共にやっとステフは唇を離し、唾液で出来た橋が僕と彼女の口を淫靡につないでいた。
「続き、してほしい?」
とろんとした目のまま、ステフはそう言った。
「とりあえず今はやめておく」
「でもココはそう言ってないよ?」
とステフは僕の正直すぎる下半身を指差す。
「それとこれとは別だ!」
そう言って僕は立ち上がると早歩きで居住区へと向かった。

我がロイアルネイビーの慣習の一つに、乗組員の性処理のために山羊を軍艦に乗せるという物がある。
先ほどのステファニー―――略してステフ―――もその1頭で、『ドーセット』に乗っている4頭の山羊のうちでは最も若い。
だがステフは他の3頭とは比べ物にならないほど甘えたがりで一途な性格で、常に誰か『特別な人』と一緒にいたいと言う性質を持っているのだ。
それでその矛先が向けられたのは他でも無いこの僕、スカーロイ=バークス上等水兵―――略してロイ―――だ。
僕が『ドーセット』に乗艦し、最初にステフを抱かせてもらった時以来、彼女は急速に僕の事を慕いだし、勤務時以外はずっと僕にべったりで、しきりにキスやHをせがんでくる―――
傍から見ればうらやましいだろうが、実際にやっている僕は流石に疲れが溜まって来る。
まあ、これも彼女流の甘えかたや愛情表現なのだろう。僕はそう思っている。

同時刻、巡洋戦艦『ドーセット』艦長室
「ドイツ野郎だって?」
初老で中途半端に垂れた犬耳の『ドーセット』艦長、ジョシュア=エズモンド大佐は兵の持ち込んできた報告に目を丸くした。
「はい。先ほど『サーカス』の見張り員がドイツの巡洋戦艦らしき艦影を複数見た、とのことです。」
「見まちがい、では無くてか?」
「はい。『サーカス』も確認を取りましたが、ドイツ巡洋戦艦で間違いないとのことです」
ジョシュアも最初は友軍艦の見間違えだろう。と思ったが、ロイアルネイビーの巡洋戦艦とドイツの巡洋戦艦は遠目に見ても艦影が全く異なるので、それはまず無いと否定した。
それに、先日ドイツの巡洋戦艦がヤーマスに砲撃した事例があったのをジョシュアは思い出していた。
「ふむ、てっきり俺はウィルヘルムスハーフェン辺りに引きこもってると思ったのだがな」
そう言うとジョシュアは斜めにかぶっていた制帽を正した。
「本国のビーティ提督にこの事を伝えろ。あと『ドーセット』と周りの2隻には警戒態勢をしいておくよう言っておいてくれ」
「はっ!」
兵が艦長室を後にしたのを見届けると、ジョシュアは苦い顔をしながら呟いた。
「はてさて、報告が本当だとするとややこしい事になってきたな……」

2月3日 午後2時
「ぴったりくっついてるな……」
「はい……」
先刻の報告から2時間、ジョシュアは『ドーセット』の艦橋に立ち、双眼鏡で遠くに航行するドイツ艦隊を眺めていた。
「あれは簡単には離れないぞ」
目視しただけでも『フォン・デア・タン』と『ザイドリッツ』の2隻の巡洋戦艦に旧式な装甲巡洋艦が1隻、それに駆逐艦が数隻。
それらドイツの誇る猟犬達が目の前を通る無防備な『ドーセット』と言う兎を狙っているのだ。
「ビーティ艦隊は?」
「到着にはまだ時間がかかるらしいです」
ふむ。とジョシュアは相槌を打った。いくら快速の巡洋戦艦艦隊とは言え、すぐにここまでやってこれるほどの速力は持ち合わせていない。
「砲戦に移りますか?」
「いや、このまま全速で逃げ切る」
双眼鏡越しのドイツ艦隊はこちらに主砲を向けている。が、彼はこう判断した。
「こっちの艦隊の速力ならドイツ艦からは十分逃げ切れる。それにドーセットの防護力じゃ砲戦に持ち込んでも不利なだけだしな」
ジョシュアの判断も一里あった。
『ライオン』級巡洋戦艦4番艦『ドーセット』のカタログ上の最高速力は27ノット(約50km/h)。
だがあくまでもこれはカタログ上のスペックであり、『ドーセット』はボイラーがそれまでの3隻から大幅に改良されているからか、
試験航海中の全力航行では29ノット(約54km/h)を記録している。
それに随伴の駆逐艦も(カタログに誇張が無ければ)これに付いていけるだけの速力を持っているはずだ。
対してドイツ艦隊は新型の『ザイドリッツ』がカタログ上で26.5ノット(約48km/h)と『ドーセット』とほぼ似たような性能であるものの、旧式な『フォン・デア・タン』は全力航行の状態で
やっと27.4ノット(約50km/h)しか出せない。
さらに全力でも27ノット出せるはずがない旧式な装甲巡洋艦がいる以上、簡単に振り切る事ができるだろう。
「ただし……」
垂れた犬耳がわずかに跳ね、ジョシュアの人懐こい顔はほのかに険しくなる。
「防戦の準備だけはしておけ。何があるかわからんからな」


