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『ハエトリグモ~再出発~』」(2008/08/11 (月) 23:17:30) の最新版変更点

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8月も半ばを過ぎたある夜、男は今日もいつものように家路へとついていた。 蒸し暑い夏の夜道をクールビズスタイルで歩く姿は、まさに、典型的なサラリーマンである。 空を見上げると満点の星空や輝く月が良く見えるのは、そこが街灯すらない田舎道だからだろう。 月明かりを頼りに真新しい道路を進むと、眼前にはこれまた真新しいマンション、 男の現在の住居が姿を現す。 半年ほど前に入居が開始されたばかりのマンションであるが、まだ半分以上が空き家である。 理由はいくつかあるが、そこがド田舎であること、このマンションがとある企業の社宅であること、 その企業が近所に建設中の新工場の社員向け社宅となる予定である事を言えば、ご理解いただけるだろう。 男は、工場建設のために、都会からネットもろくに使えない今の土地へ引っ越してきたのである。 「ふぅ」 己の住処を見上げると思わずため息をつき、自分の手に持った弁当と酒に視線を移す。 男は孤独であった。 彼はつい2ヶ月前まで都会に住み、そこでとある女性と共同生活を送っていたが、別れてしまった。 ‘女性’と言うのは若干の差異があるかもしれない。なぜなら、彼女は人間ではないから。 同居人の名は‘榮’、彼女は自分のことをハエトリグモだと主張した。 入社以来、当時のオンボロ寮に入居し、3年以上を友に過ごしたそのクモが正体を現したのは、 去年の中頃だったであろうか。 それ以来、毎晩のように身体を交え、人外が与える極上の快楽に身をゆだね続けた。 たまには榮以外の人外に絞られる事も会ったが、彼女の行為は孤独な心を満たしてくれた。 だが、別れてしまった。 別れなければならなかった。 しかし、男には夢があった。 榮を探し出し、再び生活を共にし、2度と離さない。 彼の別れ話を語るには、今から半年ほど前。そう、3月初旬まで遡らなければならない。 △▽△ 「え?転勤?」 「うん、会社の都合でね、まだ正式な辞令は出てないけど、覚悟しとけって昨日言われた」 「ふぅーん、転勤……ね」 3月でも未だに寒風の厳しい朝、寒さに弱い榮は布団に包まり、淡々と話を聞いていた。 だがその実、布団に包まったままある事を男に言い出そうかと、じっと考えていたのである。 「なぁ榮、お前はどうするんだ、俺が越してもずっとここにいるのか、それとも」 「それとも?」 「それとも俺と……俺と一緒に来るか?」 「えっ、いいの!?」 自分の考えていた事、“一緒に行っても良いか”と言い出しかねていたところへ 救いの手が差し伸べられ、思わず歓喜の声を上げる。 さらに、喜びのあまりその本来の姿を現して男に飛びついた。 「おいコラっ、その姿で抱きつくなっていつも言ってるだろ、重いんだから」 「もうっ、失礼ね、これが私の習性だもんっ」 そう言って、蜘蛛に変化した腹部と可憐な少女の上半身をゆっくりと擦り付けてくる。 「私ね、住居を変えるには‘上’の許可を取ってこなければならないの」 「上?」 「まぁ、簡単に言うとお役所みたいなところね、住民票の変更みたいなものかしら」 「へぇ、人外の世界も大変なんだな」 「ちょっと遠出してくるから・・・・・へへっ、私がいない間に浮気なんかしちゃだめだぞっ」 再び人間の姿に変化すると、足取りも軽やかに外へと出かけて行った。 出かけたまま、帰ってこなかった。 △▽△ 「ったく、一体どこで油を売っているんだか」 ‘上’に許可をもらってくると出て行ったきり、榮は3週間近く顔を見せていない。 眠りに着く前に一杯やろうと、冷蔵庫から取り出した缶ビールのタブに指をかけようとしたとき、 玄関の向こう側から‘ガタリ’と異様な物音がした。 榮が帰ってきたのだと直感し悦び勇んでドアの前へ行くが、一向に入ってくる気配が無い。 不審を抱きつつゆっくりドアを開くと、何かが自分の身体に寄りかかってきた。 