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冬の日のハスキーと俺」(2009/02/26 (木) 14:57:26) の最新版変更点

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俺こと北浜孝太郎の朝はそう早くもない。 まあ小説家なんて胡散臭い自由業の朝なんざそうそう早いわけないが、だがそうかと言って無駄に遅いわけでもない。 八時きっかりの目覚ましを三分ほど鳴らしたあと、俺は煎餅布団から身を起こした。 その際に黒枠の中のじいさまばあさまや親類と目があう。陸軍の制服を来た若い男がじと目でこちらを眺めてきていたが、この男はいつもこうなので別段気にしない。 と、布団から出た途端に肌寒いどころではない冷たさの空気に当てられる。この田舎町の朝はとにかく寒いのだ。 そして煎餅布団を畳む間もなく、俺は廊下に出るために襖を開ける。 すると途端に黒い影が襖の隙間から入り込み、俺の足元へまとわりついた。 「幸(ゆき)、おはよ」 黒い影……俺のシベリアンハスキーはおん。と嬉しそうに吠えてみせた。 幸との出会いは二年ほど前、ちょうど俺が大学のある北海道から地元へ帰った時の事だった。 きっかけは俺の知り合いになんとも犬好きな奴がいて、近所の空き地で野良やっていたシベリアンハスキーの子犬を拾ってきた事だ。 そいつ曰く何処かの馬鹿が飼っていて、飼育の面倒さから捨てたのだろうと言っていた。 そいつは散々そういう飼い主をけなし、犬への愛を俺に一通り説いてくれた。 そして、この犬は寒いとこでしか生きていけない事を俺に教え、その上で俺にこの犬を飼って欲しい。と言いやがったのだ。 当時、札幌の大学に通う傍ら、道東の港町にある死んだじいさまの家を管理していた俺は卒業後も北海道で暮らすことが半ば確定しており、そいつはそこにつけこんできたのだ。 結果、そいつとの論戦にも子犬の「遊ぼ、遊ぼ」って純粋な視線にも負け、結果俺は子犬を貰うこととなり、札幌へと帰還。 そして大学にいた時に応募した小説がとある賞を得て、そして職持ちとして栄えてじいさまの家を手に入れたのだった。 食事が済むと幸はちょこんと俺のそばに座り、散歩に行こうよ。とねだってきた。 お姫様に頼まれれば仕方ない。とコートとマフラーをはおり、ソファに投げられたリードを拾い、キッチンのビニール袋入れからちょうどいい大きさのものを引き当てる。 北国人にとって、春先に雪の中から発掘される犬の糞ほど処理に困るものは無いのだ。 玄関へ出て、シャベルを取ると幸を呼び寄せ、嬉しそうにやってきた幸の首輪にリードをつける。 「じゃ、行くか」 おん。 玄関の扉を開くと、雲一つ無い空と日の光に反射する銀世界があった。 「あ、幸、引っ張るなって!」 幸はリードをぎゅっと引っ張って零下の町へと飛び出す。 だが幸と違って運動不足で持久力の無い俺は 幸のペースは体力的にきつすぎるのだ。 夏は自転車があるが、冬にそんなモンは使えない。使ってる奴はいるが、体力を意外と使うのだ。 「だから待ってくれってぇぇぇぇ!」 情けない主人のを引っぱりながら、お姫様は氷点下の雪の町を駆けていった。 「お、このビルもやっとテナント入ったか……」 幸と住みはじめてから数年、常に筋肉痛に悩まされるが結構幸との散歩は楽しい。 幸は気まぐれにいくつもある散歩道を歩くので、ルートには退屈しないし、道ごとの変化を眺めるのも楽しい。 