「で、ロイの事の相談に来たわけ?」
ステフは『ドーセット』で4つ年上の山羊・リンダに向かって首を縦に振る。
『ドーセット』の余った士官室を無理矢理改造した山羊達のための部屋―――通称『娼館室』に充満する香の臭いがほのかに鼻腔をくすぐる。
エズモンド艦長が通じてわざわざインドだかビルマだかから取り寄せた品と言うが、効能がいまいちが不明な一品である。
そんなよくわからない香の臭いがよく似合う、すらっとした肢体に魅力的なボディライン―――ステフとは明らかに正反対の体つきの美女である
「だって、わたしロイくんの事が好きなのに……いっぱい尽くしてあげたいのに……でも何したらいいのかわからなくて……いっぱいHしたらロイくん疲れちゃうだろうし……」
そこまで言うとステフはしゅんとなる。先ほどの事だって誘ってたんじゃない。して上げたかっただけで、ただ口実が作りたかっただけ。
ロイと一緒にいたかっただけ。
「このままじゃ……嫌われちゃうかなぁ」
ほとんど泣きそうなステフの顔を見て、リンダはため息をつく。
リンダが海軍に入ってから4年、恋の病にかかった後輩達に幾度となくこの手の相談を持ち込まれ、そのたびに彼女達を元気付けてたが、今回は症状がとても重いようだ。
「そうですよね。だいたい私なんかリンダさんたちに比べて全然ちっちゃいし、そのくせ海軍付きのHなだけの山羊だし、ロイくんも嫌いになっちゃうよね……」
涙を浮かべながら、ステフは嗚咽を漏らす。もうこうなれば気分は落ちっぱなしだ。そう思うとリンダは咳を払って、叫んだ。
「ステフ!」
その声にステフはびくっ、と下を向いて顔を驚いて上げる。その様子を見ると、リンダはそのままステフに優しく声を掛けた。
「私は、あんたがロイに尽くしてあげたいって思ってれうのはロイだってわかってると思うわ。」
その言葉がステフの心を癒せるかどうかはわからなかったが、リンダはさらに続ける。
「それに、海軍付きの山羊だからってロイに嫌われるわけないじゃないの。海軍付きの山羊は艦に乗ってる男達の、艦の上の奥さんなんだから」
一通り言い終わると、リンダはステフに訊いてみた。
「ねえステフ、私の父さんがだれだかわかる?」
「全然わかりませんよ。私がわかるわけないじゃないですか……」
リンダは垂れぎみの耳を押さえながら微笑む。
「今この艦に乗ってるんだよ。父さん」
「……本当ですか?」
「本当。ステフも絶対に知ってる人」
この艦に乗っていて、ステフが絶対に知ってる人物と言えば限られてくる。その中でリンダの父親に該当しそうな人物。
ステフはしばらく考え込んでいたが、やがてリンダの垂れた耳を見て、はっとした。
「もしかして、エズモンド艦長……?」
「正解♪」
確かにエズモンド艦長とリンダは顔立ちがよく似ているし、垂れた耳もそっくりだ。
実際2人をよく知った人間ならすぐにわかるだろうが、ステフとエズモンド艦長は公的な場合を除いて滅多に会う事など無いから気づくわけが無かった。
まあ、エズモンド艦長に犬系の血が入っている事が付きまとっていたせいもあるだろうが。
「でも……なんで艦長が……?」
「それがね、父さんがね新米少尉だった頃に母さんずっと父さんの事が好きだったみたいなんだけど、全然その事が言えなくて、
でもある日、母さんが発情しちゃって父さんを押し倒して、その時にどさくさにまぎれて告白したんだって」
「それでどうなったんですか?」先ほどの泣き顔はどこへやら、ステフは真剣にリンダの話を聞き入っていた。
「もちろんそのあと母さんは謝りに言ったんだけど、なんか父さんも母さんの事が好きになってたみたい。で、そのまま二人とも発情しちゃって、その時にデキたのが私ってわけ」
「…………」ステフはその話に開いた口が塞がらなかった。
「だからステフ。私の母さんだって父さんを落とせたんだから、あんたならロイなんて簡単に落とせるはずよ」
その言葉に、ステフは自身がついたようだった。
「……はい。もっと頑張ってみます」
『ドーセット』の娼館室に再び静寂が戻り、ステフが立ち上がろうとした瞬間―――
ちょうどその瞬間、伝声管から怒鳴り声が吼えた
『『ドーセット』全乗組員に告ぐ! ただいま本艦は航行中のドイツ艦隊に捕捉されている! 各員戦闘配備につけ! これは演習ではない!
繰り返す! 『ドーセット』全乗組員に告ぐ! ただいま本艦は航行中のドイツ艦隊に捕捉されている! 各員戦闘配備につけ! これは演習ではない!』