「さっ、榮っ、お前一体何があったんだ・・・・・とりあえず中に入れ」 扉の外にいたのは確かに榮であったが、その身体は尋常ならざる事態を物語っていた。 傷だらけの体、荒げた息、力の入らずダラリと垂れた腕。 ひとまず、背後に誰もいない事を確認すると、部屋の中へと引きずり込み、 出しっ放しの布団の上に寝かせて様子を見ていると、荒い息も次第に収まり、深い眠りに付く。 男は、何があったのか見当もつかず、その姿をじっと見守る事しかできなかった。 「うっ、あれっ? ここはどこ?」 「ここはって、俺ん家じゃないか、いったいどうしたんだ?」 「えっ」 1時間ほど見守っていると、ようやく目を覚ました。 最初は頭がポーっとしていたようだが、‘俺の家’という言葉を聞いてその表情が一変する。 何かを言いたげな瞳が男を凝視するが、言葉が口から出ない、そんな印象を受ける表情だ。 「にっ、にげ・・・・・」 「え?」 「逃げてっ、ココは危険よ、はや・・・・・」 「残念ながら、既に手遅れだ」 突如、背後に現れた気配に後ろを振り返ると、見覚えのある顔がそこにあった。 目の鋭い、キリッとした女性の顔。以前、命を救われた事がある……らしい。 らしいというのは、彼女の姿を見たのは帰りがけの後姿と横顔だけであり、 詳しい内容については榮に聞いただけのためである。 その時は、‘榮の知り合い’程度にしか考えず、気にもさほど留めていなかった。 「きゃうっ」 「なっ、どうした? くあっ!?」 首筋に鋭い痛みが奔った直後、心臓がドクンと大きく鼓動し、視界が白く染まる。 「お前ら二人に毒を盛らせてもらった。榮は心配無用、眠ってもらっただけだ」 「だが、お前は自分の命を心配した方がよい。お前に与えた毒は、危険なモノだからな」 「あぐっ?……うあっ……」 身体の奥深くから異様な熱が湧き出し、意識が朦朧となる。 本能的にその場から逃げようとしたのか、よろけながらも立ち上がり、足を一歩二歩と進めるが、 身体が言う事を聞いたのはそこまでであった。 床に倒れ付し、混沌とした意識の中で荒い息を続ける男。 その死にかけた男を見下ろす女の顔には、何故か不満の色を見る事ができた。 「ちっ、榮との交合で我らの毒に耐性が付いているのか、やはりここで殺しておくのが上策だな」 この女、‘楓’が男に打ち込んだのは、正真正銘の猛毒。 ただの一滴で、数十人もの人間の命を奪う事ができるほどの代物なのである。 楓が不満なのは、自慢の猛毒を首筋に打ち込まれても意識を混沌とさせるだけの男。 一撃で殺せなかった事で己のプライドを傷つけられたような気分になり、 牙をむき出しにして男に突っかかる。 「ふんっ、いいだろう、ここで死ななかった事を後悔させてやる。陵辱の限りを尽くしてな」 見る間に身体を巨大化させ、本来の姿を現す楓。 八本の足を生やした中央の胸、先端に禍々しい形の出糸突起を備えた腹、 その下半身とは対照的に、胸から上部には美しい女性の上半身になっており、 全体のコントラストが恐ろしいまでの美しさを見せている。 だが、毒々しい蜘蛛の下半身は、普段見慣れた榮と同属とは思えない。 ‘フシュッ’ 4本の脚を動かして横になった男の体を持ち上げると、 腹を器用に曲げて出糸突起を男に向け、糸を噴出した。 糸を絡められた男は、華麗な脚捌きにより空中でクルクルと回転させられ、 その体が糸で覆われてゆく。 少しずつ、少しずつ、だが確実に。 男の体が糸に覆われてだんだんと見えなくなり、最終的には頭以外全てが包まれてしまった。 楓は簀巻きにした男を床に放り、さらに糸を噴出させて床に貼り付けると、 拘束した男の顔を覗き込む。 毒による苦痛に歪み、呻きをあげる顔を、じっくりと味わうように眺めると、 歪んだ笑みを浮かべた。 「貴様を食い殺すのは簡単なこと、このまま消化液を注入し、体液を啜ればよいだけ」 「だが、貴様には我らの大事な榮を可愛がってもらった礼をせねばならぬ。覚悟するのだな」 巨大な蜘蛛の体で男に覆いかぶさるような形をとり、2本の脚を男の下半身へとあてがうと、 尖った先端で糸の一部をビリビリと切り裂く。 下半身のごく一部分、そこの部分だけを円形に破ってゆくと、男のズボンが見え、 そのズボンまでが破かれると、男のモノが姿を現す。 