ちなみに、ちょっと前まで不動産屋が入っていたこのビルの二階には、今度は裏ビデオ屋に替わったようだ。 「今度入ってみようかな……」 とか俺が言うと、幸は強引にリードを引っ張ってビルの前から引き離した。 もしかして焼きもち焼いてくれてんのかな?とか思いながら、俺たちは中心街の方へと向かっていく。 中心街。とは言うものの東京や札幌に比べれば街最大の駅前繁華街も大したものではない。 だがそれでも地方都市だけあって、それなりの店は立ち並んでいる。 音の鳴る歩行者信号を、一人と一匹がとことこ歩いていく。 すると、いきなり背中を押される。 なんだと思って振り返ると、そこにあったのは知った顔だった。 「やあ孝太郎、元気ぃ?」「お前かよ……山野辺……」 山野辺アリサ。大学時代のサークル仲間にして俺が最も苦手な女だ。 こいつの人を煽るような口調が嫌いで、サークルで知り合った直後から俺は極力側によらないようにしていたのだが、むしろこいつの方から俺につっかかるので俺はこいつが本当に嫌いだった。 というか、まだ嫌いだ。 このどこかの顔付きゆっくり饅頭の黒い方なみに人を小馬鹿にした笑みはいつ見てもぶん殴りたい。 「いやぁ、こっちの仕事の用事でこんな田舎くんだりまでやって来たら、何?あんた犬の散歩?」 「それが悪いか?生憎半分は自由業でな」 「別にぃ、作家の北浜センセイはこんな時間に犬の散歩するんだね。何?この子、シベリアンハスキー?孝太郎」 そんな感じで俺たちが(とは言っても8割がた喋ってるのは山野辺だが)話している間にも幸はぐいぐいリードを引っ張る。 そして俺はこれがチャンスとばかりに手の力をわざと抜く。 当然力を抜いた手は幸に引っ張られていった。 「あ、幸、待ってくれって!」 わざとらしく俺は幸に引っ張られるふりをして山野辺の前から立ち去る。 そして山野辺の視界から完全に消え去っただろう頃に、幸はリードを引くのをやめた。 「グッジョブ、幸」 幸の頭を撫でてやると、幸はきゅーんきゅん、と鼻声で応えた。 嬉しかったのか、尻尾がぱたぱたと誰かがいたずらしたメトロノームみたいに忙しく往復している。 「幸、なんか買っていくか?」 それに幸は尻尾を振りながら「おん!」と答えた。 「ん?」 幸に買った大量のジャーキー(半分は俺のおやつだが)を持って帰る途中、駅前の繁華街にバタバタとそうぞうしい音が響く。 何かと思って空を見上げると、ひどく低空を飛ぶヘリがいた。 機種や塗装から民間機だとわかるが、何処のヘリだ? 「何だ?どっかの新聞か?」 とは思ったが違った。あれは農業ヘリだ。下の方にタンクと農薬の噴霧装置がついてる。 だがなんで農薬ヘリが?そう思うより先に、ヘリの農薬噴霧口が開いた気がした。 そして噴霧口から霧雨状になった何かが繁華街に降り注いだ。 化学テロ!俺の脳内でその四文字が非常ランプのごとく点滅する。 「ヘリが何か撒いてるぞっ!」近くにいた誰かのだみ声が繁華街に響く。 その叫び声を聞いた人々は次々にヘリの作り出す霧雨から我先に逃れようと近くの店に駆け込んだり、亀のように体を丸めてコートによる防御で身を守ったりしている。 だがその間にも無慈悲なヘリの薬品攻撃は繁華街を包みこんでいた。 俺も無我夢中でジャーキー入りの袋と幸のリードを握ったまま、近くの眼鏡屋に入り込む。 眼鏡屋の中は俺と同じように、薬品から逃れた人々でごった返していた。 「いたた……ご主人、乱暴すぎるよ……」 誰かが言う。