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昔々、とある大陸にそこそこ大きな国―――フェニキュア王国がありました。 軍隊も文化もなかなかのモノでしたが、巨大な大国が側に存在した為、何時も難儀していました。 それでもこの国が独立を保てたのは、エルダードラゴン『黒竜』の巣がある事。 そして、この国を建国したドラゴン・スレイヤーの血族が居るからです。 さて、此度のお話の主人公は、この血族―――現フェニキュア王室の第三皇子、ゲオルクです。 代々、王は厳つく、王妃は線が細い美人がなる事が多いフェニキュア王室で、彼はどちらかと言えば精悍で王に似た風貌。 身体もがっしりとして、齢16歳ながらも鎧を着込み剣と盾を持てば凛々しい勇者とも言えるでしょう。 ですが、風貌と中身が一致する事が無いのも、良くある事で。 「ゲオルク様、ご注文頂いた薬物学の書物と、解熱薬用の薬草の球根が入荷しました」 「良かった無事に届いたようで。書物は研究室に、球根は温室の方へ持っていってくれ」 「かしこまりました」 彼の気性は非常に穏やかで、万事控えめな少年でした。 そんな彼とは対象的に、第一皇子と第二皇子は王妃似の女と見間違う程の美貌を持ちながらも、権勢欲と野心に満ち溢れていました。 父王が病魔に冒されて政治の表舞台から遠離ったのを良いことに、議会をほぼ2つに割って政争に明け暮れてばかり。 第三皇子がこうして今居る王国第二の大都市―――学園都市に住まいを定めているのも、彼等の政争を嫌っての事です。 第一皇子と第二皇子は、第三皇子を覇気のない腑抜けと馬鹿にはしていましたが、彼が王位継承権を持っている事も忘れてはいませんでした。 その風貌が肖像画にあるドラゴンスレイヤーであり初代国王にそっくりなのも、十分理解していました。 そして、彼等のどちらにもつかない穏健派の支持を得ているのも。 だからこそ、ゲオルクは都から離れ、自分が好む薬草学を学べるこの都市へと移住しました。 兄達の猜疑心を弱める為に、自分が政争に関わる気が無い事をアピールする為に。 兄達が思うように、彼には野心はありませんでした。彼はその気性が示す通りに、穏やかに暮らせればそれで良かったのです。 ですが、運命はそんな事を許すつもりは無かったようです。 「若様、こちらにおられましたか」 「ミクマイヤー、どうしたんだい?」 お付きの爺やがゲオルクの書斎に入ってきたのは、夕食が済み彼が外国から取り寄せた薬学書を見ている時でした。 「申し訳ございません。2日後のヴァビロニアン帝國への使節団の事についてお話が」 「ああ、毎年の事だしもう準備は済んでいる筈じゃなかったのかい?」 「ええ、そうなのですが……」 と言うと、ミクマイヤーは辺りを素早くうかがうと、声を潜めて話し出した。 「申し上げにくい事ですが……やはり、使節団の中にかなりの数の間者が潜んでおるようです。第一皇子様か、第二皇子様の何れかは判断付きかねますが」 「そうか……面倒な事にならなければいいと願ってたんだけど」 ヴァビロニアン帝國。 フェニキュア王国の隣りに存在する覇権主義国家であり、この大陸でも屈指の魔法大国です。 代々女帝が統治し、その都は『黄金』の名を冠する超巨大都市。国力はフェニキュアの数十倍。 ドラゴンが潜んでいるのと、現在大陸の反対側に位置するキーエフ連邦との小競り合いが絶えない為、今の所かの国はフェニキュアに対して服属を迫ってはいません。 ですが、独立を保ちつつかの国の怒りを買わないようにする為、昔からフェニキュアは帝國に対しあれこれと配慮を続けていました。 今回の使節団派遣、春節の挨拶もその一環であり、これらは帝國に対する誠意の証として必ず王族が取り仕切る事が常です。 そしてそれらは専ら第三皇子の役割でした。 現国王は病気で伏せがち、第一皇子も第二皇子も政争の只中で王都から僅かたりとも離れたくはない。 王妃は既に他界し、他の外戚となると位が落ちて帝國に対して失礼に当たる。 となれば、ゲオルクにお鉢が回るのも当然かもしれません。 第一皇子、第二皇子もゲオルクにはあらゆる政に関わって欲しくはなかったのですが、背に腹は代えられません。 なので、ミクマイヤーの言葉通りに使節団に間者を潜ませておくのです。間違っても、ゲオルクが馬鹿な真似をしないように監視する為に。 「しょうがないよ。兄達の猜疑心は今に始まった事じゃないし。まぁ、何時も通りに済ませれば大丈夫だよ」 「左様でございますか……爺は不安でございます。何時、若様の下に暗殺者が送り込まれてくるのかと。都では政争がますます血生臭くなっておりますし」 「そうだね……僕としては、巻き込まれなければそれでいいけどな」 「それと若様。使節団の件につきましてですが国境でヴァビロニアン帝國の第一皇女、リマトスン様がお出迎えなさるそうです」 「…………そ、そうかい。それも何時も……通り……だね」 ゲオルクの顔が僅かに引きつりました。何故なら、彼は彼女が非常に苦手だからです。 ともあれ、ゲオルクは心穏やかとは程遠いとは言え、王族の務めとして使節団長になりフェニキュア王国から出発しました。 王都で兄達から上辺だけの労いと激励の言葉を掛けられ、王都の住民に見送られての旅立ちです。 しかし、彼は知りませんでした。最悪のタイミングで、有る存在が目覚めた事に。 そして、その存在がゲオルクの事を認知した事に。 『見ぃーつけた』 その声が聞こえたような気がしたのは、国境まで後半日の所まで来た時でした。 「爺、何か言った?」 「いえ、何も申してはおりませぬが」 飾り立てられた馬に乗ったゲオルクは辺りを見渡しますが、当然ながら何も怪しいモノは存在しません。 黙々と国境へ向かう街道を進む使節団の列があるだけです。 「気のせいかな」 そう呟いた瞬間、ゲオルクの上が真っ暗になりました。 何事かと見上げた彼の目に映ったもの、それは。 「ど、ドラゴン!!」 それは、数十年前に初代によって封じられた筈のドラゴン。三つの国と七つの諸侯を単体で滅ぼした『黒竜』でした。 伝承に謡われたようにその鱗は黒く、体長は数十メートルに達し、赤い瞳は見る者を恐怖で縛り付け、大きく裂けた口からは火がちろちろと漏れ出ていました。 「ご、護衛隊、迎撃体勢を取れ、爺は使用人や文官達を連れて退避……うわぁ!!」 ゲオルクの身体が中に空中に浮かび、急速に街道から離れていきます。 何故か。それは黒竜が器用にゲオルクのマントと上着を銜えて、そのまま飛び去ったからです。 護衛隊が慌てて弓をいかけようしましたが、ゲオルクに当たっては大変なので、見送るしかありませんでした。 「た、大変だ。王都と、国境に居る筈のリマトスン様に連絡をとるのじゃ!」 爺やの声だけが、空しく街道に響き渡ったのです。 後編へ続く。

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