「海に行きましょう。」
居間のドアが開くのと同時にレイ姉の珍しくはしゃいだ声が聞こえてきた。
学校から帰ってくるやいなや何を言い出すのかと思いきや姉の言い分はこうだった。
「夏はすでにやってきているわ。夏といったら何?そう海よっ。だから私は海に行きたいの」
「海が似合う女性って格好良いよね、って言ってたの碇君が」
「簡単に言えば碇君大好きってこと」

まぁ、最後2つはどうでもいいとして折角の夏なのだから紫外線もとい太陽の光に存分にあたってみるのもいいかもしれない。
いつも家でぐーたれている長女を外に引っ張り出すいい口実にもなるし、そもそも自分で言い出したのだ。
「ねぇ、有希も行きたいでしょ?うーみーにー?」
ぱたばたと着ていた制服を脱ぎ捨てながら次女有希姉へと迫る長女
恐らく有希姉の答えはNoだろう。
超がつくほどのインドアタイプの姉が海などと人の多い場所に行きたがるとは思えないからだ。
「行く」
ほらやっぱりね、有希姉が行くだなんて言う訳がーーーーって今何て言いました?
「い、行くんですか有希姉?海ですよ、人がゴミのようにいて雑音がとてもうるさいところに」
有希姉はコクリと頷く。珍しいこともあるようだ。
という訳で私達三姉妹は近場の海水浴場に行くことになる。
水着を持っていないことに気付きデパートに買いに行くことになるのだが、ハルヒさんの陰謀でアキトさん、キョンさん、シンジさんの三名も何故かついてきてしまって大波乱なことになるのだがそれは別のお話しで。
とにもかくにも各々の水着を持ち私達は海へと出発した。

電車に乗ること一時間、窓に青くどこまでも果てしない風景が広がった。
「ほら海よ、海っ!有希、ルリ、ちゃんと見てる?」
「……………………海」
座席から身を乗り出し子供のように海に魅入っている長女
コクリと一度頷くとすぐに読んでいた本に目を戻す次女
そして私はレイ姉のようにはしゃいだりは恥ずかしくて出来ないので、視線だけで静かに地平線を眺めていた。
「………………」
とても綺麗だった
ナデシコの艦橋から何度か海を見たことがある、変な女性がいた島では浜辺で遊んだりもした
だけど今見ている海の景色は今まで見てきたものとはまた違う感想を持つ
何故、という質問があったら私はすぐに答えを口に出すことが出来る
レイ姉、有希姉がいるからだ。姉達と海にくるのは初めて。
自分でも胸が高鳴っているのが分かる、すましていてもやはり私も心の中ではレイ姉のようにはしゃいでいたのだ
出来ることならレイ姉と一緒に子供のように振る舞ってみたかった
姉達は私の普段からは想像出来ない様子に驚くだろうが、折角の姉達との海なのだ。楽しまなくては損だと思う
海へついたらおもいっきり騒ごう。たまには年相応もいいかもしれない。



「これを塗ってちょうだい、ルリ」
三人でパラソルを建て終えるとレイ姉が日焼け止めクリームを持ちながら言った
「いいですけど…………それは日焼けを防止するためのものですよ?折角海に来たのにレイ姉は日に焼けてみないんですか?」
「小麦色の無口キャラだなんて聞いたことがない。私は新キャラを開拓する気はないわ
それに日に焼けた私を見たら碇君がこんなの僕の綾波じゃない!と落胆するかもしれないから」
…………妄想乙と言ってあげるのが私の役目でしょうが、一々突っ込むのも面倒なので止めることにした。
「それじゃあ塗りますからそこに寝て下さい」
パラソルの下に置いたビーチマットに仰向けに寝るボケボケな姉
「………うつ伏せにです、それともギャグだったりします?」
「前もルリが塗ってくれてもいいじゃない。けちんぼなルリー」
頬をぷくぅと膨らませこちらを見つめてこられても困ります
前ぐらい自分で塗って下さい。姉妹同士といえども恥ずかしいですし、人の目もあります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ありがとうルリ、これで日焼けも安心ね」
「どういたしまして、これからは前は自分で塗って下さいね。今回は特別です……」
結局塗ってしまいました。人前で水着を脱ごうとする姉には流石に呆れましたが。
「ルリ、私にも塗って」
この展開は予想の範囲内です。そして水着を脱ごうとすることも
「いい加減そのネタは飽きましたっ!」


はぁ………海に入る前に疲れてしまいました…
これくらいのことで挫けていてはこの姉妹の三女はやっていけませんが
「それでは泳ぎましょう。日焼け止めも塗ったしパラソルも立てたし準備は完璧です」
私はイルカの大きな浮き物を抱え、にこやかに言ってみた
年相応な表情とはこういうものだろうか、自分としては子供っぽすぎる気もするが
「あらそう行ってらっしゃい、迷子にならないようにね」
「読書を再開する、この本はとてもユニーク」
…………私の満面の笑顔を返して下さい、というか超展開すぎます
姉妹揃って海にきたのに私以外泳がないってどういう訳ですか
そんなに日焼けが怖いですか?そんなにユニークなのですかその本は?
「ちょ、ちょっと待って下さい。一緒に泳ぎましょうよ、三人で泳げば楽しいですよ、絶対」
「ぐーぐーすぴーすぴー」
「………………やはりユニーク」
「………………………」