この非常時に乱暴も何もあるか。と、思って、俺は幸のほうを振り向く。 「って、あっ!何で私がニンゲンになってるわけ!?」 そこには幸と同じ紺の首輪を首に巻いた犬耳に犬の尻尾をつけた、しかも裸の少女ががいたのだった。 「ハハ……まさか、夢……だろ」 「本日未明K市内で起きた薬品テロ事件ですが、薬品の散布された地域内に、動物の耳や鳥の羽などを備えた裸の女性が現れ、調査のため派遣された警察官や自衛隊員らへ性的暴行を加えました。 またヘリコプターで薬品を散布し、その後警察に捕縛された38歳の大学教授は『失恋した!』『こうなりゃみんな擬人化してやる!』『パワーアップ版だ!5時間は擬人化する!』など意味不明の言動を繰り返しています……」 あのあと、なぜか犬耳の女の子に化けた幸とともに警察官に連れられて、各種検査の後に押し込まれたビジネスホテルの一室で、俺はテレビを眺めていた。 これまでに流れた情報を総合すると、どうやら内地の大学のキチガイ教授が失恋で気が触れたらしく、「動物が擬人化する(雄の擬人化動物はまだ出てないので、おそらく雌限定だろう)薬」とか言う気の狂った薬を繁華街やら港やらにばら撒いたらしい。 で、幸は不運にも薬を浴びて擬人化した。と言うわけだ。 「ね、ご主人」ホテル備え付けのパジャマを着た幸が口を開く。14、5歳くらいの外見年齢に似合わない、深夜アニメの声優みたいな、甘くて高いロリ声。 「なんだ?トイレなら玄関の横にあるぞ」 「違う!」 ぼすっ、と幸が枕を投げつける。 「なんか……体がむらむらしてきて、発情期みたくなってるの」 幸のほうを振り向くと、幸は熱った顔を下に向けて、両手首で股をきゅっと押さえ付けている。 「薬の副作用かもな」 「違う」幸は言い切った。「たぶんご主人に発情してる」 瞬間、幸は俺の肩を掴むと、ベッドに押し倒す。 俺を見下ろす幸は切ない目付きのまま、はぁはぁと息を荒げている。 そのズボンの股の部分はすでに完全に変色していた。「ご主人、子作りしよ」 (省略されました。続きを読む場合はワッフルワッフルと書き込んで下さい)
俺こと北浜孝太郎の朝はそう早くもない。 まあ小説家なんて胡散臭い自由業の朝なんざそうそう早いわけないが、だがそうかと言って無駄に遅いわけでもない。 八時きっかりの目覚ましを三分ほど鳴らしたあと、俺は煎餅布団から身を起こした。 その際に黒枠の中のじいさまばあさまや親類と目があう。陸軍の制服を来た若い男がじと目でこちらを眺めてきていたが、この男はいつもこうなので別段気にしない。 と、布団から出た途端に肌寒いどころではない冷たさの空気に当てられる。この田舎町の朝はとにかく寒いのだ。 そして煎餅布団を畳む間もなく、俺は廊下に出るために襖を開ける。 すると途端に黒い影が襖の隙間から入り込み、俺の足元へまとわりついた。 「幸(ゆき)、おはよ」 黒い影……俺のシベリアンハスキーはおん。と嬉しそうに吠えてみせた。 幸との出会いは二年ほど前、ちょうど俺が大学のある北海道から地元へ帰った時の事だった。 きっかけは俺の知り合いになんとも犬好きな奴がいて、近所の空き地で野良やっていたシベリアンハスキーの子犬を拾ってきた事だ。 そいつ曰く何処かの馬鹿が飼っていて、飼育の面倒さから捨てたのだろうと言っていた。 そいつは散々そういう飼い主をけなし、犬への愛を俺に一通り説いてくれた。 そして、この犬は寒いとこでしか生きていけない事を俺に教え、その上で俺にこの犬を飼って欲しい。と言いやがったのだ。 