「いったいどうなってんだよ!」伝声管の怒鳴り声でベッドから叩き起こされたばかりの眠い目をこすりながら、僕は副砲甲板へと出るべく廊下を走っていた。
ドイツ艦隊は100㎞も先の港に引きこもっているんじゃなかったのか?じゃあなんで英国の領海にドイツ艦隊がいるんだ?そんな事を考えながら階段を駆け上がり、副砲甲板へと上がる。
「遅いぞロイ!」
「さっきのさっきまで寝てて、急に起こされたんですよ! 当たり前でしょ!」
戦闘となれば三交代制もくそも無く、皆等しく起こされることになる。僕は10㎝砲のそばへ寄った。
「敵艦は?」
「巡洋戦艦が『フォン・デア・タン』と『ザイドリッツ』。あと旧式な装甲巡洋艦1、駆逐艦3だそうだ。逃げ戦みたいだから少しは楽できそうだがな」
「安心はできませんけどね」ロイは大きく息をついた。
今思えば、この時僕は起きてから初めて落ち着いたのだと思う。

『ドーセット』が全力航行を始めてから数分は経っている。
ドイツ艦隊を引き離すために、こちらの艦隊は全艦揃ってブルーリボン賞を狙う定期客船さながら、狂ったようにボイラーを焚き、異常とも言えるほどに蒸気タービンを回していた。

