昔々、あるところに2匹の雌の竜が居ました。
彼等は竜の棲まう『竜種の楽園』で永い永い時を過ごしていました。
数千年の時を経て、エルダードラゴンとなった彼女達は魔法ですら自在に操り、人間の軍隊など片手間で滅ぼせる程になっていたのです。

そんなある日、一人の竜騎士候補が楽園にやって来ました。
実は、人間が楽園にやって来るのはそれ程珍しくありません。
竜騎士のように、相棒を求めてくるもの。竜の脱皮した際に出る鱗や老廃物を得ようとする錬金術師や商人。
竜達は人間よりも気が長く寛容だったので、特別咎めたりしません。
尤も、良からぬ事を企んだりする輩は例外なくブレスや巨大な牙にかかり命を落としていましたが。

さてその日、2匹のウチの片割れの背中にいきなり竜騎士が降って来ました。
どうやら崖の上から転落したらしく、あちこち骨折したり酷い打撲を受けていたりしていました。
友人が長老達に呼び出されて暇を持て余していた彼女は、気紛れで竜騎士に回復呪文をかけて助けたのです。

「あれ、何で俺は助かったんだ?」

目が覚め、不思議がる若い竜騎士を見てドラゴンは悪戯心を擽られました。
そして敢えて普通のレッサードラゴン……言葉も喋れない知能の低い若いドラゴンの振りをし、とぼける事にしたのです。

「まぁ、助かったんだしいいか。お前、俺の相棒にならないか?」

妙にポジティブな竜騎士は、いきなり彼女に相棒になれと言い出しました。
普通なら身の程知らずと一喝され、ブレスの一撃でも浴びて灰にされてもおかしくはありません。
しかし、暇潰しの筈だった悪戯心が強くなったエルダードラゴンは。

「お、ラッキー。竜の楽園に入って一日で竜を従えるだなんて……俺ってやっぱ天才?」

靡かせる儀式やら何やをすっ飛ばしてあっさり若くてちょっとお馬鹿な竜騎士の相棒になってしまいました。
そして、意気揚々と彼女の背中に跨った竜騎士に操られ、『竜種の楽園』から去って行ったのです。

用事を終えて戻って来たもう一匹は、ねぐらに親友が居ないのに気付きました。

「また、どこか遊びにでも行ったか?」

何だか人間の匂いがしましたが、その時は気になりませんでした。
ですが、彼女が居なくなって一週間が経ち、一ヶ月が過ぎた頃になると、どうにも不安になりました。

「あいつめ、何処に行ったんだ?」

彼女は楽園の隅々まで探しましたが、親友の姿は見えません。
周囲の山脈、国々を探しましたが、やっぱり見あたりません。
本気で焦った彼女は、長老達に暇乞いを一方的に言い渡し、楽園から外に出る事にしたのです。


そして、数年後。
幾多の海を渡り、幾つもの大陸を探し回った後。
彼女は、ようやく親友を居場所を突き止めました。

「ここか……確かに、あいつの匂いと気配を感じる」

呪文により、人間の姿に変じた彼女は足首まで届く長い黒髪を掻き揚げながら呟きました。
目の前にあるのは、大きな竜舎付きの大きな平屋。

どうやら、彼女の親友は人間の姿で居るようです。
どうして、誇り高き竜の姿ではなく人間の姿なんかに好き好んでなっているのか。

「あいつめ、まさか人間の仕業で?」

人間の奸計でそうならざるを得なかったのなら、その人間を焼き殺してくれる。
そう、思いながらドアを開けた彼女の見た光景とは。

「父様、ご飯まだ~!?」
「もう少しで煮えるからちょっと待てっての。おーい、皿の配膳をよろしくな」
「解っておるわ。お前達、少しぐらい待てんのか。はしゃいだとて肉は煮えぬぞ」
「だってー、久し振りに馬のお肉だもん♪」
「お兄ちゃん、人参食べてねー」
「あたしも、ピーマンも一緒にー」
「お前等、僕に野菜押しつけようとするなっ」
「好き嫌いしてばかり居ると、私のようになれんぞ。全部食べるのじゃ」
「「はーい」」

3人の子供と戯れながら長テーブルに皿を並べている、人間の姿の親友がそこに居たのです。

「あ、あ、あ、あ…………!」
「ん、誰じゃ……って、お前なんで此処に」
「アッ――――――――――――!!!!!」

竜でも、信じられない光景を目の当たりにすると、大きなショックを受けるようです。
彼女は思わず叫んでから脱兎の如く逃げ出し、竜の姿に戻って何日も何日も飛び続けました。

「なんで、なんで、なんでなんだ。ずっと私と一緒に居るって約束したのに、なんであいつは人間なんかに―――――――!!!」

やがて激情を爆発させた彼女は、一つの大陸で暴れだし始めました。
理解不能な感情の爆発は、三つの国と七つの諸侯を滅ぼし人間達を大いに恐れさせました。
如何なる軍隊や高名な戦士、魔術師をも寄せ付けない黒い竜は、死と破壊の代弁者としてその大陸に知らぬ者無しと言われたのです。

そして彼女は一人の勇者が現れるまでその大陸で暴れ続ける事になるのでした。