当時、札幌の大学に通う傍ら、道東の港町にある死んだじいさまの家を管理していた俺は卒業後も北海道で暮らすことが半ば確定しており、そいつはそこにつけこんできたのだ。 結果、そいつとの論戦にも子犬の「遊ぼ、遊ぼ」って純粋な視線にも負け、結果俺は子犬を貰うこととなり、札幌へと帰還。 そして大学にいた時に応募した小説がとある賞を得て、そして職持ちとして栄えてじいさまの家を手に入れたのだった。 食事が済むと幸はちょこんと俺のそばに座り、散歩に行こうよ。とねだってきた。 お姫様に頼まれれば仕方ない。とコートとマフラーをはおり、ソファに投げられたリードを拾い、キッチンのビニール袋入れからちょうどいい大きさのものを引き当てる。 北国人にとって、春先に雪の中から発掘される犬の糞ほど処理に困るものは無いのだ。 玄関へ出て、シャベルを取ると幸を呼び寄せ、嬉しそうにやってきた幸の首輪にリードをつける。 「じゃ、行くか」 おん。 玄関の扉を開くと、雲一つ無い空と日の光に反射する銀世界があった。 「あ、幸、引っ張るなって!」 幸はリードをぎゅっと引っ張って零下の町へと飛び出す。 だが幸と違って運動不足で持久力の無い俺は 幸のペースは体力的にきつすぎるのだ。 夏は自転車があるが、冬にそんなモンは使えない。使ってる奴はいるが、体力を意外と使うのだ。 「だから待ってくれってぇぇぇぇ!」 情けない主人のを引っぱりながら、お姫様は氷点下の雪の町を駆けていった。 「お、このビルもやっとテナント入ったか……」 幸と住みはじめてから数年、常に筋肉痛に悩まされるが結構幸との散歩は楽しい。 幸は気まぐれにいくつもある散歩道を歩くので、ルートには退屈しないし、道ごとの変化を眺めるのも楽しい。 ちなみに、ちょっと前まで不動産屋が入っていたこのビルの二階には、今度は裏ビデオ屋に替わったようだ。 「今度入ってみようかな……」 とか俺が言うと、幸は強引にリードを引っ張ってビルの前から引き離した。 もしかして焼きもち焼いてくれてんのかな?とか思いながら、俺たちは中心街の方へと向かっていく。 中心街。とは言うものの東京や札幌に比べれば街最大の駅前繁華街も大したものではない。 だがそれでも地方都市だけあって、それなりの店は立ち並んでいる。 音の鳴る歩行者信号を、一人と一匹がとことこ歩いていく。 すると、いきなり背中を押される。 なんだと思って振り返ると、そこにあったのは知った顔だった。 「やあ孝太郎、元気ぃ?」「お前かよ……山野辺……」 山野辺アリサ。大学時代のサークル仲間にして俺が最も苦手な女だ。 こいつの人を煽るような口調が嫌いで、サークルで知り合った直後から俺は極力側によらないようにしていたのだが、むしろこいつの方から俺につっかかるので俺はこいつが本当に嫌いだった。 というか、まだ嫌いだ。 このどこかの顔付きゆっくり饅頭の黒い方なみに人を小馬鹿にした笑みはいつ見てもぶん殴りたい。 「いやぁ、こっちの仕事の用事でこんな田舎くんだりまでやって来たら、何?あんた犬の散歩?」 「それが悪いか?生憎半分は自由業でな」 「別にぃ、作家の北浜センセイはこんな時間に犬の散歩するんだね。何?この子、シベリアンハスキー?孝太郎」 そんな感じで俺たちが(とは言っても8割がた喋ってるのは山野辺だが)話している間にも幸はぐいぐいリードを引っ張る。 そして俺はこれがチャンスとばかりに手の力をわざと抜く。 当然力を抜いた手は幸に引っ張られていった。 「あ、幸、待ってくれって!」 