さらに時たま、ガァン!と言う音と共に艦内が大きく揺れる。
冬の北海の荒波にカタログスペックを越えた速力でぶつかっているのだ。艦が揺れるのは仕方の無い事だろう。
主砲がドイツ艦隊を撃っているようだが、ただでさえロイアルネイビーの砲撃は正確とはいい難い上にこれほどに艦が揺れているのだから当然当たるわけも無く、
所詮は間合いを確保している程度だった。
「まだ振り切れないんでしょうか……」
「いや、たぶん『フォン・デア・タン』は振り切ってるはずだろうが……問題は『ザイドリッツ』のほうだろうな」
先輩の水兵は銃眼の先をずっと覗いている。
「ありゃ引き離すには一苦労だ……駆逐艦がついてこれるか心配になってきたな」
「たぶん大丈夫でしょ?」
その時だった。
「あれ?」
突然、僕は急に耳がすっとする感触に襲われた。
「どうした?」
先輩の水兵は銃眼を覗いたまま訊く。
「さっきより静かになってません?」
「さあ?お前の思い違いだろう?」
「そう……ですか?」
だが僕は異常なほどにうるさい艦内がどこか静かになったように思えた。
実はこの時、全力航行が機関を傷めたのだろうか、元々どこかの部品がおかしかったのだろうか、
『ドーセット』の蒸気タービンの1機が急に壊れ、停止したのだ。
もちろん、蒸気タービンが一基欠ければ減速するのは道理。
そして、速力が落ちれば『ザイドリッツ』に捕捉されるのもまた道理。
そして、船はすぐには停まれないがスピードが落ちるのは意外に早い。
しばらく経てば『ザイドリッツ』の主砲群は、完全に『ドーセット』を捕らえていた。
そして『ザイドリッツ』の10の砲門から射られた矢は震えるような轟音と砲煙を残して、『ドーセット』へと飛び去り、そのまま水平に突き刺さった。
その瞬間、『ドーセット』の艦内中に跳ね上がるような巨大な衝撃と、鼓膜をつき破らんほどの轟音が走る。
そして、この衝撃に僕の体は大きく宙を舞い、そのまま床に叩きつけられて、僕は気を失ってしまった。

装甲の薄さと脆弱さこそ、イギリス巡洋戦艦最大の弱点。
それまでの巡洋戦艦より厚いとは言え、ドイツ巡洋戦艦の6割程度の防御力しか持ち合わせていない『ドーセット』の装甲では、
たとえ破壊力に劣る『ザイドリッツ』の28cm砲でも防げるわけが無く、砲弾は艦体を深くえぐっていた。
幸運だったことは『ドーセット』の従来の巡洋戦艦より少しだけ厚い装甲が28cm砲弾の威力を殺したために轟沈が免れたくらいで、
艦体にぽっかりと開いた穴はこの艦の水密区画が補えるの許容範囲を越えている。
つまり艦が沈む速度が多少遅くなっただけであって、けっきょくこの艦は沈むのだ。

「ん……」濃い潮の臭いに鼻をつかれてか、僕はゆっくりと目を覚ました。
そのまま体の痛みを我慢しながら上体を起こすと、辺りを見回す。
「あれ?みんなは?」そう思って立ち上がろうとする。が、右脚に力が入らず、立ち上がれない。平衡感覚も変だ。
見ると、脚は異常な方向へ曲がっていた。それに床も傾いてる。
それから少したって、状況が少しづつ読めてきた僕は潮の香りや起きたときから感じていた違和感の正体に気づいた。
この『ドーセット』は沈みつつあるのだ。
恐らく僕が吹き飛ばされたあの衝撃――――アレはきっと『ドーセット』が砲撃された時の物だろう。
おそらくそのまま艦内の人間は全員逃げて、僕だけが逃げ遅れたのだろう。
「ここまであっさり沈むなんて……」
そう呟くと、とりあえずここから脱出しよう。と僕はわずかに傾斜した甲板を這いつくばって外に出ようとする。
が、徐々に激しくなる傾斜に僕の腕は耐え切れず、体はずり落ちてゆくのだった。
「くそっ!」悪態をつきながら、副砲やその辺に転がったものを支えに進もうとする。が、あの衝撃で奥のほうへ飛ばされてしまったのだ。どう考えても外へ出る扉には届かない。
「なんでこんな時に足がっ!」
適当な副砲にもたれかかると、僕は叫んだ。
その叫びはだれもいない副砲甲板へと響き渡った。
「畜生!畜生!畜生!」
何度も何度も叫びながら僕は床を殴り続けた。
「嫌だ!まだ死にたくない!死にたくない!死にたくない!」
その叫びはやがて悪態から悲痛な声へと変わっていた。
だが、それが不幸中の幸いだったのだろうか、誰もいなくなったと思われた艦内に動く小さな影が、僕の下へと駆け寄ってきたのだ。
「ロイくんっ!」
潮で張り付いた白いふわふわの髪が僕の視界に入った
「ステフ……何でここに?」
僕は影―――ステフが何故ここにいるのかがわからなかった。みんなと一緒に逃げたものだと思っていたのに。
だがステフは僕の表情を、潤んだ目で僕を強く見つめていた。
「何でって……だってロイくんがどこにもいなかったからだよ!他の人はみんな来てるのに!だから心配になってロイくんのことずっと探してたんだから!」
「…………何でそこまでして…………」
「だってロイくんのこと好きなんだもん!大好きだから!ロイくんと結婚して、いっぱいHして、毎日発情してたいの!だからぁっ!」
ステフは火が付いたように内に秘めていた言葉が出てきた。彼女自身、何を言ってるのかもわからなさそうで、僕も先ほどまで泣き言叫んでいたのもどこかへ吹き飛んだように、
その告白に正直頬が赤くなっていた。

