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「恋するウサギは寂しくてすぐHしちゃうの…」 「ふぇ!?は、班長こんな夜更けになに言ってるんです―――ん~っ!?」 ぬらりとした舌が僕の口にねじ込まれ、乱暴に舌を絡めとられて唾液を流しこまれる。 それはほんのりと甘く、まるで初めて女の子とキスをした時のようだった。 唇が離れた時、班長の目は月光に映えるルビーのように赤く、ヘルメットを脱いだ頭にはウサギの耳がまるでアクセサリーのように揺れていた。 「班長…その耳…」 僕は状況を理解できないまま立ちすくんでいるその眼前で、班長は独り言のように呟く。 「あのね、今日は…ね。十五夜なの。お月様が一番きれいなの。私たちは先祖還りをするの。心が、カラダが、本能が雄を求めるの。 だからほら、今日は敵も攻撃してこないの。敵も私たちと同じ獣人なの。私たちも敵も変わらないの。好きな人は好きなの。 ただ好きな人と一緒にいたいの。 ただ好きな人の子供を孕みたいの。 ただ…寂しいの。ウサギだけじゃないの、犬も、猫も、鳥も…獣人はみんな寂しいの。 私たちはただ人間と一緒にいたかっただけなの…。ただ、一緒に暮らして、一緒に笑って、一緒に遊びたかっただけなの。 私はあなたが好きなの。私は獣 人だけど…あなたが好きなの。」 いつしか班長は泣いていた。赤い瞳に涙を浮かべて泣いていた。 僕の町は獣人に滅ぼされた。父さんも母さんもお姉ちゃんも獣人に犯され、喰われた。 幼なじみのカズ、教育隊から同じ部隊だったシゲル、サキちゃん、小隊の陸士達の兄貴分だったショウジ三曹、名前も知らないたくさんの仲間…みんな今はこの世にいない。 「でも…でも!獣人は…僕らのテキで…班長は…班長は…っ!」 震える手で小銃を構える。泣きじゃくる班長の頭に狙いをつけて引き金を…引き金を… 結局あの夜、僕は引き金を引くことができず、班長は認識票を一つだけ残して姿を消した。 陸上自衛軍に入隊してちょうど四年目に終戦を迎え、僕は任期満了で確認殺害戦果は持ち帰った認識票による“敵獣人一匹”という勤務評定で退職した。 戦地では確認する事はできなかったが給料はきっちり貯金に振り込まれていて、退職後に通帳を見てとてつもない額に唖然としたのも今は懐かしい。 貯金を元手に両親の見よう見まねで開いたパン屋はそこそこに儲かっている…まあ、こうして午後はのんびりできるぐらいだから決して裕福じゃないけど。 ―――カラン ドアの音がして冬の冷たい空気を身にまとった客の足音が聞こえた。 分厚いコートを羽織り、帽子を目深にかぶったその姿は外がいかに寒いかを物語っていた。 「おっと。いらっしゃいませ~!ちょうど良かった、つい今しがたパンが焼けたばかりですよ! 味は俺の折り紙付きです!」 「…これ。一個しかないみたい…」 客が黙って指差した先は僕の首に一つだけぶら下がる認識票だった。 「ああ…これは前の大戦で行方不明になった僕の…大切な人の形見です。」 僕は自分の胸元に視線を落とし、いつものように教える…と、ふと客の顔を見るとその頬には一筋の涙が流れていた。 「あ…何か失礼でも…?」 客は黙って首を振り、ポケットの中から小さな何かを取り出して僕の手にのせた 「見て…」 それはぼろぼろの認識票だった。文字がほとんど潰れていて読むこともできないほどだ。 「これ…認識票じゃ―――」 僕の言葉は後に続かず、声にならない声だけが続いた。 真っ白なウサギの耳を揺らし、ルビーのような目に溢れんばかりの涙をためた彼女がそこに立っていた。 僕は泣きながら彼女を抱きしめた。 強く、強く。 もう放さないように。 彼女は抱きしめたまま耳元で囁いた。 「ただいま…」 僕は抱きしめたまま耳元で囁いた。 「おかえり…」 そして、僕たちはキスをした。 そのキスはほんのりと甘く、まるで初めて女の子とキスをした時のようだった。 めでたしめでたし

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