毒による高熱に喘ぐ男のモノは力無くうなだれており、楓を落胆させた。 「ふん、こんなチンケなモノで、榮を愉しませていたというのか、期待外れだな」 「私の秘所でたっぷり搾り取ろうと思ったが、これではそれもままならんぞ」 鋭い脚の先端を筋に沿わせるように移動させながら言い放つが、 脚先でのマッサージを繰り返すと、血が上り、赤みが増していった。 「ほぅ、このような状態でも興奮できるとは、体が正直なだけか、はたまた貴様の才能か」 楓の脚には、何もないように見えて実は細かい毛がびっしりと生えており、 脚が竿を擦り上げるたびに細かい毛が触れ、快感となって男を襲っている。 最初は一本の脚で竿を弄っていただけだが、二本、三本と、弄る脚の数を増やす。 脚による行為を続けるたびに、男のペニスに血が昇り、硬度を増し、巨大化していた。 「むっ、これは……少しはマシに……大きく……」 愛撫を重ねる度にムクムクと膨らみ、鎌首を上げるペニスを眺め、 ついには言葉を失ってしまった。 天空にそそりたち、血管の浮き出た立派な性器は、榮との交合で鍛えられた伝家の宝刀。 正体を現したその凶器を目の前に、強気に出ていた楓も、ゴクリと生唾を飲み込んだ。 (こっ、これは、榮から聞いていた通り、いや、それ以上だ) (こんなモノが榮の中を出入りしていたというのか……) 脚をどけてしばらく眺めていたが、その怒張が収まる気配は無く、 天を仰いだままビクビクと痙攣し続ける。 予想外の展開に驚きを感じつつも、これから自分が行う行為や、 自分が感じる快感への期待に胸を膨らませ、じっくりと眺めていた。 「さて、まずは小手調べだ。少し遊んでやろう」 止めていた足の動きを再開すると、反り返った竿に沿わせてスリスリと愛撫を行う。 さっきまでは血の昇っていない柔らかな竿を優しく擦り上げることしかできなかったが、 今度は引き締まった肉への愛撫。 脚を沿わせるたびに伝わる熱い血の流れを感じ、楓の興奮もさらに高まる。 先端でチクリとつつきながら行為を続けていると、激しい痙攣と同時に白い精を放ち、 楓の脚や胸を白く染めた。 「ふっ、ふふっ、意識が無いというのに、脚だけで達してしまうとは、なんと素晴らしい体」 「脚だけでイったコイツを、私のココで絞ったら、どのようになってしまうのやら」 脚だけで射精に導いた優越感に再び笑みを浮かべると、 己の腹を曲げ、先端の出糸突起を男のモノへ向ける。 本来は、蜘蛛が糸を吐き出すための突起だが、彼女達の場合はそれ以外の役目がある。 ‘男の精液を貪る’ その機能だけに特化した先端が口を開け、男のペニスを貪ろうと距離を縮める。 開いた口の中では体液で濡れた瘤のような無数の突起が蠢き、男を貪ろうとしていたが、 男は意識が混沌としたままで、その蜜壺を見て驚愕の表情を見せる事もなく、 当の楓は不満そうな表情を見せる。 「はぁ、一人で悦に浸っていても雰囲気が無いが、まぁ、しかたあるまい、んあっ」  食事する上でもムードの有無は関わってくるらしく、自分の腕で自慰を始めた。 両腕を使い、榮よりも二回りほど大きな胸を揉みしだく。 胸を抱き寄せ、自らの舌で乳首を舐る。 ‘人としての性器’に指を添え、前後に動かす。 「はんっ、ふうんっ、んっ、はぁんっ」  次第に熱の篭った声を上げ、性器を弄る指の動きを早めると、中から愛液が溢れ出す。 楓は男を貪ると同時に自らの性器を弄って快感に耽り、満足気な表情を見せていた。  だが、男を貪る楓の眼下では、彼女の気が付かないうちに異変が起きていた。 男の意識が、回復し始めたのである。  青ざめていた顔の血色もだんだんと良くなり、朦朧としていた意識がはっきりとしてゆく。 浅く早かった吐息も、深く落ち着いたものへと変化していった。 (あれっ、おれはいったい……どうなっていたんだ?)  下半身を見ると、全身は糸で固められ、下半身は出糸突起によって犯されている。 上を向くと、見慣れぬ蜘蛛女が自らの胸と秘所を弄り、自慰に耽って喘ぎ声を上げていた。  男の混乱は、さらに高まるばかりである。 「ふっ、あふぅん……んっ?」  自らの腕で胸を弄り、自分を慰めていた楓であったが、 視線を感じて下を向き男と目が会った瞬間、全ての動きが停止した。 