なぜかその後の記憶はよく覚えてはいない。
だがとりあえず、僕はステフに引きずられながらも(山羊の足の力は半端ではない。と言うのは本当だったらしい)副砲甲板から脱出し、露天甲板へと出た。
ステフが言うにはロイアルネイビーの駆逐艦が生存者を救助しているらしかったのだが、どうやら生存者を全て回収したのかと思い込んだようで、さっさと逃げていったあとだった。
代わりにそこにいたのは、先ほど『ドーセット』を沈めたドイツ艦隊であった。
そして僕達はドイツ艦『フォン・デア・タン』に助けられ、そのまま捕虜として艦内の営倉(牢のこと)へと2人一緒に閉じ込められた。
それから数分もせず、僕とステフは疲れ果てて2人同時にベッドに倒れこんだのである。


ゅっ
「ん?」
急に謎の刺激が下半身を走り、僕は眠い目をこする。
まず薄暗い『フォン・デア・タン』の営倉の中でちゅぶ、ちゅっ、という水音が響き渡っている。
次にそのまま状態を興して下半身の方を見ると、制服のズボンとパンツが消えており、モノが存在するはずの部分にふわふわの髪がある。
そして、モノの辺りからなんとも言えない快感が走ってくる。
以上から、現在の状況を僕はすぐに掴み取った。
「あ、おはよー」
「おはよー、じゃない。何してんだ?」
僕がそう言うと、ステフはくわえていた僕のモノを口から離す。
「ぷぁ……ロイくん襲ってるの」
「何で?」
「だって、わたしロイくんのお嫁さんになりたいんだもん」
ステフの頬は十分に赤く染まり、目もこれ異常ないと言うほどに潤んでいた。
僕は危機感を覚えて退こうとするものの、ステフはがっちり僕の事を押さえていた。
「だからロイくんといつもみたいなオママゴトじゃ無くて……ほんとのHしたいの……いいよね」
僕は首を縦に振った。
もし「いいえ」と言った所でステフがやめるわけが無いし、それに僕はどこか、ステフと一緒になるのもいいかもしれない。と思ったからだ。
「やったぁ!」ステフは僕の答えに歓喜の声を上げると、再び僕のモノを掴み、ほおばり始めた。
「あむ……んっ……ふっ……」
山羊特有のざらざらした舌の感触が亀頭を包み込んだかと思うと、いきなり口を離して竿その物を舐めたり、
袋を弄んだりと、快感が単調にならないようにしている。
「くぁっ……」
僕はそれほど快感に免疫がある訳ではなく、否が応でも彼女のテクに感じて、喘いでしまう。
「ロイくん女の子みたぁい……気持ちいんだね……あふ……」
そんな僕を見て、ステフはさらに攻める手を激しくする。
「ふぁっ……おっきくなってる…………もう出そう?」
「ぁっ……」僕は首を縦に振る。
「手伝ったげる……」そう言うと、ステフは亀頭をくわえ込み、思い切り吸い上げた。
もちろん、これに僕が耐えられるわけがなく、そのまま僕はステフの口に精液を注ぎ込んでしまう。
「んんっ!んぁっ!……んくんくんく」
最初こそいきなり口内へと発射されたそれに驚いたが、すぐにステフは喉を鳴らして僕の精液を飲み始めた。
「ぷぁっ!ロイくんの精液、おいしかったよ……」口の端から精液を滴らせ、とろんとした目でステフは僕のモノを見つめた。「次はこっちに頂戴ね……」
そう言って、彼女は失禁でもしたかのようにびしゃびしゃになった秘所を僕に見せつけた。
「ずいぶん濡れてないか?」
「えへへ、ロイくんの飲んだだけでもう大洪水だよ……」
ステフはそのまま僕の萎えたモノを掴み、上下にしごき始める。射精した後で敏感になっていたモノに触れられ、僕は女の子のように喘ぎながらふるふると震えた。
やがて、僕のモノが十分な硬度を保つとステフは僕の上に跨り、照準をモノに定め始める。
「あ、そういえばサック……」
ロイアルネイビーでは船員や山羊たちに無駄な負担を掛けないために、彼女たちと交わる時は絶対にサックをつけなくてはいけなかった。
「ほんとのHがしたいって、いったでしょ。そんなものは、必要ない、のっ!」
ステフは一気に腰を落とし、僕のモノは初めて何も付けないまま、ステフの体内へと沈んでいった。