わざとらしく俺は幸に引っ張られるふりをして山野辺の前から立ち去る。 そして山野辺の視界から完全に消え去っただろう頃に、幸はリードを引くのをやめた。 「グッジョブ、幸」 幸の頭を撫でてやると、幸はきゅーんきゅん、と鼻声で応えた。 嬉しかったのか、尻尾がぱたぱたと誰かがいたずらしたメトロノームみたいに忙しく往復している。 「幸、なんか買っていくか?」 それに幸は尻尾を振りながら「おん!」と答えた。 「ん?」 幸に買った大量のジャーキー(半分は俺のおやつだが)を持って帰る途中、駅前の繁華街にバタバタとそうぞうしい音が響く。 何かと思って空を見上げると、ひどく低空を飛ぶヘリがいた。 機種や塗装から民間機だとわかるが、何処のヘリだ? 「何だ?どっかの新聞か?」 とは思ったが違った。あれは農業ヘリだ。下の方にタンクと農薬の噴霧装置がついてる。 だがなんで農薬ヘリが?そう思うより先に、ヘリの農薬噴霧口が開いた気がした。 そして噴霧口から霧雨状になった何かが繁華街に降り注いだ。 化学テロ!俺の脳内でその四文字が非常ランプのごとく点滅する。 「ヘリが何か撒いてるぞっ!」近くにいた誰かのだみ声が繁華街に響く。 その叫び声を聞いた人々は次々にヘリの作り出す霧雨から我先に逃れようと近くの店に駆け込んだり、亀のように体を丸めてコートによる防御で身を守ったりしている。 だがその間にも無慈悲なヘリの薬品攻撃は繁華街を包みこんでいた。 俺も無我夢中でジャーキー入りの袋と幸のリードを握ったまま、近くの眼鏡屋に入り込む。 眼鏡屋の中は俺と同じように、薬品から逃れた人々でごった返していた。 「いたた……ご主人、乱暴すぎるよ……」 誰かが言う。この非常時に乱暴も何もあるか。と、思って、俺は幸のほうを振り向く。 「って、あっ!何で私がニンゲンになってるわけ!?」 そこには幸と同じ紺の首輪を首に巻いた犬耳に犬の尻尾をつけた、しかも裸の少女ががいたのだった。 「ハハ……まさか、夢……だろ」 「本日未明K市内で起きた薬品テロ事件ですが、薬品の散布された地域内に、動物の耳や鳥の羽などを備えた裸の女性が現れ、調査のため派遣された警察官や自衛隊員らへ性的暴行を加えました。 またヘリコプターで薬品を散布し、その後警察に捕縛された38歳の大学教授は『失恋した!』『こうなりゃみんな擬人化してやる!』『パワーアップ版だ!5時間は擬人化する!』など意味不明の言動を繰り返しています……」 あのあと、なぜか犬耳の女の子に化けた幸とともに警察官に連れられて、各種検査の後に押し込まれたビジネスホテルの一室で、俺はテレビを眺めていた。 これまでに流れた情報を総合すると、どうやら内地の大学のキチガイ教授が失恋で気が触れたらしく、「動物が擬人化する(雄の擬人化動物はまだ出てないので、おそらく雌限定だろう)薬」とか言う気の狂った薬を繁華街やら港やらにばら撒いたらしい。 で、幸は不運にも薬を浴びて擬人化した。と言うわけだ。 「ね、ご主人」ホテル備え付けのパジャマを着た幸が口を開く。14、5歳くらいの外見年齢に似合わない、深夜アニメの声優みたいな、甘くて高いロリ声。 「なんだ?トイレなら玄関の横にあるぞ」 「違う!」 ぼすっ、と幸が枕を投げつける。 「なんか……体がむらむらしてきて、発情期みたくなってるの」 幸のほうを振り向くと、幸は熱った顔を下に向けて、両手首で股をきゅっと押さえ付けている。 「薬の副作用かもな」 「違う」幸は言い切った。