「んっ、なっ、貴様っ、意識が戻っていたのかっ」  顔を真っ赤に染め、驚きの声を上げる。 男の毒気が向けたことへの驚き、胸を弄り、舌で弄る己の自慰を見られた事への恥じらい。  男は、そんな楓の恥じらいを知る事もなく、頭の中で状況を整理していた。 傷だらけで帰ってきた榮、来客、首筋に打ち込まれた毒、以下は昏睡状態で記憶なし。  限定的な情報だけでは現状を把握できないが、 相手が敵意を持っていることだけはわかっていた。  男には、榮が傷ついていた理由も、楓が自分を犯している理由もわからない。 人外の者達に、人を犯すことの理由を求めること自体が酷なのかもしれないが…… 「ちっ、もう毒が抜けたとでもいうのか、だが、この状態では反撃できまい、おとなしく吸い殺されろっ」 自慰を見られた恥じらいを誤魔化すかのように腹の動きを強め、男のモノを強く絞りこんだ。 「ふっうわぁぁ」 「おや、もう3発目を出してしまったのか、目を覚ましたのなら、少しは我慢したらどうだ」  情報を整理する間も無く、与えられた激しい快感による射精が待っていた。 意識が戻ったことで、快感が電流となって体中を駆け巡るが、 糸で全身を拘束されているために、体を捩ることができない。 「くくっ、まるで芋虫のようにビクビクと跳ねるのだな、貴様にはお似合いだよ」 「意識も戻ったところで、本格的な食事に移らせてもらおう」  糸で床に貼り付けていた男を引き剥がすと、2本の脚で持ち上げ、男の顔を腰の辺りへ近づけた。 無論、性器は出糸突起に挿入し、愛撫を継続したままである。  男の眼前にあるのは、蜘蛛の下半身と、人間の上半身との境目のあたりだが、 そこに何があるのか、楓が何をしようとしているのか、男にはすぐにわかった。  ペニスを絞る醜悪な出糸突起とはちがう、ピンク色に染まった人間としての性器である。 先ほどまで自慰に浸っていたせいか、そこからは既に蜜が溢れていた。  それが人間の性器と同様に、彼女に対して快感を与えるものであることが分かるし、 顔面に近づけるということは、何をさせようとしているのかも想像できる。 ‘ピチャ’ 「んあっ、いきなりしゃぶりつくとは、なかなか積極的な男だな」  秘所から溢れる愛液の甘い香りは、回復していた男の意識を、再び混沌の中へ陥れていた。 毎晩のように榮へ施していたような愛撫を、眼前の女の秘所に行うと、 その手馴れた舌技に楓も喘ぎ声を上げる。  割れ目の奥に隠れたヒダを抉るように舌で舐り廻し、愛液がもっと溢れるように。 楓は今回の‘食事’において相手から与えられる初めての快感に酔いしれた。  しかし…… 「貴様にはもっと飲んでもらわなければならんのだ、さぁ飲め」 「うっ、うぐっ」  楓の腕によって男の口が女性器に密着させられ、そのままがっちり固定されると、 膣の奥からさらに愛液が溢れ出し、男の喉を通って体内へと流れ込む。  甘い愛液が喉を下るたびに怒張が強まり、一気に射精へと導かれた。 「ふっ、ああっ、止まらないっ、射精が、止まらないよぉ」 「そうであろうな、くくっ、これが我ら一族の‘食事’だよ」  射精と言うにはあまりにも長すぎる。 口から入った愛液が身体を通り、そのまま精液となって再び彼女の中へ戻っていくようだった。 射精が続くたびに身体から力が抜け、射精による痙攣でしか身体が動かない。 「なぁ、貴様、さっきから何か感じるものがあるのではないか?」 「えっ」 「精液とは違う、別の何かが体から抜けているのに気がついているのではないか?」  楓の言うとおり、精液ではない、別の何かが体の中から抜けていくような感覚。 最初は射精の後にある脱力感かとも思っていたが、それとは違う。  体の芯の何かが、吸いだされているような感覚を覚えていたのだ。 「冥土の土産に教えてやろう、我々が人間を食する方法を……」  楓は、男を出糸突起で絞りながら、自らの食事の方法を話し始めた。 語るところによれば、一つ目は普通の蜘蛛と同様に毒で身動きできなくし、 獲物の体内に消化液を注入した上でその体液を啜る方法。  二つ目は、獲物の精液を搾ると同時に、その生命力を吸い取ってしまう方法がある。 一つ目の方法は己の体力を、二つ目の方法では、人に化ける上で必要な妖力を補充できる。  