「あぁっ!」
「ふぁんっ!」
モノがステフの一番奥へ当たった瞬間に、どっちが女の子なのか……と思うような、喘ぎ声のハーモニーが『フォン・デア・タン』の営倉内に響き渡った。
「すごい……ロイくんの……熱いよぉ……」
戸惑う事なくステフは跳ねるように腰を降り始めた。
「うぅ……ステフ……」
ステフの中は温かく、しとどに溢れた愛液で包まれており、うねうねと僕のモノを求めて動くその感覚に僕は嬌声を上げずにはいられなかった。
とてもサックなどつけていたら味わえない快感だ。
「ロイくん……あっ、もうイっちゃいそうな、ふぁ、顔してる、あん……可愛い、んあっ……」
犬のように舌を出しながら喘ぎ、ふわふわの髪を振り乱して一心不乱に腰を振り続けるステフにだけは言われたくなかった。
「ステフも……人の事言えないよ、あぅ……すっごいいやらしくて、可愛い……くぅ……」
「嬉しいよぉ……ふぁっ、あっ、ああんっ」ステフはぶんぶんと首を振り、一段と大きな嬌声を上げた「いやぁっ!変になっちゃうっ!気持ちよすぎて、死んじゃいそうだよぉっ!」
途端、ステフの膣がヒクつき始め、ときたまぎゅぅっと握り締めるように僕のモノを締め上げる。
「あっ……僕も、もう駄目……」
「やぁっ!んああっ!ふぁっ!ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
絶頂に達したステフは僕のモノを握りつぶすようかのに締め付け、それが引鉄となって僕もステフの膣内へと白濁を吐き出した。
「ふぁ……ロイくんの……あったかくて……きもちいい……」
ステフはそう言って、絶頂の余韻に身を任せたまま倒れこんだ。

「そういえばさ……」
翌日、おそらくジョシュアが呼んだビーティ艦隊に捕捉されたのだろう、ドイツへと引き返しつつある『フォン・デア・タン』の営倉内でステフは食事のライ麦パンを頬張りながら言う。
「何?」
僕もライ麦パンをちぎっては口の中に放り込みながら彼女に訊く。
「昨日って、わたし危険日だったんだよね」
僕はライ麦パンを盛大に吹き出した。
「ってことでよろしくね、『お父さん』♪」

例えこの大戦が終わったとしても、僕の戦いに終わりはこないだろう……


追記
『ドーセット』乗組員で捕虜となっていたスカーロイ=バークス海曹(死亡誤認により二階級特進)と海軍付き山羊のステファニー=バークスについて。

二人はそのままドイツ軍の捕虜収容所へ送られ、そこでステファニーは二児を出産している。
そして終戦後すぐにドイツの教会で結婚し、英国へ帰国。このときスカーロイ・ステファニー共に軍の死亡誤認によって軍籍を抹消されていたのを機に
海軍を退役している。
現在スカーロイはキュナード商船に勤務し、ステファニーと四人の子供を養っている。
(追記者:『オリンピック』号二等機関士 スカーロイ=バークス)

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最終更新:2007年03月20日 15:26