「たぶんご主人に発情してる」 瞬間、幸は俺の肩を掴むと、ベッドに押し倒す。 俺を見下ろす幸は切ない目付きのまま、はぁはぁと息を荒げている。 そのズボンの股の部分はすでに完全に変色していた。「ご主人、子作りしよ」 「こ……子作りって」 「決まってるでしょ、ご主人のおちんちんを私の中に入れて、私に子種を出すんのよ」 ちょ……待てって。確かにまだD.T.だし、こんな可愛い娘相手に断る理由も無いが、流石に飼い犬とやるのは獣姦では? ってか、どう考えても数時間前まで犬だった実年齢2歳の女の子に手を出すのは獣姦の上にペドでもう犯罪だろ……… 「大丈夫、赤ちゃんはちゃんと育てるから」 そういう問題ではありません、幸さん。赤ちゃんは犬や猫じゃないんですよ。 いや、あなた犬ですが。 「大体エロビデオなんかで貴重な子種をティッシュに出すくらいなら私の中に出した方がよっぽど有意義なんだから。 それに私はご主人の子種を受け入れたいし、ね」 幸は手を離して俺の膝の上に腰を下ろすと、慣れない手つきでぎこちなくズボンのチャックを開けた。 「わぁ………おっきい」 元気のない自身を掴んだ幸は、「確か、これをゴシゴシしたら……」と呟きながら、無器用に自身を扱いていく。 「って、なんでそんなこと知ってるんだ!?」 日本語を喋るのはまだ理解できるが、それは理解できない。犬に一人でする習慣なんてないだろうし。 「ご主人がしてるとこ見たもん」 あ、そうですか。 どうせ家には自分一人と油断していたが、こうなるなら鍵くらいかけとけばよかったな。 「でも、もう一人でする必要なんてないよね?シたいって言ったらすぐ私がさせてあげるんだから」 「仮に擬人化しても愛犬相手に腰振る変態でないぞ、俺は」 「じゃあ今から変態にしてあげるね」幸はいたずらっぽく笑うと、余った片手でパジャマのボタンを外し始める。 今や幸のパジャマは、肩と、意外とボリュームのある胸の切なくしこった頂点が支えているだけだった。 「ふふ~、今気持よくしてあげるよ~」そう言うと幸はその場に横になり、元気を取り戻しつつある俺自身を幸の胸と一緒に抱きこんだ。 柔らかさと幸の体温や心拍が自身を通じて伝わってくる。 幸はそこに自分のよだれを垂らし、胸を抱えこむ手を上下させた。 「これで……いーんだよね?」 正真正銘のパイズリ。どこでこんな技を覚えたかは知らんが(いや、大体分かるが)、よだれを垂らすために出した舌が頭の上の犬耳に加わって、余計に犬らしさを感じさせる。 「幸のおっぱいできもちよくなってね」 そう言うと、幸は赤くて小さな舌を自身に這わせた。。 「んっ……れる……ぴちゃ……れるれる」 上気した、柔らかく張りのある胸の感触と、ちろちろ先っぽを舐めとる小さな舌が俺を襲う。 胸の攻めと、誘うような目で先端を舐める幸の顔とで俺の理性はボドボドダ。 「あ、なんか出てきた」幸は俺自信の鈴口から出てきた粘液を舐めとる。 「これが『おとこのがまんぢる』……なのかな?」 「女の子がそんな言葉使うんじゃありません。と言うかどこで覚えたんだ?そんな単語」 「お向かいのミケから。パイズリもミケに教わったの♪」 幸は不意にお向かいの新婚カップルの家に居座っている猫の名を出す。 おそらくお向かいさんの情事を猫が盗みみたのを幸がそのまま聞いたのだろう。犬語も猫語も共通なんだな。と俺は変な感心をする。 「いつかご主人にこう言うことしてあげたかったんだ」 えいっ、えいっ。と幸は胸をぎゅっと押さえ付けて、俺自身を柔らかい感覚で圧迫する。 