だが、それらは獲物を捕食するための方法であることに変わりは無く、 生命力の尽きた人間は、命尽きるのが定めなのである。  今回、楓は手っ取り早く一つ目の方法で吸い殺すつもりであったが、 男の毒に対する免疫が予想外に強かったため、二つ目の方法に移行したのである。 「さっきからお前が啜っていた私の体液、あれは、お前の心を溶かす毒液さ」 「なっ、それじゃぁお前は、オレを殺す気なのか」 「無論だ、今頃わかったのか? これは食事であり、交尾ではない」 「己の無力さ、非力さ、そして、榮を弄んだ後悔とともに逝くが良い」  再び男の頭を秘所に押し付け、無理やりに愛液を飲ませる。 愛液によって自分の命が吸われてしまうとわかっていても、男はそれを飲んでしまい、  下半身では相変わらず出糸突起がグニグニと蠢き、男を搾り取る。 「もうやめっ、吸われ……しんじまうよぉ」 「ほほほっ、逝け、逝ってしまえ、そうすれば、榮も我が元に帰ってこれる」  楓の中に精を放つたびに、自分の命が吸われてゆくのがわかり、恐怖を覚える。 男のペニスが萎えそうになると、楓の額にあるルビーのように真っ赤な単眼が光り輝き、 再び怒張してしまう。  口からは楓の愛液が流れ込み、心を溶かされ、吸い上げられている男には、 絶望しか残っていなかった。 「くくっ、あと一息だな。」  チュポッと水音を立てて性器が抜かれると、楓との間に粘液の橋ができ、 重力にしたがってどろりと落ちた。  脚で抱きかかえ、腕で頭を押さえ込んでいた男の体を地面に落とすと、 快感で歪んだ顔をじっくりと覗き込む。 「あと少し、あと一回私が吸い取れば、貴様の命も尽きる事になるだろう」 「いやだ、いやだ、やめてくれ、助けてくれ」 「死にたくなければ、射精を我慢する事だな。ふふっ、それが出来ればの話だが……」  自分の秘所から男の顔を解放し、体を地面へ落としたのは、男の死に顔を見ておこうという 考えが浮かんだためであった。  男に最後のとどめを刺すべく、自らの出糸突起を再び男の性器に近づけると、 身動きがとれず、楓の行為をその身に受ける以外にすべの無い男は、絶望に満ちた視線を落とした。  一方、勝利を確信した楓は、相変わらず陰湿な笑みを浮かべつつ、 自らの腹を眼前の男へ突きつけた。 その時である。 「楓ちゃん、ヒドイよぉ」 二人同時に声の方を向くと、榮が眠りから目覚め、立ち上がっていた。 「目が覚めたのか、榮、ちょうど貴様の餌に止めを刺そうかと思っていたところだ」 「……くくっ、お前が最後の精を、この男の命を吸いたいというのなら、譲ってもよいぞ?」  楓の言葉に導かれるようにフラフラと近寄ってくる榮の顔は、何故か恐ろしく感じられた。 視線も定まっておらず、うつろな瞳には何が映っているのかわからない。 「榮ぇ、助けてくれ、たのむ……」  男は楓によって死の直前まで追い込まれ、簀巻きにされて動けずに懇願する事しかできない。 眼前まで近寄る榮だが、顔を向けた方向は男ではなく、楓の方であった。 「楓ちゃん、私のオトコに手を出したらどうするか、前にウンと言って聞かせたよね?」 「えっ! ?いや、それはそうだが……これはお前のことを思って」 「本当? 私がこの子にばっかり愛情を注いでいるものだから、嫉妬したんじゃない?」 「そりゃあ、私達のアイドル、榮タンが人間のオトコに首ったけだなんて認めはしないけども……」  ジリジリと近寄ってくる榮の妙な迫力に圧倒され、男の上を退いて壁際まで追い詰められる楓。 壁際で視線をずらし、榮と視線を合わせないようにしている楓に対し、背の低い榮は見上げる形でその顔を覗きこんでいる。 「やっぱりそうなんだ、楓ちゃんとはもうっ……もうっ」 「まっ、待て、早まるなっ、榮っ、それを言うんじゃないっ」 「もうっ、楓とは‘絶交’だよっ!」 (さっきから何を言っているんだ、コイツら?)  男は糸に巻かれつつ、突如始まった子供同士の喧嘩のような言い合いを呆然と聞いていたが、 榮の言葉の影響は思った以上に大きかったらしい。  余裕の笑みを浮かべていた楓の表情がぐらつき、オロオロと右往左往するような動きを見せる。 「そっ、そんなっ、、、榮タンと絶交だなんて、嘘よね? ちょっと言ってみただけよね?」 