あはは楽しいですね海って。潮風や海水が新鮮です、波に任せて浮かんでいるのはとても気持ちがいいものですね
浜辺から少し離れた所でイルカさんに乗り漂う私
周りでは親子連れやカップルが楽しそうにしています
止めて下さい、そんな迷子を見るような目で見ないで下さい。私は一人遊びを満喫中です。
ぐーすか寝ている人や淡々と本を読み時折ニヤリとする人なんか知りません、もしその方達に妹がいたらとても可哀想ですね
姉達に放っておかれてさぞ寂しがっているでしょうね、一人で遊んでもつまらないでしょうから
あ、私は違いますよ?私は一人で遊びたいからこうしてるんですから
「ふわぁ………」
等と自虐的になりながら波に漂っていたら眠くなってきてしまいました
眠ってしまってもいいですよね、どうせ私は一人なんですから
「姉さん達の馬鹿……………」
そこで私は瞼を閉じる、波の音が昔聞いた子守歌みたいだった。

ーーお……………さい………おき……る………り…ーー
誰かが私を呼んでいる気がした
ーーおき………さい…る…りーー
聞き慣れた声だったーーおき…な…さい……るり………ーー
それにしても柔らかい枕……私はいつ枕なんか用意したんだろう……
ーーおきなさい、ルリ!ーー
覚醒する。それはレイ姉の声だった。聞き慣れているはずだ、毎日聞いているんだから
「まったくもー、ようやく起きてくれた。おねむさんねルリは」
む……いつもおねむさんなレイ姉には言われたくありません。
私は反論しようと身を起こそうとする
「膝枕は終わり……?少し残念」
枕だと思っていたのは有希姉の膝だったみたいです
膝枕なんて久し振り、とても気持ちが良かったです
「ってそうじゃなくて!これはどういう状況ですか?」
私はイルカさんの上で眠っていたはずです
「説明を開始する。私と姉さんは空腹。そこで食事にしようと思ったがルリがいない。
海の方を見てみるとイルカに乗った少女が一人、沖の方に流されているのが見えた
あんなドジっ子はルリね、有希お願い、という姉さんからの命令が出たので私が助けた、バタフライで。
ルリがいつまでも起きないから膝枕で睡眠を継続させていた。そして今に至る。以上説明終わり」
「有希が助ける時に何度か呼び掛けたのに全然起きないのよルリ。私死んじゃったのかと思った」
よよよ、と泣き真似をしてみせるレイ姉
安心して下さい。イルカの上で死ぬなんて芸当は出来ません。そもそも本気で心配していないでしょうが
「ありがとうございます有希姉。沖に流される所を助けてくれて」
「バタフライは得意。でもこれからは気をつけて」
「はい。私もイルカさんと海の上で漂流なんて嫌ですから」
ぺこりと有希姉にお辞儀をする。危うくドジ死する所でした。
「あ、あれれ?私には感謝してくれないのルリ?私も頑張ったのよ。有希への指示とか指示とか、後はまぁ指示とか」
「…………………………」
黙殺する妹二人
なんて非道い子達なの、と泣き崩れる姉

その後私達は海の家で食事をとり、家路についた
レイ姉の今日の思い出は海の家での食事だったらしい
カレーのまずさと高すぎる値段は絶対に忘れないと言っていた
有希姉の思い出は多分………ユニークな本だっただろう
帰りの電車の中でも本を読みながらユニーク、と四度も呟いたくらいだから
私の思い出はというととても些細なことだ
帰りの電車の中。疲れてしまったのかレイ姉と有希姉は途中で眠ってしまった
私は二人の間に座っていたので当然は二人の頭は私の肩に乗ることになる。私は仕方ないなぁと思いながらもこう思ってしまったのだ
この二人の妹で良かったと
いつまでたっても私がいないと何も出来ない人達ではあるが、私にとってもいないと困る人達だ
ずっと一人だった私に与えられたかけがえのない家族。いつまでも一緒にいたいと思う
今日の私の思考は素直だなぁと苦笑し、二人の寝顔を見ながら
「レイ姉、有希姉、今日はありがとう。いつかまた海に来ましょう」
とそっと呟いた




後日談
「いやー、なによこれ!こんなんじゃ碇君に会えないっ!」
「説明を要求する。それと数日間の登校拒否を希望する」
「これやったのルリねっ!ちょっと来なさい、あなたが死んでも代わりはいるわっ」
「目標を敵対勢力と認識。これより報復行動を開始する」
額に碇LOVE、キョンLOVEと日焼け跡を作った姉二人
「ふふっ、馬鹿ばっかです。今度日焼けクリームを他人に塗られる時は注意していた方がいいですよ」

終わり





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