これだけやられりゃこちらももう限界だ。既に背筋を抜けるような感覚が何度も駆けている。 「もうガッチガチだね……あむ」 幸は限界まで固くなったそれへの攻撃を緩めぬまま、亀頭を口に含んだ。 「やめ……出」 言い終える前に、俺は限界を迎える。 幸の口内で俺自身が発ぜた。 「んむぅぅぅぅぅっ!!」 小さな口内で押さえきれなかった精液が溢れだし、幸の口元を白く汚す。 口内にいきなり噴出した異物に幸は一瞬顔をしかめたが、やがて落ち着いて、満悦な表情を浮かべながら噴出した精液を口内に溜めていった。 こくん。精液を飲み込むと、にへらーっと笑っままたに幸はこちらを向いた。 「ご主人の『ほんきぢる』……にがくて、せつなくて、おすのあじがして……おいしいね」 俺はそれに答えるのもひどく億劫だった。 ただ射精後の気だるさだけが五感を支配しており、何も手につかない状態だ。 幸はふごふごとまだ固さの残る自身に残った精液を舐めとり終わると、ふと悪戯を思いついた子供みたいな表情を浮かべる。 「ねえ、ご主人」幸が誘うように言う。「『おすわり』、って言って」 悪戯っぽく笑った幸は、俺を直上から見上げる位置に手をついている。 「………ん、ぁ」 「ねぇ、はやくぅ。『おすわり』って言うだけでいいから」 射精後の気だるさで気の緩んでいた俺は、何の懸念もないままにその一言を呟く。 「おすわり」 「わかったよ、んっ………」 じゅぷぷっ、と粘液質な音。それに追従して、俺自身が暖かい何かに包まれる感触。 「んはぁぁぁぁぁん………」 幸のなまめかしい声。 それらを感じ、一気に意識がはっきりとした俺はあわてて体を起こすと、そこには俺の腰の上で馬乗りのまま『おすわり』する幸の姿があった。 「ちょ……おまっ………何やって」 「ご主人が言ったからぁ、お、『おすわり』してるのぉ」 「てめっ……」 「つぎは、『こーび』だね。リョウカイだよ、ごしゅじん」 反論の間を与えないままに幸は腰を上下に振りはじめる。 それほどきつくは無いが、熱く、ねちっこく絡み付く幸の膣内が、俺を絞りとるべくうねうねと脈動する。 「あっ、わふっ、ごしゃじんのっ、きゃふぅぅっ! おくっ! いちばんおくでっ! こん、こんってつついてきてるよぉぉっ!」 幸が快感のままに腰を叩きつけるたびに、ぎゅっぎゅっと膣が不定期に締まる。「やめろ! もうちょっとゆっくりしてくれ!」 「あぁん! わふぅっ! わぉんっ! わぉぉんっ!」 俺の言葉など全く聞こえてないようで、幸は子宮を刺激される快感に流されて、犬そのものの様に叫んでいた。 「ふやぁぁぁぁぁぁっ!きちゃうっ!きちゃうよぉぉぉっ!!」 幸の膣のヒクつきが怪しくなってきている。多分向こうさんもかなり限界なようだ。 「こっちも……辛いから、頼む、外して………」無駄だと思うが、幸に頼むだけ頼んでみる。 「やだぁっ!これこーびなんだよっ!なかじゃなきゃやだやだやだやだぁっ!!」 やっぱり。普段は言うことを聞くくせして、餌とかが絡むと途端に言うこと聞かなくなるからなぁ。 そうこう考えてるうちに、幸の膣内がぎゅうっと俺自身を握り潰すように急激に収縮する。 「―――――――――ッ!!」 幸の声にならない歓喜の叫びが部屋中に響く。 「っあ!」 幸の膣圧に耐えきれなかった俺自身は、幸の一番深いところで発ぜ、リクエスト通りに幸の胎内へ生命の素が注がれていった。 「ぁん………おなか、あっつい………」 満足げに微笑みながら絶頂の余韻に浸る幸を尻目に、まだ俺は動けなかった。 