「ふんっ、もう口も聞かないからね」 「榮タンッ、そんな酷い事言わないでよぉ、私はあなたの為を思って……」 「……」 榮はプイッと横を向き、頬を膨らませたまま何もしゃべらない。 「うぅ、酷いよぉ、エッチは? 榮タンと交尾できないなんてぇ……添い寝くらいいいでしょ?」 「言ったでしょ、絶っ交!」  楓のバックで、‘ガーン’と効果音が鳴り響いた気がしたのと同時に、 ヘナヘナとその場へ座り込む。  そのまま動かない事を確認すると、糸に巻かれて動けない男に飛びついた。 「ゴメンねっ、ゴメンねっ、楓にはキツク言って聞かせたから許してぇー」 「わかったよ、わかったから手足8本使って思いっきり抱きつくのは止めてくれ、あと、この糸解いてくれ」  半ば精神崩壊を起こした楓を横目に、榮はきつい抱擁を加えてくる。 その愛情は嬉しかったが、男には考えるところがあった。 「ひとまず、お前が傷だらけの理由、それと、俺が殺されかけた理由を、ちゃんと説明しろ」 「ふぁーい」  男に顔向けできないといったような格好で視線を下に向けつつ、榮は話を始めた。 時系列は、この場面から3時間ほど遡る。 ▽△▽ 「もうっ、いつになったら許可が出るのよっ、3週間よ、3週間」 「落ち着け、人間に正体を明かした上での共同生活など、所詮は認められるものではないのだ」 「でもっ、いままでだって一緒に暮らしてたんだよ? なのにぃー」 「それは、おまえが居ついたまま、首領様の召還にも応じなかったからだろう」 「むう……ちょっと、気晴らしに出かけてくる」  特に異常を感じることも無く後姿を見送った楓であったが、1時間後に来客が訪れる。 その姿を見た楓は、驚きの表情を見せるとともに、床にひれ伏す形で頭を下げた。 「こっ、これは首領様、もしや榮に何か? 榮ならば、1時間ほど前に出かけてまだ……」 「榮なら男の元へ行った、私の制止を振り切ってな」  首領と呼ばれた者が腕を前に出すと、そこにはいくつかの傷跡があり、 榮が実力行使で男の元へ向かったことが瞬時に理解できた。 「我等の法に背くものは、消えてもらわねばならん。それがたとえ榮でも、例外は無い」 「そっそんな、どうか、お慈悲を、榮は私が連れ戻しますゆえ」 「連れ戻しても、また出てゆくだろうよ、その男が生きている限りはな」  妙な含みを持った首領の言葉だが、その真意が理解できず考え込む楓に対し、 首領は確信に近いヒントを与えた。 「なぁ楓、要はどちらが消えるかだよ、‘榮’か‘男’か。後は言わずともわかるであろう?」  その言葉を聞いた直後、楓は首領の横を無言ですり抜け、外へと出て行った。 以下の展開は先に述べた通りとなり、現在に至る。 「なるほどな、つまりは、首領とやらが俺を殺せと言ったわけだな」 「違うっ、これは私の独断でやったことで、首領様の命令があったわけじゃない」 「同じことさ。はぁ、これじゃあ次の刺客が送られるのも時間の問題かなぁ」  楓から全を聞こうとしたが、話が半分しか分からなかったため、楓からも事情を聞いた。 ちなみに、どの様にして起こしたのかというと、精神崩壊中の楓の耳元で、 「楓ちゃん、絶交は無しになったよぉー」 と、榮が耳打ちをしただけ。 それだけで、萎れていた楓は一気に復活したのだ。  一応、念には念を入れて榮が全身を使って楓に抱き、再び襲わないように拘束しているのだが、 楓顔を赤らめては嬉しそうに拘束されている。 「うぅん、榮タンの抱きつき、気持ちいいよぉ ハァハァ」 とりあえず、確実に拘束できているようなので、気にしないことにした。 全ての話を聞き終えてため息をひとつ吐くと、男は榮に言い放った。 「帰れ」 「へっ?」 「ひとまず帰って許可をもらって来い。話はそれからだ」 「でっ、でもぉ」 「いいから行けっ! どのみちここに居ても何かできるわけじゃないだろう?」 「うっ、むぅ、わかったよぅ、直ぐに帰ってくるから、浮気なんかしちゃ嫌だよ」 「ほら、人間もこう言っているし、首領様も呼んでいる。急ぐぞ榮、さっさとソイツから離れんか!」  首領の意思に反して会いに来てくれるのはありがたいし、その想いは嬉いのだが、 身の危険を冒すことは反対だ。  自分の想いに真向勝負、その身をもって飛び込んでくる榮にはお似合いかもしれないが、 榮が男の事を想うように、男も榮の事を想っている。  最初は自分の住処であるこの場所を離れるのを嫌がって男に縋り付き、 引き剥がそうとする楓に必死で抵抗していたが、途中で諦めたようにスッと立ち上がった。  名残惜しみながら部屋を後にする榮と、相変らず鋭い視線を向ける楓。 玄関の扉が閉まった直後、疲労の為かパタリと倒れこみ、男は深い眠りについていた。 △▽△  話を今に戻そう。 結局、引越の当日になっても榮から連絡が来る事はなかった。  さびしくもあったが、‘やっぱりなぁ’という思いがあったせいか、踏ん切りもついた。 男はそれ以来、新しい住居で以前のような一人暮らしを続けていた。  仕事から帰ると、近場で調達した弁当と一杯の酒を肴に夜のニュースを見ながら横になり、 「ははっ、アイツに出会う前と、まったく変わりがないなぁ」  自虐的な笑みを浮かべつつ、ふと、一週間ほど前に出合った友人の事を思い出した。 友人の名は‘譲’と言い、同じ会社の同僚であったのだが、  数ヶ月前に突然行方不明になった挙句、退職願を出したと聞いた。 その時、退職願を出しに来たのがものすごい美人であったという噂も聞いている。  気心の知れた友人と久しぶりに会うことの出来た喜びもあり、 その日は二人で遅くまで飲み明かした。 「それにしても、登山以外に興味の無い真面目なお前が会社を辞めるとは、一体何があった?」 「詳しくは話せないけど、ちょっと‘女’絡みでね」 「じゃあ噂どおり、退職願を出しに来たっていう美人さんと?」 「いや、まぁ……そういうわけでもあったり、なかったり」  照れ臭そうに頭をかいてはいたが、その表情はとても幸せそうで羨ましかった。 久しぶりに酒を飲み交わし、世間話をしているうちに、ついつい榮の事を口に出してしまった。 「俺さ、実は今、女をひとり捜しているんだ」 「へぇ、なんだ、お前も奥手に見えて、実は結構やり手なんだな」 「ばかっ、違うよ……実は話すと長いんだが……」 「ふんふん」  衝撃的な出会いから突然の別れまで、そして、今も彼女の事を待ち続けている事など。 親しい友人と会った安心感か、それとも酔った勢いか、何から何まで全てを話した。  普通の人間なら馬鹿馬鹿しいと思うような人外たちの話だが、 それでも友人は真剣な表情のまま黙って聞いていた。 「……お前、ずいぶん平然と聞いているが、驚かないのか?」 「いや、驚いたよ、ははっ、お前も大変なんだなぁって思ってさ」 「お前‘も’?」 「ゲフン、いやいや、何でもない。今日はお前と久しぶりに話せて良かった、面白い話も聞けたし」 「ああ、俺も、なんだか胸の痞えがおりたような気がするよ、じゃあまた」 別れた後、去り行く男の寂しそうな後姿を見た友人が呟いた、 「さて、俺も‘同類’の友人のために、一肌脱いでやらなきゃならねぇかな」 この一言、この友人の行動が、事態を大きく動かす事になる。 △▽△  実際、男は出来る限りの探索を続けていた。 と言っても、できる事と言えば、仕事の合間を縫って前の住居の周辺をぶらつく事だけ。 榮から何らかの連絡が無いかと歩き回っても、音沙汰なしである。 最近は、‘いっそ記憶を消してくれればよかったのに……’と思うまでになっている。 人外の魔性に惹き付けられた人間の、これが成れの果てというものであろうと諦めていた。 「あぁ、榮ぇ」  思い出に耽るうちに、ウトウトとしてきて、瞼を閉じて眠りに付く。 だが、その眠りは自分の頭上で繰り広げられる会話によって妨げられる。 「ったく、風呂にも入らずに飯食って酒飲んでバタンキューなんて、不健康だぞ」 「ふむ、お前に聞いていた前の暮らしそのままだな。所が変わっても生活は変わらんらしい」  どこかで聞いた事のある声、聞き覚えのあるテンポ、聞き慣れた口調。 夢にまで見た姿が頭に思い浮かび、瞳を開けると思い浮かべた姿そのままが眼前にあった。 「俺は、どうやらまだ夢を見ているらしいな」 ‘ギュー’ 「コレでも夢?」 「いてっ、分かった分かった、頼むからホッペを抓るのは止めてくれ」  夢かと見間違えたか、目の前の女性にホッペタを抓られ、現実である事を把握する。 