そのうちに幸は余韻から立ち直り、再び腰を降りはじめる。 「おまっ……なに」 「二回戦ですよぉ……ご主人は私の恩人なんですからっ!一回ぽっちじゃたりないに、きまってるでしょっ!」 恩人?俺はその言葉の意味を幸に訊いた。 「だって、ご主人は行き場所もない私を引き取ってくれたし、毎日散歩させてくれたり、餌くれたりって、迷惑かけっぱなしだったんだよ?」 ぱつん、ぱつん。と腰がぶつかる音に、幸の切ない声が加わる。 「だからっ、人間の女の子になったときに、迷惑かけたぶん体で払わなきゃって思ってっ!」 「女の子が体で払うなんて表現使うんじゃありません」 幸はきょとんとする。 「こんなことしなくても、雑用とか押し付けるのは最初から考えてたし、まあ……その、なんだ。嫁さん貰ったって考えれば食費なんかも払えるだろうし」 ところどころ声のいきおいが消えかけながらも、俺は全部言い切り、言い切ったあとで自分の発言に赤面した。 「ご主人大好きっ!」 幸は腰を振ることを忘れたまま、俺の胸に飛び込んでくる。 ぷるるっ、と幸の体が小刻みに震える。 不意に結合部の辺りにそれまではなかった温もりを感じる。 直後、汗の臭いや性臭に混じって鼻をつくアンモニア臭が辺りに漂った。 幸はさきほどとは一変、やっちゃった。というような表情を浮かべている。 「幸……これ」 「たぶん………うれしょん」 子犬の頃に治ったはずだったんだがなぁ、と俺は泣きそうな顔の幸をなだめてやった。 「温泉気持よかったねー、こーたろー」 「うん」 俺たちは市内の(とは言うものの、最近の大合併でうちの市に併合された)湖のほとりにある温泉街に来ていた。 幸が擬人化してからもはや二年ほどが経った。 謎の薬品の被害を受け、多くの動物達が擬人化したK市は急遽彼女たちに関する条例を立ち上げ、危険性などの無さがわかると 市は彼女たちに社会に適応できるような教育を受けたのちに、市民権を与えると言った条例を道や国と一緒に作り上げた。 ちなみに、条例施行を境にこの辺りの独身者の割合が一気に減ったのは言うまでもない。 また特に野生動物が同種のオスを襲って、擬人化が戻らなくなった動物が多かった湖の周りでは、温泉街が彼女たちを雇うことを決めたので、 立ち並んでいるいくつもの土産屋の軒先ではキタキツネの耳と尻尾のある女の子が、退屈そうに店番をしていたりする。 今や「獣耳娘の聖地、A温泉」とか「擬人化動物を見たけりゃK市に行け」とかネットで言われる始末である。 「ん?」あるホテルの前で、俺は立ち止まった。 異様なオーラをかもしだす白衣の男がホテルから駆け出して、客まちのタクシーに乗りこんだのだ。 すぐにタクシーは市内の方向へ走り去っていく。 そして同じホテルから駆け出してきた、土産屋のエプロンを着けた、キタキツネの耳と尻尾の少女が、同じ様に客まちのタクシーに乗り込み、さっきのタクシーとおなじ方向に走り去っていく。 「はて、あの白衣の男。どっかで見覚えがあったんだが……」 「こーたろー、早く行こうよー」幸は立ち止まったままの俺をぐいぐい引っ張る。 「ん、ああ。そうだな」俺と幸は再び温泉街の坂道を歩き出した。 最後に皆に言っておきたい。 北海道のこの奇妙な街に来るときは、獣娘の嫁さんを持つ覚悟で来い。と。 Fin P.S.幸のうれしょん結局今も治ってないです。

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