床に寝たままであったために上半身を起こして周囲を見渡すと、見覚えのある顔が二つ。  相変らず可愛らしい笑顔を見せる榮と、クールな表情の崩さないもう一人の蜘蛛女、楓。 その冷たい瞳と視線が合った瞬間、心臓をわしづかみにされたような感覚に襲われる。 「おまえ、なぜここに?」  榮の方は良しとしても、自分を殺そうとした者がそこにいる事に嫌悪感を憶えるのは 当然であろう。  また、嬉しくはあるのだが、音信不通だった期間が長いこともあり、 再会できた理由が分からない以上、安心は出来ない。  もしも、彼女達の言う首領様に逆らうような事をしていると言うのであれば、 喜んで迎えるわけにもいかないからだ。  そんな男の不安そうな表情を察してか、榮が声をかける。 「どうしちゃったのかな、私が戻ってきても、嬉しくないのかな?」 「いや、嬉しい、本当に嬉しいが、理由を教えてくれ、お前が再び危険を侵しているのならば、 俺はお前を迎え入れるわけには行かない……お前のためにな」 ジッと榮の顔を見据えると、彼女は顔を俯けてしまったが、もう一人の女、楓が答えを出した。 「ふんっ、首領様の許可が下りただけのことだ。」 「でも、なぜ?」 「仔細は私にも分からんが、知っているだけ説明しよう。」  人外の存在たちは、それぞれの種族のうちで最も権力のある部族が 様々な‘政(まつりごと)’を行う。  種族ごとにそれぞれのルールがあり、縄張り争い以外は他の種族と干渉する事もほとんどない。 その中でも一番の権力を持つと言われているのが狐の一派、通称『陽炎一族』である。  その族長がどこからか今回の話を嗅ぎつけ、口を聞いてくれたらしい。 「ふぅん、だが、何でそんな偉いさんが俺達のために?」 「私が知るか!だが、何でも平賀とかいう人間の男が一枚咬んでいるとか聞いたぞ」 「え?平賀って……もしかして譲の事か?」 「貴様、知っているのか?」 「知っているも何も、俺の‘元’同僚だよ。去年あたりに忽然と姿を消したんだがな」 「そうか、なんでもソイツ、陽炎一族に可愛がられているらしいぞ」 「へぇ、あいつがなぁ」 正直な所、あまり理解する事はできなかったが、安全を保障されたと聞いてホッと胸をなでおろす。 「で、榮の方はいいが、お前がここにいるのはなぜだ。ここに住んでいいと許可を出した覚えはないぞ。」 「何を言う!貴様なぞに榮を独り占めさせてなるものかっ!やはり貴様は食い殺してくれる!」 「楓ちゃん、オイタが過ぎると……絶交だよ」 「……くっ、しょうがない、榮タンが言うならばとりあえず休戦にしておいてやろう」  以前聞いたのと同じような二人の会話に顔がほころぶが、その日の来客はそれに留まらなかった。 突如、男の眼前に天井から巨大な何かが落ちてきたかと思うと、それが空中でピタリと静止する。  よく見るとそれは長さが1mはあろうかと言う巨大な‘蓑’であり、目を凝らすと天井から細い糸でぶら下がっている事が分かった。 驚きの表情でそれを見つめていると、蓑の上端部がピクピクと蠢き、ニョッキリと人の顔が現れた。 「パパー、会いたかったよぉ」  可愛らしい少女の笑顔、おそらくは榮より幼いであろう可愛らしい笑顔に釘付けとなるが、 突然‘パパ’と呼ばれ、状況の把握できない男には、こう聞くことしか出来なかった。 「え、誰ですか?」 「おや、自分が孕ませた女の事も忘れるとは、不届きな男だな」 「孕ませたって、まささ、いつぞやのミノムシさんのお子ですか?」 「ふんっ、おい榮、こんな薄情なやつはさっさ捨てて、私のところに帰ってこい」 「いやよっ、これからは、私もちゃんと子作りに励むんだからねっ」 「む……なら、榮を孕ませる前に、私がその精を全て吸い尽くしてやろう」 「パパー、お腹すいたよー」  男には一つだけ夢があった。榮と再び生活を共にし、2度と離さないということ。 その願いは叶ったのか、それとも叶わなかったのか。  何はともあれ、以前にまして豪華になった顔ぶれを前に不安を感じつつも、 それ以上の喜びを噛み締めている男なのであった。 【終】

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